【友達以上、恋人未満】 序章より
「それでは、つぎの曲でお別れです。みなさんに送る、ラストソング……。精一杯の感謝の気持ちを込めて……! 『9:02pm』!!」
この曲は、私の一番お気に入りの曲。
私のアイドル生活の最後を締めくくるのに相応しい曲。
アイドル「三浦あずさ」は、もういなくなってしまうけれど、アイドルではない「三浦あずさ」として、ただ一人私のことを愛してくれる人のためのアイドルでありたい……。
私の、運命の人のために……。
そう、思っていたのに……。
ふぅ〜。風が気持ちいいわー。
コンサートが終わって、プロデューサーさんと二人きりで話をするために、こうして外に出てきました。周りにはビルの灯りと街頭がまばらに灯っているだけで、とても静かです。
「お別れコンサートは大成功でしたね、あずささん!」
「はい♪ 全てはプロデューサーさんのおかげです〜」
アイドルとして憧れだったドームでのコンサート、大成功でした♪
もうこれで、アイドルとして思い残すことはありません。夢は果すことができましたから。あともう一つ、大事な大事な夢、叶えなくちゃ……。今、この時しかないのだから……。ただ一歩踏み出すだけよ、あずさ!
「プロデューサーさん、私、決めました。アイドルとして、もう思い残すことはありません。トップアイドルになるという夢、叶えられましたから。だから、私……引退しようと思います」
「……そうですか。少し残念ですが、それがあずささんの決めた道なら、僕、応援しますよ」
「それから、もう一つの夢も……」
「……運命の人ですか」
運命の人……そう、私の運命の人は……。
「はい。……あ、あの、プロデューサーさん。その……私! ずっと、プロデューサーさんのそばにいたいです。……ひとりの女性として。トップアイドルとして費やしてきた時間を、これからはあなたのためだけに使いたい……です」
「……」
「だって、そばにいるだけで、こんなにしあわせを感じさせてくれる人、プロデューサーさん以外には、いませんから」
その時訪れた沈黙は神様のいたずら。
私をこんなにもドキドキさせたのに。
「……あずささん、そんなに僕のことを思ってくれていたなんて嬉しいです」
「……じゃあ」
「でも! でも、その……すいません。僕にはあずささんの気持ちを受け止めることはできません」
運命の神様は、どうして私の方を向いてはくれなかったのでしょうか。
「どうして」
私が覚えてるのはここまででした。
「どうして」。私が覚えてる最後の言葉。ずっとこの言葉が頭から離れなくて、ぐるぐると旋回中。結局、「どうして」の答えをプロデューサーさんは言ってくれたのか、それとも何も言ってくれなかったのか、今の私には分かりません。
その後、家に帰ってワンワンと泣き崩れたような気もします。友美に電話をかけたような気もします。こんなのは、久しぶりかも……ううん、初めて、かな……。
あまりのショックに靄がかかったようなぼんやりとした頭が少しずつはっきりし始めたのは、電車の窓の外に懐かしい田園風景を見つけた頃からでした。