【サンタクロースの忘れ物】

「にいさま♪ お待たせのデザートですのよ♪」

 今日はクリスマス♪ にいさまを家に呼んで、クリスマスパーティーをしたんですの♪
 もっちろん、料理は全部姫のお手製♪ のはずだったんだけど……ちょっぴり張り切りすぎちゃって、一人で作ってたらクリスマスが終わっちゃいそうだったから、それを見かねたかあさまに手伝ってもらったんですの。来年はこんな失敗しないようにしなくっちゃ♪

 その失敗の大きな原因といえば、このデザート! クリスマスのケーキはどんなものがいいかな? って一月前からずーっと考えてたんですの。定番のイチゴのケーキ? それとも、チョコレートたっぷりのブッシュ・ド・ノエル? そうやってデザートの本を眺めていたときに目に入ったのが……

「へー、変わったケーキだね」
「クロカンブッシュっていうんですのよ♪」

 クロカンブッシュっていうのは、プチシューをクリスマスツリーのように円錐状に積み上げて、その上にあまーい飴をコーティングして固めたスウィーツなんですの♪ でも、このスウィーツには秘密があるんですのよ♪
 シューの山からその一つを取って、「にいさま♪ アーン」ってしてみたんですけれど、にいさまったら「いいよ、一人で食べられるよ」って恥ずかしがって食べてくれないんですの! それでも姫も負けずに、何度も何度も「アーン」ってやっているうちににいさまも観念したみたいで、仕方ないなぁって顔をしながら――でも、お顔はリンゴみたいに真っ赤にしながら――パクッってシューを食べてくれたんですの♪
 にいさまは「とってもおいしいよ」って言ってくれたから、姫もなんだか嬉しくなっちゃって次々にアーンってしてたんですけど、そのうち……なんだか姫も……アーンってして欲しくなって……

「ねえ、にいさま。姫にも、アーンって、して♪」

 って、おねだりしちゃったんですの♪ キャー♪
 にいさまは、やっぱりリンゴのお顔で「わかった」って一言だけ言うと、山からシューを一つ取ると「……白雪、アーン」って……♪
 姫もなんだかちょっぴり恥ずかしくなってきちゃったんだけど、にいさまの手から姫の口の中へシューの大移動♪ うーん! とーっても甘くっておいしいんですの♪ この甘さは、きっとにいさまのせい、ですのよ♪ 姫、し・あ・わ・せ♪

 そうやって、山の半分くらいまで食べ終えたところで、姫、隠してたことを白状しちゃったんですの♪

「あのね、にいさま……。クロカンブッシュって、本来は結婚式に出すスウィーツなんですのよ♪ シューは日本語でキャベツのこと。アメリカやヨーロッパのほうでは、キャベツから子供が生まれてくると言われてて、これは子宝に恵まれるように、っていう願いが込められてるんですって♪」

 そうしたらにいさまったら、急にむせ返っちゃって大変! あわてて背中をさすってあげたんですの! 
 なんとか息を吹き返したにいさまは「白雪、僕そろそろ帰らなくちゃ」って、立ち上がって帰る用意を始めたんですの!
 にいさまに、クロカンブッシュはまだ半分くらい残ってるのよ、って引き止めてみたんですけど、「ほら、明日は休みじゃないし、ね」って。なんだか、うまいことはぐらかされちゃったような気がします……。

 にいさまが帰った後、残りのクロカンブッシュをどうしようか考えながらリビングに戻ったとき、ふとソファーの上にハンカチが落ちてるのが目についたんですの。にいさまの忘れ物かしら? そう思ってよくよく見てみると、姫がにいさまの誕生日にプレゼントしたものだったんですの! もうにいさまったら! こんな大事なものを忘れていくなんて、ほんといけないですの!
 今からなら、走ればにいさまに追いつけるかもしれない、そう思ったので急いで出かけようとしたんですけど、ふとハンカチに刺繍がしてあるのが見えたんです。あれ? 確か刺繍なんて入っていなかったはずなのに……?
 そこには「SHIRAYUKIより」って、ちょっといびつだけど、確かにそう書いてあったんですの……。これ、きっとにいさまが刺繍したに違いないですの♪ 姫、なんだか胸の奥がキュンとなって、そのままボーっとしちゃいました……♪

 これはきっと、サンタクロースの忘れ物。にいさまからのもう一つのプレゼント。だって、このハンカチを返しに行けば、またにいさまと会えるんですもの♪ だから今日は、このハンカチを持っていても……いいですか……♪

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