| 鬼畜王ランス/みどりの里にて | |||||||||||
| 作者:
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URL: http://homepage3.nifty.com/garakuta-dou/
2008年05月10日(土) 22時23分51秒公開
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初夏、みどりの里にて ご無沙汰していました。今月の初めから僕はこの診療所に滞在しております。 実は前々から、行商の合間に初夏のみどりの里を訪れ、そこでゆっくりしてみたいものだと思っていたのですが、やっと今度、その願いがかなったというわけです。 この里を守りながら一人待ち続けていたあなたも居なくなって久しいので、人の気配がないのだけが淋しいですが、気候としては過ごしやすい日々を送っています。 しかし淋しいといっても、もう3〜4年も前になりましたか。 僕が大怪我をして迷い込み、晩秋から冬があけるころまでずっと静養させてもらったことがありましたね。 あの時のような秋口の淋しさとはまったく違うように思えます。 辛うじてあの時の姿形を留める裏の山道を懐かしく歩いていても、生き物という生き物全てに躍動感が溢れ。 もうすっかり季節の準備を済ませて、夏が来るのを待っているばかりだといった感じが迸っています。 特に小鳥やらが元気よく囀ることといったら! 部屋の中で耳を塞ぎたくなることがあるほどです。 あのときは秋雨の中を傘をさして、この施療院の裏の畑などへ歩いていくと、絨毯のように大地を覆う枯れ葉の量ばかりが増えていったものでした。 何だかそこいら中に、盛大な祭りの後一人ぽつんと櫓の前に立っているような、なんとも言えぬ侘しい冷たさ。 ――ことにあの年の夏はゼスの平地ですらひときわ暑かったですから。 それだけに、いわば凋落や破滅の匂いのようなものが、僕自身が怪我人だったせいか、隣人として看病してくださったのがあなただったせいか、ひしひしと感じてならなかったのですが、そんな物悲しさがこの六月の里ではまったく感じないことを何より気に入っています。 最後の住人のあなたを失ったこの里に、住人はとうに絶えて久しくなります。 僕は誰も来ないことをいいことに近くの、水車が朽ちた水車小屋の屋根に上って寝そべり、煙草をふかしながらぼんやり一日中考え事をしたりします。 そこから見えるのは、木の皮葺きの施療院と膝まで雑草がおい茂った庭、多くのミドリ病の患者たちが眠る荒れ果てた墓所、一帯に茂った落葉松・シラカバ・タケカンバ、その雑木林の向こうに見える魔人地帯の山々。 そういったものを背景にして、少々思いにふけったりしているのですがなかなか良い気持ちです。 ただ油断していると、小さな毛虫が僕の腕や足を襲ってくるのにだけは閉口しています。 この里を歩いていると、レンゲツツジが朱色に咲いているのを見ます。 昔の住人がここでの暮らしを良くするために植えたのでしょう、大変見ごたえがあるのですが、種子をつけはじめるころまでにはみどりの里を去るつもりです。 ここの真夏は平地よりも猛烈で酷い日差しだと聞いていますからね。 いえ……僕は嘘を言いました。本当は秋までここに残りたくないだけなのです。 生き物の気配がまったくしないあの深淵の秋。 死んだように静まり返るのこの施療院(今となっては正真正銘の施療院跡ですが)で過ごす夜に、栗が落ちた異様な物音で目を覚ます寂しさに今の僕は耐えられそうにないからです。 第一この手紙にしたって本当にここに書き置くか、まだ迷い決めかねているのです。 途中で書くのをやめてしまおうか、破り捨ててしまおうか、それとも瓶詰めにでもして川に流してしまおうか……。 筆をとりながら、はたしてどうするやら。 実は、今度当地を訪れるという宿願を果たしたのには訳がありました。 先月行商の折にゼスの地を訪れた時に、僕は戦場で一人の魔人と思しき巨人を見たのです。 遠目でよくわかりませんでしたが、浅黒く分厚い巨体を持った魔人でした。僕は生きた心地もなく、木の陰に伏せながら荷物を抱えて震えていました。 雲霞のような数の人間の兵隊を千切っては投げる圧倒的な強さ、それはそれは恐ろしい光景でしたから。 どれくらい時間がたったでしょうか。 軍隊を殲滅した魔人の、その右肩に、いつからか一人の女がのっていることに僕は気がつきました。 おそらくは苦みきった表情をしているであろう巨躯の魔人に腕を絡ませ、物柔らかな猫なで声を耳に囁いて魔人を魅惑しようとする女のさまは、優しさと怖ろしさを非常に巧妙に描き得た女豹の絵そっくりでした。 僕は自分の眼球と脳髄を呪います。ありえますまい。あれに、例え一時でも優しかったあなたの面影を見い出してしまったなどとは。 あの光景を見た瞬間から無性にこの里に来たくなったのです。 ……こんなことを書いていたら、書き続ける気がなくなってきました。もう筆を置きます。 これが親愛なるキャロリ・メイト、あなた様のもとに届くかどうかはわかりませんが、ともかくもさようなら。 |
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