| 鬼畜王ランス/真昼の夢 傾:シリアス |
| 作者:
ヤネコ
2008年05月25日(日) 18時24分24秒公開
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クリームが祖国ヘルマンを離れ、隣国リーザスの将となり一月が過ぎようとしていた。 軍師兼リーザス王ランスの愛妾として登用された彼女の日々は昼夜を問わず忙しい。 しかしこの日は国王ランスが「なんかダルいから一日中寝て遊ぶ日」と定めた国民の休日 であったため、クリームは束の間の余暇を楽しんでいた。 「ふぅ……」 よく手入れが行き届き、明るい陽が満ちた常春の庭は、まさにこの国を象徴する美しさであった。 豊かな国土、一切の腐敗が排除された政治形態、そして、己が力を思う侭に揮える軍隊。 柔らかな芝の匂いも、黒土の温かな匂いも、故郷では嗅ぐこともなかった。 怖いほどに満ち足りている、とクリームは一人噛み締めていた。 「よう」 春の陽気に気を散らせていたところを急に声をかけられて、クリームは少し慌てた心地で後ろを振り向く。 「ランス王…ご機嫌、うるわしゅう」 普段はきっちりと気を張り巡らせた彼女の意外な様子に、リーザス王ランスは楽しげな顔で手を振り応えた。 「いい天気だな」 「ええ、本当に」 穏やかな風がそよそよと心地よく、二人の頬を撫でる。 「慣れたか?こっちには」 「はい…ランス王が私を引き上げてくださったおかげで、日々充実しております」 眼鏡の奥の瞳は、柔らかく微笑んでいる。 その珍しい表情に、ランスはむくむくと催されるものを感じた。 「ら、ランス王!?」 「ならここでえっちして更に充実しよう。そうしよう」 何時の間にか後ろに回り込んだランスに抱きしめられ、クリームは驚声をあげた。 話の前後が噛み合ってないじゃないかと思ったが、もう遅い。 禁欲的な軍服に隠された豊かな乳房が、布越しにもにゅりとした感触をランスの掌に伝える。 「ランス王っ…おやめください…っ」 穏やかな日の光の下にはあまりに不似合いなランスの振る舞いに、クリームはもがく。 だがランスは、クリームのそんな抵抗もプレイの一環とばかりに攻め手を緩めようとしない。 「こんなっ…や、め…ってりゃあああ!!!」 「だあっ!?」 抵抗してもがいていたクリームの手ががしっとランスの襟首を掴まえ、 そのまま勢いよく振り下ろされる。 ランスは新緑の上に強かに背を打ちつけられた。 「はあっ…はあっ…」 普段はまず使わない腕力を振るったせいか、クリームの頬は紅潮している。 きちんと整えられていた前髪からは愛らしい額が覗き、眼鏡も少しずれていた。 「い、意外に強かったんだな…クリームちゃん」 「お、王が…このような場所で…ふしだらなことを、なさろうと…するからです」 まだ息が戻らないのか、クリームは怒りながらも途切れ途切れに言葉を発する。 そんなクリームを仰向けに見上げながら、ランスはニカッと笑って言った。 「やっぱりちゃんと表情出した方が可愛いぞ」 「なっ……何を、おっしゃるのです…」 今度はランスの言葉に頬を染めさせられたクリームは、照れ隠しのように眼鏡を直す。 「あとできれば笑顔だと更にグッドだな。さっきみたいに」 口を小さいへの字にしたクリームを見上げて言えば、ますます照れるのが見て伺える。 「…ご命令とあらば、努力いたします」 クリームはできるだけ声を低くして答えると、両手でランスを引き起こした。 「念のため、病院で手当てをお受けになってください」 ぽふぽふとランスの頭や肩をはたきながらのクリームの言葉に、ランスは素直に頷く。 本当はあまり痛くもないのだが、アーヤさんの顔も見たかったので調度よかったのだ。 「じゃあまた、夜にな」 格好をつけた声でクリームの耳元で囁くと、ランスは笑いながら去っていった。 「………もぅ」 一人残されたクリームは、面映いような表情で溜め息を漏らす。 求められるのもからかわれるのも得意ではないが、不思議とランスの振舞いは不快ではないのだ。 それは、彼が自分を女として求めると同時に、一人の軍人としても評価してくれているからだろうと クリームは心の中で自答した。 かつて、クリームが籍を置いたヘルマン第4軍では、女であることを求められこそすれ、 軍人としての才を彼女に求める者は、只の一人として居なかった。 彼女を副将にと抜擢したかつての上官ネロをおいてしても、それは同じことであった。 ただ、ひとつだけ違うのは、彼のそれは肉の欲を一切伴わないものであったということだ。 「擬似戦闘実習軍略分野S評価、味方分断時の撤退卓上模擬最高得点…なるほど、優秀だな」 軍事学校から届いた書類にぱらぱらと目を通しながら、ネロは机の前に畏まる少女を評す。 「恐れ入ります」 その声にどこか醒めたものを感じながらも、クリームは恭しく頭を下げた。 ヘルマン軍事学校を優秀な成績で卒業したものの、女であることが災いして辛酸を舐めてきた 彼女にとって、此度の副将への昇格は、まさに天から垂らされた蜘蛛の糸であった。 まさに、自分の軍人としての人生はこれから花開くのだと彼女は高揚していた。 「だが、そんなものは全く余計というものだ」 しかし、ばさりと書類を放ったネロに、クリームの希望は打ち砕かれる。 驚いたように表情を強張らせたクリームを、ネロは醒めた目線で見やった。 「君の任務は聡くなければ勤まらない。だが、軍事に口を出そうなどと生意気な考えを持つ必要も無い。 もし、君が何か勘違いをしているのなら、今すぐに改めるように」 ネロの言葉は、まるでクリームの心のうちを、一つ一つ否定するように冷たい。 ならば何のために。そう思った時にはもう、口から言葉が出ていた。 「お言葉ですが将軍。ならば何故、私を抜擢なさったのですか?」 反論を受けたことに眉を顰めつつ、ネロは静かに言う。 「君は、聡く美しい。よってこのネロの副官に相応しいと判断した」 その言葉に、クリームの顔からさっと血の気が引いた。 以前仕えていた上官も、そのような言葉で彼女と無理矢理に関係したのだ。 「勘違いをするな。私は部下に上官の権限を以って迫るような、下賎な振る舞いは断じてしない」 続ける言葉の温度が高くなったのは、クリームを労わる為ではなく彼の気位が傷つけられた為である。 だが、声を荒げてしまったことに恥じたのか、ネロは仕切りなおすように咳払いをした。 「我がヘルマン第4軍は威風堂々をモットーとする」 仕切りなおしのその声は、さながらクリーム相手に演説を揮っているかのようだ。 「軍略など、女々しく小賢しいやり方は不要だ。力を以って正々堂々と勝つ。それ以外は戦ではない」 「そんな、軍略無しに戦うなど無謀です」 「無謀とは、力無き者にのみ適用される言葉だ。我が軍は王道を往く強さを備えている」 ネロの口から出た王道という言葉には、どこか陶酔したような響きがあった。 「王道こそが正義だ。そして正義こそ、美しい」 そこでクリームは、何故自分が彼の副官という形でその位置に収まることになったのかを理解した。 「……私に、貴方を、貴方の軍を飾る花になれと仰るのですか?」 王道という調和の中に、ネロは若く美しい女の副官を置くことを好しとしたらしい。 クリームは彼の美学にとって、お誂え向きの調度品だったようだ。 彼が求めているのは、有能な軍師でもなければ性衝動の捌け口でもなく、飾りなのだ。 「それを忠実に勤めるのが、ヘルマン第4軍副官としての君の任務だ。理解したかね?」 当たり前のように顎で返事を促すのに眩暈を覚えつつも、クリームはネロにもう一つ質問をした。 「でしたら、私でなくとももっと美しい方が居られましたのでは?」 「確かに容貌だけなら探せばいるだろう。だが、ここが足りない」 ネロは指でトントンと額を叩いてみせる。 それは先程余計と言ったばかりではないかとクリームは思ったが、ネロは持論を続ける。 「なまじ美しいだけの女は、己が仕える強者の力を自分の物と勘違いをし、 蒙昧な野心を描きたがる。そこに在るだけに過ぎないくせに、だ。」 酷く侮蔑の篭った口ぶりは、彼の美学にそぐわない者への強い嫌悪を伺わせる。 ふと、ネロの口元は笑みの形を作った。 「その点、君は聡い。学校もその成績で出たなら、よく躾けられていることだろう」 「……っ!」 ネロは褒めたつもりだったらしい。 だが、まるで犬か何かを評するようなその言葉にクリームはかっと頬を赤くした。 「しかし君は案外、おしゃべりだな」 せっかく褒めてやったのに、唇を噛み締め目を潤ませる副官に、ネロは呆れたように言う。 「今日は特別に許したが、以降二度と余計な口答えはするな。これは命令だ」 下がれと命じると、形だけの敬礼をして部屋から逃げるようにクリームは退出した。 「…見ていらっしゃい」 廊下の端までたどり着き、悔し涙を手の甲で拭うとクリームは独り言を呟いた。 まるで当たり前のように自分を軍人はおろか、人とすら見ないような若き上官の言葉は、 今まで嫌で堪らなかった好色な目で見られることなど、忘れさせるほどに屈辱的だった。 「蒙昧な野心ですって…私は、勝ち取ってみせるわ。自分の力で」 いつの日か必ずネロの寝首を掻き、ヘルマン第4軍を自分の手に収めてみせる。 余りにも身勝手な彼女の上官の言葉は、彼女の野心を一層燃え上がらせたのであった。 それから二年余の月日が流れ、ヘルマン第4軍の将ネロ・チャペット7世は、 リーザス軍赤の将リック・アディスンにより討たれた。 最期は一騎打ちを望み、それに応えたリックにより討たれたという。 「……馬鹿な人」 訃報を聞いたときと同じ言葉を、クリームは温かな土に呟く。 王道などと言えば聞えは良いが、圧倒的な力と対峙すれば裸も同然なのだ。 その力の差を埋めるのが、戦略なのだ。 彼女のかつての上官は、最期までそれがわからなかったらしい。 何故今更、こんなことを思い出したのかはわからない。 ようやく満ち足りた生活を手に入れた故の安堵なのか、 それともこの陽気が白昼夢のように、遠い日の出来事を思い出させたのか。 もし、彼が蒙昧な美学に酔いしれず、戦に臨んでいればどうなっていたか。 もし、彼が自分の軍略を受け入れ、軍を進めていればどうなっただろうか。 そうであれば、今頃自分は誰の為に智謀を揮っていたであろうか。 「ほんと…馬鹿馬鹿しい」 心の中で、在り得もしないもしもに行き着いた自分をクリームは否定する。 それこそ白昼夢だと、温かな光の中でクリームは一人自嘲した。 web拍手ボタン |
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