| エドランゼ/悪戯 傾:ギャグ |
| 作者:
ヤネコ
2008年11月27日(木) 00時36分52秒公開
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空は澄み、鳶は高らかに秋の豊穣を唄う長閑な昼下がり。 弥七は城内の庭に植えられた榎に逆さ吊りにされていた。 この間は、土の中に首まで埋められた。 その前は、歩く度に水溜りに嵌らされた。 更にその前は、柴漬けの胡瓜を全て茗荷に摩り替えられた。 「やっぱり、かかった」 平淡だが幼い鼻声に、弥七もやっぱりと顔を向ける。 「銀…何でこんな悪戯ばっかりするんだよ」 逆さに見える景色の中に佇む少女に、呆れた様子で声をかける弥七。 「だって、弥七、かかりやすい」 当たり前のように答える銀は、自分の仕掛けた罠に模範的な形でかかった弥七を 表情の読めない瞳でしげしげと見つめる。 「くやしい?」 尋ねられて、弥七はわざと大げさな溜め息を吐く。 「…まあ、銀の罠の仕掛けのセンスは認めるさ。でもな…」 罠の仕掛けだけではない。 接近戦においても、苦無や手裏剣の投擲においても銀のセンスは弥七を圧倒していた。 力押しの組み手でならまあ勝てないこともないが、それはもはや忍の技ではない。 「ねえ、くやしい?」 だからと言って素直に悔しがるのは、弥七のプライドが許さなかった。 「俺の方がほら、年上だし?忍としても先輩で…」 実力主義の忍の世界ではあまり意味の無い優越だが、この状況下弥七が縋れるのはそれしかなった。 そんな弥七の心の中など知らぬ様子で、無邪気な問いかけは尚も続く。 「くやしい?弥七」 じっ、とつぶらな瞳が無遠慮な視線を向けてくる。 「………」 時たま瞬きをする仕草が、堪らなく可愛い。 可愛いだけに、認めたくない。 だが、これ以上問われて耐えられるほど弥七も成熟した人間ではなかった。 「……ッ悔しいですッッッ!!!」 「わーい」 もともと水溜りに張った薄氷程度だった弥七の先輩としてのプライドは、脆くも崩れ去った。 心なしか嬉しそうな銀は、悔しさに歪んだ弥七の顔に、そっと唇を寄せる。 「ふっ」 「あふん」 耳に息を吹きかけられて、弥七は情けない声を上げる。 ほんのり苺の香りがするのは、歳の割にませた彼女の色付きリップのせいだろう。 「くやしかった弥七は、ちょっときもちいいことしてなぐさめてあげる」 言いながら銀は、懐からもそもそと何かを取り出した。 「ひとはだこんにゃくー」 「いや、お前それどこから取り出したの…って何、待って」 ぷるぷると震えるそれを片手に持ち、銀はやけに人懐っこい笑顔を浮かべる。 「うふふ」 本能で身の危険を感じた弥七は、逃れようと身を捩る。 「おとなしくする」 「あぁっ、そんな…」 逃れられない弥七への、無体が開始された。 「やめ…ちょ…うあっ」 ぺっちん、ぺちんと強く、弱く両頬をはたいてくる生温い蒟蒻。 暴力というには柔らかなその刺激は、頤に僅かに甘い痺れを残す。 「あ、なんかちょっと気持ちい…って、やーめーてー」 「うふふふふ」 無邪気な笑顔でむごい仕打ちを繰り返してくる銀に、弥七は懇願する。 このままでは、何かいけない世界を垣間見てしまう。 そんな予感を無意識に感じ取っていたからだ。 「弥七!」 遠退きかけた意識の中、弥七は懐かしい声を耳にする。 「呼ばれたら3分以内に集合、さっさとする!」 声の主は、もう随分と弥七を探していたようだ。 「はっ…姫様!!」 助かった、と弥七は思った。 普段から弥七に厳しいものの、間違ったことには容赦をしない水戸姫だ。 きっと自分はこの理不尽な虐待から解放され、銀には物の善悪が教え込まれることだろう。 弥七は不自由な掌をぐっと握り締めた。 だが、現実はあくまで彼には不条理に非情であることを、次の瞬間弥七は体感する。 「ひめさま〜〜」 先程までのどこか蟲惑的な声とは打って変わって幼い甘え声。 「やしちが〜『一人SMじゃ今一燃えないから手伝ってくれ』ってむりやり〜〜」 幼い唇から飛び出すには余りに過激な台詞に、水戸姫と弥七の目は点になった。 しかし、一瞬早く正気を取り戻した水戸姫はきっ、と逆さ蓑虫になった弥七をにらみつける。 「っ……昼間っからこの、変ッッ態!!!」 「違いますって、だいたい人肌の蒟蒻の正しい使ウボァー」 そのまま江戸式ムエタイ用サンドバッグとなった弥七を、銀はうっとりと見つめる。 「やっぱりいじめられてる弥七、かわいい…」 銀としては、今日の悪戯は大収穫だったようだ。 水戸姫から甚振られ続ける弥七を残し、銀は満足そうに姿を消した。 「次もたのしみにしててね、弥七」 ちょっとおませなくのいちの卵が、身も心も立派なくのいちとなり、 歩く受難男弥七に更なる悪戯を試みてくるのは、 そう遠い未来ではなかった。 web拍手ボタン |
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