第01話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 21時20分17秒公開
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ヨーロッパ某所 城を望める小さな小屋、その薄暗い室内から城を見る一人の東洋人がいた見た目は二十代の半ば位。 懐からタバコを取り出し箱から直接タバコをくわえる。 「ライター無いな。」 いや東洋人と言うには少し語弊がある。よく見るとその彫の深さと藍色の目の色は西洋のものだ。 男はタバコに火を点けるのを諦め、不承不承箱に入れてポケットに入れる。 「ここ最近は、異常はないみたいだな。」 「ええ、前回ネロ・カオスが訪れたとき程のではないですがブリュンスタッド側の使者が来たのと魔城の使者が訪れた以外は目立った動きはないです。」 「ふむ。」 初老の農家の男を装った男の報告を聞きながら、机の上のモバイルを操作する。 「引き続き監視を頼む、半年後には交代要員が入る。それまでの辛抱だ。」 「了解しました。」 「ところで、喉が渇いたんだがいいかな?」 男が指差す先は冷蔵庫。 「あ、はい。」 「すまないね。」 冷蔵庫の中を見回しルッソと銘打たれたミネラルウオーターを取り出すと一息で飲み干す。 「日本人としては軟水が体に合うね。うん、感謝するよ。」 「いえいえ。満足していただければ申し分ありません。」 男は胸元に持った帽子を握り締めつつ深々と頭を下げた。その時、東洋人の胸元から着信を伝える振動が体を伝わった。 「ん」 無言で電話を取り、二・三言会話する。 「本部からですか?」 初老の男は東洋人の眉間に刻まれた皺から見取ったのか質問した。 「ん、ああ、知り合いの馬鹿からだ。少しヨーロッパを留守にするかもしれない電話だ、後の事はヒルダに一任すると彼女に伝えておくから後はそっちに聞いてくれ。」 「今から出るんですか?」 「ああ、人手が足りないそうだ。これから空港に向かう。」 「了解しました。ですがお急ぎならば、こちらからヒルダに伝えておきましょうか?」 そこまで言って初老の男は気付いた。目の前の男が笑っているのを、目が笑っていないのを。 「ん? どうした?」 「いえ、なんでも・・・何でもないです。」 男は口が乾くのを感じた。 「どうした? 目が泳いでるぞ。顔色も悪い。いやそれは此処に私が来てからだったな?くっくっく。」 熱い、体が熱く感じる。この体になって体の五感は冴えたもの、熱いや寒いは余り感じなくなっているはずなのに目の前の男を熱く感じる。 「呼吸も荒れているな、それに君はいつからヒルダをヒルダさんと呼ぶようになったのかな?私以外は『副隊長』と呼んでいるはずだが・・・・・さて、私から一つ質問させてもらおうか。ここに居た、本当の監視員カールはどうした?」 「・・・・・いつからだ?」 「ん? いつからと言われてもな、ここ最近の報告書が文体がおかしかったから探りを入れただけだが?」 目の前の男からはからかっている様な感がある、糞!! 「馬鹿にするな。」 「整形したのが無駄になったのは御愁傷様と言うしかないな。ん?私と戦う気か?」 ゆっくりと冷蔵庫の方に移動する男、その場所は入り口と真逆。 「言葉使いもそうだが確信したのは冷蔵庫を開けた時だ、潜入する時ぐらい食事はした方がいいぞ吸血鬼?」 「舐めるな人間!!」 狭い室内で一足跳びで距離を縮めると凶器と化した右腕を振り下ろした。 ブン 「なっ!!」 空振りの音、その腕は幻の様に男の体をすり抜けた。見回すと入り口に立つ男、その口には嘲りが張り付いている。 「クックックどうした、吸血鬼?冬のヨーロッパなのに暑さで頭が沸いたか?何なら吸血鬼には禁忌の水でも飲むか?ホラ。」 何時の間に冷蔵庫から取り出したのかミネラルウオーターのペットボトルが二人の間の中を舞う。 「爆ぜろ」 ズンッ 男の一言で爆ぜるミネラルウォーター、周囲が霧に包まれる。 「な!!」 霧で視界が塞がれる中、男の姿を探す吸血鬼。 「さて、もう一度聞く。カールはどうした?」 声が周囲から聞こえる、位置が判別できない。狭い部屋にも拘らず見つける事が出来ない、闇雲に腕を振るが掠らない上に家具にぶち当たる。 「これが最後だ。ここに居た監視スタッフのカールはどうした?」 目の前に影が見える入り口の前、闇夜でも見通せる吸血鬼の目を侮ったのが貴様の敗因だ!! 「喰った殺した。」 「そうか。それを聞きたかった、カールは死んだか。」 悲しみを孕んだ声。その主に見つからぬ様に暗闇から近づく。 「あいつはあの世に行った、そして貴様も行くがいい。」 「先に行くのは貴様だ。」 振り下ろした爪は再び影を摺り抜ける。 「幻術!!」 「さらばだ、名も知らぬ吸血鬼よ。」 そして気付く体に赤い点が幾つも・・・・・。 タタタタタタタタ くぐもった低い音と共に踊るように痙攣する吸血鬼。 「がぁあ・・ああ。」 銃撃が体を貫く、体が動かない。 ボウ 目を動かす、と入り口のそばに立つ男。 「対死徒用の呪弾だ。どうだ効き目は?死徒の周りで働いている呪詛を逆転させる呪いを叩き込む弾だ。しかも通常の弾と遜色ない手ごろな値段、売れると思わないか?」 「があぁ。」 「・・・・・体が動かないのと、回復が止まる位が限度か。改良の余地がまだまだあるな。もういい、あっちに行ったらカールに詫びろ。」 体を押される。前のめりに倒れる先には日の光が燦々と降り注ぐ屋外だった。 吸血鬼が最後に見たのは憂いの含んだ顔で火の点いたタバコを吸う男の姿だった、 バタン 扉の閉まる音と車が発進する。 後部座席の隣には眼鏡をかけた目鼻立ちの整ったスーツ姿のブロンド女性が座った。 「急ぎなさい、トラフィムの部隊が来ます。」 「ヒルダ、そんなに急ぐな。まだ日が高い簡単に部隊は出さんさ。」 「しかし・・・。」 「元々、あいつは捨て駒だろう? 始末ついでの鉄砲玉にすぎない。」 「テッポウダマ?ですか。」 ヒルダは聴きなれない言葉に眉間を寄せる。 「日本の言葉だ、そんな事より素性は調べはついたか?」 「はい、一週間前に市内の無免許の外科医が一人死んでいます、その時の目撃証言に死徒の存在が判っています。」 ほんの一時間程度で其処まで調べるか。 「あんまり役立たない死徒だったんじゃないのか?」 「内通者の情報と重ね合わせると役立たずと呼ばれる死徒だったらしいです。」 「だった?」 手元の資料に目を落とす。 「はい、先月の終わりにトラフィム公からの命令で街に出たとの事です。」 「こっちの動きを見る為の捨て駒か。ふむ、こっちの動向はばれていたようだ。別の監視体制を張る、各部隊にプランの提出を。」 「判りました。各部隊に連絡を行っておきます。」 沈黙、車内に舗装されていない石畳が跳ねる音が流れる。 「カールの親族にいつも通りにやってあげてくれ。」 「了解しました。それと、東京本社から連絡が入っています。」 「社長からか?」 「はい、急ぎ戻ってくれと言う事です。」 冗談で言っていた事が本当になった。 某月某日 水曜 曇り ヨーロッパの白翼公の監視から呼び戻される。 社長直属の部隊を重要監視対象の元から呼び戻すと言う事は、それ以上の事態が起きたのだろう。 四人一組の三部隊を残し本社のある日本に戻ってきた。 空港から真直ぐ丸ノ内『砕破』本社十五階の社長室へと急ぐ。 エレベーターを乗り継ぎ十階にある専用エレベーターの前に立ち指紋、声紋、網膜チェック、テンキーに八桁のパスワードを打ち込みICカードをエレベーター内のスリットに通す。 十四階の執行部の階を通り過ぎ最上階の社長室のドアに男は手を掛けた。 「入るぞ。」 光が余り入らない様に扉を開け、滑り込むように中へと入る。 部屋は月の光を思い出させる淡い光に満ちていた。 そこにダークブラウンの背広を着た小太りの男と、抜ける様な白い肌と色素の抜けた白髪と赤い目、アルビノの男がソファに向かい合って座っている。 「お帰り、意外と早かったな。」 「三剣か。いくら直属と言っても言葉使い位気を付けろ。」 「三部隊を残してヒルダに任せてきたからな。悪いな細目部長、ドイツの下町育ちだからそこら辺は余りよくわからん。」 「渡独は十五の時からだと聞いているが、そんなに簡単に日本語を忘れるのか? 三剣隊長」 「良く調べているな、俺の尻の穴の皺の数まで知ってるんじゃないのか? 覗き見情報部。」 「情報を制する者が勝つと言う言葉は君の口癖ではないかね? 健忘執行部。」 「二人とも止めろ。」 口論を止めたのはアルビノの男、うんざりとした顔で苦笑する。 「会った途端にこれか、仲の悪さは相変わらずだな。」 「社長、これはコイツが・・・」 「細目、報告の途中じゃないのか?」 面白そうに笑う三剣。グッと詰まる細目を尻目に三剣は話をするようにと急かす。 「後で覚えてろ・・・・・先程の話の続きですが、三咲町の調査を試しに興信所に頼みました所、予想通りの結果が返ってきました。」 「そうか。」 「興信所の報告は一応お聞きになりますか?」 「続けてくれ。」 「解りました。・・・・今回は足が付かないようダミー会社を幾つか経由させ三名の調査を依頼しました。」 細目は持つ書類の中から三枚の写真を机に置いた。その一枚を手に取る三剣。 「これは、アルクエイド・ブリュンスタッドか? こっちはバチカンの第七司祭・・・・? こっちは知らないな。誰だ? 」 「最近、遠野家当主となった遠野秋葉だ。覚えておけ、今回のお前の仕事相手だ。」 「はあ?」 一瞬耳を疑う。 「続けます、アルクエイド・ブリュンスタッドと第七司祭には何も問題ないとの事ですが。報告書に作為的なものが含まれて居ます、特にアルクエイド・ブリュンスタッドの方がその何と言うか・・・。」 「なんというか?」 何が可笑しいのか笑いをかみ殺している。 「うちの女子社員に聞いたところ、話の筋が最近ブームのドラマの内容と一緒なんです。」 沈黙 「ぶっわははははは。」 示威行為かそれとも遊んでいるのか殺戮人形と掛け離れた内容に吹き出してしまう。 「真祖の魔眼か。この調子だと第七司祭も暗示か魔術でも使って変えられているだろうな。」 「その通りです第七司祭の方が巧く出来ていますが、日本の学生生活を知らないためか少しおかしな感じです。その何と言うか、時代錯誤な感が。」 「くっくっく・・・・・・。」 報告書の写しを見てたら腹が痛い。さっと見た限りじゃ台本に近い。 社長は笑いをかみ殺しつつ細目に報告の続きを促す。 「遠野家の方ですが、これは予想通り興信所の方から断られました、その筋からの妨害と圧力がかかったと思われます。」 なるほど、なんとなく解って来た。 「これで呼び戻されたのか?」 「そうだ。」 答えるのは社長、困りきった顔で溜息を一つ吐く。 「この間、白翼公の報告にあった27祖の一人ネロ・カオスが先日消えたのを聞いているか?」 「ああ、極東で討ち取られたとは聞いているが、最初聞いた時に規格外のアレが死んだと聞いては耳を疑ったが・・・・まさか、この報告書にある三咲町か?」 無言で頷く社長、言葉尻を継ぐように細目が続ける。 「ネロ・カオスだけではない。ミハイル・ロア・バルダムヨォンこと『アカシアの蛇』も消された。」 「消された?」 「言葉通りだ、『無限転生者』が転生出来ない状態まで殺された。教会の方の報告書の写しを見るからに第七司祭が消したらしいが。」 視線が自然にテーブルの上の報告書に付けられた眼鏡をかけた女性の写真に目がいく。 「『第七聖典』か・・・・とはいえ一概に信じられないな。『転生批判』の聖典の所有者とはいえ第七司祭にロアを倒せるとは思えない。が前例から考えて真祖の姫も倒したとも言えないか。」 「こればかりは本調査をしない限り解らん。一体誰が倒したかはな。」 一同の目が顔写真に集中する。 「こう言う時こそ七凪が適任じゃないのか?」 七凪紫門、元無敵の暗殺者。調査・潜入・隠行のレベルはトップクラスだ。こういう時に役に立つんだが。 「あいつは今、南米ジャングルで調査中だ。しかも一週間前から連絡が取れない。」 「執行部の他のメンバーは?」 「もし、この誰かと交戦状態になったら生きて帰れるか奴が何人いると思う?」 再び机の上の写真を見渡す・・・・・確かに、部下だと荷が勝ちすぎる。最強の真祖・完全数の第七司祭・遠野グループの長を相手にした場合の生存率と掛け合わせると・・・。 「う〜ん、最低でも執行部の隊長クラスか『滅』の文字持ち並の実力が無いと逃げ切れんし死ぬな。」 深深と頷く社長は満足げだ。 「残念ながら君以外の隊長は全員出払っている。『潰滅』はアフリカ『消滅』は中央アジア『殲滅』はアメリカだ。」 「『滅紫』は南米、で此処に残っているのは戦闘に不向きの開発部の『覆滅』総務の『即滅』でこの部屋の『熄滅』『生滅』『焼滅』・・・・。」 溜息がでる、自分の言葉で悟ってしまった。 「俺しかいないのか。」 「そう言う事だ。戦力と機動性のバランスを取ると『焼滅』のお前が適任だ。・・・・何処に行く? 」 「そこら辺の事は纏めて俺のデスクに置いといてくれ、今から開発部の方に行って来る『弾』報告を兼ねて開発中の武器を持ってく。今からの事考えたら胃が痛くなってきた、薬ももらってくるか。」 そう言って部屋をでた俺の耳に聞こえた声は苦笑だった。 生きて帰れるか俺? |
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