第02話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 21時21分27秒公開
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バタン 朝日を逆光に扉を閉める彼の後姿を見な送りながら目を閉じる。 が、今日は何故か眠くない。きっとカーテンから漏れる光が邪魔をしているのだろう。 元々、私達の眷属は日の光に弱いが、私は慣れているから大丈夫。 何度も寝ようとするが眠れない。彼との楽しい時間を過ごしたのが原因だろうか? 原因が解らないまま時間が無為に過ぎ去る。 頭から布団を被るが何故か気になってしまった。 意を決して起き上がり、重い体を引きずりながらカーテンを開けると其処には 底抜けの蒼い空が広がっていた。 蒼が映える天気のいい日。 青色と連想して一瞬知り合いの聖職者の女が頭によぎるが、あえて黙殺。 何だか楽しくなって目が冴えてきた。 こんな天気のいい日は何故か外に出たくなる。 彼には馬鹿にされるかもしれない、でも彼ならこう言ってくれるだろう『そうだな、こんな良い天気なら外に出るのもいいな』なんて彼の苦笑交じりの笑顔を思い出しながら、いつもの服に着替える。 彼の笑顔を思い出しながら決めた今日の予定、今日は外に出よう。 きっと外にはビックリする物があるはず、そしてそれを彼に教えて逆にビックリさせてやるんだから。 教えたとき彼は一体どんな顔をするだろう。 今からそれを考えると思わず笑い声が漏れてしまう。 眠い目を擦りながら、ドアのノブを回す。 今日は何処に行こう。 某月某日 正午過ぎ。 辞令により目標の監視体制を作るべく三咲町に入る。 部隊の編成は部下に任せ、監視方法を練る為に先行して町に入る。 目的の場所は坂の上に建つ遠野家を中心に某マンションとアパートの付近を候補に上げる。(詳細は添付の地図を参照) 目下の目的は目標の行動パターンを探ること、場合によっては介入する場合を前提としての周囲とのかね合わせも必要だからだ。 また厄介な仕事が回ってきたものだ、ヨーロッパの方が幾分か楽だぞ。 連続吸血鬼殺人事件。 安直な名前、だが真実を知る者としてはこれほど的を射たものは無いだろう。 事の発端は、この町にミハイル・ロア・バルダムヨォンと呼ばれる死徒がこの地に来た事から始まる。 死徒。 吸血種の中で吸血鬼、と呼ばれるモノたちの大部分を占める吸血種。 特徴は日の光に弱い、血を吸い生き長らえる。 その吸血種の中でも変り種、死徒二十七祖の番外、通称『アカシャの蛇』転生無限者。 こいつの性質、特徴は添付された資料で確認して欲しい。 そのロアと呼ばれる死徒は、無限に転生し続ける吸血鬼は先日滅ぼされた。 教会の公式発表によれば、転生批判の第七聖典によって討ち滅ぼされたとか。 今回、この場所に来た理由の一つである。 駅前の大通りを歩く。 色々な色彩の服達を寒風が綯いで行く中で枯葉が舞い踊る。右手に持ったミネラルウオーターのペットボトルをゴミ箱に投げ捨てる。 「やっぱ日本の冬は違うね、少し湿度がある。」 この間まで居たヨーロッパと違い、少し湿気を含んだ冷たい空気が肌を刺す。黒のハーフコートのポケットに手を入れ、薄手のマフラーを無造作に巻きなおす。 「さてと。」 町の大体の散策は終わった。いいなあと思う拠点はあったが、工事中だそうだ結構いい場所なのにな。 渋々あきらめ見つけて置いた少し大きめの本屋に入る、町の見取り図を手に入れる為だ、細かい地図と趣味の本を買う。 近くのファーストフードに入りコーヒーのみを注文。 ・・・・ウッ、ファーストフードのコーヒーは相変わらず不味い、最近は頻繁にコーヒーを淹れて貰っていたから舌が慣れてないんだろう暫くは日本だから舌を甘やかしちゃいかんな。 一口飲んだコーヒーの苦さを口内に残しつつ店内を見回す。陣取る位置は一番奥の店内を見渡せる位置、何が起きてもすぐに対処できる。 ・・・・・・ 残念ながら一番奥には金髪の女性が突っ伏して寝ていた。 「オイオイ。」 寝息も余り聞こえないから敢えて放って置こう、下手にトラブルになってもしょうがない。 寝ている女性を起こさない様に横目に見ながら一つ手前の席に座り地図を広げた。 地図に穴があく位見つめると今日見て回った町の要所を頭の中で書き込んでいく。 「やはり最初はお姫様の行動範囲とパターンを調べるのが先か、これは色んな意味で障害だな・・・・。」 真祖、吸血種において特異な存在。性質は精霊に近いという。 その中でもアルクエイド・ブリュンスタッドは吸血行為に溺れた堕ちた真祖を狩る殺戮機械とも呼ばれる。 不死に近い真祖を狩り出し討つ事のみ存在する真祖の姫君、なんて厄介。 見つかった途端問答無用に消される可能性だってある。 それを念頭において配置を考えるのが第一だ、犠牲者はいない方がいい。 「う〜ん。」 頭痛のするこめかみを中指で揉みながら思考を続行、此処までは容易に予想されるが、一つだけ解らない点がある。 ロアが消滅した今何故未だこの町に居るのか、それが一番の疑問だ。 死徒がこの町にまだ居るのか?しかし、それならば行方不明者の減少が説明がつかない。それともグール狩りでもしているのか?いや、それは教会に任せれば良い・・・・他に何か理由でもあるのか? 「ふう。」 一息入れるため背伸びを一つし地図をたたみ冷めたコーヒーを口に付けつつ、書店で地図と一緒に買った本を開く。 本の題名は『詰め将棋マニア!!』、昔から今まで続く私唯一の趣味。 「銀成らず・・・・王が逃げる、角打ち飛車が阻む飛車取り桂成り詰み・・・・・。」 問題の一つを解き、一ページめくる。 1手1手七種類の駒を使い王を追い詰める詰め将棋、一回でもしくじれば終わりと言う前提で行なえば、これほどスリルがあるゲームはない。 実戦とは違う緊張感、誰一人死なない戦い。お手ごろなスリルのある戦いだ。 「・・・・・これで詰み。」 渇いた口を潤すためにコーヒーを口に含んだその時、耳元で女の声がした。 「罪?何か悪い事でもやったの?」 バブファ!! いきなり耳元で聞こえた声に、口から飲みかけのコーヒーが盛大に吹き出す。幾ら集中していたとは言え不覚だ。 「ガハッゲホゲホ。」 むせつつ声のした方向を見ると、そこには隣の席で突っ伏して寝ていた金髪の女性がニコニコと笑いながらこちらを見ていた。 見た事もある顔。それもその筈、報告書に添付されていた写真と同じ顔、アルクエイド・ブリュンスタッドがそこに居た。 |
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