第03話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 21時22分33秒公開
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午前中の散策、彼が居なくてもそれなりに楽しい。 その楽しさを教えてくれたのは彼だ、世界の美しさ、無駄の楽しさ。 だから、一人で歩いていても彼が居なくても私はこんなにも楽しい、だって彼に何があったかを話すのを考えたとしても、こんなにも楽しいから。 でも出来れば一緒に居てほしいな、居ればもっと楽しいから。 「でも、今は眠・・・いや。」 余りの眠さに、いつも癖で彼と行くファーストフードのお店に入る。 「イラッシャイマセー」 朦朧としながら席に着くのを遮る声。 「あ、そうだった何か買わなきゃ駄目だったっけ?」 いつも彼が買っている様にカウンターに歩を進める。 制服を来た女性が笑顔で迎えてくれる、彼が言うには『スマイル0円』と言う物らしい。 でも今はどうでもいいや。 「どれになさいますか?」 「え〜と、ホットティー」 メニューを見ながら当たり障りの無いものを選んで注文する。お腹は減っていないので目を覚まさせる為の物を買おう。 「ホットティーですね、○○○円になります。」 お金を払い一番奥の席を陣取る。この席は最近、彼と良く座る場所。 私が壁際で彼は椅子に座る、こうして同じ場所に座れば何故か安心する。 ホットティーを飲む。 一口、二口。 体が温まってきた、安心したのと相乗で眠くなってきた。 ちょっとだけテーブルに突っ伏して少し考え事。 窓の外を見ると町の景色が少しづつ変わっていた。 彼と会ってから、もう一ヶ月ぐらい。二人きりで会って、この町を良く歩く。 でもその一ヶ月でこの町は様変わりした。 黄色から灰色へと彼が言うにはこれから雪が降ると白へと変わるそうだ。 今から今後の予定を考えるのも楽しい、これからの彼との生活を考えただけでも何だかあったかくなる。 何だか幸せ。 「ふう。」 時間はもうすぐ1時、彼が来るまでまだ時間があるはず。それまで今日は後どこを見て回ろう? 気付くと何時の間にか寝ていた。 時計を見ると10分も寝ていない、そろそろ出よう考えながら体を起こすと隣に座る男の呟き声が聞こえた。 「銀成らず・・・・王が逃げる、角打ち飛車が阻む飛車取り桂成り詰み・・・・・。」 良く解らない呟き、何かの呪文のようだ。 起こした体を気付かれない様にソッと横を覗き見ると男は楽しそうに本を見ている。 何を見ているんだろう?呪文を唱えて何が面白いの? 楽しそうに一ページ又一ページと捲っていく。 ・・・・・・・・・・・・・・。 楽しそうな横顔が何故か気になったのか何だか面白そう、今度は気付かれないように本を覗き見る。 良く解んない、知識としてはあるのはこれは確か将棋と言うゲームだ。でもこれは何か違うような。 「・・・・・これで詰み。」 「罪?何か悪い事でもやったの?」 あ、思わず声をかけてしまった。 ◎月×日 いきなりのファーストコンタクトにより当初報告した計画とは大きく異なる監視計画となる予兆。 この出会いは、必然か偶然か考えてみたい所であるが。きっと、そんな物を超越していることだろう、この出会いは。 とは言え、この出会いはある意味大きなチャンス。 これを吉とするか凶とするかは俺次第なのは明らかだ。 たぶん 「・・・・・と言う訳でこれが将棋のルール。覚えたかな?」 「覚えたわ。」 ムムムとした無理やり引き締まった顔をした白いお姫様。 そりゃ覚えるだろ、真祖の記憶力は人間とは比べ物にならない程だろうから。 「取り敢えず始めてみるかい?今回は俺の飛車・角・香・桂・銀抜きで始めますか。」 「そんなに駒を減らして良いの?私を馬鹿にしてない?」 眉間に皺を寄せて聞いてくるが、そんなのはお構いなしだ。 「馬鹿にはしてないさ、初心者に対する優しさと言って貰いたい。やれば解るさ。先手はそっちに譲ろう、どうぞ。」 そうして対局は始まる、全くおかしな事になったものだ。 事の発端は三十分前までに遡る。 「ななななな!?」 「ごめんね、何か楽しそうに本に向かってブツブツ呟いてたから思わず声をかけちゃった。」 声をかけるって、普通そんな事はしないだろう。俺だったらむしろ、離れる。ジト目で見つめると真祖はエヘヘ〜と笑った。 「志貴にも良く言われるんだ〜『お前は常識を知らんのか!この馬鹿女〜!!』って、でも酷いと思わない?いくら私が常識に疎くてもそんな言い方はないと思わない?」 イヤイヤイヤ、思わない?って俺に同意を求められても、その志貴って奴の事知らんのだが。と言うより論点が違ってきている。 問題は目の前の女、いや目標、真祖の姫。 取り敢えず、落ち着け俺。此処で戦いになるものなら当初の計画以前に監視の話自体が潰れる。 たとえ戦ったとしても、逃げ切る自身はおろか痛手を負わせる自信はあるがリスクは大きい上に例え倒しても何のメリットは無い。 むしろ、ドイツの監視対象が喜んで刺客バンバン送ってくる位だろう。 それ以前に、こんな街中で戦ったら一体何人巻き添えにするのやら。 損害を考えただけで頭が痛い。 「ん?」 「あ〜、整理しよう君は俺が見ていた、この本に興味が沸いて覗いたと言うわけだね。」 「うん、そうだよ〜。」 無邪気な笑顔だ、じゃなくて・・・疑問が沸く、目の前の女性は本当にアルクエイド・ブリュンスタッドか? 三日前に叩き込んだ資料の写真を脳の奥から引き出す。目の前の返事を待っている女性と記憶の写真と答え合わせ。 「これ見たい?・・・・あ〜いいよ見ても、一応未だ読んでる途中だから早めに返してくれると嬉しいなと・・・・聞いてねえよ。」 ジッと見ていた本を手渡した、おお夢中になって読んでる。 その間に答え合わせ、輪郭・髪の色・目の形・口元・そしてこれが一番重要な耳の形。 耳の形と言う物は人それぞれが形が違う、その上に整形し辛い点もあり犯罪者が顔を変えても此処は変えてない例が多い。 実際に日本の警察もやっている。 五点とも間違いない・・・・・たぶん本人だ雰囲気は想像と大分・・・いや、かなり違う。 もっと、こう清楚で高貴で何と言うか・・・・目の前の真祖は何と言うか窓から差し込む太陽の光が似合いすぎた。 「・・・・?」 怪訝な顔を始めた、何か問題があるのだろうか? 「良く解んない、知識としては有るんだけど、やり方が。」 知識はある? 「チェスは何となく理解できるんだけど、これはどう違うの?」 その後ジッと見られて返答に困った俺は彼女を少し待たすと本を買った所に走り本を買い、その近くにあった玩具屋で将棋盤と駒を買う。 本を渡し、二十分読み終えた彼女に幾つかの確認を取った後、先ほどの会話へと戻る。 真祖と将棋を打つ、有り得ない状況。 堕ちた真祖を狩る、最強の真祖。 知能や能力などはトップクラスの真祖それを刈り取る更に上の存在。 そんな殺戮機械とは手合わせしたくは無いが、こういう擬似的な手合わせは楽しみだ。 そんな状況を楽しみにしていたのだが・・・。 「銀打ち王手飛車取り。」 「え〜一寸待って。」 「待たない、これで君何回目だ?」 対局三回目、結果三連勝。 ちなみに、この手を待ったとしても14手目先で詰むのは確定している。 「む〜。」 「もう一寸、後先を考えた方がいいぞ一手一手は良いんだが、せめて三手先位は読めてた方がいい。まあ素人は定石を覚える事からかな?」 何となく真祖を狩っていた方法がわかった気がする。元のスペックが高いから、プライドが高い真祖を挑発して狩ればいいもしくは力押し。 「む〜、人の考えている事なんて解んないもん。」 「俺だって解んないさ。」 「じゃあ、何で今さっきみたいな駒の動かし方が出来るの?素人の私でも二重三重の罠が仕掛けられていたって解るぐらいの動かし方だったわよ。」 「相手の気持ちになるのさ、こうなったら自分はどう不利か?ってね。例えば恋人が居たら相手がどうやって喜ぶかなんて考えるのと一緒。」 真祖に恋人は居ないとは思うが、あえてカムフラージュとして引用する。 ・・・が、これが意外な反応を出した。 遠い目、今此処には居ない誰かを想う目。 「ふっふふふふふ。」 思わず笑いが零れた。 そうか、そう言う事か。男と女の前では種族は関係ないという事か? 「何? 人の顔見ていきなり笑ったりして、失礼よ。」 「いや失敬、一寸した思い出し笑いさ。要するに相手の側に立つ事がまず第一歩さ。」 「う〜ん、でも解んないなあ。でもいくら相手の側に立っていたとしても解んない事はいくらでもあるよ。私は私だし他人は他人でしょ?」 「後は自分の経験で補えば良いのさ、昔こんな事があって自分はこう想ったと言うのも一つの指針になる。」 その言葉を聞いて真祖は一瞬、悲しそうな顔をした。 沈黙。 拙い事言ったかな? 沈黙に耐え切れなくなり時計を見る、午後三時そろそろホテルにチェックインしなくては。 「さて、そろそろお開きだ。」 その言葉に我に返ったのか真祖も時計を見る。駒を片付け、将棋盤と本を手渡す。 「次、会う時まで頑張ってくれ。これは君にプレゼントする、不快にさせてしまったお詫びだ。」 「え?」 本と地図を片手に席を立つ。 「君は中々筋が良いと思う。強くなってから又再戦するのを待っているよ。」 「ねえ、あなた名前は?」 「三剣だ。」 店の外に出るともう夕日になって風が強くなっていた。 木枯らしが吹く。 今夜も寒い夜になりそうだ。 |
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