第04話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 20時33分19秒公開
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私は人形。 そう思いながら過ごした幼年期。 そんな私を人間に戻し、絶望に叩き込んだのは彼。 そんな私を救ったのも彼。 遠野の屋敷に来てから、一ヶ月目に返してくれた約束のリボン。 『それで全て終わってしまった。』 最初から決めていた事だ。 最初は双子の妹と間違えていたが、それは仕方が無いということで割り切った。 あの頃の私と今の私では違いすぎる、彼がすぐに気付かないのも仕方が無い。 だって彼は朴念仁。 色んな女性に思われていると言うのにあの態度はどうかと思う。かと言って、不意打ちに近い優しさは彼の優しさにも頭が来て。 そして、あの子供みたいな無邪気な笑顔もまた・・・・・・。 いけない、いけない。考え事が何時の間にか愚痴になってしまった。 そんな彼に今日も料理を作る。 彼に喜んで貰う為に、体が弱い彼に元気になってもらう為。 彼に今日も笑顔で料理を運ぶ。 『今日も美味しいよ』 彼がそう言ってくれたから今日も頑張れる。 彼との日常を思い描くと空っぽの心の中に何かが満ちる。 私は今、人形じゃない。 普通に生きる人間です、多分。 ■月▽日快晴 偶然のファーストコンタクトから8日目にして管理体制が整う。 遠野家から一番近い家をかり二階からの監視を始める。 同時に残り二人のターゲットの付近にも家を借りる予定。 後、四六時中目標に張り付くのが危険と判断、及び魔力感知能力も考慮に入れ無線式のビデオカメラを数十台用意してほしい。 名目上は『町の危機管理』を目的に三咲町議会で立案の工作を行う事、工事の業者は幾つかの会社を経由して手配する事。 第三者の名義の車を六台、指揮車を一台、連絡用のモバイルと第三者名義の携帯をそれぞれ九台ずつ。 至急、願う。 今日三度目のメールを送信後、コーヒーショップを出る。 「寒い。」 木枯らしが吹く中、黒のハーフコートの前を閉める。 こっちの気候に慣れてきた所為か寒さも気にならなくなっているが寒いものは寒い。 一日の監視状況を確認する為に市内三ヶ所廻り個人的に借りたマンションの一室へ帰る、その途中にデンと構えた大型スーパーへ寄ろうと思ったのはきっと日本の寒さの所為だと思う。 「やっぱり冬は鍋だ。」 昨日、電気屋の前を通ってコタツを衝動的に買ってしまったのも冬の所為、果物屋でミカンを買ってしまったのも冬の所為、ついでに勧められた日本酒を買ってしまったのも熱燗用の徳利を買ったのも昨日それで一杯やってしまっなのも全部冬の所為だ!! 夜中も休まず働いている部下に『申し訳ない』と思いつつスーパーの自動ドアをはいる。 「さてさて。」 グルリと見回し買い物籠を右手に持ち野菜コーナーから回る。 入ったは良いが何鍋にするかが問題だ。 スキヤキ、鴨鍋、魚鍋、石狩鍋に豆乳鍋、モツにチゲ等など。 昨日買った日本酒思い出しながらに合わせるなら魚系がいいか?だが、豚肉を入れたチゲ鍋も捨てがたい・・・悩みながら生鮮食品のコーナーを眺める、と出会った。 『鍋に最適!! 魚ぶつ切りワンパック480円』 おお!!なんてタイムリーそして最後の一つ、魚鍋にしても良いなと思いながら取ろうとした瞬間、横合いから出た手に取られた。 「あっ。」 思わず間抜けな声が出てしまう。手の主を見るべく目を移すと割烹着姿の女性が嬉しそうに笑っていた。 「あら〜すみませんねえ。」 微妙に笑顔に黒さが見えるのは俺の気のせいか? 「あ、いえ良いですよ。」 今日の献立から魚は消えたか、別の食材でも探すか。 「あの〜もしもし?」 「はい?」 「そんなに食べたかったんですか? これ。」 そんなに俺は落ち込んでいたのだろうか?恥ずかしいなあ。申し訳なさそうに魚を出す割烹着の女性。 「いえいえ、良いんですよ。ただ酒に合うだろうなあと思っていたんで。」 そう言いながら去ろうとすると後ろから引っ張られる、振り向くと女性が服の裾を掴んでいた。 「いけません。」 「え?」 「男が一度こうと決めたものを簡単に諦めるのはどうなんでしょう?」 いや、どう?と言われても。 「其処で私が、この琥もといマジカルアンバーが解決です♪ 安心してください〜。」 うわぁ滅茶苦茶不安だ。 「で? お酒は、どんなの買ったんですか?」 俺もしかして遊ばれてる? 「ん? ああ、九州育ちの悪友がいて、そいつが飲みやすいっていって勧めた酒なんだけど・・・・・ええ『西の関』って言う。」 「はあ、又地元じゃないと解らない様なマイナーお酒ですねえ。知ってますよ〜あのお酒は最初飲みやすく後しっかりと言うものです。飲みごたえがあるフルーティーなお酒ですね〜。」 「そうなの?」 彼女は人差し指をビシッと立てながら楽しそうに説明する。 「そういうお酒には・・・・これなんかどうですか?」 そうやって出してきたものは・・・・。白身魚?横には赤く乳白色の塊、品名を見ると。 「アンコウ?」 「はい〜♪」 これまた意外な物を、確かにアンコウは美味いむしろ酒にあう、以前連れて行かれた料亭で酒蒸しとして食べた事があったが確かに美味しく酒に合った。 だが一つ問題がある。 「調理がわからん。」 自炊はしているがアンコウはやったことは無い、鍋なんてどうすればいいのやら。 「大丈夫ですよ〜、ここにある鍋の素とか使って普通に鍋を作るだけであっという間ですよ〜。」 そうやって彼女は鍋の素を指差す。むう、確かに。 「でも、自分で味付けした方が美味しいと思うけど。」 女性はチッチッチと指を振りながら、素人考えですねえ〜と一つため息をついた。 「こっちに着いて間もないんですよね?調味料とか揃っていないんじゃないですか?そんな状態で料理しても美味しくありません。それに美味しく仕上げる自身がおありで?」 背中が凍る。が、表情に出すな、目に出すな、声に出すな、態度に出すな。 動揺を出すな。 動揺を理性で無理やり押さえつける。 「なぜ? 俺が、ここに着いて間もないって?」 「あら、違いましたか〜?」 彼女の笑顔がマネキンに見える、白いきめ細かい肌が樹脂に見える、こちらを覗き込む目がガラス玉に見える。だがそれも一瞬の事、表情に感情が戻った。 「いや違ってないよ、何で解ったか聞きたいだけさ。」 少しだけ空気が冷える。 「簡単です、格好が物語っていますね。三咲町はこの県内でも結構暖かい所なんですよ、そんな中見たまま厚着していた、と言う事は他所から来て間もないと言う可能性が出る。それだけじゃありませんよ〜鞄もポイント高いですねえ、以前テレビで見たんですけどその鞄。」 ビシッと効果音が出そうなほど鞄を指差される、先ほどの雰囲気は無い・・・・気のせいか探りを入れられた感じ。 「この町じゃ売っていないんですよ。何せ地方都市ですからねえ。それに、このスーパー近所の人しか利用しないような所なんです、私ここに来る方はたいてい知っているんですよ〜そんな中キョロキョロと見回す見慣れない藍色の眼の男の人と言ったら、ね!?」 参った、入って来る所から見られていたのか。 思わず苦笑してしまう。 「うふふふ、油断大敵ですね〜。」 「はははは、そう油断大敵だ。」 それからは、長ネギ、ニラ、白菜、ニンジン、エリンギを買い店を出る、我ながら微妙なチョイスだ。 「良かったんですか、それ?」 「う〜ん、何となく直感で選んだんだけど。」 結局、チゲ鍋の素(激)を買った、酒には少し辛い物が合う。 「あは〜私は知りませんよ〜」 不吉なことを言うな、と心で思いつつ内心別のことを思いながら笑顔で返す。 「今日はお世話になりました。」 「いえいえ〜困った時は、マジカルアンバーですよ〜」 良く解んない、それは。 「なにか困ったら相談してくださいね〜特に薬とか。」 「いや結構です。」 何か自白剤とか入れられそうな気分だ。 それでは〜と言いながら彼女は滑る様に去っていった。 姿が見えなくなった所で携帯電話を出す。 「俺だ、そっちの方に着物の上に割烹着を来た女性が行く。いや遠野関係では無いとは思うが・・・念のためだ。身長155p前後、年齢は19くらい、頭に藍色のリボン・・・・確認したな?気付かれずに尾行しろ、行き先確認の上で素性を洗え。時間が掛かってもかまわん気付かれない程度でだ。」 |
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