第06話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 20時35分57秒公開
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誰が何と言おうが金が無い。 今までは、貰った昼飯代をコツコツと切り詰めて、溜めたお金でやってきた。 最近は色々な事があり金の消費が激しく、先日とうとうお金が尽きた。 色々な所へ行きたがる奴を連日に渡って連れまわしたからだ。 無駄な事をした事がないアイツに無駄な事の楽しさを教えるために。 その為、今回はバイトを入れる事となった。 急遽、入用になったのだ。 当然の事ながら秋葉には内緒だ、一応琥珀さんには事情を話しているからバレタ時にも大丈夫だ。 原因は先日の会話にある。 「ねーねー、誕生日って何で祝うの?」 「それは、生まれた日だからじゃないのか?」 「そうじゃなくって、何で人間は年を取ったら祝うのかって事。人間は私たちと違ってすぐに死んじゃうじゃない?」 「うん、まあそうだな。」 「だったら、逆に落ち込んだりするものじゃないの? また一つ死に近づいたって事でしょ。」 「う〜ん、考えても見なかったな。確かに言う通りだ。」 「でしょ?」 「・・・・多分さ、嬉しいからじゃないのかな?」 「嬉しい?」 「うん。その人が好きな人たちが集まって誕生日とかをするんだ普通。でさ、誕生日を祝う人たちが思うんだ『大好きな貴方が生まれた日はなんて素晴らしい日なんでしょう。』って感じで。」 「へえ。」 「もしくは、節目として祝っているとか。」 「節目?」 「うん、昔は今よりも寿命が短かったって言うじゃないか、だから昔の人は『貴方がこの歳まで生きてこれて嬉しい事です、次の節目まで頑張りましょう。』と言う意味で祝っているんじゃないか?」 「ふ〜ん。」 「自分で聞いといて気の無い返事だな。でも、どうしたんだ? いきなり。」 「じゃあさ、私の誕生日が近いって言ったらどうする?」 「どうするって? ・・・・・て、お前、誕生日近いのか?」 「えへへ〜志貴は祝ってくれる?よね?大好きな私が生まれた日なら。実はもう決めているんだ〜来月の。」 「お、おい決めたって誕生日は決める物じゃないぞ!! オイ聞いているのか?」 今は11月の下旬。 よりにもよって、あの馬鹿女は『私の誕生日は12月25日になりました〜。』なんて言い出しやがって。 は〜まったくアイツらしいと言うか何と言うか。 残り時間は一ヶ月を切ろうとしている、そういう訳でバイトだ。 家から小遣いを貰えば良いと言う人間もいるだろうが、そんな小遣いをくれる人間は家には居ない。 居る事は居るのだが、家は少し違う。 『兄さんにお金は持たせられません。欲しい物があれば言ってください』 なんて言う妹が居る為に無理。 流石に俺も男としてのプライドと兄としてのプライドがある為に妹から金を無心する気はない。 それ以前にプレゼントを買うのには自分で稼いだ金を使いたいからだが・・・一寸かっこつけすぎか。 やっぱりクリスマスプレゼントと一緒にしたら怒るだろうなぁ ■月▼日 曇り 何の因果だ?きっと何らかしらの因果がこの町にあるに違いない。 そう、私の様な特異なモノを引き寄せる何らかしらの因果。 監視日誌に思わず疑問兼愚痴を書いてしまったのには訳がある。 目標の一人『遠野秋葉』の兄『遠野志貴』を雇う事になった、と言うか羽目になった。 訳を聞いたら雇わんわけにはいかなくなった・・・・頑張れ、と言いたくなったからだ。 仕事が増えたなあ・・・雇用募集してなかったが、この場合はしょうがない。 この監視日誌を送ると同時に一ヶ月間の業務日誌を送る。給与明細を送られたし。 以上。 「んで、履歴書はこれで良いな。まあ、今日から働いてもらう訳だが。」 履歴書を封筒に入れ、傍らのミネラルウオーターに口をつける。 目の前には志貴君が神妙な面持ちで椅子に座ってもらっている。 「取り敢えず、当社の業務は知ってもらうかな? まあ、派遣とは銘打ってはいるけどやってる事は『何でも屋』みたいなもんだ。」 「何でも屋?」 「ああ何でも屋だ、うちのスタッフは大抵の事は何でも出来る。それこそ駄菓子屋の店番から秘書まで。」 何でも出来る様にしているのは色々な場所に潜入する為でもあるのだが。 「俺出来ることは少ないですけど、どうしたら良いですか?」 「ああ、君には其処までは求めていないよ、流石に専門職の所には送んないから安心して。」 強張っていた表情が解ける。 「とりあえずは・・・・・おーい安田。」 予備要員の一人を呼びつける。 「安田、今日のお前の仕事は?」 体の大きい、細い目の青年がホンワカとした笑顔を崩さず答える。 「街頭でティッシュ配りっすけど、あの街金の奴です。」 「んじゃ、この子連れて行ってくれ『遠野志貴』君だ、聞いてるな?」 軽い動揺が走る安田、普通通りにすれば大丈夫だと目で合図を送る。 「と、言う事で今から付いて行って貰うけど、志貴君。」 「はい?」 立ち上がりかけた志貴君が顔だけこちらに向けた。 「給料は前金が良い? それとも後から?」 「・・・・・・考えさせてください。」 さて、志貴君が来る前から待たしている客と会うか。何年ぶりだっけな? 応接室の扉を空けるとそこには眼鏡をかけた女性が一人。 「すまんね、またせて面接が入ってたものでね。久しぶりだ五年ぶりだったかな?これ名刺ね。」 「あら? 私には面接はして貰えないんですか?」 いけしゃあしゃあと言うな。 「働きたいならね。」 「遠慮しておきます、ウチの機関は副業は名目上駄目なんで。」 隠しておけば副業は大丈夫って感じだな。 「派遣会社の社長さんですか、あの頃あった時に比べて偉くなりましたねクリムゾン。」 「その呼び方は止めてくれよ。まあ、あの時に比べたら少しは偉くなったと思うけどね所詮はただの中間管理職さ。そっちはヤッパリ教会の仕事?」 「そうですよ。」 「殺人狂のオバサン上司も相変わらず最悪ですし、うちの秘宝好きもおっさんの猫被ってますよ。ええ、もう最悪です。」 「相変わらず上司と同僚には手厳しい事だ。」 「当然の評価です。」 目の前の第七司祭はカソック姿で茶をすすっている。 「好みに合わせてみたんだが、どうかな?」 「お気を使わせましたね、これはきっとカレーの後に良くあいます。」 「だそうだ、美山さんもう良いよ。通常業務に戻ってくれ。」 事務員姿の予備要員は一礼して応接室から出て行った。 「・・・・・良く出来てます。」 「だろ? 彼女最近、チャイに凝っててね。ははは。」 乾いた空気が周囲を包む。 「違いますよ、彼女普通に歩いている心算でしょうが。とても訓練された動きです。」 「そうか? 気のせいじゃないのか?」 ばれているのを前提に話すのは無茶苦茶虚しい。 「それに、最近私の周りについている人間でしょ? やめて貰いたいんですが。」 これはブラフ。顔で笑って、笑っていない目でこちらの意思を汲み取ろうとしている。 「何を言っているんだ?一介の子会社の社長がそんな事出来るわけないじゃないか。」 おそらく、身の回りの不穏な空気と視線を感じたのだろう。この様子だったら未だ気付かれてはない。 「それよりどうやって俺のことを知った?その事を知りたいんだけど。」 「貴方も知っての通り、この街には真祖の姫君がいます。私、埋葬機関として一戦交えまして。」 公園の一件か。 「その時、あのアーパーが珍しく考え事をしながら戦ってましてね。」 「真祖の姫が?考えながらは普通じゃないのかい?」 「ありえない事です。貴方も知っての通り大局的な戦いではあるでしょうが、刹那の迷いが左右する戦いに於いてでは反射的な事が優先されます。」 「まあ確かにね、戦闘中は反射的なものに頼る事が多い。」 あー読めてきた。 「そうなんです。でも先日は何か違った、彼女は私の次の手を考えるかのように行動してきたんです。」 「それで?」 「で、手を止めて聞いてみたんです。『らしくないですね一体どうしたんですか?』って」 「んで、先日会った男に面白い本を貰った〜と言って、その本を見て俺を連想したというわけだな?」 素晴らしい笑顔で返していただきました・・・・。その笑顔のまま彼女は一枚の折畳んだ紙を取り出した。 「それだけではありません、似顔絵も描いてもらいました。あのアーパーにこんな特技があるとは思いませんでしたが。」 「う・・・・。」 受け取った紙を開くと其処には微妙に似てないが特徴を捉えた似顔絵があった。 「ははは、こりゃ参ったね。」 「此処に来たのは世間話をしに来たのではありません、本題に入りましょう。貴方なんで此処にいるんです?どんな命令で動いているんです?」 「社長として、」 「聞き飽きました。」 話を途中できられる、さて如何したものか。 「あなたの立場は良く解っている心算です。サイファグループ執行部第三部隊隊長としての貴方の立場は。」 「なら聞くな。」 「『移動要塞』『戦闘旅団』と呼ばれる第三部隊の動向は私としても気になる所ですから・・・・。」 「こっちの話によって出方を変える、いや譲歩はするって事か?」 「どのように取られるかは貴方次第です。」 俺次第・・・か、ククク。 正攻法も良いが、搦め手の方が面白い。 「美山君。S7の資料持ってきて。」 「?」 「さて第七司祭、取引と行こうじゃないか。」 「いきなり、どういう風の吹き回しですか?」 胡散臭そうに目を細める、彼女は顔を引き締めた。 「ありがとう美山君。まあ聞け、ここに何枚かの写真がある。」 美山君から持ってきてもらった資料のファイルから幾つかの写真を渡す。 「これは私の写真・・・・・。目的はやはり?」 「この街は三つの勢力によって緊張化していると言われている。どの勢力か君には解ると思うが。」 顔が強張ってるぞ第七司祭。 「いきなり何を?」 「裏の世界では結構有名になってる、と言う事さ。・・・さて、此処でこの写真。」 志貴君と一緒に写っている写真を一枚抜き出す。 「この写真が謎の人物からバチカンの教会に届いたらどうなるだろう?」 目に見えて固まる、おもしろいな〜。 「『第七司祭、愛に溺れる』いやいや、『私自身を受け止めて、貴方のハートを狙い撃ち』とか書き込んでみると良いかも弓だけに。」 顔が見る見る赤くなってくる、もう一押し別の写真を覗き込みながら、 「おー幸せそうな顔だ。前会った時もこんな顔してたら俺も惚れてただろうなぁ、確実に。」 ガタンと向こうの美山君の椅子が揺れ動く・・・どうしたんだ?まあ、それより今は目の前の第七司祭だな。 「あっ、あなたの要求は何ですか?」 「どのように取るかは君次第さエレイシア。」 真っ赤な顔で無言で立ち上がると彼女はゆっくりと出口に向かって歩き出す。 「沈黙は肯定と取らせて貰うぞ。」 「・・・・・・ご勝手に。」 「あ〜今度一緒にカレーでもどうだい?」 バン!! 扉壊れるぞ。 |
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