第08話
作者: ディー   2005年07月01日(金) 20時37分44秒公開
カレーを御玉でかき混ぜる、その途中で昨日の事を思い立った。
「そう言えば、セブン。」
カレーを作りながら同居人に声をかけた。
「あわわ、な、何ですか、マスター。」
人参をくわえながら、あからさまに動揺する我が家の不良精霊。
「あなた・・・。」「わー私は何もしてませんよ。」
「ほう。」
「な、何ですかその疑いに満ちた目は〜。」
「ほう。」
「うう〜。」
「まあ良いです。この話は後で問いただす事にします。」
全く・・・今度は何をしだかしたのやら。
「それより昨日巡回の時間になって聞けなかった話ですが。」
「何でしたっけ?」
「セブン、あなたは頭の中を機械に改造されたいみたいですね。」
「機械の身体はイヤ〜。」
「話が進みません。昨日したでしょう? 思い出しなさい三剣の話です。」
「え? あっはいはい。それがどうかしたんですかー?何かあったんですか?」
「大有りです。」
「人の秘密を知りたがるなんて、うちのマスターもオバサン化してきましたねーこの間ワイドショーでも・・・アダダダ頭がもげる!!鷲掴みは止めてください。」
「もいで付け替えてあげましょうか?」
「じょ冗談ですってアダダもげる!!もげますって!!」
「早くなさい。」
「解りました解りましたよもう。」
蹄の手で頭と首をさするセブン、最初から素直に言えば痛い目にあわずに済むんですがね。
「あー本当にもげるかと思った。」
「セブン。」
「解ってますって、風文さんの事ですよね。確か前に助けてもらった時あの人は魔術は使ってませんでしたよ。」
「それは本当ですか?」
「本当ですよー、あれだけの威力なのに魔術の行使を殆ど行なってませんでしたからね。気付きませんでした?」
「魔術に対しては地道な作業で見極める方が得意なんです・・・でも、行なってない?じゃあ、あれは?」
数年前あの男と共同戦線を張った時、隙を見せてしまった私に迫った死徒の凶刃から私を護る為あの男が強力な炎を生み出し、死徒数体を一瞬にして灰に変えたのを見ている。
凄まじいあの威力が魔術ではなければ一体なんなんだろう・・・あ。
「ある。」
「どうしたんですかマスター?」
魔力を余り使わない一工程の魔術。



三咲町某所
廃工場
バブル時代は部品工場として盛況だったがバブルが弾けると同時に倒産という典型的な終わりを迎えた工場。
その暗い工場の中で十数人の男女か残された器材や資材の上に思い思いの場所に座っていた。
唐突に流れる録音とわかる、くぐもった声。

「遊園地?」
「ええ、25日は休みなんで。」
「どこに行くんだい?」
「朝早くから出て山梨の方へ行こうかと思ってるんですよ。」
「ああ、あそこね。でも大丈夫かい?あそこは絶叫系が多いって聞くけど。」
「ええ、まあ、多分。」
「おいおい、弱気だね。絶叫系は駄目かい?そんな男じゃ女は頼れんぞ。」


木の机に置かれたノートPCのキーを叩くと録音されていた会話が途絶える。
「と言う事だ。今回盗聴した限りターゲットは25日の日に山梨の遊園地に行くとの事。それに伴い我等、時計塔特殊第二分隊『マンイーター』は二十二日朝より出発する。各自第一種装備、魔術兵装は各々にまかせる、兵装の報告や連絡を怠るな!!質問は?」
資材の上に乗った女が手を挙げる。
「第一分隊等からの援護はないのですか?」
「ない。」
「ある訳ない。私達、特殊分隊は名ばかりのそれぞれの教授の私設部隊だ。別の分隊の手は借りられない。」
女性の疑問に答えるようにコンテナによりかかる青年(と言っても見た目は幼い容貌が残っている)が口をだす。
「では、噂は本当だったんだな。」
「どう言う事でしょうか?」
「この捕獲劇は教授の覇権争いと言う事です、どこの分隊が今回どの様な成果を挙げるか。その結果の如何によって発言力が変わり、次回の学長の椅子に座れるかどうかが決まる。そんな所です。」
それぞれの中央に位置するリーダー格が神経質な声で怒鳴り返す。
「私が発言する!! 余計な口出しをするなといっただろうが!!」
「失礼した。」
「・・・今言った通りだ増援はない。以上だ、他に質問は?」
「勝算は・・・あるのか? 相手はアレだろう。俺らは最強と戦うつもりはないぞ。それとも何か確実なものでも?」
「勝算はある。情報が他の分隊に漏れる場合を考え作戦は当日に言い渡す。質問は他には・・・ないな、では解散。」
リーダー格の金髪の男の合図で各々散って行く。
シンと静まった工場の中で二人は向き合った、隊長と口を挟んだ男、二人はジッと立ち尽くしたように動いていなかった。
「何だヨハンまだ口を出し足りないか?」
「兄さん・・・・。」
「兄貴と呼ぶなと言ってるだろうが。家督はお前が継いでいるだろうが、ここではお前の上司だ!!解ってるのか!!」
「解っています・・・いちいち怒鳴らないでください。でも一つだけ言わして貰っていでしょうか、いくら勝算があっても今回の作戦は無茶です、何より相手が悪い。」
「何がだ?」
あからさまに、しかめた顔を弟に向ける男。
「解っているはずです。この地域の危険度は、私より聡い兄さんなら解るはず。」
「ふん、いつもの余裕シャクシャクの態度はどうした?まあいい、今回は勝算とそれに足るだけの理由がある。次期当主様は黙って見ていろ、今回の如何によってはあの糞ジジイも俺がシュピーゲル家当主の座に相応しいと目が覚めるだろうよ。」
「兄さん・・・親父は、いや私は貴方に戻って・・・」
「兄貴と呼ぶな!! たかが妾腹のガキが俺と同じ血を引いていると言うだけでもおぞましい!! それに戻ってどうする、俺に記憶を失えと言うか? 魔術を行使する力を失えと言うか?ふざけるな!!」
男はナイフを取出し弟の鼻先に突き付ける。
「この隊に入ったのも俺に対する当て付けなんじゃないのか?」
「ちっ違う、私は決して・・・。」
「何が違う!!もういい、早く支度しろ。お前の狙撃がないと始まらんからな、俺の目の前から早く消えろ。」
「了解。」


12月23日(曇り)
情報を基にした作戦を組み立てる為に三咲町内の部隊長を集める。


吉井派遣会社
『会議室』

「さて、月に一度のミーティングの日だが。今日は少し違う、皆知っている事だが『魔術協会』の特殊部隊がやってきた。」
座る人間の顔を見回す。
「会社の方針としては、放って置くのが良いと思う・・・・・が拙いと思うと思うのが俺の予想だ。三人の中の誰かが傷付くとバランスが狂う。何のバランスかは解るな?」
今此処の全員がある人物を思いだしたはずだ。
「隊長。俺ら、もしかして虚しい事してません?なんかやってる事は出歯亀と変らないような・・・・。」
「出歯亀と呼ばれようが任務は任務だ。それと考えてみろ、間違って志貴君が傷付いた場合の事を。」
悩むな悩むな、直ぐに解るだろうが。まあ戦闘一辺倒の我々では忘れがちな事だから仕方が無いか。
「アルクエイド・ブリュンスタッドは確実に報復するだろうな、文字通り粉微塵になるまで。」
アルクエイド監視部隊隊長の『吉野 昌樹』が顔を引きつらせる。
「私も第七司祭も同様だと思います。ただし、こちらは黒鍵で・・・・。」
第七司祭監視部隊隊長『藤原 和己』は目頭を押さえる。
「遠野の場合は時計塔まで追いかけて行きそうですね。」
遠野監視部隊隊長『村上 香織』はさもありなんと言う感じで苦笑。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「「「「ははははははは」」」」
乾いた笑いが会議室に響き渡る。全員が全員同じ光景を思い描いた事だろう。
「まあ、そう言う訳だ。一歩間違えば魔術協会と教会と人外の前面戦争の火種になりかねない・・・・。そして、これは上からの意向で情報収集と争いを最低限に収めるのが我々の仕事だ。」
一人の男で、世界の裏の戦いが切って落とされる。おお、すごい男だぞ志貴君。
「と言う事で、今回の任務だが、盗聴関係の魔術が使われた時に話してた内容を聞いた所によると山梨の遊園地が一番狙いやすい。各部隊、監視兼護衛のプランを出してくれ。」
「一ついいですか?」
「なんだ?」
『村上香織』が手を上げる。
「我々も出動ですか?アルクエイド・ブリュンスタッドの隊だけでは?」
「普通の魔術師の部隊と言うだけでも問題だ、それ以前に前回の尾行の時の写真の人物が問題なのだよ。」
四枚のプリントした書類をテーブルの真ん中に投げる。それを各々の隊長が手に取る。
「封印指定狩りの『マンイーター』部隊!!シュピーゲル兄弟、『ケルベロス』部隊のリヴェル。??こいつは見たことないですね。」
「俺も見たことない。シュピーゲル兄弟と元聖堂教会のリヴェルは解ります。」
「見たことなくて当然だ。こっちは開発部のマコーミックに聞いて解った。その写真に写っている顔色が悪い奴はネクロマンサーらしい。」
まったく、魔術協会はどっからこんなのを連れて来るんだか。
「呪術開発のマコーミックが?」
「ああ、以前カリブで会ったらしい、その時見た感じだけではかなりの術者だそうだ。」
静まる一同。
「三つの部隊が動いている以上、戦力の分散は少しきついな。」
「しかし、そんな状態ならば尚更、遠野家の方と第七司祭との接触を封じ込めなければ。」
「なら、集めればいい。」
「はい?」
全員が目を丸くする。
「美山君、ボイスチェンジャー持って来て。」
「はい。」
「たっ隊長?何を。」
「ありがとう、皆静かにな。」
喉に張り付き声帯に電気を流し声を変えるボイスチェンジャーを喉に付け備え付けの電話を手に取る。
ちなみに会話が聞えるようにはしてある。
『ハイ、遠野で御座います。』
少し無表情なイメージがある声がスピーカーから流れる。
「遠野秋葉さんにお取次ぎして頂きたい。」
『御用は何でしょうか?』
「遠野志貴に関する事とだけ・・・・。」
『志貴様に関する事・・・・。失礼ですが、お名前を伺っても良いでしょうか?』
あ〜それは決めてなかったな。何にしようか・・・・。
「テトラと呼んでくれ。」
『テトラ様ですね、お伝えしますので少々お待ちください。」
深々とお辞儀しているのが目の裏に浮かぶな、この声の子。会議室に保留中のメロディが鳴り響く。
「この子凄い、声に動揺のかけらもない。プロだ。」
「藤原、喋るな。向こうに聞える。」
「すみません。」
藤原を黙らせる。まあ言いたい事はわかる、普通ボイスチェンジャーの声聞いたら引くぞ。
『代わりました。ご用件は何でしょう?』
若い女性の声、棘が見え隠れする声が敵意を表している。
「先に言っておくが逆探知しても無駄だ。衛星回線の他に色んな所を経由してるからな。本題に入らせてもらっていいかな?」
『兄さんを一体どうしたと言うのです? 遠野に喧嘩を売ると言う事はどう言う事か教えて差し上げましょうか?今なら再起不能で許してあげます、兄さんを帰しなさい。』
再起不能ってオイオイ。村上が苦笑いしてるな。
「気分が盛り上がっている所で悪いが、身代金の請求をしたい訳じゃないんだ。」
『どういう事です?』
「ビジネスだよビジネス。あんたは俺から情報を買う、俺は情報を売って大金を得る。いいかな?」
『・・・・・・話だけは聞きましょう。』
「君のお兄さん。命を狙われている。」
『何ですって?どう言う事です?早く言いなさい。』
「先日、三咲町に殺し屋が数名入り込んだ。」
『それが兄さんとどう関係しているんですか?』
いらつく声。
「さあ?どう関係しているんだろうねぇ?」
『・・・・・幾ら欲しいか言いなさい。』
「ははは、流石遠野グループの当主、良く解ってらっしゃる。今から言う口座に振り込んで貰おう。」
金が絡めば信用するのは人の心理だ。逆に言わせればそう言う人間を相手にしてきた証拠だ。
ふと、遠野秋葉の報告書に書かれていた年齢を思い出す。
この歳でここまで出来る様になったという事はよほどの努力と欺瞞を重ねて来たに違いない。
幼い頃からプライドを持ち、帝王学を学び、大人と対決をする少女・・・・。
『今、使用人言って振り込ませました。』
「確認した、さて理由はそちらの方が解るのではないかな?」
『まさか、久我峰の所?それとも、ナナ・・・関係。いや、まさか・・・・。』
「まあ動機はどうでもいいじゃないか。要するに、そのような理由により遠野家の当主に報復を・・・と言いたいが遠野家は裏では強大、尚且つ当主は・・・・解るな?」
『私には手が出せないなら、力のない兄を狙うと言うのですか?何と愚かな・・・・恨みの程度が知れるというもの。』
さて、下地は出来た。ここからが本命。
「余談の情報だが・・・・失礼だが君のお兄さんを監視させてもらった。」
『貴方達が殺し屋なんではないですか?』
「まさか、だったらこんな事は言わないさ。で、話しを続けるぞ、監視していた時に聞いた話の中で危険な事わかったんだが。」
『何の話ですか?』
「25日に女性と遊園地にデートをするらしいんだが問題は、その場・・・・・・。」
『何ですって!!!!』
あからさまに声が変わったなあ。
『一体何処の誰ですか!!』
「耳か痛い!!声落とせ。」
『・・・・失礼しました。で?何処の誰ですか、その女は?』
聞くのは女じゃないだろう、問題は。まあ、此処までは半分予想通りだが。
「え?あっあ〜金髪の女性だが。最後まで聞けよ山梨の遊園地に25日に行くそうだ。その時が一番危ないぞって言いたかったんだが。」
『どうしてです?』
「三咲町内で動くとあんたらの目が光っているだろう? 遠野家の。違うか?」
『・・・・他には?』
「これだけだ、いつ襲われやすいかが解っていれば守りやすいだろう。話はこれだけ。まいどあり。」
電話を切り、喉のボイスチェンジャーを剥がす。
「遠野を動かすんですか?」
そう言う事だ、多分志貴君の事だから有彦君の家に行くとか言っるだろう。
それなら彼女のする事は。
「遠野家の話を聞いている限りじゃ付いて・・・尾行か、先回りで監視しているだろうな。できれば殺し屋と思われる人間と接触したエージェントとの戦いが起きてほしいな、それを監視するだけで特殊部隊の場所がわかるし一石二鳥だ。」
「あんた鬼ですか。」
「世界平和のためには仕方がない事なんだ、志貴君がんばれ。と、もう一軒・・・・・・・こんばんわ、エレイシアさんの御宅ですか?・・・・・。ああ、俺だ俺・・・・あ〜切るな切るな話があってな・・・・。」
「そこまでやりますか。」
さてさて、どうなるかな?楽しみでしょうがない。

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■後書き
後書きはありません。

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