第09話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 20時38分41秒公開
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「いらっしゃいませ〜」 遠野君と良く訪れる『アーネンエルベ』の奥の席で、一人の男が手招きしている。 黒革のコートと白のハイネックのセーター、ベージュのパンツ。 ある意味、モノトーンの男。 「お待たせしましたね。」 「いや待ってないよ、今来た所。」 コーヒーの減り具合を見たら一目瞭然、結構待ってたのだろう。 「メシアンじゃなくて良かったかな?」 「あなた、私を何だと思っているんですか? そんな毎度毎度、カレーを食べているわけではありません。」 「そうだと思ったが。」 「週に六日ぐらいです。」 そこ、痛い顔をしない。 「こんな話をする時に、カレーを食べても美味しくありません。それ以前に、貴方と食べても美味しくありませんし。」 「そう言うな、悪いと思ってるから。」 「脅迫まがいの事までやっておいて何を言うんですか・・・・・まったく。」 本当にあの写真さえなければ・・・・・。 「そう言うな、君の大切な志貴君にも影響するかもしれない事だ。」 「解っています。スミマセン、今日のお勧めのタルトと紅茶を。」 通りすがった店員に注文を済ませ、本題に入る。目の前の男は茶色の紙封筒を渡してくる。 「何ですか、これは?」 「まあ見てみろ。」 「これは・・・・・・。」 魔術協会の特殊部隊の顔写真。特殊部隊と言っても教授達の私設部隊と言われているが。 「何処でこんな物を・・・・と、貴方には愚問でしたね。この写真を私に渡すと言う事は、なにかあったんですか?」 「失礼します。紅茶と今日のタルトです。」 目の前に出てくる丸型の陶器製のポットとティーカップと皿にのせられたチェリータルトがテーブルに並べられていく。 店員が深々とお辞儀し離れた後に口を開く男。 「この町に入った。」 「・・・狙いは何ですか?」 「解らん。が、今日の朝一に入った情報がある。」 コーヒーを一口、飲むと言葉を継ぐ男。 「時計塔で噂が流れている、『ロアを倒した者が他に居る』と。」 「どう言う事ですか!!」 「俺に言われても知らんよ。だが、出所も確かではない噂を元にして部隊が動いているのは確かだ。」 「出所は解らないのですか?」 「調査中だ・・・・が。」 もったいぶる様に顔を掻く男、まったく早くなさい。 「俺の予想だが、元は白翼公。」 「トラフィム・オーテンロッゼですか・・・・理由は?」 「ネロ・カオスだ。魔術協会の方では真祖の姫が倒した事となっている・・・・解るな?」 なるほど、白翼公はよほど『真祖狩り』に自信があったのですね。 「真祖が倒したのではなかったら、他の要因がある。もしくは他の者が倒した・・・・ですか。私が倒したとは考えなかったんでしょうか?報告した自分が言うのもなんですが。」 「みたいだな、だが気持ちは解らんでもない、俺も同じ結論に至ったからな。」 ・・・・・同じ結論? 「・・・・変な顔をするな。」 「誰が変な顔ですか!!」 「まあいい、話は此処までだ・・・・ここは俺の奢りだ。また会おうエレイシア。」 「出来ればもう会いたくありませんね、三剣さん。後私は今シエルです、何処で聞いたか知りませんが、そちらで呼んでください」 「・・・・おっと、忘れてた。真祖が遊園地に行くらしいが知っていたか?」 「知りません。それがどうしたんですか?」 「いやなんでもない。忘れてくれ。」 三剣は振り向かずに店を出て行った。 食えない男。あの男、早く何とかしなければいけませんね。 それより、あのアーパーが遊園地? 12月25日(晴天) 予想通りだった。 『マンイーター』の部隊が山梨で見つかったとの連絡。 それに伴い集まる三組、遠野、真祖、第七司祭。 さて、どうなるか。 外は寒空の曇天雨は降る気配はない、朝の天気予報では雨は降らないらしい、車内のエアコンが空間を暖かく保つ。 「隊長。起きて下さい三剣隊長。」 車内でかけている南米に出て行ったきりの親友から借りっぱなしのCDから流れる曲は、まどろんでいる私の体を心地よく包んでいた。 「総員配置に付きました。」 美山君の声で目を覚ます。 「ん?んっんう〜ん。」 ライトバンの助手席で眠りこけてた様だ。大きく背伸びをして渇いた喉を潤すためにミネラルウオーターを半分だけ飲み、新しいボトル二・三本と一緒にザックに詰め込む。 乾いた体に水か滲みこみ頭がクリアになる。 「連絡は?」 「今の所ありません。」 「引き続き監視を、俺は一寸出る。後は頼んだ。」 「お任せください。」 傍らのケースとザックを掴み車の外へと出る。 「さて、と。」 懐の懐中時計を見ると11時半位。 背中に木枯らしが吹く、追い風のようだ。 幸先がいい。 「志貴ーこっちこっち。これ乗ろうこれー。」 「せかすなよ・・・・。俺にとっては時速300キロはきついんだから・・・・少しは休ませろ。」 「え〜。」 「お前とは違うんだ・・・何で此処はジェットコースターが多いんだ?と言うか何で此処を選んだんだ?うぇええ・・・・。」 吐きそうな胃を無理やり押さえつけながら周りに注意を移す。 今さっきから背中に視線を感じるが、今は無視だ。そう無視だ、声をかけたら何を言われるか解った物じゃない。 目があったら最後だ。 「どうしたの?」 「いや・・・なんでもないんだ。」 そう、何でも無い何でも・・・・。きっとアレは隠れている心算なんだろう、解らない振りをすれば取り敢えずは危機が回避できる。 「ねえ、志貴〜アレもしかして・・・・。」 「アルクエイド、人として突っ込んではいけない事もあるんだ。」 振り向きそうになる心を押し止めて、視線を明後日の方向にするためにアルクエイドの頭を抱え込む。 ギリッ ・・・・一体なんだ今の音・・・気にしない、いやするな。 「ねー志貴、あれ妹じゃないの?」 「・・・だろうな。」 「何で無視してるの? 声をかけないの?」 「お前な、俺とお前は何しに来たんだ?」 取って付けた様な俺の言い訳を、え?と言う様な顔で返してくるアルクエイド。 「今日は、お前の誕生日だろう?」 「あ〜そうだった。」 「忘れるなよ。それに此処は、お前が一度来たかったって言うから。」 「でもさあ、シエルもいるし。良いんじゃないの?」 「はい?」 どこだ!!周囲を見回すと、ベンチに座った有彦とシエル先輩がいた。 「よう!! 遠野〜偶然だな〜。」 至福の表情で手を振ってくる有彦。今なら、この馬鹿を20分割できそうだ。わははは、最新記録だ。 「あっ有彦!! 何でここに?」 「以前からシエル先輩を誘ってて今日念願のOKが出たんだ〜。喜べ遠野!! 俺は幸せだ!!」 無言で殴る。 「うお!! 何すんだ、この野郎!! 金髪の綺麗なお姉さんと一緒なのに俺に嫉妬とはいい度胸だ。」 「夢なら醒まさせてやろうかと。」 「いらん!!」 突っかかってくる有彦の拳をカウンター気味で返す。 「何で今日!! 此処なんだよ!!」 胸倉を掴まれながらも眉間に皺をよらせながら本気で考え込む有彦。 「あれ? 何でだろうな?」 「この馬鹿・・・・・。」 本気で悩む有彦をシエル先輩は笑って見ていた。 「シエル、あなた・・・。」 「どうしました、アルクエイド?」 「普通の人に、暗示かけてまで来たかったの?」 「違います!! 貴女と遠野君が間違いを犯さないように見張っているのですよ。」 「え〜」 「何ですか、その嫌そうな顔は私はですね・・・・・・・。」 シエル先輩の声を聞きながら、俺は現実から目を逸らした。 一体何だってんだ? 溜息交じりで目を逸らした先で秋葉と目が合ってしまったのはいうまでも無い・・・・・。 最悪だ。 作りかけのホテル。 遠野志貴達から離れること約1km。 作りかけの所為だろうか骨組みのフロアが骸骨の肋骨のように見え風が吹きぬける様が何とも寒々しい。 ツインタワーのホテルの予定なのだろう、中ほどから大きく分かれた二つの塔が聳え立っている。 そんな、風の吹き抜ける一番上のフロアで二人の男が陣取っていた。 一人は中腰で狙撃中の照準機を覗いていた、その銃口は真祖達を向いていた。 もう一人は双眼鏡を片手にヘッドセットの無線機を相手に何やら指示を与えていた。 「全員配置に付いたな。」 「兄さ・・・・・隊長、問題が二つ発生。代行者と遠野です。」 弟の報告に兄は口を歪め開く。 「問題はない。代行者ならどう動くかは解る。真祖にとっては敵だ、むしろこっちに有利になる。遠野は放って置けばいい、たかが混血どうにでもなる。」 問題は真祖だなと呟きながら空を仰ぎ見る。 「流石の真祖といえども昼間ならば少しは弱るだろう。・・・・総員、問題はないな。」 ヘッドセット越しに聞える各員の声。 「さて、諸君。今回の作戦内容を伝える。特に園外の部隊は良く聞け。」 ヘッドセットから流れる兄の声を聞きながら弟は考えていた。 この仕事が終わったら、兄と二人で一度家に帰ろうと。 そして、兄の誤解を解いて血生臭い仕事を辞めて二人で家を盛り立てようと。 私としては、この仕事は嫌いな仕事だった。 危険な魔術師を殺す、魔術を隠匿する為に殺す、封印指定の人間を殺す。 そんな事ばっかりの仕事は嫌だ、自分の歳を考えるとそんな事に慣れ始めている自分は嫌だ。 何よりも嫌なのは、トリガーを引いた時のあの何とも言えない胸の重さ。 サイトの中で倒れ伏すターゲットを見るのが嫌だ。 動物は生きるために狩るのに、狩るために生きる自分が嫌だ。 この仕事の何もかもが、血の匂いまでしてきそうな自分も嫌だ。 でも、そんな仕事を始めたのは兄の為。 十二の時にあった継承の試験の時、勘違いをし消えてしまった兄を連れ戻す為。 見つけるまで二年、時計塔に入り説得する為に部隊に入った三年、今まで殺し続けたのは全て兄の為だ。 理由は最初の出会いの時から常に帰ろうと説得している真実を話しても戻らないと頑な兄だった。 何度行っても、真実を話しても信じようとしない。 兄との会話の最後は『当主に相応しいのは俺だ。妾腹の餓鬼に何がわかる!!』だった。 兄は恐れている、帰れば何もかも無くなる事に。 そこで私は考えた、兄が満足する手柄を立てさせれば戻ってくれるのではないかと。 そのために兄の居る部隊で兄の手柄になるように奔走してきた。 きっと兄が満足して戻るということを胸に。 そして、その努力は実った、最悪の形で。 「今回の標的は真祖の姫ではなく遠野家の長男『遠野志貴』、あの男を狙撃し怪我をさせ、救急車に乗せたところを拉致する。それを使い真祖の姫を捕らえる。」 一瞬ヨハンには兄の言っている事が解らなかった。 「兄さん?」 ヘッドセットを取りゆっくりと振り向く弟に兄は眉間に皺を寄せながら、聞き返す。 「なんだ、ヨハン。隊長と呼ばんか。」 「兄さん、父さんの言葉を忘れたのかい?」 あからさまに表情をしかめる兄。その右手はヘッドセットのマイクのスイッチに手が掛かる。 ヘッドセットを捨てたヨハンには解らなかったヘッドセットの音が止まってしまったと言う事に。 「覚えているさ『心を鏡面の様に、決して歪むな、歪めば写すモノも歪む。我等、鏡の魔術師はそれを忘れてはいかん。』だったな。」 「今回はそれに該当する関係のない人間を狩るのはおかしい。今までは、相手が相手と割り切っていた。今までは仕事だと思ってトリガーを握っていた。だが今回は無理だ。相手は普通の人間だ、なんの変哲もない普通のね。」 「それがどうした?」 何を言っていると言わんがばかりに鼻を鳴らす兄。 「今回のは行き過ぎだって言いたいんだよりにもよってなんで普通の人間なんだ!?関係のない人間を撃つつもりはない!!」 「魔術師、なら誰でも考える。利用できる物は何だって利用する。そうだろう?」 「昔、父さんが言ってた『我々は普通の魔術師とは違う、生き方魔術の使い方、考え方一つにとっても違う。なぜならばそれこそが鏡の魔術の『根源』にあるからだ。世間一般の魔術師のように振舞うな、振舞うと鏡を曇らせる歪ませる』って。」 兄は哂う、弟を嘲る。 「俺が曇っているって歪んでいるって言いたいのか、お前は!!気づけよヨハン歪んでいるのは、そんなシュピーゲル家だ。」 「兄さん、外に出て歪んだか・・・・・。」 ゆっくりと兄はヨハンの眉間に銃口を向けた。その瞳はすでに。 「歪んでいるのは手前らシュピーゲルだ。俺が邪魔だから消そうとしているんだろうが、そうは行かんぞ。」 常軌を逸していた。ヨハンはその瞳を見て全てを悟った、常軌を逸しながらも喜びに満ちる瞳を。 「兄さん。もしかして最初からこのつもりだっ・・・た?」 「まずは手始めにお前って事だ。元々この作戦自体が無茶だったのは解っていたさ、お前に言われなくともな。」 すでに隠そうとしない狂気の笑顔。 「今回のシナリオはまだ全部話してないんだ・・・・裏のシナリオもあるんだよ。真祖の恋人を狙撃するも阻まれる。そして報復としてお前が死ぬという・・・な。」 「そこまで歪んだか、兄さん。」 ヨハンの眉間に皺が寄る。反撃の糸口の為に口を開こうとした瞬間。 コツ、コツ、コツ 規則正しい靴の音がフロアに響く。眉間に当てた銃口を動かさず兄は音のする方を見、もう一丁の銃を構えた。弟は目だけを動かし見る。 今日は休みでこのビルには誰も入ってくる人間は居ないはず。反響音の音源を捜し、ある一点に気付く。 一点の黒い染みが見えた、音が大きくなると共にフロアの薄暗い空間からから一人の男が黒く浮き出る。 黒い革のロングコートに黒のセーター、白のレザーパンツに黒い安全靴。そして一際目立ったのは浮き上がる白と黒で彩られた異形の仮面。 コツ、コツ、コツ・・・・コツ。 音が止まった。 仮面の奥の瞳は遮光機板に跳ね返されて見えないが、その存在感と全身から噴出す雰囲気は兄弟が今まで感じた事のない異質の物だった。 「話は聞かせてもらった、相続争いには気にしないが。それにあの連中を利用するのは止めてくれないか?」 丁寧に声まで変え、流暢なクイーンイングリッシュで話しかけてくる。 「誰だ貴様・・・いやどうやって此処を知った?」 男の言動を聞く限り、目の前の男は兄弟の計画を阻止しに来たといってもいいだろう、兄が語る表の計画を。 「予想は簡単だったよ、君達が配置した人員の場所とその姿を見れば何をするかは一目瞭然。読みきれなかったのは裏の計画の事だけだった。」 仮面の男はさも可笑しそうに哂う。 「さて一つ聞かせてもらえるかな?」 男の口調が変る。 「一体何処で聞いた? 遠野志貴と真祖との関係を。」 「ふっふふ・・・・お前、私が言うと思っているのか?」 兄の言葉に対して有無の言わさぬ口調で続ける仮面の男。 「資材の種類で解る、今回の作戦はロンドンの時点で考えてたな?しかし、正規部隊ではなく特殊部隊が出たという事は時計塔の人間は知らないという事だ。ネロ・カオスを倒す者となれば大部隊を用意するだろうからな。」 教師が、生徒を叱る様に言葉を継ぐ。 「と言う事は君は、何処かで個人的に遠野志貴のもしくは真祖の情報を手に入れていたという事になる。それも、かなり前から・・・私の予想では時計塔内で噂が立った時期だろう。」 ヨハンは気付いた兄の持つ銃の銃口が小刻みに震えている事が。 「・・・・君一つ聞かせてもらおう。その顔は化粧かい? いや違う、人工皮膚を被っているな?」 仮面の男の言葉を受けヨハンは兄の顔を凝視する・・・・以前見たのと違う五年前とは違う皮膚の色。 「兄さん・・・昔と違う、のは性格だけじゃ・・・なかった。」 「顔だけではない、露出する部分を全て人工皮膚で覆っているな?・・・どうした?目が泳いでいるぞ。答えを言ってやろう、君は白翼公から情報を・・・いや指示されたな。」 「人を辞めていたのか。」 その時、銃口が火を吹いた。 「秋葉・・・食事の時ぐらい────」 「――兄さんは遠野家の長男としての自覚が足りません。良いですか?男子たるもの家から出れば七人の――。」 「まあまあ秋葉ちゃん。ここは俺の顔に免じて楽しく───」 「乾さんは黙ってて下さい。」 私達は兄妹喧嘩と言っても妹さんに一方的に説教されている遠野君から少し離れたベンチに腰掛けた。 ちなみに、遠野君たちはまだ食事中で私達は食事は済ませた後。 「相変わらず遠野君は秋葉さんには弱いですね。」 「ん〜志貴さんは弱いんじゃなくて甘いんですよ。」 そう言いながら遊園地に似付かわしくない着物を着た彼女は、慣れた手つきでステンレス製の水筒に入れた紅茶を紙コップに入れて配った。 「どう言う事なの琥珀?」 「秋葉様のアレは一種の甘えなんですよ。長い間会わなかった所為もあって、志貴さんにどう接して良いか解らない。そんな気持ちの表れなんです。」 彼女は両手で紙コップを包み込みながら笑っていた、いつもの笑顔ではなく慈しむような笑顔。 「だから、妹はいつも怒ってる振りをして甘えている訳ね。」 「まあ、それだけでは無いんですよね。再開の時に志貴さんがビシッとお兄さんらしくしなかったのも要因だと思いますし。ふふっ実際頼りない所もあってつい怒ってしまう所もあるみたいですけど。」 「フフ遠野君らしいですね。でも、彼としては長年放っておいた妹さんとの距離を縮めたいと思っているみたいですよ。秋葉さんの気持ちも知らずに・・・ふふ。」 「でも、それがまた志貴さんの良いとこでもあるんですが、ニブチンさんとでも言いますか、翡翠ちゃん風に言うなら『愚鈍です』ですね〜。」 「でも、そんな所も私は好きだけどな。貴女達もそうなんじゃないの?」 「ええ、そうですね。」 「それは同意します。」 私達は笑いあった、お互いの大切な人が同じだからだろうか。 一人の思い人とを肴に話が暫く盛り上がったが、一段落する。 さて個人的な話は此処でお終いです。 気持ちを一瞬にして切り替える。 「ところで琥珀さん何故ここに?」 「ここは遊園地ですよ、秋葉様が来たいと言い出したので来たに過ぎません。」 「質問の仕方を間違えたようですね、何の為に来たのですか?」 琥珀さんは笑顔を崩さない。先程とは違う作り物の笑顔。 「多分、貴女達の目的は私と一緒です。話して貰えないでしょうか?」 考え込む琥珀さんと、 「ねー何の話?」 子供のように話しに入ってこようとするアーパー吸血鬼。まったく・・・・一体どうやったら此処まで変るのでしょうか・・・。 「貴女には関係ないと言いたいのですが、今回は貴女からも話を聞きたいんですアルクエイド、貴女気付いてますか?」 「んー何を?」 「私達の周りです。私が気付いたのは三週間前からですが、今でも薄く圧迫感を感じませんか?」 「知ってるわよ。結構前から付かず離れず私の間合いギリギリ外から監視している連中でしょ?」 やはり気付いていましたか。 「二ヵ月位前からかな? いつ迄も居るから妙な連中だなって思ってた。けど実害はないから放っていたけど。なにかしたの?」 アルクエイドの話を聞き意を決したのか琥珀さんも口を開いた。 「アルクエイドさんもですか。実は遠野の方もなんですよ。最初は気のせいかと思ったんですが。」 「貴女が気付くとは凄いわね。」 「確かに、琥珀さんに気配感知が出来るとは思いもしませんでした。」 アルクエイドの褒め言葉に少し照れながら彼女は言葉を継いだ。 「実は私が気付いた訳じゃないんですよ〜。」 「じゃあ誰が?」 「翡翠ちゃんが気付いたんです、日に何度か『姉さん、誰かに見られてる』って言ってて、私と違って敏感なあの子が言う事だからと思いまして少し調べたんです。」 アルクエイドはともかく翡翠さんが第三部隊の監視に気付くとは思いませんでした。 「最初は何も異常は無かったんです、監視者の影も形もですよ。そして、ある筋から遠野家に関する事が流出していた事が判明しました。それ自体は分家筋からの事なんで直ぐに秋葉様が何とかしたんです、尋問によると謎の人物の依頼だったらしく流れ出た情報も大した事はありませんでした。まあ、それは解決して安心していた所、先日遠野の持つ会社のメインPCをハッキングした人がいまして。」 「それはどうなったんです?」 「後一歩のところで逃げられました。痕跡を追おうにも中継に使っていたであろうサーバーごと破壊されましたから。解ったのは私達を調べていたと言う事だけ。それに加え先日偽名で家にかかって来た電話もおかしなもので、志貴さんの危険を伝えるだけで何も仕掛けてきません。実際この情報量では意図が読めませんね。」 あの男は私の所だけではなく秋葉さんの家にも電話してたとは。アルクエイドは彼女の言葉をつまらなそうに継ぐ。 「要するに、相手が凄いって事でしょ。でも今日の相手はそれほどじゃあないから大丈夫よ。」 「え? 今日はそれほどでもないんですか?」 「いつも見ている奴と違うって事よ。でも、いつもの奴よりは攻撃的な分厄介と言えば厄介ね。」 「その割には余裕ですねアルクエイド。」 「何の為に妹やあなたに声を掛けたと思っているの?これだけの人数なら狙いにくいわ。」 「また珍しい事をこの間といい、やけに慎重ですね。あなたなら魔術師数人程度なら簡単に蹴散らすでしょう?」 「そうね私一人ならね、でも志貴がいるから。」 「志貴さんがですか?」 意外な事を言っている、本当に此処に居るのはいつものアーパー吸血鬼なんだろうか?少し疑ってしまう。 「ええ、巻き込まれたら多分ひとたまりも無いわ。」 「心外ですが、アルクエイドの意見には賛成です。」 「素直に褒めたらどう?」 誰がですか、少しでも感心した私が馬鹿でした。 「でも、志貴さんには今でも護衛がついてますよ。巻き込まれるとしても難しいのでは?」 「今回は相手が違います、多分人間のSSでは相手になりませんよ。」 三剣に渡された資料を見た限りそこら辺のSSでは歯が立たない。遠野のSSでもどうなることやら。 「そうね、今までと相手が違う。それと、志貴自身が戦うとしても相手が悪いわ。今までの相手はみな人外、志貴を侮っていた上に能力を見誤っていた。」 「志貴さんの事は良く解りませんが、相手が慢心や油断しない相手だから、そこに付け入る事が出来ないということですか?」 「そうね・・・琥珀に解りやすく説明すると志貴は『暗殺者』なのよ。」 なるほど言いえて妙です。琥珀さんも何か知っているのか、納得顔で頷いていた。 「気付かれていない所、もしくは油断している所を一瞬で命を刈り取る。それが志貴の本来の戦い方、でも今回は違うわ。」 「はあ、成る程、状況的に本来の戦い方が出来ない志貴さんは戦いに巻き込まれた場合は危ないと言う事ですね。」 そう、それどころか状況はもっと悪い、広い場所で位置がわかっている場合では逆に狙われる。 「それに、志貴は短期決戦タイプでもあるの、長期戦には向かないわ。そこの理由は琥珀の方がわかっているでしょう?」 「もし狙われた時は対処出来ないと言う事ですね。更に難点を挙げるなら戦闘における絶対的な経験値が足りないと言う事もありますね。」 「そのとおりね。一対一なら兎も角、一対多数、多数対多数の経験が無いこんな状況は確実にやられる。・・・・・。」 アルクエイドの目線が一瞬それる、いったい何処を見ているのです・・・・? 「でも、そこまで解っていたら対処は出来るんじゃないですか?」 「そうは、いかないわ、現に、今でも!!」 その時、アルクエイドの目の色が変る。 彼女の視線の先を見る、作りかけのツインタワーのホテル。ある階に何か見える。目を強化してみると・・・。 「アルクエイド!!」 ビシッ 鞭が肌を打ち据えたような音、琥珀さんの目の前で拳を握るアルクエイド。 「痛ったー・・・・・解っているわよ。大丈夫、多分これは流れ弾ね。狙うにしても大雑把すぎるわ。」 拳をゆっくりと開くとテーブルの上に鉄の塊が落ちた。 「マグナム弾!!」 弾道方向を見るとツインタワーホテルの一フロアから白い煙が漏れていた。 |
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