第12話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 20時42分52秒公開
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朝 この時間は私だけの時間、私のお仕えする主人が目覚めるまでその御顔をゆっくりと眺める事が出来る時間。 天気の良い朝、窓から差し込む光が枕と主人の顔を照らす。 彼は決して起きない、この時間は彫像のような真っ白な顔は死んでいるかのよう、そしてもうそろそろ死人のような顔にゆっくりと朱がさす時間。 そう思ったのも束の間、肌に血が流れ込む、半紙に赤い水を垂らしたかの様に主人の顔に朱がさす。 いつもの様に目を覚まされる、だから私はいつもの様に声をかけた。 「おはようございます、志貴様。」 「おはよう、翡翠。」 志貴様は固まった身体をほぐす様に二・三度伸びをしてベットから降りた。 私は食堂で志貴様をお迎えする為、部屋から出るその時、志貴様の声で引き止められた。 「ちょっと待った、翡翠。」 「何でしょうか?」 「今何時?」 「今ですか?」 腕に嵌めた腕時計を見る。 「1月5日、午前7時5分です。」 「ああ、こんな時間か。・・・今朝は秋葉いるかい?」 「いいえ、今日秋葉様は役員の会合に出席する為に姉さんと一緒に朝早くから出ております。」 「そうか。・・・秋葉にも色々迷惑をかけているな。」 自嘲を含んだ苦笑いと共に溜息が一つ。 「・・・って、そう言えば今日は翡翠一人かい?」 「はい。」 私がそう答えると志貴様は少し考え込む様に眼鏡の弦に手を当てた。 「・・・なあ、翡翠今日暇かい?」 「今日ですか? 部屋の掃除や洗濯物、庭の手入れなどがありますが。」 「突然で悪いんだけど今日一緒に出かけないか。」 ・・・・・・・それは俗に言うデートと言うものでしょうか。 「それは・・・・。」 「こんな天気のいい日には外に出た方が良いとおもうんだけど、翡翠も毎日仕事ばかりじゃ息も詰まるだろうし、息抜きって事で行こうか?」 「志貴様は愚鈍です、朴念仁です。」 「うっ今、俺何か悪い事言った?」 「何も言ってません。」 そう、何も言っていません、むしろ言わない事が時には問題なのです。 「それと予定はいつも通りです。今日は掃除を主にやらなくてはならないので暇はありません。」 「掃除は大晦日にやったじゃないか。正月の後始末も昨日やったし。」 「しかし、掃除と言う物は毎日・・・・・。」 「あー今日の翡翠の仕事は休み、いい? 主人の命令だよ。」 「・・・・解りました、主人の命令と言うのならば仕方がありません。今現在、暇になりました。」 不承不承、承諾すると志貴様は嬉しそうに笑いながら言った。 「それじゃ、今日は人と会う約束をしているんだ一緒に行かないか?」 「え? 良いのですか? アルクエイド様にご迷惑では?」 「大丈夫、アルクエイドやシエル先輩じゃないよ。ほら今日は外に出るんだ私服に着替えておいて。」 そう言うと、志貴様は私を部屋の外に押し出した。 「しかし志貴様。」 「ああ、忘れてた今日も起こしてくれて有難う翡翠。それと、その時計つけてたんだね。気に入ってくれて嬉しいよ。」 この時計は志貴様からクリスマスの日に貰った腕時計。 彼から貰った銀の光 沢を消した金属の鎖で繋がれた小さな腕時計、気に入らない訳ありません。 1月5日(晴天) 前回の遊園地の件が全て片がついた。実際、戦闘と言うものは戦闘準備や戦闘中より後始末の方が大変だ。 問題なのは、弾丸の始末と壊した物の修理。何も無かった様に後始末しないと痕跡から戦闘の得て不得手が判明する場合がある。 親友の探索者は『その辺を気を付けないとすぐにばれるぞ、お前は弾を良くばら撒くから特に気をつけろ』と酔った勢いでほざいてたが。 まあ、それはさて置き、後始末の結果は添付しておく。 ・・・久々の休み、最近は事後報告や後始末で寝る暇も無かった正月気分ぐらい味あわせて貰うぐらい罰は当たるまいと思う、休みと言っても今日も休みであって休みではない。 何故ならば客が来るからだ。 ピンポ〜ン 玄関のチャイムが来客を知らせる。読んでいた本を閉じ玄関へと走る。 「一寸待ってくれ、すぐ開ける。」 ドアを開けると、二人が立っていた。 ジャンバー姿の志貴君と・・・・・ジーンズ姿の琥珀さん? ん? え? 「君は・・・・・。」 「はじめまして、翡翠と言います。」 深々とお辞儀をされてしまった。丁寧な子だ、世の中こんな子ばかりだったら少しはマシになるだろうな。 「え・・・ああ、ヨロシク。」 「こちらこそ、よろしくお願いします。」 何か表情の乏しい子だ、何事にも動じないような超然としたな態度・・・・何処かで似た様なのを聞いたなこのフレーズ・・・あっあの時の電話の子か。 「同じ顔と言う事は、君は琥珀さんの妹さん?」 「はい、琥珀は私の姉ですが。三剣様は姉の事はご存知で?」 そりゃあ、もう深夜のラーメン屋でちょくちょく会いますから。 「知り合いだよ、今さっきも言っただろう? 三剣さんは俺のバイトしている所の社長さんで深夜のラーメン屋で有彦の紹介で会った人なんだ、琥珀さんから聞いてない?」 「聞き及んでいます。よく姉とはゲームセンターでいい勝負をなさるようで。」 ・・そう昼休みを利用して近くのゲームセンターへと足を運ぶと良く琥珀さんにあう、まあ会うだけでは無く少し熱くなってしまうのだが。 「はは、此方こそお世話になってるよ。まあ、早速だけど志貴君、例の物を見に来たんだろう?」 「ええ、まあ。」 ニヤリと目の色が変る志貴君、奥の部屋に案内する。 「今日は有彦君と来ると思っていたんだが。意外な人物が着てビックリだ。」 「ご迷惑でしょうか?」 「い〜や、大歓迎さ。さっ此処だ。」 一人暮らしなのに4LDKには訳がある、今回志貴君が来たのは事務所で会話した話から始まった、彼と自分の趣味が同じ事だと言う。 一番奥の部屋の引き戸を空け、暗い部屋に電気を付ける。 「うおお!!」 驚愕と驚喜の混じる声、普段そんな声を聞いた事が無かったのか後ろから付いて来た翡翠さんが驚いていた。 「刀剣・・・・ですね。」 所狭しとディスプレイされている刃物、ある物はチェストの上に並べられ、ある物は壁にディスプレイされている。 向かって奥が古い直剣、右手がナイフ、左手が古い刀になっている。 「ああ、俺の趣味だ。特にナイフが主だが種類的にはスローイングナイフが多いけど。翡翠さんはつまらなくないかい?」 食い入る様に見つめる志貴君、心なしか老人の様によろめいているのを横目に捕らえる。 「そんな事は御座いません・・・とは言いがたいですが。別の意味で興味深い物が見れましたので・・・。」 少々呆れ顔の翡翠さん・・・あ〜この娘もか、女泣かせだな志貴君。 いや、この場合は女誑しか? 「良しとします。」 「・・・ふむ、志貴君は一寸放って置くかな? しばらく此処に置いておいても大丈夫だろう。翡翠さんお茶は何が好きだい?」 「茶は特に好き嫌いはありません。」 「よし、ぞれじゃあ一寸こっちへ。」 一人暮らしには不釣合いな大きな冷蔵庫、観音開きの扉を開けると。 「水だらけですね。ご趣味でしょうか?」 「ん〜まあ、趣味と言っちゃあ趣味なんだけど。生まれつき喉が良く渇いてね水をよく飲むから買い溜めしていたんだ。」 有名なカナダの水2リットルボトルを取り出して薬缶に注ぎ火にかける。 「料理中ですか?」 三つあるコンロの一つにかけてある鍋がでんと構えていて目立っている。 「ああ、昼ご飯にミネストローネを食べようかと思って作っているんだけど。どうも巧く作れなくてね。一つ味が足りないんだ何か。」 「ミネストローネは美味しいですね、以前姉さんが作ってくれたのを覚えています。」 沸いたお湯を小さい急須に入れる、その上からお湯をかける。 「中国茶ですか?」 「ああ、最近はまっていてね。」 戸棚からビンに詰め替えていた黄枝香の葉を出す。この葉は少し長いから入れるのに苦労する。 「個人的にはこれが一番美味しいと思う。」 砂時計の砂が落ちきるぐらい待ち、小さい急須から小さい椀にお茶を注ぐ。 「どうぞ。」 優雅に飲む翡翠さん、流石遠野家メイド教育がしっかりしてる。 「おいしい。」 「だろ?」 ・・・・茶と茶菓子に舌鼓身を打ち暫くの沈黙が続く、恐る恐る翡翠さんが口を開いた。 「失礼ですが・・・・三剣様、以前何処かでお会いしたことはありませんか?」 「いや? 何処かで会った事あるかな?」 意外と勘が鋭い、流石は琥珀さんの双子の妹さんだちょっとした言葉尻のイントネーションで感づいたか。 「申し訳ありません、私の勘違いだったようです。」 「いや、いいよ。誰しも勘違いはある。」 ここら辺が琥珀さんとの違いか。彼女ならいつもの笑顔で、もっと穿ったものの見方で此方の奥底まで掘り起こす。 この娘は表情に乏しいが、姉と違い素直だ。ならば、この状況を利用しない手はない。 「そういえば、お姉さんに聞こうと思って忘れてたんだけど、君達の苗字は何て言うんだい?」 「苗字・・・ですか?」 言い難そうだ、以前この二人の経歴を洗って失敗している、何処の記録を探しても見つからなかった。 本社の細目の情報網にも掛からなかった、最後にものを言うのは本人達から聞くことだ。 「そう、苗字。前から気になっていたんだ。」 「気になりますか?」 「そうだね、気になる。」 ぐっと押し黙ってしまった。 「いや、無理に教えてくれなくてもいいよ。」 「・・・私からも、一つお聞きしていいですか?」 ・・・質問、か嫌な予感もする。 「構わないよ。」 了承すると彼女は意を決した様に口を開いた。 「・・・・以前、姉からは巫淨・・・と。教えてもらった覚えがあります。」 巫淨、聞いた事がある。確か、『日本には我々神代より続く家系とは別に特殊な家系が多くあってな、中でも七夜・浅上・両義・巫淨は・・・。』紫門の話で聞いたな。 「私も質問させて貰っても良いですか?」 「ああ、何だい?」 「この街では何か起こっているのですか?」 真っ直ぐな目は、時には私の様な人間にとっての最大の武器になる。話を逸らす事は出来ないみたいだ、志貴君のいる部屋の方向を確認する。 「いや、何も起こってない筈だが。何でまた私に?」 「以前、姉さんが言っていました『何者かが私たちを調べている』と、姉がその様な事を言い出したのは三剣様がこの町に来た時期と同じだったと記憶しています、ですから少なからず関係しているようにも思われました。」 成る程ね、姉に勝るとも劣らずと言う所だ。 「いや、俺も知らないよ。期待に添えなくて残念だ・・・だが、俺も曲りなりとも社長業をしている。お詫びに何かしらこの町の事が解ったら君に教えるって事を約束しよう、それで良いなか?」 俺の保障に満足したのかコクンと彼女は頷いた。 「さてと、そろそろお昼だ。何か食べていくかい?お昼はパスタとミネストローネだが・・・そう言えば琥珀さんのミネストローネを知っているんだったよね。お願いがあるんだけど。」 まさか、この発言があの惨劇に続くとは。 ヌラリとした光沢、誰かが言った言葉を思い出す日本刀にはどこらかしら色気があると。 「志貴君、どうだい?」 「え!? ああ、スミマセン。とても素晴らしいんで圧倒されちゃって。」 嬉しそうに笑う三剣さん。しかし、この刃物の数は本当に驚かされるばかりだ、ざっと数えただけでも3・40本はある。 「ははは、そうか素晴らしいか。よし、ナイフだったら気に入ったやつを一本持って行って良いよ。」 「本当ですか!!」 「ああ。」 三剣さんの気が変らないうちに壁の端に飾ってある日本刀に似た一本のナイフを手に取った。 「それじゃあ、これ良いですか?」 「また良い物を選んだね、これは古くは童子切りを打った安綱の末裔が作ったナイフだ。良い目をしている。」 刃渡り10cm程度のナイフ、持つ所を荒縄で巻いてある。別に、これが良い物と思って取ったんではなく、これが欲しいからこれを選んだだけだった。 このナイフは有名な人が作った物だった、それを考えるととても嬉しい気持ちとなる、とても良い物を貰った。 「ありがとうございます!!」 「いや、いいよ。君に良くお世話になっているし。」 ? お世話・・・してたっけ? まあいいや、それより今は一つの自分の疑問を片付ける事が最優先だ、何しろ翡翠を持たせてある。 「後一つ聞いて良いですか?」 「何だい?」 「この剣は何なんですか? 他の刀剣の類とは違う雰囲気があるんです・・・けど。」 奥の戸棚の上に飾られている二本の直剣と小太刀を指差し半ば断定するように言う、いや断定しても良い、この剣には何かがある。 「・・・ああ、二本とも家に伝わる剣でね。眉唾な話になるけど聞きたい?」 「是非とも。」 心騒ぎを感じ、さっき眼鏡を外して剣を見た時そこには不思議な物を見た、満月の時のアルクエイド並に線と点が見えない、異常なものだ。 「そうだな、七支刀って知っているかい? 日本史でも出てくる有名なやつなんだけど。」 「七支刀ですか? ・・・スミマセン、日本史は一寸。」 日本史のテストは芳しくない上に丸覚えの俺には無い知識だ。 「日本書紀の一節にある、百済の王様が日本に七枝刀と七子鏡を送ったと。当時は七支刀ではなく七枝刀と呼んでいたらしい。」 「外交としての贈り物ですか?」 「知り合いの話によれば、その刀は儀式的な物であり装飾品としてでもあるとの事を言っていた。」 「それで、この剣とはどんな関係があるんですか?」 「まあ、落ち着きたまえ。実はこの話には前があるんだ、此処からは私の家に伝わる話だから半信半疑でな。」 「はい。」 「ん〜口伝通りに伝えた方が面白いな、よし。」 面白がるように三剣さんは芝居がかるように話し始めた。 「『古く神代より伝わりし血族があり、一つは天皇神の血を引く大地を統べし一族なり、一つは神官大陸より流れ来たオオナムチの血族を主とした祓いの三神官。』」 天皇は解った・・・が、何だろうオオナムチの血族と言う言葉に・・・何かが反応する。 「『一つは八剣、北におわそう主神天御中主太神と、神を裁き滅ぼせし七家の総称。』」 神を、滅ぼす? 三剣さんの言葉にだんだんと引き込まれる、確信や予感も無い、だが妙な感覚。 一度聞いた事がある事をもう一度聞かされるような。 「少し端折るよ『天御中主太神、七家に七つ剣を与えん、剣持ちし者が七剣の証なり。時流れ百済の王、様々な外敵を阻み続けし七剣を知り、恐れ、七支刀に和睦を込め、七剣に北の七星の名をつけ七支刀に名を刻み送らん。』名前を付ける事によって百済の王は七剣を呪術的に支配しようと思ったんだね。まあ、後々の話によってそれは失敗したと言う話だけど。」 「それじゃあ、この剣は。」 七つの剣、七支刀に刻まれた七剣の名を持つ剣。 「そう、これが七剣が二剣『武曲』『文曲』だ。」 確かに眉唾な、俄かに信じがたい話だが、この剣を直接見て聞くと何だか本当の話に聞える。 「三剣さんこれ触って良いですか?」 「良いけど、そろそろ昼飯にしないか?カルボナーラを作ったんだが冷めるといけないし、それと翡翠さんがミネストローネを味付けしてくれている事だし。」 「え!?」 剣の魅力が一気に冷めた。 「ひっ翡翠が味付け?」 「ん? どうしたんだ?」 急いで台所に走る。 「三剣様、盛り付け終わりましたがこれで宜しいでしょうか?」 「あ〜オーケー、中々良いね。」 三剣さん家のダイニングに並ぶミネストローネが俺には黒く見えた。 ・・・・終わった。 死刑台へと向かう囚人よろしくゆっくりと食卓に着く。 「いただきます。折角だから翡翠さんの作った物からいこうかな。」 三剣さんが、ミネストローネを口に運ぶ。 「ガッグポ。」 途端、凄い音が三剣さんの口から出た。 「ひっ翡翠さん。これは? どのような味付けをしたのかな?」 噎せながら、あからさまに顔色を変えつつ翡翠に味付けを聞く。 「志貴様が好きな梅をペーストにして混ぜましたがいけなかったでしょうか?」 みっミネストローネに梅のペースト!? 三剣さんの顔が引きつる。 「それと以前姉がスープに赤ワインを入れていたのを思い出し、お酒を入れようかと思いましたが赤ワインが無かったので、手近にあった焼酎を入れました。」 「ど?どれを?」 「少々お待ちください。」 台所に走る翡翠を見計らって三剣さんが聞いてきた。 「うっ彼女は・・・いつもこうなのか?」 「ええ、どんな味がします?」 「消毒液と梅の酸味が・・・どうやったらこんな味に・・・・。」 消毒液!? 一体それはどういう意味だ!? 「これです。」 三剣さんに聞く前に翡翠が持ってきたのは一升瓶、中身は半分まで減っている。 「一口しか飲んでないのに・・・そんなに使った上に煮詰めたのか・・・。」 苦笑交じりの三剣さんの声がいつに無くか細い。 俺と三剣さんはどうなるんだ? 追記 B.C兵器に匹敵するものを送る。 一体何が起きたか解らない、至急研究部で解析を頼む。 |
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