第13話
作者: ディー   2005年07月01日(金) 20時43分48秒公開
『志貴。』

誰かに呼ばれたと感じたのは夢の中だった。
「レン?」
以前の事故の時から俺の使い魔になった夢魔の名を呼んだ。
が、返事が返って来ない。
考えるに此処は、この無性に懐かしく感じるこの場所は彼女か作った場所じゃないようだ。
森に囲まれた村、古ぼけた家が立ち並び、一昔前の光景の様な光景が広がっている。
「ここは?」
どうしても思い出せない、思い出したくても思い出せない、もどかしい、此処はこんなに
も懐かしいのに思い出せない自分がもどかしい。

『志貴。』

又、呼ばれた気がした。
呼ばれた方向を見る、そこには道があり道の終わりには他の家とは一線を隔てる遠野の家とは違った門構えのしっかりした日本家屋が立っていた。

歩く。

何かを思い出すように歩く。
一歩、一歩踏みしめると何かを思い出すようだ。
心が覚えていないが体が覚えている様な感覚、通い慣れた通学路を久々に歩く様な感じ。
そうこうしているうちに門の前に着く。

『志貴。』

三度呼ばれた。
開かれている門へと足を踏み出す。



「そこで、遠野君は目を覚ますわけですね。」
「はい。」
学校の茶道室で私はいつもと言うか何と言うか遠野君の相談に乗っていた。
「ふーむ。・・・先に聞いておきますが、遠野君はその毎夜毎夜見る夢をどうしたいんですか?」
「どうしたい?」
「ええ、遠野君の意志が知りたいんです。遠野君は見ないようにしたいんですか? それとも?」
一寸逡巡した後、遠野君は目を合わせてきた。
「普通は忘れた方がいいとは思うんだ、こんな懐かしい夢を見るのは。」
眼鏡の奥の目はいつもの穏やかな目とは違っていた。
「思い出したいんだ。俺は今見ている夢が何なのかを。」
「でも、それを思い出す事によって遠野君自身が苦しむ事になるかも知れませんよ?」
「でも、俺は思い出したい。」
眼鏡越しに見える瞳には迷いはなかった。
「・・・解りました。他ならぬ遠野君の頼みです、私で良ければ手伝いましょう。」
「先輩、ありがとう。」
ふう、私は遠野君には甘いですね。
「で? 遠野君自身は何か心当たりありますか?」
遠野君が考えている間にお茶請けのカレーパンをさっさと食べてしまいましょうか。
「もしくは切っ掛けみたいなモノはなかったですか?」
「切っ掛けですか?」
「ええ、毎晩同じ夢を見るのは少しおかしいです。夢と言うのは本来、外部からの情報を整理するものと言われています。今回のケースだけを言えば、何かしらの問題、切っ掛けがあった事により昔の記憶が呼び戻され、それを元に夢が構成されていると考えた方が自然です。」
「昔の記憶? 切っ掛け・・・そう言えば・・・。」
何かに気付いたのか遠野君は少し迷い気味で話始めた。
「・・・先週の日曜日にバイト先の社長から聞いた話でデジャ・ビュですか。一体何を聞いたんですか」
あの男は一体何の話をしたんでしょう、事と次第によっては許しませんよ。
「何か、家に伝わる口伝らしくて。」
「口伝? どんな話でした?」
「七枝刀が・・・。」


二月十三日(日)曇り
あれから随分経つのに口の中が未だオカシイ。
郵送された成分表に添付された質問書の件だが普通の食材でどのように作ったのかは見てないから解らない、ついでに私の理解の範疇外なので食物兵器としての転用は無理だと先に忠告しておく。
情報部に再度の要請、三咲町に潜伏中の時計塔の特殊部隊のデータの件を急いで欲しい。
以上。


「まだ見つからない、か。」
「情報部からは今だに連絡がありません。謝罪の意を伝えてくれとの事です。」
久々の会議の席で傍らに立つ美山君は情報部の代わりか無表情に頭をさげた。
「何故見つからない?足跡は?」
「報告書によると足跡は、先日のホテルに入ったところで断たれたらしいです。」
「脱出経路の割り出しは?」
「今のところ判明してません。四方に非常線を張っている状態で逃げられたそうですから。」
「そうか・・・。」
ウチの情報部を撒くとは中々やるじゃないか。
「失礼ですが。一つ気付いた事があります、よろしいですか?」
「言ってくれ。」
「では。先日、行政からウチに流れてきた仕事を覚えていますか?」
「ああ。確か、崩落の危険がある町の旧い下水道を調べて欲しいってやつだったな。」
この町の地下には戦前の治水工事の跡が多いという、それは何故か。
戦後の人工増加に伴ってそれは増築をして増えたらしい、が改修の手間を惜しみ旧いモノはそのまま残ったと言うのが真相。
そのお陰でこの町には下水道が網の目の様に敷かれている。
その結果が、
「先週の崩落事故はひどかったしな、死傷者まで出てるから、さすがの行政も重い腰をあげたんだろう。」
「その依頼時に行政から渡された地図を見てください。」
机の上に広げられる黄色く変色した地図。
「こりゃ年季がはいってるな。」
ボロボロとまではいかないが所々虫食いが入っている。
「はい。作成された年号を調べると明治初頭だそうです。保存が悪かったらしく、この通りですが、此処を見てください。」
指差すところを見る。
「下水道の中継地か。」
「はい。それを踏まえた上で地上の地図を重ね合わせます。」
透明のシートで出来た三咲町の地図を下水道の地図に重ねると中継地に重なるギリギリの場所に情報部が見失ったホテルの一角が重なった。
「ふむ、君は地下に隠れたと言いたい訳だな。」
「はい。」
これだけの情報が揃って調べない手はない。
「良いだろう、おまえがリーダーになって調べくれ、装備や方針は任せる。」
「了解しました、しかし一つ問題がありまして。」
「問題?」
「はい、この図面は三分の一しかないんです。」
「残りはどうした役所に問い合わせたんだろう?」
良いにくそうに口が開く。
「問い合わせたところ、どうやら遠野家にあるらしく。」
又嫌な予感が・・・。



「翡翠ちゃ〜ん、急いで応接室を片付けてもらっていい? って何しているの!?」
「明日はバレンタインデーと言うものらしいので志貴様の為にチョコレートを作っているんです、後で味を見ていただいて良いですか?」
グツグツと油に分離しながら鍋の中から沸き立つチョコレート。
地獄の沼みたいこの世全ての悪を煮詰めてもこんな色には成らないんじゃないだろうか、あっあは〜私が食べる事はないでしょう・・・志貴さんの為に胃薬を用意していた方が良いですね。
「はっはは、うん後でね〜」
後で、それは十年後かはたまた二十年後か。
「お願いします、それで姉さん応接室を急いで片付けるってどう言う事なの? 応接室は昼前に終わらせました。」
「終わっているなら準備万端ですね〜今さっき秋葉様からお電話があって、来客があるんですって。」
「来客ですか、何時になるんでしょうか?」
「そろそろ来ると聞いていたんですけどね〜?」
その時、玄関の対人センサーと連動させているインターフォンが鳴った。
「そう言っている内に来たようですね〜。」
「姉さん、こんなものを何時の間に・・・。」
「こんな事もあろうかと、です。まあ、実際役に立っているから良いじゃないですか。」
ああ!! その呆れ返った翡翠ちゃんの目もいい!!
「・・・じゃなくて、お客さんを出迎えなくてはなりませんね〜。」



門を開きに小走りで向かうと、そこには見知った人間がいた。
「こんにちは、久しぶり琥珀さん。今年初めてだから開けましておめでとうだと思うけど時期も過ぎているからこれでいいかな?」
「風文さん? それじゃあ秋葉様の言うお客様って?」
「多分、俺。今日は仕事で来たんだ。」
「お仕事ですか?」
門を開け応接室へと案内する間に大体の事情は解りました。
「なるほど、下水道の調査の為に図面の残りが必要なんですね。」
「そう言う事、役所の資料課の人間に問い合わせたら此処だって聞いてね。」
拙い事になりました。
「あ〜、一寸待ってくださいね〜。」
確かアレは私の部屋に置いてあります。ですがアレは地価帝国の足がかりとして秋葉様に内緒で遠野の名を使って借りたものです。
・・・ばれるととても拙い事になります。
「ああ一寸と言わず暫く待つよ、一応ここの御当主に挨拶しておかないと。」
あ〜それは、いけませんトンでもなく拙いです。
「え、あ〜秋葉様は今日は。」
てこでも動きそうに無いです。
「一寸待っていてください。お茶でも出しますから。」
取り敢えずは図面を持ってきましょう、話はそれからです、秋葉様は学校の方なので暫くは帰ってこないでしょうから。
図面を片手に廊下を歩きつつ、策を練る。
「さ〜て、どうしましょうね。」
出来る事なら秋葉様が帰って来る前に図面をもって早く帰ってもらいたい所ですが、相手側の社長と言う立場を考えるとそうは行かないでしょうね。
「薬のストックも少ない事ですから、使わずに済むにこしません。」
さて、どうしましょう。最善は、三剣さんで遊び翻弄つつ、地図を持っていって貰うのがベストなんですが。


さて、ここまで来たのは良いが無性に嫌な予感が消えないのは何故だろう。
遠野家の応接室のソファーで自らの思考の内に入る。
「アイツなら勘で行動するんだが・・・。」
親友と呼んでも差し支えない勘でよく行動する神官を思い出した。
「『勘とは、今までの経験が作りだす一種の予知だ、馬鹿には出来ない』か・・・。」
確かに、当時はそう言われて納得してしまっていた。
ならば、勘が経験則から生み出されていると言うならば、俺の目の前には既に予兆と言う名の情報が提示されているはずだ。
「とすれば、どんな情報だ?」
何かないかと見回し、ふと腕時計をみる。
「二月十三日、日曜。」
二月? 確か何かイベントがあったはずだ・・・暫らく海外生活が長いと忘れてしまうな、こう言う事は。
その時だった、どこからともなく香る酸味を含んだ甘くそして焦げた香ばしい薫り。
焦げたチョコレートに酸味?不吉な予感が強くなる、日本のイベントに疎い自分が突然気付く、腕時計の日付を見なおす。

「バレンタインデーか!!」

マズイ、これじゃ前回の二の舞だ。
冷静になればなるほど嫌な汗が出てくる、この薫りは、まさか梅か!? クランベリーやストロベリーじゃなくて!? しかも、ここまで匂うほどの梅の量って何だ!? しかもチョコレートなのに鰹節の匂いもするぞ!?
ここまでの情報提示があれば嫌でも気付く、気付きたくはなかったが、おそらく翡翠さんがチョコレートを作っているのだろう。
余りの事実に腰が浮く、体が思わず逃げようとしていた、だが社長と言う立場上ここで帰る訳には行かない。
イカン、この前と同じ落ちだけは避けねば。
その時、来た時と打って変わって地獄の門の様に見える応接室のドアが開いた。
「ハーイ、お待たせしました。」
そこには笑顔一杯の琥珀さんと白磁の茶器と銀のボウルをカートに乗せて運ぶ翡翠さんがいた。
自然とカートのボウルを被せてある皿に目が行った。
「大変お待たせしました。」
いや待ってない。
「当家の主人は暫らく戻りませんので、私たちがホストとしてご接待させて戴きます。」
「翡翠ちゃん、男の人の場合はコンパニオンの方が喜ばれますよ〜。」
いや、どっちでも良いから、そのボウルの中身を何とかして欲しいな。
「と言う訳で、私たちは風文さんを持て成さなくてはならないんですね〜。」
いや良いから。
「ここに、二つの皿を用意しました。一つはお茶請けのチョコレートもう一つは罰ゲームのチョコレートです。」
・・・・・・。
「罰ゲームと言う事はゲームで持て成すと言う事かい?」
「ですよ、しかも今回はいつもゲームセンターでは私の得意分野のゲームを付き合って貰っていますので、こちらをご用意しました。」
ジャーンと言いながら取り出すのは将棋版。
「アルクェイドさんから聞いていますよ〜こちらが風文さんの得意分野だそうで。」
なるほどね。しかし、
「琥珀さんは打てるの?」
「ふふふ〜私を舐めないでくださいね。ゲーム百般のこの琥珀を甘く見ると痛い目を見ますよ〜。」
なら良いのだが、これで楽しめるし、アレも食わないですむ。


暫く、無言で打ち続ける二人。
妙な緊張感が漂う応接室で駒が盤を打つ音が響く。
「ところで、風文さんは何でまた、そんなお仕事をしているんですか?」
「こんな?」
「違うんですか?」
突然の姉さんの質問に一瞬、戸惑う風文様。
「・・・ああ、そうか。俺はね、この仕事にしかなれなかったからなんだよ。」
「これしか、なれなかったんですか?」
「むしろ適していたと言っていれば良いかな? そう、君だって・・・そうなんじゃないかい?」
「・・・・。」
「俺の家はね、昔は引く手あまたの軍人の家系だったらしい。ところが先々代位からその才能がなくなってきたらしいんだ。」
「才能がですか?」
「そう才能がだよ、普通才能と言う物は若い頃にあふれ、年を負う毎に枯れていく、そんなもんだ。ところが、いきなり先々代から消え去るように無くなったと言うんだ。」
「おかしな話ですね。」
「ああ、おかしな話だ。ところが原因は直ぐに解った、いや断言した人間が居たんだ、断言した人間は三代前の曾爺様、その爺様の言い分では周りの人間に利用され続けて才能が枯れたんだと。」
「まさか。」
「その時は爺様の言う事は解らなかったよ。ところが家の家系を遡りながら古文書を片っ端から読んで言ったら解ったよ。」
「あら?何が解ったんですか?」
その時、風文様の顔が自虐的に笑いました。
「俺の家系は女系の家系でね、必ずと言っても良いほど女性が生まれるんだよ。んで、必ずと言っても良いほど女性は確実に嫁に行く。」
「はあ〜なるほど、解りましたよ。嫁ぎ先の人間は武将だったんですね? なるほど〜良い人材が次々と居なくなる、家の家督は質が悪い人間が継ぐと言う風にしていったら悪くなりますねえ確かに。」
「まあ、それでもこの時代まで続いたんだから凄いと思うよ実際。で、この俺の親まあ母親の代になってから男の俺が生まれる。大騒ぎさ、家に必要なのは才能がある女なんだから。」
暫く続く沈黙。そんな中、風文さんが唐突に呟きました。
「男も大変だと思うが、女も大変だよ。・・・物扱い何て事もあるからね、才能が無ければ切り捨てられ『禁』を破れば潰される、なんてね。」
姉さんが身体を硬くするのが見て取れた。
「そうですね。」
再び沈黙が支配する、部屋には駒が打ち鳴らされる音だけ。



「王手。詰みだ。」
「あらら〜負けてしまいましたね。」
よし、話の流れの牽制も成功した、勝負も勝った。
「ではでは、勝者にはこちらを〜。」
ガラガラとカートをテーブルの横に付けてボウルを被せたまま出してきた。
「じゃ〜ん!!」
その時、琥珀さんの笑顔は勝ち誇っていた。
「こっこれは・・・!?」
思わず顔が引きつる、目の前にはカップにナミナミと注がれた黒い液体、上澄みには薄らと油が浮いている。
これは何だ?
「勝者には、翡翠ちゃん特製のホットチョコレートで〜す。」
「・・・ちなみに、負けたらどんな罰ゲーム?」
「見たいですか? でも、内緒で〜す。」
そっと、負けのボールを笑顔で隠す琥珀さん・・・・謀られた。
先程の将棋の棋譜を思い出す。
・・・・・・・・、ヤッパリだ。
あからさまに手を抜いている、ゲームセンターで見た琥珀さんと比較すると、やはり彼女らしくない。
しかも、多分あのボールの中身はこれと同じものだ。
そう確信できる。
「琥珀さん。」
「はい、なんですか〜? 質問は受け付けないんで〜それより、早くそれをグイッと行ってくださいな。」
クソッ!! 惚けやがった、琥珀さんよりも見抜けなかった自分自身に腹が立つ。
この状態となった原因はまず、俺が翡翠さんの料理を食べたことに始まりそれを利用された、次に最初にどちらが勝者への物かを隠すこの時点で同じものだとばれた場合は意味が無いからだ、しかもこれは一緒に居る翡翠さんへの言い訳にもなる。
第二に私の得意分野で油断させて勝負そのものに集中させる事で隠した物への意識を逸らす。
最初から仕組まれてたのだ、あのカートを持ってきた時点で。
目の前のホットチョコレート(仮)を見る。
オイオイ、何だこの酸臭は? 浮いた油が光に反射して薄らと赤みが掛かって見えるこれを飲み干さなければならないのか? 盗み見るように見ると・・・翡翠さんが見ている。
ああ、そんな純粋な目で心配そうな顔をしないでくれ、如何しても飲まなければならないような気がする、行くしかないのか!?
その時、琥珀さんも俺にも予想外の声を聞いた。
「姉さんも食べてくださいね。」
「へ? 食べる? んじゃなくて、飲むが正しいんじゃない? え? え? ええ?」
よほど予想外だったのだろう、まさか自分の妹がそう来るとは思わなかっただろうに。
「姉さんはさっき言いました、『後で』味を見てくれると。」
「え? あ〜あれはね。」
「本当はお客様にお出しする前に見てもらいたかったんですけど。姉さんが話を聞かずに持っていってしまいましたから。さあ、風文様に粗相があると申し訳ありません、先に。」
琥珀さんの目がこっちを向く。
イヤイヤ、助けを呼ばれてもな。
「・・・あ〜、御当主を待ちたいんだが次の仕事が入っていてね。」
「申し訳ありません風文様。」
「いえいえ、御当主様にはよろしく伝えてください。」
「風文さん〜。」
翡翠さんの後ろから涙目でこっちを見てくるが俺だって命が惜しい。
「これは姉が持って来ていた物ですが。」
そう言って円筒形の物を渡してくる翡翠さん。よし、目的の物は手に入れた。
「ありがとう。それじゃあ二人ともまた。」
「恨みますよ〜。」
逃げるように遠野家の玄関から遠ざかる。
暫くした後、そっと遠野家の方へと手を合わせた。
「合掌。」
遠くから断末魔の叫びを聞いた気がした。


「大丈夫なの琥珀?」
「あっあは〜、なんとかです。もう一寸で生きたまま旅立つ所でした。」
「訳の解らない事を言ってないでさっさと話しなさい。」
「はい〜。」
今日、疑惑の男『三剣風文』なる男が来たと言う。
琥珀の話によると、この男が現れてから町の雰囲気が変わったという。
翡翠の誰かから監視されていると言う話、兄さんやアルクェイドさんとも知り合いで、私に秘密でやっているつもりの兄さんのバイト先の社長。
「と、言う事ですよ〜。」
「解りました。」
「それでは、ではこの情報を元に久我峰さんの方で。」
「いいえ、調査はしなくても結構。兄さんの話から大体の素性は割れています。」
「そうなんですか?」
全くふざけている。
「日本の古い書物、稗田阿礼が語り伝えた『帝紀』『旧辞』を太安万侶が編纂した『古事記』に似たような話が載っています。」
「あ、私も知ってますよ。でも数が違うんではないですか?」
「多分、話を改竄しているのよ。『主神天御中主太神と』と言う所があったでしょう。天御中主太神と消えた二柱の神と神代七代、全部で十七柱で天御中主太神とイザナギとイザナミを抜かしたら十四柱、割ったら七柱。」
「あの〜秋葉様私さっぱり解らないんですが。」
「解っているわ、私も確信を持って言っている訳じゃないから。むしろ、これは神代の神々に喧嘩を売るような暴論に近い。」
「はあ。」
「残りの十四柱が対の神、表裏一体の神として考える、そうすると天御中主太神を主神として七柱の神が生まれる。」
「イザナギとイザナミは何で抜かすんですか?」
それは、
「国産みの神話の神だからって言うのもあるんだけども、『神の血を引く大地を統べし一族』って下りがあったから多分イザナミとイザナギの血統だと思ったのよ。」
「なるほど、切り離して考えたのですね。でも、そこまで改竄しているとなると。」
「ええ、多分完全な作り話でしょう。しかし、今日聞いた話は何処かで聞いた事があります。」
「本当ですか? では、そちらだけを調べてもらう事にしましょう。」
「そうね・・・お願いするわ。」
「それでは。」
退室する琥珀の背中を見送りながら思い出す。
今さっきの話を、私は作り話と断じた。
それには、琥珀には言っていない理由はある、いや言えなかった。
「確か、あれは昔お父様が。」
昔、聞いた。御伽噺のにしては恐ろしい話を、お父様が珍しく聞かせてくれたから今でも覚えている。
「神も悪魔も問わずに処刑する執行者・・・か。馬鹿げています。」

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■後書き
後書きはありません。

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