第14話
作者: ディー   2005年07月01日(金) 20時44分36秒公開
「如何したんですか、こんな所に呼び出して?」
日曜日の朝っぱらから、名前も告げ無い電話で呼び出される。本来なら無視して行かない所ですが、妙に暗い張り詰めた声が聞いた声だったので渋々きた。
「朝の食事もまだなんです、用件なら早めに言ってください。」
「食事はまだか、それは好都合。見たら吐き気がするかもしれんからな。」
朝靄が立ち篭る、オフィス街の裏路地で黒いコートの男が皮肉げに笑う。
言わずと知れた三剣風文、この町の監視を行うサイファの四つある実行部隊の第三部隊の総隊長。
隊長と解ったのは教会の最重要の取引先の護衛で偶然出会って気付いたのが最初なんですが・・・何の縁かここで出会ってしまった。
その男の顔が妙に張り詰めている。
「ここだ。」
「マンホール? 降りるんですか?」
「ああ、匂いが気になるなら上から着る服を貸すが。」
「お借りします。」
渡された袋から取り出した、何の素材で出来ているか解らない黒の上下を服の上から着るとマンホールの中の三剣に続いた。
「こっちだ。」
暗闇の中で三剣の後へと続く。
今の状況を考えると、異常な状況だと判断される。
私は今、目の前の男に監視されている。
一時は共闘もしたし二・三度程の確認はしていないが、この男が指揮したと思われる部隊とも戦った。
そんな男にマンホールの下の、下水道を案内されて何か無いとは言い切れない。ここで襲撃される危険も、目の前の男と戦う事も考えたが・・・今はそんな事は気にならない。
何故なら、先程からこのマンホールに入った時から気になる事があるからだ。
「心配かな?」
「そんな心配もありましたが、今は無いです。」
「へえ、流石と言うかな埋葬機関七位。」
「下水道の強烈な臭いに紛れてする、この強烈な腐敗臭は人間のものですね。」
「ご名答。到着だ、今回の目的は面通しと検死をお願いしたいんだ、この道の専門家にね。」
「これは・・・。」
下水の交差するレンガ造りの中継点、そこらかしこに散らばった死体。
「こっちの見解では死後三ヶ月、死因は失血性ショックと身体にある裂傷。」
死体の身体にある傷は見覚えのあるものだ。
「また、一部の遺体には引きちぎられた後があるらしい。」
「でしょうね、彼方が私を呼んだ訳が解りました。」
見た感じ、この死体はまだ形を保っている方ですね、私が知っている死体ではいい方です。
「で? この遺体は何処の誰なんですか?」
遺体にはナイフなどの装備がある、多分近くに転がっている黒い塊は拳銃だろう。顔と身体はボロボロで男女の判別がつかない。、
「歯型で判明したよ、時計塔の特殊部隊だ。」
「は?」
「言いたい事はよっく解るが、君の質問より俺は答えを欲しいんだ。」
「何をですか?」
「この、死体を作った犯人。」
なるほどね、最終確認ですか私のお墨付きならば間違いないと言う訳ですか。
「ええ、間違いないですね。」
「そうか。」
この事態は目の前の男が想定していた事態ではないのだろう、最初からもう一度計画を練り直す、その為の最終確認。
「この派手な裂傷や引き千切られた様な跡は間違いありません、『死徒』です。」


4月1日(曇)
情報部の情報を引き継ぎこちらで再調査を試みる。
先月の下水道の死体の数は三体、下水道の調査を二度行ったが痕跡すらない。
妙な話を聞く、町に残っていたグールの数が著しく減ったとの事。
何かの起こる予兆に思われる、執行部の対人外用装備一式を送りたし。


嫌な予感が日々色濃くなる。
身体を戦闘用にシフトする為の準備を行う。
力を蓄えるのではなく、そう戦う為の心にする為に。
いつも行く屋台がある公園とは少し離れた公園、いつもの公園では真祖や志貴君に見つかる場合がある。
公園の中でも周りから死角になる場所を選らび、長さの違う木刀を二本腰に持ち、一本を腰に一本を抜き放つ様に木刀を構える。

「コー。」

腹の底から息をする、大地から立ち上る力が垂直に立ち、股間から天に突き抜ける、天から垂れる力が身体に降り立つようにイメージする。
鼻から息をタップリ三分近く吸い。

「コー。」

口より同じ時間をかけて吐く。
膝を軽く曲げ腰をユックリ落とし、木刀を右手で八双に構える。
意識を周りに均等に張る、距離を今回は木刀の届く範囲のみに設定する。
これが俺の結界、魔術が使えない私が唯一使える意識の結界。
ユックリと結界を広げる。

「フー。」

暫く、意識の結界の作成に没頭している事20分位たった頃だった、結界に誰かの意識が引っかかる、誰か見ているな。
見られて困ると言う事はないが、今の時期に余計な問題を発生するのも・・・招待を見る為に少し脅かすか。
意識の結界を発気に変え、当てる。

「ハアッ!!」
「ウワッ!!」

剣気を軽くほんの軽く掠る様に当てると、驚いた女の子の声が上がった。振り返ると其処には、引っ繰り返って暗い空を見る小学校高学年ぐらいの少女がいた。



「ふむ、ジョギングをしていたら妙な感じがして見ていたんだね。」
「うん。」
公園のベンチで少女と二人、さっき脅かしたお詫びとばかりに缶ジュースを手渡す。
スパッツにジョギングシャツにシューズ、背中には何かが詰まったナップザックと言うような典型的ないでたち。
「で、何でまたこんな時間に。」
腕時計を見るとまだ朝の五時半、周りは薄らと暗い。
「君ぐらいの子が今時分じゃ、まだ危ないよ。」
まあ、都心や都会に近い住宅街とは違って、ここいら辺はまだ安全だろうが、この日本での犯罪率の増加を考えると年頃の少女には危ない。
「・・・強くなりたいの。」
「え?」
その女の子は、振り絞るように言った。
「今お兄ちゃんは、別の家にいるの。」
「?」
何を言っているのかが良く解らない、が。
「私は強くなってお兄ちゃんを迎えに行くの。」
良く解らないが、私を見つめる目は真剣その物だった。
・・・あ〜、要するにだ。
「お兄さんを迎えに行くには、強くならないと言う訳だ。」
無言で頷く少女。
「なるほどねえ、そりゃあ大変だ。・・・ん? どうした?」
話が終わっても完結させても、こちらを見続ける少女に戸惑いを覚える。
いかんな、この真っ直ぐな目は。ついでに嫌な予感がする、最近三咲町に来て勘に磨きが掛かってきた。
「おじさんは強いの?」
「オジっ・・・だよなあ、小学生から見たら二十代中盤は十分オジサンだよなあ。」
「ねえ、おじさんは強いんでしょう?」
はぐらかせない、いや誤魔化されてくれないだけか。だいたいの流れで良く解ったが・・・。
「教えないぞ。」
「え!? まだ何も言ってないのにどうして解ったの?」
解るわ、ここまで漫画みたいな流れだったら。
「何も言って無くても解るさ、でも武術は教えないよ。」
「何で?」
教えられるモノじゃないからだ、家に伝わる技は殺人術に体に染み込んだ能力を合わせ昇華させたモノ。
人に教えたり出来るものじゃない。
まあ、目の前の女の子に言っても解るものじゃない、適当な理由で断ろう。
「俺の知っている武術は世間一般の武術とは掛け離れていてね、普通の戦いじゃ使えないんだ。」
「普通の?」
人間同士の普通の戦いではね。
「そう、だから教えることは出来・・・ない。・・・あ〜解った解った、そんな顔するなって。」
泣きそうな顔で責められる、誤魔化されてくれないか。
「・・・ふぅ、教えることは出来ないが。心構えぐらいは言えるよ。」
「心構え?」
「そう、心構えは大切なんだ。これが出来てないと、相手がどんなに弱い相手でも簡単に負けてしまうし、危機に陥ってしまう事もあるんだ。」
「へえ〜。」
今一解ってないみたいだな。
「それで? 君自身は何かやっているの?」
「えっと、これ。」
背中に背負ったナップザックから取り出した本にはこう書かれていた『八極拳』と。
ページを開き、製造年月日を見る。
・・・再刷が二ヶ月前・・・。
「こっこの本を見る限りじゃまだ始めて間もないみたいだね・・・まあいい、名前は?」
「有間 都古。」

※この作品に関連するお話
   □ 月姫/月世界の探索者 M:オールキャラ・オリジナル 傾:シリアス   最終更新:[2007年10月01日(月) 22時47分41秒]
    □ 第01話   最終更新:[2005年07月01日(金) 21時20分17秒]
    □ 第02話   最終更新:[2005年07月01日(金) 21時21分27秒]
    □ 第03話   最終更新:[2005年07月01日(金) 21時22分33秒]
    □ 第04話   最終更新:[2005年07月01日(金) 20時33分19秒]
    □ 第05話   最終更新:[2005年07月01日(金) 20時34分12秒]
    □ 第06話   最終更新:[2005年07月01日(金) 20時35分57秒]
    □ 第07話   最終更新:[2005年07月01日(金) 20時36分53秒]
    □ 第08話   最終更新:[2005年07月01日(金) 20時37分44秒]
    □ 第09話   最終更新:[2005年07月01日(金) 20時38分41秒]
    □ 第10話   最終更新:[2005年07月01日(金) 20時39分28秒]
    □ 第11話   最終更新:[2005年07月01日(金) 20時40分30秒]
    □ 第12話   最終更新:[2005年07月01日(金) 20時42分52秒]
    □ 第13話   最終更新:[2005年07月01日(金) 20時43分48秒]
    ■ 第14話   最終更新:[2005年07月01日(金) 20時44分36秒]
    □ 第15話   最終更新:[2005年07月01日(金) 20時45分39秒]
    □ 第16話   最終更新:[2005年07月01日(金) 20時46分31秒]
    □ 第17話   最終更新:[2005年08月09日(火) 22時47分41秒]

■後書き
後書きはありません。

■一覧に戻る ■感想を書く ■削除・編集