第15話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 20時45分39秒公開
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「おかしい。」 「どーかしたんですかマスター? まじめ腐った顔で、又志貴さんが新しい女の人と仲良くしているんですか〜?」 「そうですね。この間遠野君とデート中に会った時南さんと言う女性は、何か引っ掛かり・・・じゃありません!!」 無理やり実体化させたセブンの頭を鷲掴みにする。 「アダダダダ!! やめっやめて。」 「こ・の・不良精霊は!! 話の腰を折るんじゃありません。」 「マスターだってノッてたじゃないですか!! アダダダダ、ゴメンなさい〜。」 全く毎度毎度の事ですが、この精霊はお仕置きされないと解らない様ですね。 「あいたたた、それで、マスター一体何が悪かったんです?」 「悪い訳では無いんです。これを見なさい。」 手元に置いてあったノートをセブンに見せるように押し出す。 「えー、挽き肉100グラム、ニンジン二本にトマト三つ。」 「セブン、ふざけているなら本気で逝きますよ。」 「え〜と、あれ? これは今まで狩ったグールの人数ですね・・・マスターぱっと見おかしな所は無いですよ?」 そう、三剣に先月検死を頼まれた時に、あの男がさりげなく聞いてきた事は最近の狩ったグールの数。 あの時は、目の前の死体の検死をしていて気付きませんでしたが。 「先月と先々月の数を見なさい、グラフにすると緩やかな下降線になります。」 「それが、どうしたんです?」 「先々月はこの国では卒業シーズンです、先月は花見や入学式、話に寄ると大学ではサークルの歓迎会とかもあるんですよ。」 「? ・・・ああ、ようするにマスターは時期的に下降線になるのはおかしいと言いたい訳ですね。」 「そう言う事です。」 それ以前に、先月三剣に検死を頼まれた死体、あれは見る限り二ヵ月は経過している。 だとしたら、私の知らない死徒が入り込み三ヵ月は経っていると言う事だ。 「それならば寧ろ、少なくとも増えるはず。この結果を見る限り、誰かしらの意図を感じますね。」 「増えるんですか・・・。それでマスターは、どうするんですか?」 「どうもしません、いつも通りです。」 「はれ? こう特別な陰険で狡い事とかしないんですか?」 「・・・貴女が私をどのような目で見ているか良く解ります・・・後で覚えてなさい。」 「ヒィー、だって前に集めたグールを使ってアルクェイドさんを襲わせた事あったじゃないですか。」 うっ・・・あれはアルクェイドの本性を遠野君に見せる為に・・・ゴニョゴニョ。 「まっまあ、そんな事も有りましたね・・・。」 ここは下手に口を開くとマズイですね。沈黙です沈黙。横を見ると蹄を笑いが堪え切れない口に当てるセブンが・・・。 「ウフフ〜惚けたって駄目ですよ、このセブンには隠し事は出来ませんよ〜アダアダダダダ!! 暴力反対〜!!」 全く・・・、セブンの口が迂闊なのはいつもの事ですから放って置くとして、まあ今回は多分あの男が本腰でやるでしょう、私はいつも通りパトロールに行く事としましょう。 4月30日(晴れ) 先日の送られて来た教会に提出されたシエル司祭の報告書を見るかぎり、誰かの意図による操作が考えられる可能性が上がる。 むしろ、確定といってもいい位の確率でもある。 未だに死徒は見つからない。三咲町裏の業界の情報、特に窃盗や空き巣の常習者のリストを送られたし。 皐月晴れになりそうな雲一つない朝方の空模様。公園の芝生で携帯に繋いだノートパソコンを開き、日課のメールチェックを行う。 メールは三件、第二部隊の隊長からの他愛のない世間話と琥珀さんとの対戦のお誘い、それと本社からの報告書のファイル。 「昨日の報告から十二時間も経ってない・・・か。流石に仕事が速い、忍の源流の一族と大口を叩くだけはある。」 細目から送られて来たファイルを八桁のコードを入れ開く。 「地域別で四人づつか、溜まり場を調べれば半日もかからんな。」 一通り読み、スタンバイモードで蓋を閉じると空腹感に包まれる。 これを気に朝飯でも食べるかと、此処に来る前に買っておいたコンビニのサンドイッチを五種類と魔法瓶を取りだす。 「都古ちゃん、根を詰めても逆効果だ。お茶にしないか?」 周りから見えにくい芝生の真ん中で、一心不乱に練習をする少女に声をかけた。 「はい!!」 可愛い子なんだがムチャクチャ体育会系なんだよな。 目の前に座る彼女に家からもって来たお茶を注いだ紙コップを渡す、余程お腹が減っていたのだろうサンドイッチがみるみるうちに失くなっていく。 まだ朝六時だし育ち盛りだし、まあこんなものだろう。 「お茶は熱いから気を付けな。」 口を開く事も惜しいのか、彼女はコクンと頷くと、熱さを確認する様にソロソロと紙コップに口をつけ、驚いた。 「ふふふ、驚いたか。それはチャイと言ってねミルクティーにスパイスを混ぜた物さ、この間メシアンに行った時にマスターに教えて貰ってね。美味しいかい? 少し砂糖入れすぎたかと思ったんだけど。」 「美味しい。」 彼女は柔らかく笑う、そんな時だった、突然後から笑いを噛み殺すような声がかかった。 「そんなに美味しいなら、私も貰っても良いかな?」 振り返るとそこには、思いもしない奴が居た。 「ん? 何を固まっているんだ? しかし、風文の彼女がこんなに若いとはね。」 突然の登場に声もでない、目の前の都古ちゃんは突然の来訪者に顔を引き攣らせながら頭を振り先程の言葉を否定していた。 「・・・・いつ、来たんだ?」 「今さっきだ、流石に博多から高速飛ばすと、頭が痛いわ腰が痛いわ。」 濃紺のウインドブレーカー、足のラインが見えない黒のジーンズに黒と赤のスニーカー。 「当たり前だ、博多から此処までどれ位あると思うんだ・・・久し振りだな、南米から帰っていたのは知っていたけど元気だったか? 紫門。」 「ああ、久し振りだ。こちらは変わりない。」 芝生に正座する紫門にお茶を渡す。 「すまんね・・・で。仕事大変だと聞いたが?」 「ああ、ちょっとね。」 「師父、又練習に戻ります!!」 「え!? ああ、頑張って。」 彼女はこの雰囲気に気付いたのか、自主的に少し離れた場所で練習を再開する。 「・・・で、彼女は?」 「ああ、遠野の親戚だ。立場が立場だから無下に出来ん、一寸扱いに困っている。」 「師父と来たか・・・型を見る限り八極拳、『焼滅』の風文に苦手と言わせるとは純粋な子だな。」 「帰りがけに一寸教えてやってくれ。俺じゃ殺し技しか教えられん。」 少し苦々しげに笑うと頷く。 「・・・解った。だが、出来れば今回の仕事が終わってからになるが?」 「構わないよ、取り敢えずはあの子が満足すればいい。それより、何しに来たんだ? 顔なじみを見に来たと言う事だけじゃないだろう?」 「人材が足りない顔なじみを助けに来ただけだ。簡単に言うとだな、今回の問題となる資料一式見せろ。」 「ヘイヘイ。」 お節介な同僚の熱い友情に感謝しつつ、パソコンをスタンバイ状態から立ち上げ、そのまま渡した。 「ふむ、死徒の存在を確認・・・ここでシエル司祭を引き入れるか、相変わらずの型破りな監視方法だ・・・私には真似出来んな。」 都古ちゃんの練習を見て一寸した事を教えながら待つこと5分。 見るとそこに渋い顔があった。 「風文・・・この報告は、正しいのか?」 「どの報告だ?」 「これとこれ。少し妙だ、教会から来た報告書とシエル司祭を監視する第二小隊の報告書だが、グールに遭遇する率が規則的過ぎる。」 それは俺も気付いた。 「だが逆に、これはもう一つの異状が際立つ。」 もう一つの異状がある? 「例えば、週末や月末もそうだが、この花見などのシーズンだ。仮に、この事態を作り出している奴を敵とし目的をカモフラージュと想定する。その場合の相手は司祭や真祖だな。」 「ああ。」 この男は医科の家系、洞察力や観察力や異常を見るのが総合的に高い、ここは黙って聞いておく。 「このイベントが多い時期は奴らにとっても好都合、仲間を増やすのに最適だからな。敵が増えていると前提とする、でこの状況で三ヵ月・・・いや一ヵ月でいい敵の計画以外に真祖と司祭に見つからない確率はどれぐらいだ?」 「相手も俺達みたいに監視していると言うのか?」 「三剣。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「お前、解っているだろう? 何事にも例外がある、それに今回はそれが無い。それが逆に異常だ。」 「解っているさ。早々に対処するさ・・・。」 その時、一段落したのか都古ちゃんがこちらに来た。 「師父!! 今日は用事があるので早めに上がります!!」 「用事? ああ、お兄さんと久しぶり会う日だったね、気を付けて行っておいで。」 「はい!!」 彼女は元気良く返事をすると、本格的に日が照り始めた公園を走り去った。 「また、元気のいい子だ・・・さて、私は行くぞ。今日中に着きたいからな。」 「冬木市か、聖杯戦争が終わって二ヵ月位か、調査するには丁度良いい。必要無いと思うが気を付けろよ、お前変な所で迂闊だから。」 「やかましい。・・・じゃあな、暇があったら飲みに行こう。」 「ああ。」 そう言うと奴は来た時と同様に煙の様に消えて行った。 不安と不吉を暴いて。 ズドゴォォォ。 鈍い音が身体の芯に響く。 みっ鳩尾が!! よろめく足を踏ん張り、笑顔を無理やり作る。 「やっやあ、都古ちゃん。久し振り。」 鳩尾に頭突きをかました少女は少し離れた場所で不機嫌そうに睨んでいた。 「元気だったかい?」 無言でコクンと頷く彼女の唇は固く結ばれている。相変わらず、あまり好かれていない様に見える。 「それで啓子さんからは、買い物に付き合ってあげてって聞いているだけど何を買いに行くんだい?」 都古ちゃんは無言で街の一角を指差す。 「総合服飾専門店『驚天動地』!?」 こんなに漢字が並んだ店名は初めてだ、それにしても豪快な店名で・・・。 そうこうしているうちに都古ちゃんに半ば引きずられる様に店へと入る。 「いらっしゃいませ〜。」 中に入るとやっぱり普通じゃなかった。 敷地もさることながら、店の品揃えも凄い。右から左まで、服、服、服だ。 こんな地方都市に、こんな大規模な店が必要なのかと疑問を覚えつつ都古ちゃんの手を引き、近くの案内板へと向かった。 「え〜っと紳士服、婦人服、下着、ベビー服、トレーニングウェア、作業服、布? ・・・ビーズ、アクセサリー素材・・・服だけじゃないな。」 いかん、思わず自分の服を考えてしまう、自分の用事で来たのではないのにな。とは言え、元兄として元妹に何も出来ていないこの事態は何か致命的に悪い気がする。 「都古ちゃんは何を買いに来たのかな?」 自分の不甲斐なさを感じつつ苦笑交じりで聞くと彼女は案内板の一番下の地下を表す一画を指差した。 「・・・コスプレコーナー? あはは、ゴメン冗談だって怒らないでくれよ、ええとリサイクルコーナー? 古着でいいのかい?」 コクンと頷く彼女には何も問題は無いようだ、まあ本人が気に食わなかったら普通の服のコーナーにいけばいい事だ。 そうこうしながら広い店内を歩き階段を降り、目的のコーナーへと到着。 どうやらこの店が広いのは、このコーナーの所為らしい。 上の一般服のコーナーと同じ位大きさの古着の海。 「へーこれは凄い。」 近くにある服の値札を見ると大体が千円から三千円位、高くても一万円はいかない。 これなら・・・秋葉に秘密でやっているバイト代の残金に余裕があるから、都古ちゃんに何か買ってあげれるなうん。 密かな決心を胸にとりあえず、何が欲しいか聞くべく服を見て回る都古ちゃんに声をかけた。 「都古ちゃん。所で今日は何を買いに来たの?」 「戦闘服。」 「へ?」 頭の中に浮かぶアルクェイドと戦うカソック姿のシエル先輩。 じゃなくって。 「戦闘服って何に使うんだい?」 返事も返さず、こちらに脇目も振らず、探し続ける都古ちゃん。 一心不乱に探し続ける顔をみる。う〜ん、なんか可愛い妹って感じだ、秋葉とは違う可愛さがある、うん。 まあ胸の大きさは同じぐらいかも・・・・・口が裂けても言えない。 髪が赤く染まり怒り狂う妹を想像し背筋を寒くしつつ都古ちゃんを見ると、その可愛らしい目が止まっていた。 その目の先には真っ赤なチャイナ服。 目を奪われたかの様に見つめ続ける都古ちゃんにハンガーごと持って来る。 「これ、欲しい?」 「うん。」 コクンと頷く。 よし。 「それじゃあ、久し振りに会った記念に買ってあげる。」 「へ?」 彼女にとって意外な事だったんだろう。まあ昔、昼ご飯をケチって、かなりの額を貯めた経歴を知っている人間にとっては驚く事だ。 「でも、この服で良いかい? 他にも服はあるけど。」 「ううん。これ、これがいい。」 「そっか、じゃあ買おう。・・・でも、一枚だけじゃ寂しいから、他にも選ぼう、ね。」 「うん。」 とても嬉しそうな顔。有間の家で居た時は良く見ていたのだが、久し振りに見れた。 ・・・それにしても、アルクェイドには絶対ばれないようにしなくては、絶対買ってくれって強請るんだから。 その異常に気付いたのは迂闊にも、やっと打ち解けた都古ちゃんと決めた二枚の服を買って会計を済ませ階段へと向かう時だった。 軽快な店のBGMとは裏腹に凍りついた空気。 「な!!!」 周りの人の声が聞えない。 BGMで聞えないのではなく、誰も言葉を発していない。 何故、解るのか・・・楽しそうに話していた女性二人組や、親子で服を選んでいた家族や、服の整理をしていた店員、全員がこちらを向いていたからだ。 「おにいちゃん。」 この異常な状況下で都古ちゃんも気付いたようだ、だが取った行動は一寸違った。 「後ろ下がってて。」 イヤイヤイヤ。 「違うよ、下がるのは都古だ。」 どこかで見たことがある構えをした都古ちゃんを、無理やり後ろに下がらせ回りを確認する。 ・・・・やっぱりだ、この感じアルクェイドやシエル先輩とついて回った時に感じた気配。 伊達に二人に着いて回ったわけではない、眼鏡を取り胸ポケットにいれ、常にポケットの中に忍ばせている七夜の銘が入ったナイフを代わりに取り出す。 至る場所に見える黒い線、自分の身体にも流れる線、周囲と違うのは俺の胸に大きな点がある位か。 『直死の魔眼』 子供の時に俺は一回死んだ。 遠野の屋敷で胸を貫かれて死んだ、次に病院で目を覚ました時には見えていた線と点。 後に聞いた話によると『あなたには、あらゆるものには発生した瞬間から予め決まっている崩壊の時期が読み取れ、それを突いたりなぞったりする事によって対象をあらゆる要因を無視し殺す事が出来る。』らしい。 要するに全てを殺す点と線が見えると言う事だ。 見えるようになった当時は辛かった、何しろ世界全ての物に線があり点がある。気が狂いそうだった、それが死と知らない時でさえ、その点と線に不安を覚え恐怖した。 ある日、点と線に満ちた世界から逃げ出したくて、病院から抜け出した。 そして逃げ出した先の草原で『先生』に出会い、俺の世界の有り様が変った。 ・・・とまあ、周りを囲まれつつある状態なので話は割愛させてもらうが、それから秋葉と再会し、アルクェイドと出会い、シエル先輩と出会い・・・そして。 「おにいちゃん、目が蒼いよ。」 「え? ・・・ああ、怖いかい?」 「ううん。綺麗。」 「ありがとう。」 こちらを覗き込んでいた都古を後ろに押し込んで周囲の人間を見る。周りの人間は蜘蛛の巣のように点と線が描かれていた。 やはり、 「グール。」 「三剣!!」 目の前を歩く男に声をかける。 「・・・ん? ああエレイシアか。どうした?」 「どうしたじゃ、ありません。」 一瞬、別人かと思いました。鬼気迫る顔と言うか、何と言うか。 「そんな顔して何処に行くというのです?」 「何でもない。」 そんな顔して、何でもない訳ではないでしょうに。 「どうしたんです? いつもの貴方らしくない。いつもならば、すれ違って私に軽口位かけるのに、今回は気付かなかったの様に通り過ぎるとは、貴方に限ってありえません。」 そう、この男にとって私は監視対象のはず、声をかけないとは考えられない。きっと何かあったに違いないです。 「悩み事なら相談ぐらい乗りますよ。」 「・・・はあ、お前に相談か。それも良いかもな、本日付で君を含む目標の監視任務を解かれた所だ。」 「は?」 今この男は何を言いましたか? 「ばっ馬鹿ですか貴方は!! 監視任務を外れたとは言えそんな事をペラペラ喋って良いわけないでしょうが!?」 「解っているさ、だが状況がかなり拙い。切迫しているのでな。」 「しかしですね・・・。」 私の言葉に被せるように言う。 「暇あるか? 一寸来てくれ。状況は歩きながら話す。」 「・・・いいでしょう。」 そう言うと彼は歩き出す、軽く背を丸めた背中に着いて行くと、噎せる様な空気・・・グッ、なんですかこの空気は、喉が焼け爛れるような感じです。 「三剣、あなた、本当に如何したんですか?」 暫く無言で歩く。 「三剣!!」 「先月の検死、覚えているか?」 「覚えています、その後の質問もしっかりと。」 背中越しで解らないが、目の前の男は怒っている。そう思わせる何かがある。 「なら話が早い、俺のチームの一つがその後を追っていて二ヶ月見つけることが出来なかった。」 「当たり前でしょう、戦闘が専門の貴方達が探索と言う分野に置いて、吸血鬼を見つける事は至難の業です。」 「いや、ある程度の時間と労力さえあれば見つけることは出来る。だが二ヶ月は長すぎだ。そこで一計を考え、この三咲町の数区域の空き巣常習犯のリストを作り、そいつ等に尋問を行った。」 空き巣? ・・・ああ。 「なるほど、『最近忍び込んだ家で異常はなかったか?』を聞いたんですね。」 「ああ、色々な話を聞けた。中でも・・・まさか此処の話を聞くとは思わなかった。」 立ち止まった三剣の目線の先には最近出来たマンション。 「私の家から近いですね。」 マンションのオートロックを解除しエレベーター乗り込む。 熱い、熱源は解っている共に乗った目の前の男から放出されている。 男を見ると、先程とも違う別人のように目つきが完全に変わっている、全てを焼き尽くす怒りを湛えているかの様な目。 エレベーターを降りある部屋の前で止まる。 ガチャガチャ。 「鍵は持っていないんですか?」 「残念ながらな、一寸下がってろ。」 人差し指を鍵穴に当てる三剣が呟いた。 「融解。」 ズブッ 人差し指が鍵穴を貫いた。考えようによっては遠野君並みの出鱈目だ、相変わらずこの原理がわからない。 「中に入ってくれ、近所の住人に見つかるとまずい。」 「わかりました。」 中に入るとムッとした空気が充満していた。 重低音で鳴る冷蔵庫、水の張られた鍋、その中には腐っている何かがあった。 そして、一番目立つのは部屋の奥に横たわる死体。 思っても居ない事態に立ち止まった私の横を通り過ぎ、その死体の傍に膝をつく三剣。 「・・・吉塚、任務が終わったら彼女に会うから無事に帰るって言っただろうが、こんなになったらいい男が台無しだ振られてしまうだろうが。」 カーテンに寄りかかる様に倒れる死体に話しかける・・・死体に声をかけるその声は限りなく優しい声だった。 「こっちは斉藤か、産まれたばかりの娘にプレゼントするって言ったのに約束を守れないな・・・代わりに渡しておくから怒るなよ。」 苦笑する声すらも悲しく聞える。 「新堂・・・いつも笑ってたな、お前の御蔭で救われたことが多かったぞ。あっちに行っても笑っててくれ。俺が逝くには、まだまだ先だが土産話を一杯してやる、楽しみにしてろ。」 手を合わせる。 近づくと、その遺体の惨たらしさがわかる、死体は打ち捨てられたかの様に散乱していた。 最も特徴的な事は三体すべての遺体の皮が剥がされている事だ。 「貴方の部下ですね。」 ベランダから外を見ると私の家が見える。ここで私の家を監視していたわけですか。 「ああ。」 「私で良ければ祈らせて下さい。」 「良いのか? 曲りなりとも我々は君を監視していた者だぞ。」 「命あるもの、死ねば全て主の御許に行きます。死んだ人間には敵も味方もありません、それ以前に貴方は今さっき言いましたね『監視任務から解かれた』と。ならば貴方は、少なくとも今は敵ではありません。」 「・・・スマン、頼む。」 「おわりましたよ、何をしているんですか?」 テーブルの上に置いてあるモバイルを操作する三剣の背中越しに画面を覗き込むと何かのプログラムが動いていた。 ・・・・私には良く解りません。 「データを復元している。・・・チッ、中継車のメインPCにアクセスした跡がある、此処からデータを引き出して計画的にグールを当ててたか。」 「なるほど、それで監視任務が解かれた。いえ、監視任務が行えなくなったのですね。」 「・・・この際だ、此処までの経緯を私に支障が無い程度で話そう。この町に居た隊員のうち半分が今日の昼を境に消えていた、12人一組を一隊とした小隊を四隊連れてきたから24人だ。連絡を取ろうと思ったのだが一向に連絡がつかない、その上に空き巣からの話を聞いて一つ一つ見回っていたらこの有様だ。」 「貴方の部下の姿で数ヶ月なりすまして情報を引き出し、裏で操作をしていた訳ですね。しかし、気付けないとは貴方らしくない。」 「今回の奴は訳が違う。ドイツでも一度見破った経緯があったが、今回は全然違った、この写真の男を知っているか?」 ポケットから取り出した写真を見せてもらう、そこには邪悪を貼り付けたような笑い顔で写る初老の男が写っていた。 「ワイアルド・ディケンス。ネクロマンサーと言う話で通っていたが、実際は東南アジアを中心とする呪術師だ。」 「呪術師ですか。この男が死徒と・・・白翼公と手を組んでいると?」 「十中八・九、そして皮を剥いだ張本人だろう。」 「それは、どういう意味ですか?」 死徒と関係ある男の皮を剥ぐ行為がわからない。いや、それ以前に皮を剥ぐ必然性が無い。 今一度、居間に横たわる皮を剥がされた死体を見る。 一体、何の為に殺し皮を剥いだのだろう。 「クリスマスの時の戦いを覚えているか?」 忘れるはずがありません、あの後の事後処理が大変だったのですから。私は肯定の意で一つ頷いた。 「あの時の死徒の擬装用の皮膚・・・DNA鑑定をかけたら、シュピーゲル家の者と一致したそうだ。」 ・・・? 皮膚がシュピーゲル家の人間・・・では中の人間は? いえ、死徒は一体誰だと言うことです? 「君は教会圏の人間だから知らんだろうが、呪術に皮を被せてその人間になりすます術がある。私の予想だが、私の部下の皮をグールに被せ遠隔から操っていたと思う。そう考えると見つからなかった理由がハッキリしている。」 「自分の操る皮を被ったグールの探索圏に隠れれば良いと言う事ですか。」 厄介な、これでは鑑別が難しい。こんな術が使われたら死徒と人間の区別がつきません。 その時、三剣の携帯電話が鳴った。 「失礼。・・・ああ、それで見つかったか?」 三剣の顔が段々と険しさを増していく。半年前に再会した時とは違う顔、一番最初に出会った時の顔だ。 数年前、この男と鉢合わせをした時彼は一人だった。 話によると、チームを組んでいた仲間が三剣の静止を振りほどいて死徒の館に突っ込んだ。 彼は、先程と同じ様に死んだ仲間の死体の前で語りかけていた。 あの後の、三剣の恐ろしさは今でも覚えている。 アルクェイドや死徒と対峙したとは違う恐怖、意志の具現が傍で戦っていると感じた位だ。 「エレイシア拙い事になった。更に四人消えた・・・遠野志貴を監視していた人間からの連絡が途絶えた。」 「何ですって!!」 「急げ、場所は繁華街の服飾専門店だ。」 「解りました!! ですが、大丈夫ですか?」 周囲の雰囲気が変わった、きっとこの男も気付いている。 この人ではない者の息遣い、引き摺る様な足音の合唱、それがドアの前に集まっている。 「大丈夫だ、行け。」 ユラリと立ち上がる三剣の身体から陽炎が立ち昇る。 ズザッ 振り返ると後ろの皮を剥がれた死体がユックリと起き上がっていた。 「早く行け、巻き込むぞ。」 「・・・解りました。又後で会いましょう、話も聞きたいことですから。」 「ああ、又後でな。」 手を水平に挙げる三剣を後ろに、皮を剥がされたグールを飛び越えベランダから飛び降りた。 瞬間 先程まで居た部屋から火が立ち上った。 |
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