第17話
作者: ディー   2005年08月09日(火) 22時47分41秒公開
限が無い。
狭い扉から波の様に次々と現れるグールを半ば機械的に倒しながら思う。
一撃で葬っているとは言えども、体力は普通の人間と同じぐらい悪く言ってもそれ以下、それに加えて頭が割れるような頭痛がユックリと体力を削っていく。
このままでは直ぐにでも息が上がるか、頭痛で倒れるか、グールに殺されるか、血を吸われて仲間にされるか。
多分どれか、そう感じた。
都古の事を考えると今は此処を離れるべきだと判断する、一瞬で決心すると目の前のグールの点を突き前へ、前へと大きく跳ぶ。
「おっおい!!」
後ろで慌てた声を上げる留学生に目で都古の居るロッカーを指し示し、グールを踏み台にして今まさにグールが湧き出る扉へと突っ込む。
「ハアァァァァッッッッ!!!」
何だか良く解らない身体が覚えている技をそのままに攻撃を放った。

ザン!!

左面のグールに走る線を肩口から袈裟に斬りおとす。

ザン!!

手の動きをそのままに右面のグールの下腹部の点を貫き。

ドゴォォォ!!

正面のグールを下から蹴り上げる。
扉の前のグールの陣形が崩れる。
怯んだ、今だ!!
崩れた陣形を体当たり気味にグールの壁を突破し廊下を疾走する。
狙われているのは俺、だったら今出来る事は都古から出来るだけ離れる事。
「どけぇ!!」
次々と現れるグールを一閃二閃と薙ぎ倒し薄暗い廊下を走る! 走る!! 走る!!!
あれだけ大量に居たグールがついて来ないのを訝しげに思いつつ階段を二段飛ばしで駆け上げる、その時だった。



ゾクッ



今まで感じた事のない種類の殺気、アルクェイドやシエル先輩が戦う時とは違う。
集団で襲いかかってくる何かが来る、とんでもない程の怖気を感じ階段を後ろに飛び下りた。

タタタタタタタ

先程まで居た所に打ち込まれる何か・・・銃弾か!!
それを認識する前に赤い光が目に付く、それは正に狙いを絞られた赤い斜線。
胸に、頭に、足に集まる。


タタタタタタタ

物陰に飛び込むように入る。
そっと顔を出し窺うと・・・いる、黒い服の戦闘服らしい物を着たグール二・三人がこちらに銃口を向けて!! ヤバ!!

タタタタタタタ

亀よろしく慌てて首を引っ込める、飛び散る火花、削れるコンクリートの壁。
何だあれ? 銃を持ったグールなんて、この間見たイギリス吸血鬼漫画みたいな展開だぞ、やられている方としては冗談にしては笑えないが。

ジリッ

空気が泥の様に感じる、ヒシヒシと感じるプレッシャー、どんどん近づいてくる、舌の根が乾く。
動けない、きっと動けば銃弾に身体を貫かれて俺は死ぬのだろう・・・でもこんな所では終われない、まだ彼女に言って無い事もある、やってあげたい事がある、見せてあげたいものがある、この身体が命尽きるまでやってやりたいんだ、だから終われない。
だから、動け・・・動け・・・動け動け動け動け動け動け動け!!!!
震える膝を叱咤し無理やり身体を動かす・・・。

ジリッ

包囲してくる、ユックリと網を編むように、退路を奪うように。
だがそこが盲点、退路が無いなら作れば良い。
この状況下で不幸中の幸いなのは、他のグールが来ない事か。

ジリッ

・・・・・・・・・・・・・来る。
死の線が流れる。
直死の魔眼でみた横の壁に走る線を切り抜き隣の部屋へと雪崩れ込む、瞬間に銃弾が着弾。
何とか避けきれた、後は急いで床を切り貫き・・・・っっっ!!!

カランカランカラン

見てしまった、缶のような形の手榴弾を・・・あれは漫画とかで見た事がある手榴弾!!

カッ!!

世界が白く塗り潰される。
迸る強烈な閃光と強烈な音が俺の視覚と聴覚を麻痺させ、叩きつけるような衝撃と共に俺は意識をユックリと濁らせて行った。
此処・・・で、終わりか。
留学生・・・都古を頼む。
秋葉・・・翡翠・・・琥珀さん・・・先輩・・・・・・アルクェイド・・・すま・・ない。
最後に写ったのは銃口を突きつける戦闘服のグールだった。


5月3日(晴天)
遠野家嫡男、遠野志貴が行方不明。
本社からの『星夜見』の警報により能力完全開放要請を受理。
『八方塞』としての行動を開始する。
以上。


深夜2時。
潰れたクラブ。
繁華街の端っこにあるビルの四階、薄暗い照明の中、室内は所々煤けていた、いや炎が燻っている場所も数箇所ある。
電気が通っているがスブリンクラーは止まっていて作動していない、そのお陰で男は水に濡れずにすんでいるのだろう所々で灰になりかけている死体も。
暗い室内の中で男が一人、破壊されたカウンターに辛うじて被害を免れた椅子と共に座っていた。
黒いコートを羽織り、少し猫背気味にペットボトルに入った水を飲んでいる。

「燃えろ。」

男の言葉でカップに浮かんだ蝋燭に炎が付いた。
揺らめく光が男の顔を照らす、能面のような感情の消えうせた無表情、だが何故か感情は伝わって来ていた噴火前の火山のような熱気で。

バタン

勢いよく扉が開かれる、ドヤドヤと入り来る複数の人間。
男の座るカウンターを中心に半円状に整列する。
その数約二十人以上。
その一人が何らかの術をかけたであろう荒縄で簀巻きにした荷物を床にそっと横たえた。
「美山香織中隊長ならびに監視部隊隊長以下総勢21名、全員そろいました。」
「報告を。」
「町の至る所を探しましたが見つかりません。完全にこちらの動きを読まれています。」
男の眉間の皺、それだけで総てを物語っていた。
「こっちのデータを総て持っていかれているからな、仕方があるまい。美山香織中隊長、個人的に開発していると言う例の武器はどうなった?」
円の中から一人前に出る。
「はい、対吸血鬼用の制圧催涙弾は完成しましたが、一つ問題があります。」
「なんだ?」
「今回試した所によると、吸血鬼には絶大な効果がありましたが・・・真祖には効くのかどうかが・・・・。」
完全に疑問符が頭に浮かぶ三剣、不可解な言葉を聞いたという顔。
「・・・一寸待て、試したってどう言う事だ? 見つからなかったのだろう?」
「見てもらえれば解ると思います。少し毛色の違う吸血鬼を見つけましたもので。」
「見つけた?」
複数の人間が先程置いた簀巻きの封印を解き、何処からともなく取り出した自動小銃の銃口を簀巻きに向けた。
解かれていく封印の中から現れ出でるのは、少女だった。
耳の上で束ねた栗色の髪、薄汚れている制服、学校では多分男子の人気を集めるだろうなと思われる可愛い顔。
そして、その口から覗いている鋭利な牙。
「確かに、毛色が違うな・・・最近の吸血鬼とは何か違う感じがする、血の臭いが極端に薄いのか?」
「それだけではありません。最初の接触の時も『少し血を吸わせてください、決して死にませんから安心してください。』と、やけに下手でしたし。」
「・・・・・・。服装から考えるに志貴君の通う高校の制服だな・・・服の汚れ具合から逆算すると・・・・はぁ。」
「いかがしますか?」
呆れ果てているのか笑いを堪えているのか、顔を抑える三剣。
「前回襲われた人間が時間の経過を吹っ飛ばして死徒になっているだと? 吸血鬼の適正があったとしても・・・・どんな確率だ・・・・まあいい、これはこれで好都合かもしれない身元の確認を急げ。」
「了解しました。」



去年の秋。
私は遠野君が夜中に出歩いていると言う噂を聞いた。
その噂を信じた訳ではなかった、ただ本当だったら夜の町で偶然に出会ったら、遠野君とあの坂道の会話の続きが出来ると思った。
そんな偶然を求め私は夜の街に出て、遠野君の姿を探した。
地方都市とは言え夜も更ければ人通りが多くなる繁華街を歩く。
今日は会えなかった、時間も遅いし一寸買い物に出かけると言って出たからお母さん心配しているだろうな怒られるかな? と考え家路につく途中で人気のない路地で突然気を失う。
多分この時にはもう終わっていたのだろう。
私、弓塚さつきという人間としての人生はもう死んだそう思った。
次に目を覚ました時はもう日の光の下を歩けないし、他人の血を吸わなければ生きていけない吸血鬼の身体だったのだから。

・・・・・・う?
混濁した夢の中に音楽が流れる・・・ピアノの音?
目と鼻に痛みを覚えながら、ゆっくりと目を開くとそこは、緩やかなピアノ曲が流れる薄暗い空間だった。
「ここは?」
白い布の上に横たえられた身体を起こす。
「繁華街の外れにあるビルの一室だ。」
男の声、振り返ると椅子に座っている男が一人、慌てて身構えようとしたその時。

ゾクッ

味わった事のない怖気が走り身構えようとした身体が凍りつく、目だけを動かすと周囲には私を狙う沢山の銃口。
「ヒッ。」
息を呑む、この吸血鬼の身体になって初めて味わう集団のプレッシャー。
「いい、降ろせ。そんな物無しで個人的に話がしたい。」
「しかし、相手は死徒です。」
「俺がやられると?」
「・・・申し訳ありません、失言でした。」

ザッ

目の前の男の言葉に納得したのか一斉に銃が降ろされ、軍隊のような集団が一歩退く。
声の主を恐れつつ私は男を観察した、黒いコートを羽織った猫背気味にペットボトルの水を飲む男いやに無表情だ・・・いやあれは落ち込んでいる?
水を一気に流し込むと男は顔をこちらに向け再び口を開いた
「さて、君に質問だ弓塚さつき君。」
「え?」
私の名前、知らない人間に呼ばれ驚愕より得体の知れない恐怖を感じた。
男はこちらの動揺など構わず言葉を継ぐ。
「去年の吸血鬼事件の被害者の一人、行方不明の届けがだされていたが先月の終わりに死亡認定が下りている。」
「え?」
頭が真っ白になる。
両親は私が居なくなったのを心配している、親の声を聞きたくて何度も電話をしても何と言っても良いのか解らないから、電話はずっと無言だった。
だけど、両親には生きていると伝わっているはず、大丈夫だと伝わっていた筈だった。
「葬式もやっているぞ気付いていなかったのか? まあ、それは良いだろう・・・ところで・・・。」
「・・・・・。」
「ふむ、死んだとされたのがショックだったか? 理由を知りたいって顔だな、良かろう条件によっては教えてやらんでもない。」
「・・・条件聞いてから考えます。」
「良いだろう。今、私は駒の一つでも良いから欲しい『戦闘要員』と言う駒がな。」
「私に協力しろってこと?」
いかにもと言う顔で笑う男。
「意志が皆無で操り人形といっても差し支えのないグールとは違い意志を持っている君をね。」
「どう言う事ですか?」
「普通、吸血鬼と言う物は血を吸われていきなり吸血鬼にはならない。普通、死徒と呼ばれる吸血鬼に吸われた場合はグールと呼ばれる屍食鬼を経て長い時間をかけてから吸血鬼になる。だがね。」
新しい水を取り出し一息つくと、男はさも新しい玩具を見つけたというような顔で笑う。
「君は、そんな時間や経過を総て吹っ飛ばして吸血鬼になっている。状況から見るに君のポテンシャルは死徒27祖レベルじゃないかと推測する。」
「でも私、戦いなんてこの間まで知らない女子高生ですよ。」
「いやいや、君の死徒としてのポテンシャルはかなり高いと思っている・・・それに君を焚き付ける方が良いかな?」
「私を・・・・焚き付ける?」
「我々の敵が遠野志貴を攫ったと言ったらどうする?」
「え!?」
私の思考が再び凍りつく、それは決心せざるを得ない言葉だった



「まだ見つからないのですか!!」
「落ち着いてください、秋葉様・・・・。」
そう言う翡翠ちゃんは少し血の気を失った顔で部屋の隅で立っていた、その姿を見た秋葉様は一番落ち着かなければいけないのは、この家の当主の自分だと気付き言葉を収めるとソファーに身体を預けた
「ごめんなさい、あなたの気持ちも考えずに。」
「いえ、主人に差し出がましい事を言い、申し訳ございませんでした。」
毎日毎日、志貴さんが帰ってくる時間を見計らって彼女は門の前で彼を待つ、彼女は主従関係以上に彼を思っている。
そんな翡翠ちゃんの今の気持ちは心配と不安で張り裂けるようでしょう。
事の起こりは二日前、私が調べ物の為に遠出をした日、志貴さんの通う学校の留学生が気を失っている有間都古ちゃんを連れてきた時から事を発した。
突然、失神している女の子を背負ってから現れた青年に驚かなかったわけではないが、一緒に居るはずの志貴さんが居ないと言う事が不可解だった。
あの人が気を失っている女の子を放ってどこかに居るなんて考えられなかった。
そこで、黄金週間という長期休暇を使い志貴さんとどんな過ごし方をするか悩んでいらっしゃった秋葉様が、拷問・・・・もとい尋問・・・縊り殺す勢いで留学生に説明を求めました。
実際に聞けたのは失神から目が覚めた20分後でしたが・・・。
そこで聞けた話は
『死徒27祖』『白翼公トラフィム・オーテンロッゼ』『真祖狩り』『クリスマスの戦い』
と他色々です。
「そうですよ秋葉様、心配しているのは私たちも一緒です。」
「解っているわ。琥珀、手がかりも見つからないの。」
「残念ですが、何一つ・・・先日聞いた話だと簡単には見つかりません。ただ、見つけ出し尚且つ救う事が出来そうな人は三人ほど居ます。」
「・・・・。」
あからさまに嫌な顔をする秋葉様、それはそうだろう。受け入れられない人間が自分の愛しい人を見つけ出す力があると知ったら、自信家の秋葉様としては自分が許せないでしょう。
しかし・・・今は状況が違います。
「仕方がありません、あの二人を呼びなさい・・・? と、あと一人は誰です?」
「『八方塞』が一人、三剣風文さんですよ。」
「・・・・琥珀、あなた・・・。」
「ええ調べました、そりゃあもう調べまくりましたよ。あからさまに秋葉様が隠しているようなので秘密裏にですが。でも隠したくなる気持ちは良く解りました、確かに御伽噺の存在が嗅ぎまわっているとは流石に言えませんね。」
「そう・・・私も隠していたから、この事は不問にします。それで、どうしてその男が『八方塞』と判断したのです?」
「ある方からお聞きしたんですよ、私の個人の情報筋からです。昔の文献に確かにあるらしいですよ『三剣』の名が。」
実は嘘だ、昔話と言う意味合いで教えてもらったので確信はしていない、これは私の勘による独断専行でしかない。
「『三剣』の名は炎を好む、そう聞きました。火攻めを好んで使う軍師と言う話や他には・・・。」
「もう良いわ・・・そう、貴女がそこまで言うのならばそうなんでしょう。」
少し疲れたかのように溜息を吐く秋葉様。
さて、これで志貴さんを救う為のお膳立ては出来ました、後は駒を動かすだけです。
翡翠ちゃんを苦しめた罪は十分支払ってもらいますよ。

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■後書き
後書きはありません。

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