第01話
作者: ディー   2005年07月01日(金) 21時11分22秒公開
それは当然としてあった。
それは何処にでもあり常にキッカケを待っていた。
それは善でもなく悪でもない、ただの種だった。



深緑の風が吹く中。海岸線の車道を法定速度ギリギリで走る。
まわりを走る車は少ないが、それ以上のスピードを上げるつもりはない。
警察に見つかると事だから・・・まあ逃げようと思えば、改造のかぎりを尽くしたこの車で逃げ切ればいい。
大きなカーブを曲がり街が見えてくる。
冬木市。今回の調査の対象になっている地方都市だ。三ヵ月前ここで人知れず戦争があったらしい。
聖杯戦争。
七騎のサーヴァントと魔術師が、手にした者の願いを叶える聖杯をめぐり殺し合うと言うモノらしい。
願い、そんな方法で叶える願いに何の価値などあるんだろう?
右手に見える水平線を見ながら、一人おもう。
もし叶える事が出来るなら自分なら何を願うだろう。
視線を戻し前を見る。看板が目の端を流れる。

『冬木市にようこそ』

街に入りすぐ、コンビニに寄りコーヒーと切らしたタバコを買い駐車場で一服。昨日の夜から車を走らせているから、いささか眠い。
座席のシートを倒し、隣の座席に無造作に置いた紙の束を手にとる。円滑な調査を行なう為に上司から渡された簡単な事前調査報告書。
「おいおい・・・どこから、この書類もってきたんだ? ・・・時計塔か?」
一枚の報告書の下に時計塔のマーク。
魔術師の学校にまで息がかかっているとは、
「うちの会社も結構また色んな所に。」
関心と呆れの入り混じる溜息が苦笑気味の口からこぼれる。
報告者の名前は『遠坂 凛』となっている。確か冬木市の霊脈の管理者、だったな。
今回の聖杯戦争のあらましがレポート用紙数十枚分、事細やかに書かれている。
???
煙草を吸いながら一通り目を通すと、漠然としない何かが引っかかった。
コーヒーを一口飲む。糖分が脳に周りカフェインに刺激され意識がクリアになってくる。
口の中で反芻するように、幾度も読み返す。
おかしい、疑う所は何も無い様には見えるが・・・何かがおかしい。
あえて言うならば、出来すぎている。普通、魔術師ならば隠匿すべき点があり、それを隠そうとすれば何かと文章に歪みが出るものだ。
この場合、その歪みが逆に無い。例えるなら、完璧主義者が作った辻褄合わせの報告書。
「何かが引っかかるな。」
一方的な見解と勘だが、自分としてはその感覚を大事にする事に決めている。
何故ならばその勘が外れた事があまり無いからだ、根拠は無いが・・・・。
まあ、その事はおいおい調査して肉付けしていけばいい。
今はゆっくりと、タバコでも吸うか。
寝そべりながら、紫煙をくゆらせる。


冬木市街に入る。オフィイス街を抜け駅前パークへと入り、観光掲示板へと目を走らせる。
柳洞寺、冬木教会、冬木大橋、思ったより観光としては適してないらしい。
「さすが地方都市、何にも無い。・・・私の実家も変わらんが。」
実家のある山の中を思い出す。まあ、あそこよりはマシだ。
まずは宿、車で寝起きだけは勘弁して欲しい。ジャングルの中よりは安全だが肩が凝るしな。
近くのビジネスホテルにチェックイン。今回は調査資金はタップリ出ているが、いつもの貧乏性でいつもどうり安いビジネスホテルに泊まってしまった。
自分が嫌になるな・・・・・。
溜息を吐きながら部屋に鞄を置き、備え付けの机に書類を放り投げる。
ベットに大の字になり暫くの自己嫌悪の後、先ほど買って来た街の地図を広げ調査報告書の順番どおりに赤丸をつけていく作業をはじめる。


「ここで、ライダーと接触。」
山の中腹にある学校、穂群原学園に赤い丸を一つ。
ここで管理者の遠坂凛嬢は敵マスターの指示による展開した凶悪な結界を解除するべくライダーと戦うが、結界の解除のみで逃げられる。
「詰めが甘いのか? それともライダー故に逃げ足が早かったか・・・・・その後、新都のオフィス街で決着する。」
呟きながらホテル近くのオフィス街の一角に丸。ここが最初の調査地になりそうだ。
「その後、バーサーカーと対決するべく、郊外の森にあるアインツベルン城へと・・・・」
郊外の森に丸。煙草を一本出す。
「城で戦い一時退却し、森の一角に罠をはり撃破。その後、遠坂邸に戻り待機中にキャスターの襲撃にあい、それを撃破。」
深山町の小高い住宅地に丸。 ライターを探すが・・・見つからない。
「聖杯の気配を感じ、柳洞寺へ行きランサーと戦いマスターの言峰神父共々撃破。その後、聖杯の異常に気付き破壊。」
最後に山の中の柳洞寺に丸。ポケットの奥から100円ライターを取り出し火をつけ、肺に吸い込む。
一息つき報告書に書いてある通りに細かい事まで書き添えていく。車内で思った通り書類だけでは疑問は尽きないが、目で見て確認してから判断するとしよう。
今はとりあえず昼飯の前に仮眠を取ろう。少し眠い。



目覚めると十五時すぎ。
仮眠を取ったのが十二時だから、少し寝すぎた。
遅すぎる簡単な昼ごはんを食べ、まっすぐとオフィイス街へと向かおう。こんな調査は手っ取り早く済まして、残りをさっさと休みにした方がいい。
ホテルから出る前にフロントに自分宛の荷物が届いていないかと尋ねたところ、大量の荷物が特急便で届いていた・・・今回の仕事道具だが、ダンボール三箱分、無茶苦茶な量だ。
フロントに受け取りのサインを書き部屋まで三往復。
段ボールの箱書きにはサイファグループのロゴマーク。ハンマー二つを交差させた真ん中に西洋剣を突き立てたイラストがデカデカと飾っている。
箱書きに内容物は精密機器と雑貨になっている。その割には、無茶苦茶重い。
箱を開ける。一つは砂袋、一つは二リットルのペットボトルの八つセット、最後の一つは緩衝材に包まれた日本の能面が八枚と水晶の塊が八つ、それと説明書が一冊。
今回必要な分だけ取出し、最初の調査予定地へと向かった。
オフィス街へと入り目的のビルへと向う、遠回りをしながら戦いの痕跡がないかと、さり気なく物色しながらゆっくりと。
「ここは、思ったより発展している。夜はゴーストタウン化するな、ここは。なるほど、人目を避けて戦うにはもってこいだ。」
調査場所は、人が少ない場所もしくは人が立ち入らない場所、結界の残滓、霊的場所、聖杯戦争中の事件がおこった場所を中心にしよう、その方が見つけやすいだろう。
一時間かけて回ると少し疲れた、背中に背負った精密機器とクーラーバックの重さを肩に食い込ませ目的のビルを見上げる。

「ふうー」
口から疲労の含んだ息が漏れ出す。いかん、最近実戦不足だな何とかしないと、密林のジャガー相手じゃマダマダ。
それにしても途中から階段になるビルとは・・・よっぽど体を動かす事が好きな奴じゃなければここじゃ働きたくないな。
このビルの設計に携わった奴に一言いいたい屋上までエレベーターをつけろと。
重い荷物を足元に置き屋上に出る扉の前で一休み。少し休憩をとった後一服したくなり煙草を出すが煙の事を考えると外で吸った方が良い
と言う考えに至り扉を開ける。
!?
予想外にも、そこには先客がいた。赤毛の少年が、ぼんやりと柵ごしに夕日を見つめている。
何かを求めるような、無くしたものを幻想するような危うい眼差し。
自殺か?だったら止めないと後が面倒くさいな。とりあえず、声をかけてみる事にしよう。


Interlude


「君、こんな所でどうしたんだい?」
男性の声で、幻想の世界から帰って来る。彼女と別れて三ヵ月。遠坂には未練は無いとは言いながらも彼女の残滓を求め、今日は戦いのあったこのビルへと足を運んだ。
きっと、この黄昏が彼女との別れを思い出させるんだろう。別れは朝焼けだったのにもかかわらず。
黄昏は何度も、あの瞬間の、彼女の顔、彼女の声、彼女の言を・・・。
「えー・・・君?」
再び声がかかる、さっきより困惑気味の声だ。また幻想の世界に行ってた、最近特にひどいな。
そこまで考えて気付いた・・・・マズイ勝手にビルの屋上に入ったのを見つかった。早く謝って、皆も(特に虎)待っている事だし早く帰ろう。
「このビルの警備の人ですか? 勝手に入ってしまって、すいません。」
振り返り、頭をさげ前を見ると、そこには濃紺のウインドブレイカーを羽織った男が立っていた。
足元には細長い筒状の荷物と保冷用のクーラーバックが見える。男は慌てて手をふり否定する。
「違う違う。私はここのビルの者じゃないよ、むしろ君と同じだ。」
半分はにかみながら、男は頬を掻いている。
だとしたら、彼は何で自分に話し掛けたのだろう? 犯罪者・・・?には見えないな、
こっちの怪しいものを見る眼つきに気が付いたのか、男は再び手をふり否定する。
「私は怪しい人じゃない。ここにはね、星を見に来たんだ」
男はそう言いながら、筒状の袋の中身を取り出した。それは間違う事無く天体望遠鏡だった。


三十分後


「すまないね。天体観測今回が初めてなもので組み立て方が解んなくて。」
あの後、男は帰ろうとした自分を引き止めた。あきれた事に天体観測は今日から始める予定らしい。
衝動買いで買った値の張る望遠鏡を使いたい為に、ここまで話を聞いて来たと言う事だ。
そして持ってきたは良いが、思ったより組み立てが難しいらしく急遽見知らぬ俺にお鉢が回ったらい。
説明書に書いてある通りに組み立てる俺に男は終始あいづちを打っていた。
「はい、これでどうです?」
「お疲れさん。」
クーラーバックから取り出された缶コーヒーを一つ渡される。天体観測は組み立て以外は準備万端というわけだ。
だが俺は物を貰うつもりで手伝ったわけじゃないので、
「俺はそんなつもりじゃ」
「感謝の気持ちさ、貰ってくれないか?」
「・・・む、そう言うなら、いただきます。」
「そうそう、人間素直が一番。」
缶コーヒーの蓋を開け一口含む。甘く苦い味が口に広がる。
「助かったよ、遠くから来て組み立てられなくて帰る事になったら笑い話にしかならないから。」
「失礼ですけど、何処からいらっしゃったんですか?」
「仮住まいは東京なんだけど、今日は福岡の方から。」
「遠くからわざわざ・・・。」
こんな地方都市まで来なければ星が見えないのかな?
「いや知り合いがここを勧めてくれたんだよ。綺麗な星が見えるよって、それで休暇がてらに行って見ようかなと・・・・この衝動買いした物もあるし」
彼の笑顔は苦笑いだった。
「話変わるけど、君は何かあったのかい? 此処に来た時に君凄い思いつめた顔してた。」
「え!?」
俺そんなに思いつめた顔をしてたのか?一成の言葉を借りるならまだまだ修行が足りないと言うところか。
「自殺でもすると思いました?」
「まあ、ぶっちゃけそうかな〜と思った。」
「すみません、なんか心配かけちゃって。」
「いや、いいよ。そうじゃなかったらそれで良いんだ。」
その後、街の観光名所の話をした後、男にもうそろそろ帰る為にコーヒーの礼を言った。いい加減に帰らないと我が家に住み着いたトラの怒りが爆発しないとも限らない。彼に別れを告げ、重い腰をあげる。
「あ・・・・そうだ」
「はい?」
「名前、聞いてなかった。色々助けてもらってながら今更ながら薄情だけど。」
「士郎、衛宮士郎です。」
「私は、七凪 紫門だ。」


Interlude out


「私は、七凪 紫門だ。」
不器用に頭を下げ少年は扉をくぐり、鉄の扉が重い音を立てながら閉まる。
「ふう」
自分の性格は良く解っている。説明書は余り読まないタイプ。機械は習うより慣れろ。まあ、そのお陰で今回はかなり苦労したわけだが。
彼のおかげで助かった、しかし今回のアイテムは何だ・・・・完成品は見ていたものの。まさかバラバラで送られてくるとは、あそこまで精密だと組み立てられん。だが、それを組み立てられる彼は一体何者だろう?
まあいい、それはお礼を兼ねて今度調べるとしよう、今は目の前の調査が先だ。
望遠鏡のカバーの一部を外すと西暦と月日を入れるボタンがあらわれる。報告者の書いてあった通りの三ヶ月前のライダーとの決着のついた日に合わせる。望遠鏡を覗くと外の風景より一寸暗い風景が映し出されている。
多分決着の時間まで時間がまだある、状況確認と準備だけでもしておこう。周りの風景と望遠鏡の風景を見比べる。
おかしな点が一つある。微妙に屋上の床が磨かれたようにツルツルとしている。しかも一箇所を基点として放射状に融けているようだ。
酸?薬品?高熱の炎?解けた床をゆっくりと指先でなぞる・・・放射の形を見る限り、これは光学兵器?・・・が近いようにも思われるが。
きっとこれが、宝具の力というヤツだろう。
それにしても、コンクリートを融かすとはかなりの高出力だ。放射状の基点から放出した方向を頼りに望遠鏡を動かす。融け方で角度を予測する、この位置位で良いかな?空を向いているけど・・・・。
続いてクーラーボックスから2リットルのペットボトルと一枚の能面を取り出す。見た目はただの水と木製の能面だが望遠鏡とセットだ。話によると国家予算三年分の開発費がかかっているらしい。
どっかに売りさばいたらダメか?
望遠鏡のレンズに光が走るどうやら始まったらしい。専用の手袋をはめ右手に仮面を持ち、急いで レンズを覗き込む。
ここからはタイミングが大切だ。
レンズの中には光り輝く流星がみえる。左手で倍率を上げる、上げる、上げる、上げる見えた!!
天馬に跨る紫髪の女性、顔は大きな眼帯で隠れているが美しい顔だとわかる、報告書と天馬との関連性を考えるとアレはメデゥーサか。
墜ちた女神・・・・。
レンズの下からの別の神々しいまでの白い光が輝きが見える。さらに倍率を上げ顔が近距離にくるように左手で調節。
もう一寸

まだ

まだ

まだ

まだ

まだ

女性の顔色が、眼帯越しでも解るぐらい変わる。
今だ!!右手の手袋を起動と共に能面ごと手を突き出す。
すると覗く望遠鏡の先の女性の前に私の右手が出現、持っている面をその顔に被せ、一気に引き抜く。
その直後レンズの中は光に溢れかえった。

さあ、ここから科学の時間!!と言うより料理の時間が近いな。
必要な物は「簡単ホムンクルスセット」と霊脈から吸い上げ凝縮した水をペットボトルに封入した「凝霊水」(商標登録中)この時点で、協会の人間を敵に回しているといえるだろうな・・・・。
中枢や増幅器として使用する水晶式記憶素子と演算機を用意。
まず袋(百リットル用)に水を半分。屋上にある蛇口を開けて袋に大体でいれる。
空になったクーラーボックスに簡単ホムンクルスセットの粉末(A)(B)と「凝霊水」をいれる。
だまにならないように混ぜボール状にし半分に割り、後に水晶を入れ玉になる様に丸める。
以外と難しい・・・今度、開発部のネーミングにクレーム入れておこう。
玉になったら魂の入ったモノを玉に合わせる・・ここで今さっきの仮面「御霊喰いの面」を玉に被せる。
で、これをさっきの水の入った袋に入れて三十分待つ。
できるまで時間がまだあるな、下の展望スペースの自販機にコーヒーを買いに行こう、あらかじめ買っておいたのは今さっき飲んだし。
と、ここで気を抜いたのが間違いだったと気付くのはもっと後の事だった。


十五分後


は?
思わず惚けてしまう。何故なら一面水だらけで袋が破けて中身が無い、驚かない方がおかしい完全に予定外だ。体が出来上がるまで後十五分残っているはずなのに・・・
ふとクーラーバックの上の説明書に目を落とす。



『注意!!時間や分量は人間成人男性を目安にしています。女性や人間以外の場合はメーカーにお問い合わせください。』
一瞬気が遠くなった。開発部の奴ら絶対遊んでやがる。
失敗は失敗だ。それは兎も角ホムンクルスは何処に行ったのだろう。柵の方に続く水の跡を追わなければならない事 と、しょっぱなから失敗した自分に今日二回目の自己嫌悪に陥る。

多分、見付けるのは無理なんだろうなあ

今からの事を考えると気分は憂鬱だ。

※この作品に関連するお話
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■後書き


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