第02話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 21時27分05秒公開
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
夢を見ていた。 ゆっくりとした風が吹く背の低い草原の中、月が浮かぶ空を虚ろに見ていた。 体は動かない。 四肢の感覚が薄れ、自分と言うモノが無くなっていく。 辛うじて動く目を胸に向けると、裂傷が大きく口を開いて心臓の拍動に合わせて血を吹き出していた。 誰から見ても解るぐらいの致命傷。 半ば諦観し再び空を見つめる。 月は中天にあり、その蒼みかかった光は優しく草原を照らしている。 耳が聞こえなくなったのか辺りは静寂に包まれている。 月の光。 夜のしじま。 『ナンテ シズカナ セカイダ』 そんな静寂を切り裂く様に影が顔にかかる。 私より大きい長身の男、暗闇と月明かりの逆光で顔はよく見えないが表情が無いのだけが良く解る。 男は右手に持った何かを差出しながら・・・・。 「生きたいか? 」 一瞬、うっすらと笑う影。 何が可笑しいのか、つられて笑う。口一杯に溢れた血が零れる。 その時、何と答えたかは覚えていない。只、私が今生きていると言う事はそう言う事だ。 何度も見る夢、一度私が亡くなった夢。 最悪の悪夢、生まれ変わる夢。 「がはぁっ」 口に溜まった血を吐き出すようにベットの上で蹲る状態で目覚めた、 最悪の目覚めだ。 久しぶりに見る悪夢、あの時感じた絶対的な死を思い出す。 体中、汗で気持ち悪い。 今日の予定まで時間はある、シャワーを浴びてサッパリするとしよう。 昨日あの後完成したはずホムンクルスを探して周辺を捜し回った。 が、結局の所見つからずじまい。 部屋に帰ったのは日付の変わった後、初日から大失敗の精神的疲労と長旅の疲労とが合わさって、部屋に入った途端倒れこむように寝た。 昨日は疲れてた、次からは一日休みを入れて仕事をするとしよう、ミスしないように。 今日は気分転換を兼ねてアインツベルンの森へと行くとしよう。 唐突に話はかわるが、皆さんはナノマシンと言うものを知っているだろうか? ぞくにナノメートル(百万分の一ミリ)という小さな世界で働くロボットの様なものだと認識して貰えば幸いだ。 このナノマシンと言うものは、その小さな体を使い、分子や原子の単位でモノを再構成する事が出来る。 用法としては、体に入れれば傷なんて普通の何倍の速度で治し、材料さえあればオーブンもなしに、いきなりケーキを作るのだって可能だ。 しかし万能に見えるが単純な弱点がある。 科学と言うモノとして存在してる以上エネルギー保存の法則に、いわゆる等価交換と言う自然法則に縛られるのだ。 何かをするには何かしらの代償がいる。先程の例で言えばケーキを作るには材料を代償に、傷を治すのにはタンパク質をという具合だ。 材料になるモノが無いとナノマシンは働かない。 そして何故唐突に、このような事を話すかというと先日のホムンクルスセットの粉末(B)には約一千万体のナノマシンが含まれている。 昨日逃げた(?)ホムンクルスには最初の体の再構成と現状の維持洋服などの生成、そしてビルからの脱出の際のかなりの無茶により、多分再構成用のエネルギーが空になっている可能性が大きい。 今ごろナノマシンの中央集積回路が材料不足でエネルギー源の糖質やタンパク質、ミネラルを欲しがっているはず。 要するに空腹状態と言うわけだ。 ホムンクルス空腹に負けて肉屋を急襲!!今なんて新聞記事の一面に載らなきゃ良いけど。 Interlude 遠坂凛の朝は最近早い。 三ヵ月前に起きた聖杯戦争時の共闘者『衛宮士郎』を蹴っ飛ばしてでも立ち直すと言う理由で最近朝早いが、今日は少し勝手が違う。 今の時刻は午前四時三十分、深山町の一角を急ぎ足で歩く。四十分前に士郎から電話があり、藤村先生や桜が来る前に相談したい事があると慌てた声で言ってきた。 かなり切羽詰まってた声、この時間に私を呼ぶと言う事は桜達に見せたくない様な魔術的な事態が起こったのだろうか。 私は大急ぎで支度をし、考えうるアクシデントにも対応できるよう宝石などの魔術道具を数点バックにつめ衛宮邸へと急いだ。 「士郎!!」 靴を脱ぐのも忘れそうになるほど急いで家に入り、士郎の名前を呼ぶ。 するとあいつは、台所からフライパン片手で 「おう、意外と早かったな遠坂」 などと言いやがりました、こいつ。 「何、衛宮君?あんなに切羽詰まった声で電話しておいて相談したい事が衛宮家の食料事情とか言ったら問答無用で眉間にガンド打ち込むわよ。」 「ちがっ違う!!」 「何が違うのよ。」 「相談したい事とこのフライパンは全然関係ないことも無いが、今は関係ない!!だから!!指を差すな!!指を!!」 顔を真っ青にしながら、フライパンを楯にぶんぶんと菜箸を持った手を振る士郎。 「全然話が解らないわ。簡潔に言って貰えるかしら、ヘッポコの衛宮君?」 「だー、そんな目で言うな。自分でもヘッポコだって事は自覚してるんだから。」 「自覚してるなら、もう一寸成長して貰いたいわね。で? どうしたのよ相談したい事って。」 「ん」 菜箸が指差す先には、箸で口まで持っていくのも待ちきれないと言わんばかりの勢いで御飯をかきこむ紫色の髪の美女が居た。 はあ?これはどう言う事? 「衛宮君チョット説明してくださるかしら?」 「遠坂? 何か勘違いていないか?」 「私には、いつもの如く人助けをして困ったどこかの女を連れ込んで言い訳ができないところかと」 「棒読みでとんでもない事言うな!! 違うって、よく見ろライダーだライダー!!」 必死に言う士郎を横目に美女をみる。長身の紫色の髪、上はワイシャツに下はジーンズとラフな格好、顔には眼鏡・・・あの眼鏡は私の想像通りなら魔眼殺しの眼鏡だが。 「あら、言い訳?」 「冗談はやめて本気で聞いてくれ遠坂・・・・頼むよ。」 「良く解ったわね。」 「まあな。」 うんざりした顔で『その笑顔の時は良くわかる・・・。』等と言う呟きを敢えて無視して言葉を続けた。 「ライダーは、あの時倒したはずじゃないの? それ以前に聖杯戦争が終っているから生半可なことじゃ現界出来ない筈なんだけど・・・士郎、何か心当たりは無い?」 「解らない。だから、遠坂に来て貰ったんだろ?」 なるほど。確かに士郎の言うとおりだとライダーなんだろうが。疑問点も幾つかある、それにあの魔眼殺し、あんな強力な物そう滅多に手に入るものじゃない。 一応、本物と言う線で話を聞いてみる事にしよう。 「ねえ、あなたに質問を二・三しても構わないかしら?」 私はライダーと思わしき女性の対面に座りながら尋ねる。 「何ですか?」 さほど動揺もせず見つめかえしてくる。う、じっくり見てみるとかなりの美人だ。 その顔を見るとギリシャ神話を思い出す、確かに海神ポセイドンの寵愛を受けただけはある。 「あなたのマスターは誰だかわかる?」 「私のマスターですか?マスターは慎二だった事を、そこのセイバーのマスターに聞いていませんか? 」 「そう、前の聖杯戦争の事を覚えているわけね、それじゃあ二つ目、あなたの張った結界は凄かったわ流石の私もあのビルの人たちを──」 「私が結界を張った場所はあなた達の通う学校と言う所だと記憶していますが。」 言葉を途中で切られる。 「正解、最後に最後にあなたが戦った場所は柳洞寺で良いのかしら? 」 「下手な引っ掛けばかりです。最後に戦ったのはビルの屋上で、相手は同じくセイバーです。」 「なるほどね。」 「何が、なるほどなんだ?」 いつの間にかに端に座ってお茶を入れている士郎を軽く睨み付ける。 「最初から言ってるだろ、ライダーだって。」 「馬鹿・・・だからヘッポコって言われるのよ。よく聞きなさい。私が疑った理由は、ライダーからは魔力が普通の魔術師より多め位にしか感じられなかったから。それでもあんたより多いけど。」 「たしかにそうだな。」 おお、と驚いた顔。今気付いたのか・・・今度の授業できっちり絞る。 「あんたねえ、聖杯戦争が終わって腑抜けてない?」 「そんな事無いぞ。」 「無い事無いわよ、ちょっとは疑ってかかりなさい。もしライダーがマスターを殺された復讐とかだったらどうする気?」 「む・・・・。」 考えてなかったな、全くこいつはひょいひょいと簡単に人を信じるんだから、危なっかしくて目が放せない。 「まあ、それは後で追求するとして士郎、ライダーは何で御飯を食べているの?」 そうそれが一番の疑問、ライダーは私と話しているとき以外は忙しく箸を動かし続けている。 「ああ、それは俺にも解らないんだ。」 「どう言う事?」 「一時間前ぐらいにライダーに起こされたんだ、『お腹が減ったので何か食べさせて下さい』って。」 「はあ?」 こいつの言っている事が良く解んなくなって来た。 「はあ?」 うっ、呆れかえった顔で言うなよ。自分でも、おかしいって思っているんだからさ。聖杯戦争当時の格好で来たライダーを見て最初は身構えた、だけど聴いた言葉が・・・・ 『お腹がすきました。』 その言葉で彼女を思い出したなんて言えない。 まあ、その後で艶かしく迫られたのは誰にも言えない秘密だ。 「うっ・・・まあ、その事はなかった事にしてあげるわ。」 気付かれたか?表情に出てしまったんだろうか? 「すまん遠坂。」 ・・・・・いかん気まずくなってしまった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「すみませんが、もう一杯頂けませんか?」 そんな静寂を壊すようにライダーがそっと茶碗を出してきた、ナイスタイミングだ。しかし、三杯目だからか?知っててやってたのなら一体そんな知識どこから仕入れてくるのだろう。 「あ、はい。」 ちょっと多めに御飯をよそってやって茶碗を渡す。桜達が来る前にもう一回炊いた方が良いな。 「ねえライダー、貴女どうしているの?」 「いると言う事とはどういう意味でしょうか、ええ・・・。」 「遠坂凛よ、凛でいいわ。ちょっと質問が悪かったわ、どうやって現界しているのかって事。」 「一つ訂正させて貰いますが、私は現界している訳ではありません。漠然ですが多分現界ではなく作られた感じですね、その方が妥当だと思われます。」 「どう言う事? 」 「霊体化できないのです。それと目覚めた時には、なぜか水の入った袋の中に入っていました。」 「まさか!? 」 険しい顔の遠坂、何か重大な事なんだろうか。 「どうしたんだ、遠坂。」 「どうしたんじゃないわよ、質問は後よ!! で、その場所は? 誰か居たの??」 「セイバーと戦ったビルの屋上です。目覚めた時には誰も居ませんでした。」 ゴン テーブルに突っ伏す遠坂。しかし、あのビルの屋上で目覚めたとなると、あの人が関係しているのだろうか?天体観測しに来て居ただけだと思うし。 ああ、遠坂が震え始めた・・・・そろそろ来るな。ジェスチャーで耳を塞ぐ様にライダーに伝える。 「ビルの屋上って、そんな馬鹿な事あるかーーーー!!!!!!!!」 「遠坂まだ五時前だ、頼む静かにしてくれ。」 両手で耳を塞いだはずなのに耳鳴りがする。声に魔力を乗せてるんじゃないのか?後学の為、今度聞いてみよう。 「うっさい、ホムンクルスを作るのにそんな場所を使うなんて非常識以外なんでも無いじゃない。せめてビルの一室とかわかるけど、ついでに誰も居ないなんてどう言う事?!!!杜撰!!杜撰すぎるわ!!」 「でも非常識って言っても実際ライダーがここに居るし。」 「ああ、もう。冬木の管理者として、誰が何の為にこんな事をしているか調べなければいけないわ。」 人の話も聞かず、そのままブツブツ呟き自分の世界に入る遠坂。 もう時間は五時、今日は少し豪勢な朝飯にして桜達を驚かすとするか。 そう言えば、ライダーの事を何て言って誤魔化そう。セイバー・イリヤに続いてライダー、流石に切嗣の知り合いは通らないだろうなあ。 頭が痛い。 Interlude out 朝と言うには遅く、昼と言うには早すぎるような時間。 そんな時刻に新都にある、一寸古めの感じがする喫茶店で少し早めの昼食を取る。 先程から店内に流れる曲はビートルズ。クラシカルな雰囲気の中、今朝の事に付いて考え直す。 遅く寝たにもかかわらず悪夢のお陰で朝は思ったより早く起きれた。アインツベルンの城へと向かうために重い荷物を持ってアインツベルンの森へと踏み入ったのだが、一時間ぐらい同じ所をグルグルと歩きまわされた。 何故、歩き回されたと言うのは仕切りなおしとして一度森を出ようとしたら五分とたたずに出られたからだ、それを考えると何かの結界が張られていたらしいと言う結論に行き着く。 結界を破る装備を使うか張った術者に解いてもらうかしないと、あの森には一生入れないだろう。 「ご注文の品は御揃いですか?」 新聞を下ろすと目の前には色とりどりの食べ物の数々、ピラフ・オムライス・カレーにコーヒー喫茶店の定番、希望としてはデザートも行きたい所だが・・・・そんな気分ではない。 「クスクスクス」 ん?ウエイトレスの女の子がこっちを見て笑っている。 「よく食べられるんですね。」 「ん、ああ今日は、チョッと疲れててね。」 実際疲れると、この二倍は食べてる。別に病気な訳ではない十年位前を境にして起きた体質だ・・・・。 カランカラン 扉に付いたベルが乾いた音を立てる長年の習性で入り口に目を向けてしまう。 音と共に、外から銀色の髪をした妖精の様な少女が入ってきた。 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■一覧に戻る ■感想を書く ■削除・編集 |