第05話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 21時29分43秒公開
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・・・・・・うわーーーーー。 思わず、溜息混じりの声が出そうになる。 さもありなん。机をはさんで目の前には学校で知り合ったばかりの藤村先生こと藤村大河。右には、その藤村先生に御飯をよそいながら微妙に引きつる顔の家主の衛宮士郎君。 そして一番問題なのは、左手の・・・・・まあ何と言うか・・・・・こんな所で見つけるとは思わなかったが、紫の髪の美女『ライダー』が居た。 顔の半分を包むモノがなくなり眼鏡に変わっているが十中八九間違いないだろう。まあ、それは兎も角・・・・・ ・・・・・・い、居心地が悪い・・・・・・・ 事の発端は二時間前、動けなかった葛木を介抱している時に入ってきた女性が原因だ。 「大丈夫?葛木先生」 大型の猫科を思い起こさせるような人懐っこい感じのする女性が、一人の女生徒を連れて入ってきた。何故大型かと言われれば答え様が無いわけだが、そこは割愛させていただく。 兎も角、その顔には心配そうな表情が浮かんでいる。 「先生、大丈夫ですか?」 「大丈夫だ、問題ない。体も・・・・。」 この通りだ、と続けようとするが心配させない為に無理やり動かそうとしたのだろう、が内臓自体にダメージを与える技の影響で体が動かない。むしろ体に力が入らない筈だ。 「無理をするな、手加減はしておいたが、そんなに軽い訳でもない。後で薬を出しとくから、大人しくしてろ。」 「そんな・・・事よりお前はどうだ? 入った一撃、手加減抜きで打った。骨は無事ではあるまい。」 実は胸骨に入った一撃は(骨折全治一ヶ月)は大分癒えている、どうやって治したかは今は内緒だ。 「こっちは大丈夫だ、痣にはなるだろうが。こっちは腐っても医者だ、自分で治す心配する事は無い。」 事実を絡めつつ嘘をつく。 医者なんてやった事は無い、やろうと思えば出来るが。 「へええ〜お医者さんなんだ、だったら大丈夫だねえ。一安心だね美綴さん。」 「そうですね。ところで、聞かせて貰っても良いでしょうか?」 美綴と呼ばれた女生徒が間違いを見つけた上司のような笑顔で聞いた。 「二人は結構、親しそうだけど、葛木先生とは知り合いですか?」 葛木に合わせろと目でサインを送る。 「大学の同好会で一緒だった。学部は違うが、同じ古武道をたしなむと言う理由でな。」 「そうそう、こいつが教育学部で私が医学部。」 何とか、この状況を誤魔化せそうだ。と思いながらも次なる質問が。 「へえ、それにしても今さっきの戦いは凄かった。先生たちはいつもそんな戦いをしていたんですか?」 「む。」 質問に口ごもるな葛木。嘘がばれるだろう? 「いえ、実戦研究会という同好会で、今まで教わった技を実戦で使ってみようという事で、こいつとは昔からこんな戦いをしていたんですよ。」 「凄いなそれは、少し興味があります。何処の大学ですか?」 何だこの二人は、実戦に興味がある?それよりも、まずい大学の名前・・・・。 「○○大学だ。」 葛木フォローをアリガトウ。そして、その大学は医学部がない。 「あれーその学校は医学部はなかった・・・ような。」 「葛木とは違う大学だったんですよ、同好会同士の試合で会いまして。」 ハハハと空笑いで誤魔化しておきながらもう余計な事を言うなといわんがばかりに見えない位置から脇腹に手刀を入れる。 これで一時は喋れない。 「うっ・・・・・。」 「葛木、大丈夫か? 傷か痛むか?」 「先生、大丈夫?」 「だいじょうぶだ・・・・・。」 まだ喋れたか。 「・・・・と、ところで七凪、ここに人探しに来たのではないか?」 「え? 人探し?」 意外な方向に話が持って行かれる。ここに入り込むのに使った理由を何で今?仕方がない、答えねば怪しまれる。 「え、ええ昨日ここの制服を着た人に助けて貰いまして、その人にお礼を言いたいのですが。衛宮士郎君だったかな・・・・・? どうかしました?」 またかと言う表情の女生徒、皮肉げに笑う葛木、嬉しそうに笑う女性。 「あいつも相変わらずだな、ねえ先生。」 「そおねえ、でもそれが士郎らしいと言ったら士郎らしいわ。あ、私知っていますよ。」 女性が手を上げる。 「え? 知ってる?」 「藤村大河です。その助けた男子生徒の保護者と言うか何と言うか。」 えへへ〜と自分が褒められたとばかりに喜ぶ藤村さん。 「え〜と士郎は今、家にいると思うんですけど後で案内しますね。」 「は?え?何処に?」 話が妙な流れに成って来た。 「家に。」 「何故?」 「??直接言うんじゃないの?」 「え?ま、まあ。」 今断れば、怪しまれる・・・・・まあいい、彼には聞きたい事もある。 「んじゃ決まりですね〜。」 葛木・・・お前こうなる事を解ってやってないか? その後、葛木に薬と引き換えに話を聞き、藤村先生(名前で呼ぶと怒られた)を車に乗せ衛宮邸に到着、そして現在に至る。 カチャカチャ 無機質な食器の鳴る音、微妙な雰囲気の食卓。思わず無言になる、まあ左手に居るお嬢さんは関係無しに食事をしているみたいだが。 ん?士郎君がこっちを凝視している。ライダーを見ていたのを見られたかな?もし、そうだとしたら誤解を解いて置かないと後で大変な事になる、色恋沙汰は今は面倒事でしかない・・・・。 「どうしました?」 「いっ、いや食事が口に合うかと思って。」 「おいしいよ。いつも一人で外食かコンビニ弁当だから、こう人に作って貰った食事は久しぶりで余計に美味しく感じられる。」 手元に目を落とすと、豚カツに、筍の煮付けと、味噌汁。取り分け用の小皿の上にはポテトサラダがのっているが半分以上は藤村先生に食べられた。 豚カツの衣はサクサク、ソースに何か混ぜてあるようだが素人の私は何が入っているかは解らない。 筍の煮付けは、甘辛く煮つけてある。味噌汁は味噌と出汁のバランスが絶妙だ。 カツを一口ほうばる。 「うん、美味しい。」 思わず笑みがこぼれる、そんな美味しさ。 「でしょー、士郎の御飯は美味いのよ、切嗣さんも海外の出張から帰って来る度に『士郎の御飯は美味しいねえ』って昔から言ってたし。」 「わっばっ」 慌てふためく士郎君。ここでも切嗣、今日はあいつとは縁があるな。 大体の予想はついていたが・・・・。 「でも、紫門さん残念!!ここには居ないけど美味しい中華の作れる子もいるんだ。桜ちゃんとか、遠坂さぶぐぅ。」 遠坂・・・・ね。藤村先生の口を塞いで、こちらを伺う士郎君、 ハハ・・・何と無くだけど、あらすじが見えてきた。 まあ、聞きたい事もあるから今は当り障りの無い所で話を進めよう。 聞かれてはまずい事もあるだろうしね、お互い。 「切嗣・・・・まさかと思いますが・・・・。」 一応確認の為あの時会ったアイツの風貌を語る。衛宮なんて珍しい苗字の上に、同じ町に彼の事を知っているアインツベルン、関係ない方がおかしい。 「・・・それで、無精髭がこうツンツンと。」 驚いた表情の藤村先生、アタリだな。 「ええええええ!!!!!」 キーンと耳鳴りがする。この体の何処からこんな声が?音響兵器でも喉に仕込んでるんじゃあないか? 「藤ねえ、うるさいよ。」 「タイガ食事中は静かに。」 「えっえっ、だって切嗣さんの知り合いだよ、しかも男の人初めて。」 知り合いが女ばっかりと言う事か?・・・・相変わらずかあいつは。 「それはそうだけど。」 苦笑を浮かべる、その顔には何とも言えない表情が彩られていた。 その後は藤村先生の質問に占められてしまった。ある意味、葛木戦より辛かったと言っておこう。 線香をたて、位牌に手を合わせ冥福を祈る。まあ、私もアンタも仕事が仕事だから天国には行けないと思うが、地獄であったらカフェでの話の続きでもやろう。その時は、コーヒーの一杯でも奢ってやるさ。 「聞いても良いですか?」 「ん?」 後ろに座っている士郎くんが躊躇うように声をかけてくる。 「それは切嗣の事かい? それとも私が此処に来た理由かい?」 押し黙る。 そして沈黙。 本当の所、朝食事をした時点で喫茶店の一角で彼の姿は見ていた。そしてさっきの状況から考えると偶然とは思えない。 間違いないな。多分、遠坂嬢から何か聞いているだろう。そして、この状況で話したい事は・・・・。 「どっちもみたいだね、でも切嗣の事は今さっき話した事ぐらいしか知らない。むしろ、君の方が多く知ってるはずだ。」 仏壇の部屋が再び静寂に包まれる。 「・・・・・・今さっき、藤ねぇの事で気付いていると思うけど。」 「何の事か解らないな、君が何の事と勘違いしているかは知らないが。」 「何の、事って・・・・え?」 まあ、貸しを作っておくのも悪くない。 「とりあえずは、君の危惧するような事は無い、まあ信じて貰えないかもしれないが今はこれしか言えないな。」 沈黙する士郎君、まあこんな事言っても信じられない事は解っている、ここは押し通るだけだ。 Interlude 「解りました。」 多分この人は本当の事を言っているんだと思う。 「え?」 「それにこっちが信用しなければ話が進まないし、紫門さんを疑う積もりだったら、もう遅いし。」 キョトンとした後、大爆笑された。何か俺おかしい事言ったか? 「・・・・クックックッそれはそれは・・・。まあしかし、君は本当に衛宮なんだな。」 涙目になり笑いを押さえながら話す、俺なにか可笑しな事言ったか? 「なんでさ。」 「ずっと前、そう十年位前かな?似たような台詞をいった奴がいてね。あの当時、仕事で交渉する事がよくあってな。その時のあいつの口調そっくり、あまりにも似すぎてて思わず笑ってしまった、失礼失礼。」 位牌を見ながらの楽しげな声と懐かしそうに笑う笑顔。俺はこの切嗣を懐かしそうに語る人を疑う事は出来ないみたいだ。 「良く似ている、姿は違うが言う事が一緒だ。義理とは思えない。」 「俺の事、知っているんですか?」 「八年前に会った時に聞いた。思えばあれが・・・・・」 物思いにふける彼。たしか、あの時アメリカから帰っていたオヤジが『久しぶりに知人に会った』って喜んでたっけな。 「・・・・そういえば、こっちからも一つ聞いても良いかい?」 「ええ。」 ニヤリと笑う、その顔に少し俺は寒気を覚える。 「君の夢は何かな?」 「どう言う事ですか?」 「いや、ちょっと八年前の答えが聞けるかと思ってね。答えて貰えるかな?」 「八年前?」 「話が進みそうにないから、こっちから聞こう。君の夢は『正義の味方』かい?」 え?いきなりの確信に満ちた言葉に戸惑ってしまう。 「やはりそうか。」 オヤジはこの人に何を話したんだ? 満足げに頷く紫門さんは立ち上がると俺を残して部屋を出る。 「さて、私はそろそろホテルに帰る。」 「あ、はい。玄関まで送ります。」 パタパタパタ お互い無言で歩く。 「君の正義は、どんな正義だい?」 「え?」 「打ち倒す正義、真実を暴く正義、困っている人を助ける正義、人を護る正義などなど色々ある、そんな正義の中、君の正義とはなんだい?」 「それは・・・・」 「私に見せてくれ」 口を開く前に言葉を重ねられる。 「それが八年前の切嗣への質問であり、そして約束でもある。」 靴を履き玄関を開ける、一度もこちらを振り返らない。 「私の、この『悪の手先』に納得させる正義を見せてくれ。この町には一週間、そう連休中はいる。出来れば、その間に見せてくれ切嗣の代わりに君の正義を。」 その時、俺は彼の背中を見ながらオヤジの最後の台詞を思い出した。 『僕はね、正義の味方になりたかったんだ。』 Interlude out 車にキーを差込み回す。サイドブレーキを落としアクセルをゆっくりと踏む。 藤村先生に聞くのと、あの時の切嗣の話と今日の彼を見る限り、彼は少しマズイ。 前々回の聖杯戦争の事の顛末は報告書に記載されていた、それと以前の切嗣の会話から考えるに冬木公園の辺りで彼は瀕死の重傷の所を助け出されたのだろう、そして引き取られた。 一度死んだ経験のある者として言わせて貰うが、彼は精神の死を経験した可能性がある。 自分を省みない自己犠牲に近い献身。 まるで自分が無い。 あれは何とかしないと切嗣の危惧したような事になるだろう。 質問に彼はどう答えてくれるだろう、以前の話を含め楽しみでもある。 ライトアップされた夜の冬木大橋を渡り、ウインカーを右に出し直進する。道が緩やかな上り坂になってくる。 頭上の標識には「冬木教会」と書かれていた。 「さてと、この報告書を鵜呑みにすれば、ここにランサーのマスターがいたと言う事だが。」 今日の出来事を考える限り、この報告書のおかしな点が大きく現れた。 まずは一つ、セイバーとアサシンの記載がない。まあ、会わなかったとも言えるだろうが、イリヤ嬢が生きているならば、話が違ってくるのではないかと言う事。 もう一つ、キャスターは葛木の元からいなくなる時に『坊やに会ってくる』と残したらしい。 坊や、この聖杯戦争のマスターは遠坂、アインツベルン、マキリ、葛木、言峰、残り二名の不明者。 そして当てはめると遠坂はアーチャー、アインツベルンはバーサーカー、マキリはライダー、葛木はキャスター、言峰がランサーとなれば残りがセイバーとアサシン。内『坊や』に該当するものはマキリのみ。 そして、今日の藤村先生の『セイバー』発言。 『魔術師』衛宮切嗣の息子の衛宮士郎。 ここまで来たら確率の問題だ。 多分、士郎君がセイバーのマスター。 で、ここには何をしに来たかと言うと。言峰神父の聖杯戦争の資料を探しに来たのである。その資料を元に報告書との相違点を割り出す。 聖杯戦争当時、彼はランサーを使い諜報活動を行っていたと言う。 それと報告書を見る限り、言峰神父の人と柄が事細かに書かれている。かなり『心』を込めて。 ここだけ、なぜか信憑性が高くなるほど心と言うより怨念が篭っているな・・・・。 書いてある通りの人間ならば此処には何か残されている可能性がある、教会に諸々の書類は押収されているだろうが、隠してある事も視野に入れなければ。 では、不法侵入としゃれこみますか。 結論だけを言おう。 見つからなかった。とんだ骨折り損だ。 教会の中にガスを流し込み神父に寝てもらい、家捜しした。が、一切関係書類が出てこない、と言う事は教会が持って行った物だけだろうか? 確実になったのは私の地獄行きだけ。 だが、まだ調べる方法はまだある。 とりあえず今する事と言えば・・・・・・ん? 閉めようとした教会の扉に違和感を感じ暗闇の中、目を凝らす。所々が薄らと白い、掌でゆっくりとなぞる。 教会の扉に修繕の跡がある。よく見ると壁に縦に割れたスリットの跡これは良く見る穴を修繕した時の跡に似ている、これは剣や槍を突き立てた跡だ。 争いの跡、ここで激しい戦いがあった様だ。 戦いの跡は教会の前からいずれかへと続く。 私は直感を信じ、車のトランクから道具を一式もって、戦いの後を辿った。 過去を映し出す望遠鏡を手にとり、その場所へと。 外人墓地 ここが一番多くの破壊の傷跡が残る。普通の人間が見れば何も問題がないように見えるが、 実の所かなりボロボロだ。 墓石が欠けたり、真ん中から穴が開いていたりしている墓もある。望遠鏡の横にある墓石なんかは、わざと汚しているが新品だ。 状態を見る限り激戦だったのだろう、此処は。 修復後の墓石の状態を見て戦闘の最後の場所を割り出し、時間をセット。 聖杯戦争の最終日から一日ずつ時間を戻していく。 「いた。」 思ったより早く映った、望遠鏡に映るのは。雨のごとく落ちてくる武器を操る金ぴかの男と、その武器を避けながら戦う青い槍兵の姿だった。 何かを語る青い槍兵は、その赤い槍を振るい襲い来る武器を打ち落とし、避けつつ金ぴかに肉迫しようとして勝機を狙っている。 「劣勢だな。しかし、勝機はある。」 だが彼を死に至らしめたのは一体何だ?状況を見る限り決定打は無いはずだ。 次の瞬間私は信じられないものを見る。 青い槍兵は突然に自分の胸を、自らが持つその赤い槍で貫いたのだ。 何かあった? 目の前にいる青い槍兵に、届かない言葉をポツリと呟いた。 |
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