第06話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 21時30分32秒公開
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戦い 人によってそれぞれニュアンスが変わる。 仕事を戦いと見立てるものもいれば、恋を戦いと見立てるものもいる。戦いと言う物は、純粋にその言葉通りでは無いと言うことだ。 そして戦う者達は、終着に何かを得るために戦う。 地位を名声を権力を金を人を愛を信頼を果てには快楽や悦楽まで色々な物を勝ち取るため。 では、この目の前の青い戦士は一体何を求めているのか──────。 Interlude 「ランサー、自決しろ。」 令呪の縛りを感じ抵抗を考えるが、目の前の金色のサーヴァントに気をとられていて失敗する。 クソッ心の中で悪態をついた。 「ガッ」 次の瞬間、俺はゲイボルグを自らの胸に突き刺していた。 「言峰、テメエ。」 胸を見る、と深深と突き刺さった槍が見える。 「なかなか、死なぬものだな。だがここまでだ、これ以上私の楽しみの邪魔をされては困る。」 淡々とした言葉で、何を抜かしやがる。しかし、俺も運が無い。前のマスターのバゼットをやられ、令呪を使い斥候の真似事。気にいらねえ戦いをさせられた上に終いにはこれか? 霊核が傷つき、俺の残り時間もわずか。奴にはもう令呪は無い。 「ガハッ」 血が喉から込み上げてくる。 ならば・・・・やる事は一つだ。 「言峰、テメエも一緒だ。」 「ほう、ここまで来て悪足掻きか。負け犬は野たれ死んでおればいいものの、生き汚いなランサー。言峰、こやつ如何する?」 「放って置け、いずれ消える。」 野郎。 「ならば喰らえ、我が一撃。」 血が胸から吹き零れる。これが最後の一撃。 「刺し穿つ(ゲイ)」 空中の微弱な魔力が赤い槍に集中する。後は真名を唱えきり槍を解き放つだけだ。 「死翔の槍(ボルグ)!!」 槍が赤い閃光を伴い言峰の胸へと吸い込まれ・・・。 「なに!!」 言峰がスッと避けると、ゲイボルグは奴の後ろの墓石へと突き刺さる。 「やはりな。その槍の力は私には無意味だ。十年前の切嗣の一撃が奇しくも私を救ったと言うわけだ。」 皮肉なものだと言葉を続ける言峰の顔は無表情。 「何故だ。」 「十年前の聖杯戦争でな、セイバーのマスターに心臓を撃たれ、元から私の心臓はもう無い。頭を突き刺せば私を倒せたかもしれないが、そんな時間はもうあるまい。」 クソッ、最後の最後でなんてぇ失敗だ。 「ではな、さらばだランサー。」 言峰は目で金色に合図する。 「そう言う事だ、運が無かったな槍兵。」 そう言うと、金色は汚いものを見る目で指をパチンと鳴らす。降り注ぐ武器の雨。俺の体は動かない。 体に突き刺さる幾本もの宝具。 そこで俺の意識は途切れた。 「クカカカ、何とも奇妙な事になったものよ。」 暗く湿った闇の中、くぐもった声が響く。 「前回の聖杯戦争は機ではないと思い参戦せなんだが。まさか、こんな短期間で再び、しかも都合の良い事が起きようとは。」 周囲からは蠢く無数の音と声に成らない恐怖とも嬌声ともつかない叫び声。 「残る問題は、聖杯の出力不足。これは、何とかなる。あの来訪者『ナナギ』と言ったかのう。あやつの持つ瓶の中身を使えば、何とかなりそうじゃ。」 声の主は無数の音の元へと向く。 「邪魔になるのは、遠坂の当主と衛宮の子倅だけ、あやつらはお前一人で何とかして見せよ。そうすれば、ワシの目的が成就した暁には、お前を自由にしてやろう。」 「ーーーーーーーーー」 音の中から声にならないかすかな音。 「ワシが嘘をつく理由が何処にある?お前はワシの言う事に従っておればよい。」 「−−−−−−」 「そう、それで良い。それにしても『ナナギ』か、あやつの名前どこぞで聞き覚えが・・・・。」 幾万の蠢く音の中、再び声が響き続ける。蠢く闇に飲み込まれながら。 「・・・・・?」 目が覚めた、あの時、俺は金色の奴の宝具に体を貫かれて消えたはずだ。声が近くで聞こえる。 「だから、こう時間が違うのは私が分量を間違えたのか?それとも此処に書かれているのが元からいい加減なのか?・・・・もしくはこれ自体が実験とか言うんじゃなかろうな・・・・・。」 目の前には紙束に目を通しながら唸る長身の男。 「オイ、あんた。」 「ん?」 男が振り向く、見た目は若いが雰囲気は壮年の域、立ち姿は柔らかく尚且つ鋭利な刃物を連想させる。一瞬無防備に見えるが隙がねえ、常に戦闘態勢。 こいつ、できる。 「何だ、もう目覚めたのか。まだ二十分も経ってない・・・・またか、本当に問い合わせの電話いれてやろうか?」 男は腕時計を見ながらぼやく。 「何の話だ?」 「いや、こっちの話。それじゃ、やっと今回は話が聞けるな。君はランサーで良いのかい?」 「テメエ、何者だ? それ以前にどうなってやがる、俺は此処で終わったはずだ。説明して貰おうか?」 赤い槍を構え、そっ首に突き付ける。この状況だ、こんなやり方は好きじゃねええが、なりふり構っていられない。 「ちょっと待て、その槍何処からだした? いくら高性能のナノマシンと言っても、宝具は作り出せない。」 「何の話をしてやがる、こっちの質問がまだだ。早くさっさと答えな。言いたくないなら、それでもかまわねえよ、それはそれで好都合だ。」 「槍をこっちに向けるな危ない。」 鼻先に突き付けた槍をソッと手で払いながら脇に避ける男。 「説明はするさ。それぐらいはサービスの内だ。ところで、今は何日か解るかい?」 「知らねえよ、こっちの日付なんて気にしちゃいなかったからな。」 「今は君の死んだ日から約三ヶ月後だ。今は片付けたが、ある機材を使い君を死んだ日から復活させた。と言う所だ。」 三ヶ月後か、道理でまだ肌寒いが温かい訳だ。 「聖杯戦争の事を知っているなら一つ聞きてえ、勝者は誰だ?」 「アーチャーと遠坂凛ペアとなっているな、書いてある通りなら。」 「アーチャーだと?」 おかしい、あいつは確かアインツベルンの城でバーサーカーに倒されたはずだ。いけすかねえ野郎だが決着がつく前に死んで残念だったのを覚えている。 「ふむ、どこか食い違っている様だな。詳しく教えて貰っても良いかな?」 「知ってどうする? 戦争はもう終わっちまってし、テメエには関係ねえ話の筈だ。」 「そうはいかないんだよ。ここの聖杯戦争の詳細を調べて来いって言われてね調べ終わるまで家にも帰れない。」 最も帰る家は無いがねと言いながら、苦笑を顔に張り付かせ遠くを見つめる男は、何処と無く聖杯戦争の時の俺みたいだ、俺もあんな苦笑をしていたのだろうか。 「で? 聞かせて貰えて良いかな?」 「等価交換って言葉知っているか?」 「ああ知っているよ、何か欲しいものがあるのか?」 それが如何したと、いわんばかりに言い返してくる。 「なら、俺の情報が欲しいなら、それなりの代価を払ってもらう。俺の情報は聖杯戦争の時に危険を犯してまで集めた情報だ。」 遭いたくて遭った危険ではないが、それぐらいの対価は貰わねえとな。 「何が欲しいのんだ? 私ではないが、私を雇っている会社なら殆ど手に入れる事が出来るが。」 「俺と戦え。」 「はあ?」 素っ頓狂な声を上げるな。 「俺は、聖杯戦争にでた理由は受肉するなんて理由や叶えたい願いがあるからじゃない。ただ、死力を尽くした戦いを俺と同じ英霊とやり合いたい、ただそれだけの理由だ。」 「なるほど。」 「ところがだ、今回の聖杯戦争は運が無かった。最初のマスターは令呪を奪われ、俺はいけすかねえ野郎をマスターにしなきゃいかん上に最初の命令が『全員と戦い、一度目の相手からは決して倒さず必ず生きて還って来い。』だと。」 「ほう。」 「だが俺はその通りにしてやった。そうすれば二度目からは思う存分に戦えると信じてたからな。ところがだ、全員と戦って引き分けた上に、帰ってきた俺に言って来た事は『諜報に徹しろ。』だと、終いにゃ令呪を使ってお払い箱と言わんとばかりに『自決しろ』だ。」 「それはたまらんな、だが私にそんな事ペラペラと喋って良いのか? 等価交換にならにと思うが?」 腕を組みながら意外そうに問い掛けてくる。 「別にかまわねーよ、これはただの愚痴だ。肝心な所は話してねえ。」 「それで君は、その聖杯戦争時のフラストレーションを解消するために、戦いに不向きな私と戦うと?」 「とぼけるなよ、テメエ結構ヤルだろう? いくら隠そうとしても、その物腰とかなり古いがその体から臭う血臭は、なかなか消えるもんじゃねえ。」 ピクリと目元が動く目の前の男から物腰の柔らかさがゆっくりと消える、それと共に膨れ上がる圧迫感、こんな相手生きている時にも、そうそう出会えるような相手じゃない。 「なるほどね。」 空間そのものを掴まれる感覚、舌の裏が麻痺するような感じ、虫の音が消える空気が凍りつく。 おもしれえ、そうこなくっちゃな。項がムズムズする、最高の相手だ。 「来いよ、俺の口を割らしたかったら力ずくできな。」 「待て。」 圧迫感が突然消え去る。 「どうした、早くやろうぜ。」 「周りを見ろランサー。」 周囲を見渡す、そこには墓地に立つ無数の黒い影が俺らを囲んでいた。 Interlude out しくじった。 こんなに近くに近づかれるまで気付かないとは、私もかなり鈍っている様だ。こんな姿をあいつ等に見られたら『再訓練』だ。 「ランサー、続きはこれを切り抜けてからにしないか?君も戦いに邪魔が入るのは君も本意では無いはずだ。」 彼は少し考えると苦笑いしながら首を縦に振った。 「いいぜ、ここは俺に任せな。こんな奴ら簡単に片付けてやるさ。」 そう言って槍を構えるランサー。 「待て、殺すな。」 「何言ってやがる。俺らにその気は無くても、こいつ等はやる気だぜ。」 「この人達は操られているだけだ。」 「何を根拠に・・・。」 「根拠はある、目は赤くギラギラと輝き、口から大量の唾液、動きは速いが体の連動がなってない。極めつけは相だ。」 「なんだそりゃ?」 初めて聞いたような顔、それはそうだケルトの英雄が知ってるとは思わない。 「蟲相、中医学における診断法に望診というものがあってな、その中に病気に罹るとこの様な風になると言う指標がある。中でもあれは蟲相といって寄生虫の類いに罹った時に出る相。」 「よくわからんが、蟲が取り憑いてて、あいつ等を操っているわけだな?」 「そう言う事だ、あと警察沙汰になるのは今はマズイ。その上この数だ目撃者が出る上に死体が完全に消え去るとは思えん、そうなったら疑いは私にかかる。それだけは避けたい、なるだけ傷付けず済ましたいのだが。」 ゆっくりとした動きで周りを囲む影、その包囲はさっきより狭くなっている。 「面倒だな、それじゃさっさと逃げようぜ。」 「同感だ、それでは教会の前で待ち合わせだ。」 「いいぜ、それじゃ。」 「行きますか。」 爆発するように飛び出すランサー、さすが英霊中最速と言われるだけはある。こちらも行かせて貰うかな。 「トホカミエミタメ 祓い給え 清め給え 」 そう唱え私は影の間を音も無くすり抜けた。 「遅かったな。」 影の包囲網を抜け教会に着いた時には、既にランサーは退屈そうに草地の上に胡座をかいて座っていた。 「おまえが早すぎるんだ。普通の人間と一緒にするな。」 「よく言うよ、その英霊とさっ戦おうとしてたのは何処のどいつだ?」 「そんな奴は知らんな。それより車を停めてある、こっちだ。」 車の所へ駆ける、そこにはトランクを無理やり開かれた車があった。 「チッやられた。あいつらは足止めにしか過ぎなかったか。」 中の確認をする、さっき片付けておいたホムンクルスのセット一式が無い。 「セットは兎も角、望遠鏡を持っていかれたのは痛い。」 鍵を調べる、シリンダーが回らずに鍵が開いている。 「どうした?」 「泥棒にあった。持っていった奴らはまだ近くにいるかもしれないが今は引く情報が足りない上に深追いして返り討ちに合うのは避けたい、取り敢えずは移動する乗れランサー。」 「何でだ?」 「戦うのが望みではないのかな?」 「へいへい。」 溜息を一つ吐くとランサーは渋々車の助手席に乗る。 「行くぞ。」 車のキーを回す。 「オイ、また来たぞ。」 バックミラーを覗くと影が再び包囲網を作ろうとしていた。 マニュアル車のギアをバックに入れアクセルを踏み込む。 ギャギャギャ 「おいおい。」 一瞬で方向転換、ドライブにギアチェンジ、アクセルを最大まで踏む。 「喋るなよ、舌かむぞ!!」 思ったよりも追跡は無かった。流石の操り人形でも車の運転技術はなかったと言う事だ。バックミラーを確認してスピードを落とす。 「おい、これからどうするんだ?」 「盗まれた荷物を考えると魔術師の可能性が高い、ならば魔術師の事なら魔術師に聞くしかあるまい。アインツベルンに会いに行く。」 「バーサーカーのマスターか?あのガキ生きてんのか?」 スピードを落とさずにウインカーを入れつつハンドルを左に切る。 「ああ生きてる、生き残りはアーチャーのマスター、バーサーカーのマスター、キャスターのマスター、それと多分だがセイバーのマスターもな。」 「生きてたか、あの坊主・・・・。」 しまったと口を塞ぐランサー。 「もういいさ、全部話してくれないか?おまえの望むモノは死力を尽くした戦いだろう?ちょっと考えたんだが私は、この仕事が終わるまで危険を犯す訳にはいかん。提案するが私と仮契約しないか?」 「どう言う事だ?」 訝しげな顔をするな。 「契約中は、おまえは私をサポートすると共に聖杯戦争について知っている事を話す。契約の代償は死力を尽くした戦いをおまえに提供すると言うのはどうだ?」 むうと唸るランサー。 「悪い話だとは思わないが。私ではなくとも、もっと強い相手も紹介できるぞ。少なくとも私より強い相手は四人ほど知っている。どうかな?」 「わかった、いいだろう。テメエと契約してやるよ。と言っても令呪は無いけどな。」 「今後における私の戦いぶりで信用に足りるかどうか見極めてくれ。」 「はは、テメエ気に入ったぜ。口約束はしないが、戦いを見て信用しろか。おもしれえ事言いやがる。」 海岸線を右に海沿いの道をひた走る。空が白み始めるなか月はうっすらと輝いている。 ギアを一つ落とす。 アインツベルンの森までは後一時間と言った所か。 助手席に青い相棒、さて・・・・・盗まれた荷物の件は会社に何と言おう・・・・・・。 |
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