第07話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 21時31分20秒公開
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インビンジブル。誰がその通り名で呼び始めたかは知らない。 依頼人には絶対会わなかった、全て代理人をたて行ってきた。 仕事の時で私の姿を見るのは標的のみ。仕事の達成率は常に100%、最後の最後に返り討ちにあう大失敗はしたが。 命を狙われたのは一度二度ではないが逆に倒した。 多分それが通り名の元になったのだろうと思っていた。何せ映画にもなった『透明人間』のタイトルがインビンジブルだ。 ある日、自分の通り名の意味が気になりインビンジブルを辞書で引いてみた。 無敵の、征服できない どうやら形容詞だったらしい。形容詞が通り名・・・ちょっと微妙。 ともかく、通り名は最強という意味での通り名だったらしい。 だが、その名前は十年前に死んだ。 青い月明りの下、胸を貫かれ、あの男に敗北した時。 無敵ではなくなった、奴の持つ死に征服された。 そして今は、只のシモンだ。 この名前が生き返るときはあるのだろうか? Interlude 「士郎〜御飯まだ〜?」 朝も早くから虎の飯の催促、藤ねえには余り連休は関係ないようだ。 「あれ? シモンさんは帰っちゃったの?」 意外そうに聞いてくる。 「なんでさ。シモンさんはホテルに部屋とっているらしいから帰ったぞ。」 「だって士郎、ここに来た人は大抵泊まっていくじゃない? セイバーちゃんや遠坂さんとかも。遠坂さんは泊まっていくと言うより住んでるけど。」 確かに遠坂にいたっては週に五回は泊まっていっていると言うか、離れに私物を大量に持ち込んで住んでいる。理由は俺に魔術の授業をする事らしい。それにしても藤ねえはここを旅館と間違えてないか?まあ、旅館並に大きく部屋数のある我が家だが。 「そんな事より御飯できたから、並べてくれ。今日は俺と藤ねえだけだから。」 「遠坂ちゃんやイリヤちゃんは用事があるって言ってたから良いけど、ライダーさんは?」 「昨日の夜、藤ねえが帰った後に遠坂から電話があって呼ばれていった。今日の夜には帰ってくるってさ。」 ふ〜んと言いながら、盛り付けた皿を持ってテーブルへと運ぶ藤ねえ。 「それじゃあ、食べよう。」 「いただきます〜。」 言うが早いか猛烈なスタートダッシュの様に食事にはいる野生の虎、その俺の心の声が聞こえたか、ピタッと動きを止める。 「どうしたんだ藤ねえ? 味付けでも変だったか?」 「ん〜ん、何か昔に戻ったみたいだな〜って。ただ、それだけ。」 親父が死んで俺の肩の怪我を切っ掛けに桜が来るまではこんな感じだった。静かな家、響く音は藤ねえと俺のみ。 「最近人がイッパイ来てたから、こんな雰囲気久しぶりだね〜。」 「ああ、本当だ・・・・。」 三ヶ月前の聖杯戦争の時が一番人が多かった、藤ねえがいて、桜がいて、遠坂がいて、そして・・・・。 「そういえば、セイバーちゃんは、どうしているかな〜もう来ないのかな?」 一瞬、胸がズキンと傷んだ。目の前に金糸の髪の少女を見た気がする。 幻視。 「どうかしたの士郎?」 心配そうに覗き込む藤ねえ。 「なんでもないよ。本当に何でもないんだ・・・・。」 「でも、昨日は驚いた。藤ねえが突然紫門さん連れて来るから吃驚したよ。」 そう、何も連絡も入れずに突然あの人を連れてきたのは本当に驚いた。 「へへへ〜士郎を吃驚させようかと思って。」 「吃驚させようとしてじゃないよ、何せ食事を三人分しか用意していなかったから慌てたじゃないか、次からは早めに連絡してくれよ。」 「は〜い。」 反省の色もない虎は放って置こう。 「でもでも、士郎にお礼を言いたいって言ってたから連れて来たんだよ〜。」 「・・・・それにしても、一番話してたのは藤ねえじゃないか?」 ニヤ〜と笑いながら面白そうにこちらを見る。こういう顔の時はろくでもない事を考えているに違いない。 「何? 妬いてた?」 「バッ違う、あんなに親しそうに喋る藤ねえが珍しいなって、思ったんだよ。」 そう、昨日の藤ねえは何か変だった、あんな藤ねえはオヤジ以来だ。 「だって、紫門さんね何となく切嗣さんに似てたんだ。」 「似てた? 何処が? 姿形は違うし性格も喋り方も全然違うぞ。親父はもっとのんびりしてた、うん。」 「ん〜何て言うかね、雰囲気? この家に住み始めた当初の頃の切嗣さんそっくり。」 雰囲気?確かに似ているような気がする。元同業者の所為だろうか?だがあの人は・・・・・。 「『悪の手先』」 「ん?何か言った?」 「何でもないよ、それより部活の顧問だろ行かなくて良いのか?」 「ああ、また遅刻だ!! 士郎、お弁当〜。」 「ここにもう用意してある。美綴に迷惑かけるんじゃないぞ。」 テーブルの横に置いてある重箱を渡す、これで一人前・・・いったい何処に入るんだ? 「サンキュー、それじゃあ行って来るね〜。」 「おう。」 藤ねえを見送った後、炊事場に立ち食器を洗う。 洗い物をしながら昨日の事を思い出す。 朝焼けの中セイバーと別れた後、俺はセイバーに恥じないよう俺の『正義の味方』を目指すと誓った。 だが、俺の前に言葉が立ちはだかる。 『君の正義はどんな正義なんだい?』 繰り返すように耳に反響する。 今までの俺の信念が薄くなった気がした。今までは困った人を助けて、力が必要になる時の為に体を鍛えてきた。 だが昨日の一言で気がついた。俺の正義は少し漠然としすぎている。 オヤジの正義はどんな正義だったんだろう、今それが解らない以上、俺は俺の正義を行く。 彼は自分を『悪の手先』と言った。ならば俺は彼と戦わねばならない、立ち向かわなければいけない。 悪と戦うのは『正義の味方』なんだから。 『この『悪の手先』に納得させる正義を見せてくれ。』 見せてやるさ。 取り敢えずは、今出来る事をしよう。 見ててくれ。 窓から見える空は晴天、その色は蒼く蒼く透き通っていた。 Interlude out 街の端でランサーと別行動、あいつには持ってきて欲しい物がある、ホテルに置いてある私の私物。 あいつは嫌な顔と『生き返ってもこんな役回りかよ。』と捨て台詞を残しながら。 あいつ、前回よほど酷い扱いうけたんだな。 持って来てもらうものは魔術師に言わせると『呪具』、私に言わせると『祭具』となる物を取って来るのを頼んだ。今回は必要無いとと思っていたのにな。 車を停める。此処に来たのはアインツベルンの森に入る前に準備する事があるからだ。 『冬木神社』 朝五時だと人がちらほらと見える。 「人がいたら怪しまれる。どうするかな。」 如何するかは解っていながら、目的の場所を探し見回す。 「あった。これか、祭神は『火之迦倶槌神』・・・・私の持つ祭具との関係上、殺傷力が高すぎるが仕方あるまい。今回は一筋縄じゃいかないだろう。」 注連縄に奉じられた神木の前に立つ。 拍手を打ち礼そしてもう一度打つ。 「ちょっと力を貸してくれ。この地に根付く神の木よ。」 神木とは、この冬木の地の霊脈に根付いた木、それ故に神木。懐から出した三日月状純銀製結界端子を四枚取り出し2m四方に突き立てる。簡易的な人払いと不可視の壁を作る結界だ。 これで一般人には私の姿は見えない。 「始めるか。」 結界の中心の土の上に静かに座る。 「トホカミエミタメ 祓い給え 清め給え」 まずは祓い、清める。神は穢れを嫌う、まずは我が身の穢れを祓う。 「ひふみよいむなや・・・・・・」 自分のみではなく、周りの空気も清められる。 「・・・・・・のますあせえほれけ」 此処からは舞うのみ、私の流派は舞を祝詞とする。 「これで良し。」 体に力が満ち溢れる。後はランサーの持ってくる祭具のみ。結界端子を抜き元に戻す。 「さて行くか、準備は万端だが戦いは避けたいものだ。」 アインツベルンの森に行くと多分戦闘になるだろう、根拠は無いが喫茶店で見たイリヤスフィールの決意に満ちた目はそう思わせるだけの理由にはなる。 何かを護る決意をした目を。 戦闘は避けられないか、やっぱり・・・・・・・・・・まあ取り敢えず今は、こっちを見ている彼女を何とかしよう。 振り返る。 本殿の陰に隠れる紫の髪。 「なあ、バレバレなんだが。どうせ着いて来るなら車に乗らないか? 私もその方が気が楽で良い。」 伺うように物陰から出てきたのはライダーだった。相変わらず綺麗だ、たとえ眉間に不愉快に皺が刻まれてもだ。 「いつから気付いていたのですか?」 「結構前からだ、流石に車に並走されたら気付く。」 正確には見つけたのはランサーだ、海沿いの道で走っている時に近くを並走してたのを見つけたらしい。 『オイ紫門、あれ見ろライダーだ。あいつも生きてたんだな。』 と言って見てみると正確に200mの間隔を開けて走るライダーがいた。 「朝だから良いが、昼間は止めておいた方がいい。」 「むう。」 黙り込むライダー。 「まあ、乗りたまえ。立ち話も何だし多分行き先も一緒だ。」 車のロックを外し助手席のドアを開けエスコートする。 「私を馬鹿にしているのですか?それとも本気ですか?ずっと貴方を監視していると言う事を知っているのでしょう?」 「正確には昨日の朝からの監視だな。」 昨日のイリヤとの接触の時から視線は感じていた、多分イリヤがつけた使い魔と思っていたがライダーとは思わなかったな。 「・・・・まあ、いいでしょう私も直接あなたに聞かねばいけない事がある思っていたところでした。」 「取り敢えずは、乗りなさい。」 助手席にライダーを乗せ車は神社をでる。 「では、貴方は教会でも協会でもない所から派遣されて来たのですか?」 「そうだ。」 ライダーに、ここに来た理由を話す。そんな、不思議な物を見る目で見ないで欲しいものだ。 「正確には、ある会社に雇われてると言うのが現状だ。ちなみに君の体の主成分は、その会社の製品だ。」 不思議そうに胸元を見るライダー、丁度その位置にはナノマシンの制御回路がある位置。 「気になるか?」 「何がですか?」 間髪入れずに聞き返してくる。 「ここに居る事が、この世界に居る事が。」 助手席の窓に肘を乗せ外を見ている。 「一度は召還されて敗れ去ってまた再びここに居るのは不思議な感じです。それに世界と言っても元々私は、今いる世界から遥か昔の人間ですが、海の色や風の感じは違うが海の臭いは変わらない。同じ海です。海はどこに居ても変わりません。何一つ変わらない。」 「何が気になる?何一つ変わらないと言う割には浮かない顔だな。」 「・・・・・。」 最近似た表情を見た気がする。そう昨日の事だ葛木の表情に似ている。 「約束か?」 「・・・・・。」 外を見ていた顔を前に戻すとポツリポツリと呟く。 「私は、約束を護れませんでした。昨日、リンに聞きいたのですシンジは私が敗れた後にアインツベルンのマスターに殺されたと。」 オーディオのボリュームを下げる。 「私は彼を護ると彼女に約束しました、しかし結果は私は敗れ彼は死にました。約束は守れませんでした。」 沈痛な面持ちの顔をこちらに向けつつ彼女は言う。 「実際・・・・私は貴方を恨んでます。私は彼女に何と言えばいいのでしょう。」 「・・・・・。」 答えようが無い、、答えあぐねる。 「・・・・忘れてください、失言でした。これは、貴方に話すような事ではなかった。この胸にわだかまる物は私が何とかしなければならない。」 ・・・・・・。 「私の実家は此処よりもっと南の方の山の中なんだけど。」 「はい?」 「毎年、年末年始に夜中に神様に奉納する舞があるんだ。」 「何の話をしているんですか?」 「山の中だから凄く寒くて、子供の頃に練習する時は手足がかじかんで大変だった。」 「でも、叔父夫婦の為と思って必死に練習したんだ、あの時は十四も年が離れた妹と一緒に貰われていった最初の年だったから、ちょっとでも良く見せるために。」 何の話をしているのだろうと言う顔のライダー。 「33節に別れる舞を寒い中で必死に覚えて、そして誰が舞うかを決める選考会の時。」 「見事に失敗した。何を考えたんだろうとその時は思った。その村の中で舞手になれるのは村の中での栄誉になるから出たんだ。」 「予想どうり、その年はなれなかった、一年そこら練習した奴が舞手に成れる訳は無い。でも、その当時は叔父夫婦にとても申し訳が無かった。せっかく引き取ってくれた叔父夫婦に恩返しがしたかったのに逆に 恥をかかせたんじゃないかって・・・・結果が出たあと家になかなか帰れなくてね、このまま消えようかと思ったけど妹の事を思い夜遅く帰ったら・・・・。」 「どうしたのですか?」 「死ぬほど怒られた、こんな夜遅くまで何処ほっつき歩いてたかってね。その時は逆に嬉しかったな。」 「良い、家族ですね。」 「ああ、要するに。一回会いに行ったらどうだ?罵倒されるにしても、会わないと始まらないぞ。」 「はあ。」 気の無い返事をする。しかし私らしくない・・・昔話をしてしまった。 「貴方は優しい人と言うか何と言うか。良くわからない人ですね。」 「そうか?」 「貴方は元々暗殺者なのですからもっと殺伐としていると思いました。・・・しかも慰めるには話の内容と大きさが違うような気がしますが?」 「うるさいな、ほっとけ。」 あきれ返るような顔のライダーその唇には微笑が浮かんでいる。 「では貴方の助言に従い彼女に会うとしましょう。罵倒されるとしても、それが私の責務なのですね。」 独り言のように呟くとクルリとこちら向く。 「でも貴方の監視は続けさせて貰います、そうリンに頼まれたので。」 「左様で。」 その顔には迷いは無い。 女性の悩む顔はあまり宜しくない、出来れば笑っていて欲しいものだ。 美人には・・・・・。 |
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