第09話
作者: ディー   2005年07月01日(金) 21時33分04秒公開
月明りの洩れる土蔵の中。
土蔵の中は藤ねえの持ってきたガラクタや修理中の機械の山。
一通りの筋トレを終わらせ、いつもの場所に座る。
座る形は結跏趺坐、座禅の正式な座り方らしい。

「━━━━投影、開始。」

イメージするのは選定の剣・・・・・では無く、黒と白の双剣。
三ヶ月前の校庭での一戦を見た時から脳裏の隅に常に残っていた剣。
あの夜、弓道部の掃除を慎二から頼まれた帰り、剣戟の音を聞いたのが・・・俺の運命を変えた。

赤と青の剣舞。

恐怖に麻痺した俺の心に焼きつく程、それは美しい物だった。
青い槍兵の目が眩まんばかりの閃光の突き。赤い弓兵の予定調和の如き捌き。
それが神話の時代に描かれた神々の戦いの様に見えた、完成された絵画の様。
その時に見た赤い弓兵の持つ一対の双剣。

「━━━━全工程、完了。」

この剣を選んだのには訳がある。俺の心には常に、黄金の剣『約束された勝利の剣』や『選定の剣』があるが、一つ難点がある。
俺の投影魔術では負担がかかり過ぎると言う点だ。
投影出来ればこれほど強力な武器は無いのだが、投影した途端に魔力の大半を持っていかれている、それじゃあ本末転倒だ。
たとえ投影できたとしても、セイバーが居なければ使用は出来ないと思うが。
その点ではこの双剣、干将・莫邪(投影した後に名前が解った)は俺にあつらえたかの様に手に馴染んだ。
この剣だったら多分、何合も打ち合っても耐え切れる尚且つ何度も投影が出来る。
俺の投影と言う魔術を基点とした戦闘に向いていると言う事だ。
ゆっくりと立ち上がり左右に握った双剣を手に軽く振ってみる。重さも丁度いい、重心も投げナイフに近く投げやすい。

ダン!!

試しに投げると土蔵の観音開きの扉に深々と突き刺さる。いい感じだ後は此れを使いこなせる様にするだけだ、直ぐにでも。
「おいおい、物騒だな。」
土蔵の扉に刺さった干将を抜き、こちらに放り投げてくる男ランサー。
「別に狙ったわけじゃないだろ。」
手を頭の後ろに組みながら土蔵へと入ってきた、その姿は短パンにTシャツ・・・似合いすぎて、偶に本当に英雄か?と疑いたくもなる。
「俺にとっては時間はそんなに経っちゃいないってのに、こう・・なんだ何か懐かしい感じがするなあ。」
しみじみと呟くランサー、実際此処には俺の命を取りに来たんじゃないのか?襲っておきながら懐かしいって言うのもなんだか。それ以前に一度殺されたのだが。
「あの時は七人目のサーヴァントが出てきて驚いちまった。こう目の前でカッて光って・・・・」
・・・・・・
「坊主どうした?・・・・・アッわりい。嬢ちゃんに聞いてたのを忘れてた。」
バツの悪い顔をして謝られる。またか・・・・ここ二日ほど幻視の回数が多い、ライダーやランサーがいるため聖杯戦争の時を思い出している為だろうか、それとも・・・・。
聖杯戦争と言えば一つ思い出した。
「なあランサー。」
「何だ?」
「教会の時は助けてくれて、ありがとう。」
呆けた様に驚くランサー。
「はあ? 何だよ、いきなり。セイバーにも言ったがアレは俺が、やりたいからやっただけで。お前たちを助けた訳じゃねえ。それにあの時俺はお前の心臓貫いたんだぞ、しかも二回目だ。」
「それでもさ、俺はランサーのおかげであの時は助かった・・・だから、お礼が言いたいんだ。」
「ああもう、わかった、わかったよ。でも俺もお前を二度殺しているんだから、それでチャラって事にしておいてくれ。」
明後日の方を見ている、感謝される事に慣れていないのか?
「あー、ランサー。そう言えば、遠坂達は?」
「現状の整理と調査中だそーだ。」
「そっか。」
今日の昼頃、いやもう日付は変わっているから昨日の昼になるが、縁側で洗濯物を干していると突然、太陽を遮る影が空から降りてきた。天馬に跨ったライダー、それとその後ろに乗せられた所々の身体の部分が無くなったイリヤ付のメイド。
二人は瀕死の重傷だった、今思い出しても気持ち悪くなるような齧り取られた様な痕。
その後、とんぼ返りで迎えに行ったライダーに連れられたイリヤと遠坂によってセラとリーズリットは息を吹き返し、今二人は離れの部屋に寝かしつけている。
そんな騒動で大騒ぎの衛宮家一つだけ幸運だったのは藤ねえが居なかった事だけだ、何があったかを色々聞こうとしたが二人の余りの忙しさに取り付くしまも無く、断片的にランサーとライダーから話を聞き情報をまとめるとこうだった。
アインツベルンの城で戦闘があったらしい、襲われたのは遠坂とイリヤ、襲ったのは桜の祖父間桐臓硯そして助けたのは、ここに居るランサーとライダーそれと七凪 紫門。

そして起ころうとしているのは

聖杯戦争が模されようとしている、と言う事。

そして俺が今やっている事は、その時の為の準備だ。あの時と同じ様に護る為、そして七凪さんに俺の正義を見せる為。
あの時はセイバーの力を借りっ放しだった、でも今回はセイバーはいない。
状況によっては遠坂と離れる場合もあるだろう、だったら俺は一人でも戦わなくてはならない。
だったら今出来る事を・・・・。
「そうだ、ランサー頼みがあるんだ。」
「どうした?」
「俺と戦ってくれ。」


目的不明の元『暗殺者』の七凪紫門と聖杯を狙う『蟲使い』間桐臓硯。
この二つの問題を、如何片付けるかと聞かれたら勿論、七凪紫門の方からだ。
なぜなら臓硯の目的はハッキリしていて対処の使用があるが七凪は目的すらも解らない、ならば情報が無い七凪紫門を調べて不安要素を消し去るだけだ。
そして朝の時点で七凪のハッキリした情報が聞けた。
疾薙、祓いの三家、七夜に敗れし一族、ランサーが見た部屋に残ったダンボールのマーク、ライダーの聞いた話。とこれだけと言うか、こんなにと言うかは微妙な所だ。
ダンボールのマークはイリヤが心当たりがあるらしく、実家のアインツベルンと連絡をとっている。
私は疾薙と退魔の一族 七夜の方から魔術協会の方に連絡をとって、ここ三十年の情報を送って貰える様に手配をした。
そして私には、もう一つ気になる事がある。あの男、七凪紫門の使っていた魔術。

古神道

この国、日本に魔術が入って来たのかは、いつ頃かは解らない、聞いた人によって伝わった年代が違う場合があるからだ。
それは兎も角、その魔術が日本に入ってくるよりも前にあった日本古来の魔術・古神道。
魔術と言うモノは小源(オド)を使い人為的に奇蹟や神秘を再現する。があの時、七凪が使った今まである既存の魔術と何か違った。それ以前に古神道と言う魔術かどうかも怪しくなってくる。
何故そう言えるのか?推測だがあの男は大源(マナ)を扱っていた。しかし、太源を操るのは良くある話だが、あのはありえない程の濃密なマナはいったいなんだ。
どうやってあそこまでの濃密なマナを?
まるで、あれは士郎の・・・・・今考えるのはよそう。
推測は出来るがその域はでない、余計な思考は後々の結果を狂わせる。
それ以前にそこの所を聞きたくても、それを使った男は現在は行方不明、脱出した後アインツベルンの城は炎上そして崩壊。
あの男は脱出したかどうかは解らない、探そうとしても私の魔力は底をつき、イリヤの森の結界はあの男の魔術で根こそぎ吹き飛んで探せなかった。
あの男は今も生死不明の行方不明だ。
「ん?」
電話の鳴る音で思考が中断される。電話を取りに急ぐが、そこには先客がいた。
「ハイ、もしもし。イリヤスフィールです。」
出たのは私同様、電話待ちのイリヤだった。
「・・・・・・・・」
思った電話では無かったようで無言のまま電話機のボタンを押す、と共にファックス用紙が電話の中に取り込まれていく。
最近はファックスやらインターネットやら色々便利になったものだ、資料もこうやって簡単に送られてすぐに読める。
「イリヤそっちの方はどう?」
「箱のマークは私の予想どうりだったわ。」
「で?」
「以前、アインツベルンの方に一つの依頼があったのよホムンクルスの製法を教えてくれと言う妙な依頼が、その結果は法外な報酬と聖杯には関係しないと言う制約を約束させた本家は二つ返事で依頼主にその製法を伝授したわ。」
「その依頼主は?」
「サイファグループ。知ってる?サイファインダストリー サイファケミカル サイファファンド サイファマテリアル サイファ製紙 サイファ出版等に代表される世界に支社を持つ巨大企業。」
「知ってるわよ、世界10番目に大きな企業『あらゆる素材を提供します。サイファマテリアル』ってCMも昔から良く聞いてきたし、魔術協会が魔術に使用する素材を仕入れている会社って言うのでも有名だしね。」
「あのマークはサイファの社章のマークよ災難を切り払う剣とそれを打つハンマー間違いないわ、リンはサイファからの仕入れしてないから知らないとは思うけど。」
「うるさいわね、家は昔から老舗で宝石は自分で鑑定して買ってるの。それでそのサイファは一体何の用で来たの?ライダーが言うには調査だと言う事だけど。」
「さあ?それは直接聞いてみないとね。」
意味ありげな笑みで笑うイリヤ。
「今さっきサイファグループの東京本社の方に電話をかけたわ、アインツベルンの名前でね。相手も馬鹿じゃないからかけ直して来ると思うから、その時にどれだけ情報を引き出せるかが勝負よ。」
「ふうん、相手の出方待ちね。」
そうなのよと溜息まじりに肩をおとす小さな肩。電話が掛かって来なければ終わりと言う事だ。
「聖杯の方はどう?」
「そっちは、全然駄目。アインツベルンの方も知らないみたい。今回の事はまるっきりイレギュラーみたいね。」
「でしょうね、こればかりは間桐臓硯の言い分が正しいみたい、だとしたら今回聖杯として機能してるモノは?」
翳るイリヤの瞳、私の目を見ないように目を床に落とす。
「それは・・・・予想は出来るけど確信は出来ないわ。」
「予想だけでも良いから。」
「駄目よリン曖昧な予想は曖昧な結果しか生まないわ、もうちょっと考えさせて。」
少し伏せた目、何かおかしい奥歯に何か詰まったような物言い。まるで事実を隠し大切な何かを壊さない様にしているみたいだ。
「イリヤあんた、確信できないんじゃなくってしたくないだけじゃないの?私に・・・いいえ私達に何か隠してるでしょ?」
「隠してないわ。」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
無言で睨み合う事数分、幾ら言っても口を割りそうにも無い。ああ、もう埒が明かない。
「まあ良いわ、この場は聞かないで置いてあげる、でも絶対教えて貰うからね。」
「解ったわ。」
そして言い難い事だけが残った。
「最後に一番の問題なんだけど、ナノマシンって何?」
今回の一番のネック、何せ私は機械が一切駄目だ、だから今時の女の子としては珍しく携帯電話なども持ってはいない。
「さあ? 私も解らないわ。マシンって言う位だから何かの機械じゃないの? シロウに聞いた方が早いんじゃないのかな、機械をよく弄っていたから詳しそうだし。」
それもそうだが、何か癪に障る。いつも魔術の授業で文句言ってる分、逆に聞くなんてちょっと抵抗がある。
「プライドより、今は情報よリン。情報が無ければ死んでしまうこともあるのよ。」
「うう。」
ニヤニヤ笑いながらしたり顔で語るイリヤ、その姿は小悪魔のようだ。
「ほらほら、素直に聞いてきなさい。シロウは今さっきランサーと道場に行ってたみたいだから後はよろしくね。」
「イリヤ、あんたも一緒に聞きに来なさいよ。」
「後で機械が苦手なリンに教えて貰うわ、私はここで電話待ち。」
と子悪魔スマイルで私を道場へと押し出すイリヤ。まったく後で覚えてなさい。
ファックス用紙の束を持ち道場に向かう途中、後ろで電話の鳴る音が聞こえた。


「もしもし。」
「君がアインツベルンか? 少し声が幼いようだが。」
とうとう待っていた電話が来た。
「紛れも無く私はアインツベルンよ、と言っても聖杯と言う方が貴方達には解り易いかも知れないわね。」
「ふむ・・・・・。」
電話先の男は少し考え込むように息を吐く。
「失礼した、そちらの市外局番から考えるに信憑性は高いようだね。」
実際は聖杯戦争の資料があっちにあると考えるとかなりの食わせ物だ。
「で? アインツベルンが一体何の用だね、昔のホムンクルスの代金が足りんと言う訳ではあるまい?」
「違うわよ、貴方の所の調査員の話とそっちの技術を聞きたいんだけど。」
「調査員? ああ、冬木に作る支社の調査の事かな? 何か其方の方に御迷惑をおかけしたかな?」
「誤魔化さないで。此処にいるホムンクルス、アインツベルンの製法を元にしたんでしょ? 簡単ホムンクルスキットなんてふざけた名前つけて、どこに売り出すつもり?」
「・・・・」
「ふふふ、家にいるホムンクルスの一人が取扱説明書って書いた表紙の切れ端を持ってきたわよ。」
「・・・・・・」
遠くで聞こえる叱責の声、受話器を抑えても聞こえてくる。
「いいだろう、等価交換で知りたい事を教える。」
「それじゃまず、調査員の事からいきましょうか?」

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    □ 第01話   最終更新:[2005年07月01日(金) 21時11分22秒]
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■後書き
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