第10話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 21時34分02秒公開
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Interlude 女の嬌声 ヨッバライの怒号 店から漏れるカラオケの声 紫煙をくゆらせる誰かを待つ女、路地裏の暗がりで薬を売りさばく売人。アルコールの臭い 鼻につく強い香水 酔いどれで御機嫌で帰るサラリーマン。 地方都市とはいえ、それなりに発達した新都の繁華街。三ヵ月前の集団昏睡事件の時には一時客足が遠退いたが、今はすっかり元通りの喧騒。 俺が最初その女を見たのは偶然だった。潤んだ目、上気した頬、服装こそは普通だが誘っているとしか思えない雰囲気、だが確実に女は異常だった。 正確に言うと女ではなく、その女の周りの男達だ。 幾人もの男達がさかった犬の様な血走った眼で女を目標として付いてまわっているその姿は、まるで性ホルモンによって集められた雄の蛾の様。 もっとおかしい事と言えば、それだけの男を引き連れているにしても誰も注目していないという事だ。 女の周囲は視線の風を受けない無風空間の様、誰一人として気付かない。 興味本位で男達を数えてみると20人ほど付いて回っている、これだけの男達が女に付いているにも拘らず誰も見ていない、誰も気付かない、誰もおかしいとも思わない。 いや、誰一人ではない一部の男や俺もだ。 女が路地を曲がる、あの方向は冬木中央公園へと続く道。 俺はその女はどうなるのだろうと一瞬思った、このままでは周りの男達に襲われるだけだろう、助けた方が良いのだろうか?それとも警察に通報した方がいいのだろうか? でも、通報してどうなる?女が歩いているだけで何も問題はないし・・・・うあ。 曲がり角を曲がりきる瞬間女と目が合った。その時、俺の心の底の本能が警報をあげた、あの女はヤバイと。 目が離せない、あのドロリと淀んだ絶望に塗れた目がこちらを見ている。 ああああああ。 無理やり目を戻し何も見てなかった事にして家に帰って早く寝よう、明日も仕事が早い事だ。 しかし、本能の警報は少々遅かったみたいだ。 女の残り香だろうかフンワリとした甘い香りが鼻をくすぐった。 !! 身体が勝手に動く、身体が熱い、息が荒くなる。 襲いたい、あの女の胸を掴み腰を寄せ唇を奪い・・・・うはははははあっはははははああははははははは。 いしきが、とおくなる。 おんながほしい Interlude out ダン ダダン 「ハア!!」 以前とは成長した動き。いや成長どころじゃねえな全く別人の如き動きだ。 ダン ダン 逆袈裟に切り込んでくる剣を穂先で打ち落とす、その反動を利用し石突で相手の身体を打ち据える。 ボグン 鈍い音と共に崩れ落ちる、これで十回目のダウンだ。と思う刹那、崩れ落ちるそのままの姿勢で襲い来た。 左手を支点に石突を回転させ、その力を利用し穂先を跳ね上げ相手の右胴を狙うが倒れこむように避けられる。 「シッ」 倒れこみながら前転、立ち上がる反動を利用し左右の連撃を打ち込んでくるが、甘い。初撃をやり過ごす回しながら引き戻した石突で初撃で伸びきった肘を撃ちつけ、二撃目の方向に送り出してやる。 ギヤン 左右の双剣が出会う、たたらを踏んだ所に手加減したミドルキック、だが軽々と道場の壁まで吹飛ぶ。 バン!! 「あ〜やっちまった、大丈夫か坊主?」 ここは土蔵から一寸離れた坊主の家の道場。 この家は以前、言峰に聞いたところによると武家屋敷と言って、この国の昔の戦士が住んでいた家らしい。 で、俺が何故この道場とやらに居るかと言うと、話は数分前の坊主の『俺と戦ってくれ』と言うセリフに少々驚きはしたが、その決意に満ちた眼と理由に男の意思を見た俺は「ちょっくら鍛えてやるか」と思い此処に来た。 その結果としては、思いの外良い感じだ。このまま鍛えれば二・三年で良い戦士になる。どんな戦士になるか今後の楽しみだ。 「あんた達、何してるの。」 そうこうしてる内に血相変えた嬢ちゃんが道場に入ってくる。 「いやな、坊主が俺と戦って自分を鍛えたいとか言うからチョット相手したんだが。」 「チョットにも限度ってモノがあるでしょう!! あんた英霊なのよ自覚あんの? あ〜あこんなにボロボロにしちゃって、士郎生きてる?」 「ああ。大丈夫だ、遠坂。」 頭が、まだ揺れているのか嬢ちゃんの肩を借りて立ち上がる。 「坊主には守りのルーンと治癒のルーンを重ねて書いて置いているから、暫らく休めば治る。手加減もしたしな。」 とはいえ坊主は傍目にみてもボロ屑になっているが。 「士郎が頼んだとしても、これは少しやりすぎよ。サーヴァントと人じゃ違いがありすぎるわ。例え守りのルーンがあったとしてもね。」 「でも、嬢ちゃんも悪いんじゃねえか。結構前から見てたろ、早めに止めれば坊主も此処までボロボロにならなかったんじゃねえか? それとも見とれてたか?」 「だっ、誰が士郎なんかに。」 「誰も坊主の事なんて言ってねえぞ。」 ・・ ・・・ ・・・・ ・・・・・ 顔を真っ赤に染めると同時に坊主がゆっくりと肩から崩れ落ちる。 「あたたた。」 クククこれはまた、からかいがいがある。あの赤い野郎には悪いが楽しませてもらうか。 此処に居ねえお前がワリィんだからな。 「で、調査とやらはどうだ? 俺の情報は役にたったかい。」 「たったわよ!!」 「遠坂、落ち着け。」 「あんたに言われなくても私は!!これでもない!!位!!落ち着いてるわよ!!」 照れ隠しに完全に切れてるな。暫らく待つか。 痴話喧嘩を肴にしつつな。 「じゃあ貴方の会社の目的は。」 「そう、歴史の特異点とも言われる程の時事に乗じて現れる、あるモノを発見し消去もしくは退去させるのが目的だ。」 「なぜ? そんな事しても利益を追求する企業としては成り立たないのではないの?」 「そうでもない、それに対しての副産物は製品として還元させて貰ってる。それに、これは会社の設立当初からの最重要事項、会長と社長共々無視は出来んらしい。」 「大変な話ね。」 「全くな、利益だけを追い求めていれば世界一になれるんだが・・・まあ、そう言う訳でこっちの事情はそんなものだ。ん、まて今結果が出た君の言う通り座標軸は丁度柳洞寺の場所に重力場の異常が感知された。これは三ヶ月前の聖杯戦争時の重力場異常と70%一致する。多分前回と違うところは聖杯の霊力の貯蓄量が違うからだろう三ヶ月前より酷くなっている。」 そこまで、おかしくなっていたのか異常過ぎて逆に解らなかった。 「やっぱり、町の霊気が著しく濃くなってきているからまさかと思ったけど。エネルギーの溜まりすぎで聖杯が正常に機能していない。」 「なるほど、先ほどの話にでた前回と前々回の聖杯の破壊が原因で大聖杯に異常が起きているのだな。」 「そう言うこと、だけどこれはむしろチャンス。」 「どう言う事だ?」 「こっちの事情よ。」 異常を理由に破壊する。聖杯、いや大聖杯を完全に破壊する、きっとあの『この世全ての悪』はまだあそこにいる。 そしてアレが悪である限り、あれがこの世に存在する限り、シロウはアレをきっと見つけ出すだろう。 そうしたら今度こそ彼は死んでしまう、もう私は家族が目の前から居なくなるのは嫌だ、キリツグ、バーサーカー。私は何も出来ずに彼らは死んでしまった。 私は何も出来ない子供じゃない、今度は私が家族を守るシロウもタイガもリンもサクラもセラもリーズリットも皆。 「情報の交換は終わった、ではこっちの望みを聞いてもらえるかな?」 「一応聞くだけ聞きましょう? もっとも理不尽な事なら断らせて貰うけれど。」 「私達の情報の価値を考えて言って欲しいものだ。まあいい、英霊に関する事なんだが。」 「んじゃ何か? 七凪って奴はこの世のどこにも存在してないって事か?」 「そうじゃないって言ってるでしょう!! 法的に完全にいない人間の上にあれだけの魔術の腕を持ちながら魔術協会の方の資料にも出てこないって事!! どう考えてもおかしいって言いたいの!!」 今日何回目の激昂だろうランサーもわざと遠坂をからかってないか? 「もう良いわ、ランサーあんた黙ってなさい。話が続かないわ。」 口を皮肉げに歪めながら明後日の方向を見るランサー、あれは絶対確信犯だ。その証拠に肩が小刻みに震えている上にあの口はアーチャーの真似だろう。 「疾薙の名前の方も調べても出なかったのか? 遠坂。」 「そっちの方はあったわ、だけど二十年前ほど前の古い記録だった。」 「結構古いな。」 「話は長くなるわよ。いい?」 胡座をかきながらお茶請けの煎餅をポリポリと食べながら聞くランサー、今日のお茶は中国紅茶のライチ紅茶、ライチの甘味がフンワリと漂うような味のお茶、このお茶には少し塩気のあるお茶請けがとても良く合う。 「城の中で間桐臓硯が言ってたでしょ? 七夜に敗れし一族って、あっちの方を絡めて調べたら出てきた。」 と言いながら一枚のファックス用紙を取り出す。 「疾薙、この国に古くから伝わる祭事を司る一族の一つ。知ってる? 昔からこの国には色んなモノが流れて来ているわ。それは魔であり、聖なるモノであり、追放されたものであり、文化でもあった。」 「何だそりゃ?」 ランサーは、素朴な疑問を口に出す。 「この島国はね今でも世界から色んなモノがきているのよ。色んな国の文化でだったり、食べ物だったりこの国は色々と吸収して大きくなった。でも、それは全て良いモノだけではないの。」 「面白くなって良いと思うけどなあ。」 「ランサーあんたにも解る様に言うとね・・・病気をもった感染病にかかった人間が軍隊の中に入り込んだらどうなるとおもう?」 「そりゃあ・・・ああ、そう言う事か。」 軍隊の中に感染性の病原体が入るとかなりのダメージとなる。中世の攻城戦や町攻め等の時は戦死した死体や死んで腐った動物などを投石器に載せ城や町の中に放り込んだらしい。そうすれば精神的な効果と共に病気が蔓延して攻略しやすくなる。 「そう、放って置いたら下手すると内乱や疫病でこの国が傾くのよ。それを危惧した当時の天皇は、陰陽寮の高名な神官を三人呼び、外から入ってくるモノを祓い清めるか消し去るかを命じた。その時の三人の名が 天凪(あまなぎ) 巫覡(こうなぎ)そして疾薙(しつなぎ)。」 「祓いの三家?」 「そうよ、士郎。珍しく冴えてるじゃない。」 先ほどとは違い途端に良くなる機嫌。 「この理解力を授業の時に出してくれれば、こっちも苦労しないんだけどねえ。」 「グッ」 「・・・坊主苦労してるなあ。ありゃ男を尻に引くタイプだぜ。」 ランサーが小声で言ってくる。この、あかい悪魔は俺を弄る事を信条としているらしく、一日に一回はこんな感じだ。 「そこ、何話してるの。」 遠坂が半眼で睨んでくる。 「いや、何でもないぜ。なあ、坊主。」 「ああ、そうだぞ遠坂。それよりその三人はどうなったんだ?」 少し軽く睨みつけてくると話を続ける。 「この三家は最近までの記録があったのよ、天凪は力あるモノを記録によると『荒神』と呼ばれるモノ中心に祓い葬り、巫覡は祭事を司り祓い鎮め、疾薙は疫病や厄災を祓い清めた。魔術協会と教会が混じったものだと考えればいいわ。その三家は時と共に色んな血が混じり更に強大になり、その名前は役職名となっていき江戸を過ぎ明治初頭に政府の裏の機関となる。」 話が大きくて想像が付かなくなってくるが、そんな事をお構いなしに遠坂は話を続ける。 「でも、その機関はある時を境に消えてなくなる、太平洋戦争の終戦の直前を境にね。当時、必勝祈願を祈り戦争を勝利させようと考えてたらしいけど戦況を覆せなかった。そうこうする内に『広島・長崎』の原爆が落ちた、多分その責任をとらされたの大量の人間が死んだのは神の力が足りなかった所為と・・・・この頃に日本は病んでたみたい。今現在、別の機関が祭祀を任されているから、もしくはその祭祀を任されている一族が軍部に何かを言ったんじゃないかと思うけど。」 なんて身勝手な話だ、自分たちに良い様に利用するだけしておいて、失敗したら直ぐに切る。挙句、大量の人が死んだ事を自分たちの権力欲の為に利用するなんて。 「追放された三家の記録はそれ以来途絶える、ある時まで。次に出たのは二十年ぐらい前の話、長年七夜との対立をしていた一族。そして、一人の男の死。その死んだ男の身元を洗うと、その追放されていた疾薙の一人だった。・・・これが解っている事、解ったと言っても何も変わらないけどね。」 「なんでさ。」 「間桐臓硯と比較すると無視しても良いかも知れないと言う事ね。無理に戦ってもこっちが損するだけよ。」 「疾薙を使えば現状を有利に進める事は出来るわ。」 少女の声、その声の主は襖を開き入ってくる。 「どう言う事? 例え使えるとしてもどうやって疾薙と交渉するの?」 「利害関係よ。彼は目的を果たす、私たちはそれを利用する。今さっきサイファの人間と連絡がついたわ、サイファグループの要求に応える限り疾薙いえ七凪紫門は私の目的に協力すると言う命令を出して貰ったわ。」 「イリヤの目的って?」 「聖杯の本体、大聖杯の完全破壊。」 イリヤの口から出た言葉は俺の思考を真っ白にした。聖杯が未だある。その事実に俺は今まで無い衝撃を受けた。 その事実は親父の遺志を継ぎセイバーと共に戦い抜いた聖杯戦争が未だ終わってない事を意味する。 「どうしたの士郎、怖い顔して。」 「いや何でもないよ、何でもない本当に。」 あれは、今度こそ消滅させなければいけない。 灰 灰燼 この一箇所、居や一箇所と言うには大きすぎる。アインツベルンの城のあった場所には灰と所々に散乱する残骸しか残っていなかった。 岩すらも焼き尽くすような焔が此処を覆ったと言う。 「神は土塊より人を作り、鼻より命を吹き込んだ。そこで人は生きたものとなった。」 私は笑顔と言う仮面を貼り付けているんだろう。 「神は野の全ての獣と空の全ての鳥とを土から作った。」 彼女の後ろにはローブ姿の女性が続く、フードに隠れてその顔は見えないが知性の感じさせるであろう その唇には侮蔑の笑いが刻まれている。 「それ故に、土からいでしものは土に、灰からいでしものは灰に戻る。」 「それは何の歌ですか?」 それまで黙っていたローブ姿の女性が声をあげる。 「これは歌ではありません、キリスト教の聖書の中、創世記に書かれた一節です。」 「そうですか、貴女が何故か楽しそうにしていたので歌だと思いました。」 女性のあからさまな口調、彼女の顔がまともに見れない。 「まったく、それよりもさっさと仕事を済ませましょう。私はこんな事は早く終わらせたいの。」 「ええ、わかってます。」 説明書の通りに手袋を嵌める。 「しかし、信じられないわね。科学ってモノは人間と言うモノ・・・・時間をかければこんな物を作り出すとは考えられない。」 お爺様が持ってきた望遠鏡、何かの材料。そして心が吸い込まれそうな仮面。説明書を読みながら時間をセットする。覗き込むとそこには灰になった廃墟ではなく質実剛健な広間が広がる。 「過去を覗く鏡を利用した過去に触れる魔具を作り出すなんて、起動するための魔力を外からの出力に頼るにしても多大なエネルギーを必要とするはず。一体どうやって?」 その広間の中には良く見知った銀髪の少女と鉛色の巨人、そして赤を纏った青年。赤い青年にピントを合わせる、理由は無いが敢えて言葉にすると今は会えない似た人を思い浮かべ惹かれたからだ。 「おかしいのは他にも、ホムンクルスの生成時間。普通に考えてもおかしすぎる。」 「キャスターさん、静かにして貰えます? これ一寸難しいので失敗するとお爺様に・・・。」 「解ってるわ、早く済ませてちょうだい。」 再び目を戻す、鉛色の巨人と赤色の青年、互いにボロボロになっているが、戦況は見て明らか。赤色の青年は動けない、片膝をつく、一瞬呟く。今、仮面を押し付けるように赤色の青年に被せる。腕を引き抜く、後は土を捏ねるだけ。 「成功した様ね。」 嬉しそうに笑うキャスター。この人も結局、姉さんと同じ魔術師なのだろう、自分の知らない知識に対して湧き起こる知識欲と探究心で無意識に笑っている。 先輩を見ている目と少し似か寄る。 だが、そんな事はどうでもいい。今は赤色の青年が呟いた一言がとても気になった。声は聞こえなかったがあれは。 『すまない、リン』 そう呟いていた。 姉さんは私から色んなものを持っていくんですね。 何故か悲しかった。 |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■一覧に戻る ■感想を書く ■削除・編集 |