第11話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 21時34分49秒公開
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夜遅くまでの鍛錬と作戦会議により、全員がそろって寝坊してしまった。 言うまでも無く空腹の虎に叩き起こされたのだが・・・・・。 赤、その系統の料理のイメージを色で言い表わすと、そんな色だ。 食卓に並ぶの料理の山、昼飯は『最近は負けてたけど今日は見てなさい』と遠坂が言い出したので任せてみた。 本音を言うと鍛錬で体がヘトヘトと言うのもある。 俺はご飯を炊くだけ、だが!!かなり辛い、今この家は大食らいの虎以外に大食らいが二人増えたのだ。 言うまでもなくランサーとライダーの二人。 今の体になってから、どうやら食べる習慣が出来た上に食欲が強いらしく異常に食べるようになったらしい。 セイバーが二人居るようだ。 『わ、私は、そんなに食べません。シロウ貴方はそのように私を見ていたのですか?』 耳に、腹ペコ騎士王の慌てた声が聞こえた気がした。何故か嬉しくなり、遠坂に『何ニヤニヤしてんのよ!!』って怒られたのは無かった事に。 炊いた量はイリヤ、遠坂、俺で二合、藤ねえ、ランサー、ライダーで八合、合計十合・・・俺の家はどこの定食屋だ? やってみたら解るだろうが、十合の飯を炊くのはかなり辛い。不幸中の幸いだったのは、先日壊れた十合炊きの電気釜を貰って修理した事だ。ここで役に立つとは思わなかったなあ、実際。 「いただきます」 全員席につき食事を始める。 テーブルの上に並ぶ中華料理(今日始めての食事に中華はどうかと思うが)、見たことがある定番料理と明らかに遠坂の創作と思える料理が食卓を占領している。 そのラインナップは、麻婆豆腐、肉団子の甘酢餡かけ、干焼蝦仁、青椒肉絲、回鍋肉、カサゴの香草蒸し、小鉢が数鉢と、かなりの量。 そして、その全てが美味そうな臭いを放出している。 と、言う様な上記の理由により今、我が家の食卓は戦場の一歩手前。 目の前には、白い小悪魔、あかい悪魔、虎、豹、蛇の一種即発の雰囲気、ここが動物園に見えるよオヤジ。 「士郎ー、おかわり。」 「あいよ。」 「士郎、そこの肉団子をとって下さい。」 「わかった、イリヤも食べるか?」 「ちょーだい、シロウこっちの香草蒸し美味しいわよ食べる?」 「すまん、取ってくれ。」 「士郎それは私の自信作よ味わって食べなさい。火加減が絶妙よ。」 「坊主、俺はマーボーいらねえから、そっちの肉と野菜を炒めたやつくれ。」 「ランサーこれはホイコーローっていうんだ、美味いぞ。これだけでご飯がすすむぞ。遠坂、この魚美味い、いつの間に腕を上げたんだ?」 「ふふん、うかうかしてると追い越すわよ。」 「いや、何かそういう問題ではないような!?」 「それより!!何よランサー私のマーボーは食べれないって言うの?」 「リン、他の料理はおいしいのに何でマーボーだけは、こんなに辛いの?」 「確かにイリヤスフィールの言う通りです。これは少々辛すぎる。」 「確かに、ライダーとイリヤの言う通り、一寸辛い・・・とうか辛すぎる。水、水!!」 「て、訳だ。」 「あんたたち文句があるなら食べない!!わかった!?」 「あっ、マーボーおいしい〜」 「マジか藤ねえ。」 頼むから英霊以上の食欲をだすな虎。むしろその胃が宝具だったりして。 そんな食卓の戦場の中、そんな事は関係ないとばかりに映っていたテレビのニュースに目を奪われた。 『お昼のニュースです。 今日、午前6時30分頃 冬木中央公園で大量の血痕を、ジョギング中の男性が芝生の上の血痕を発見し110番に通報しました。 冬木警察署の調べによると、大量の血と散乱した手足を発見し20人 近くの人間が・・・・・・。』 何だ今のは、妙な事件に違和感を感じる。 「士郎。」 遠坂が目で合図してくる。取り敢えずは今の食卓戦争を終わらせるのが先だろう。 一つだけ疑問が残るのだが、藤ねえ、ライダーの事は散々文句を言ったのにランサーは何も気付かないどころか、一緒に問題なく食べてるのは何故だ? 朝飯兼昼飯を取り、昼からの仕事の藤ねえを送り出し俺たちは再び集まった。 「遠坂さっきのニュースは。」 「ええ、タイミングを考えると臓硯の可能性が高いわね、目的の為ならなりふり構わなくなってる。もしくは目的が叶うから構わなくても良いと考えているか・・・。」 やっぱりだ。間桐臓硯を早く止めないと、これ以上犠牲は出させない。 「突然だけど、臓硯のいやマキリの魔術って一体何なんだ?」 「何よいきなり。」 意外そうな顔で聞き返してくる。 「相手の魔術の系統が解れば、襲われても対策が立てやすいだろ?この間の授業の時にも遠坂言ってたじゃないか。」 ウッと言葉に詰まる遠坂。 「何か言い辛い事でもあるのか?」 「ちっ違うわよ。」 「兎に角、マキリゾウケンは蟲を使うわ。蟲が出たら気を付ける事ね。」 遠坂を押しのけて話すイリヤ。 「このぐらいかな?」 「短!!」 「イリヤあんたねえ。」 流石にそれだけの情報じゃ困るぞ。 「でも教えたら、シロウ単身特攻しそうだし〜。」 「ああ、それもそうね。」 遠坂まで・・・なんて事言うんだ幾らなんでも、そこまで俺は馬鹿じゃないぞ、多分。 「まあ、特攻はしないでも冷静さは欠いて返り討ちにあいそうね。」 「うっ。どうせ俺は、ヘッポコだよ。」 「いじけないの、下手に手を出したら桜がどうなるか解んないでしょ。あんたの心配は桜でしょ?多分 大丈夫よ。臓硯も馬鹿じゃないわマキリの血筋が絶えるのは避けたいはずだから、多分何処かに連れて行かれているはずよ今回の事が終われば、きっと帰ってくるわ。」 「そう・・・なのか?」 何か騙されている気がする。何故かと言うとイリヤと遠坂の目が、嫌に優しい、あれは不気味だ。 「何よ、私の言う事が信じられないって言うの?」 「信じるとか信じないとかの話じゃなくてなあ。だあー、そんな目で俺を見るな!!」 その睨んだ様な笑顔は今までに無い不気味さを醸し出している。 「取り敢えずシロウはマウント商店街に、お使いに行ってちょうだい。長期戦になりそうだから、そこを考慮して買い物お願いね。後、私前食べたタイヤキが食べたいから。」 「ちょ、ちょっと待てイリヤ押すな。買い物なら長期戦を見越して二日前に俺が済ましてる・・・。」 無理やり立たせ俺を玄関へと引きずる、買い物って言ったって財布すら持ってないって。 「なら、タイヤキだけでも。」 「ライダー、士郎の護衛お願い。」 「わかりました。」 チョットマテ。 「何で、ライダーまで?」 「あんた、自分の立場解ってるの?あんた居なくなると後方支援が無くなるじゃない戦力激減よ、そんなヘッポコに護衛を付けてやろうって言うの、ほら行ってきなさい道草くわない様にね。」 「解ったよ。人数分買ってくる。」 一体なんだって言うんだ。 『────────という異国情緒あふれる風景でした。 最後は事故のニュースです。 今日未明、冬木市郊外へと続く国道で、車が道を大きく外れ車が横転すると言う事故がありました。 運転していたのは市内で建設業を営む佐藤陽介さん(27歳)、命には別状はなく体の数箇所を傷める軽症でした。 冬木警察署が事情を聞いたところ、『死体が、焼け爛れた人間が・・・・幽霊が』と繰り返すばかりで混乱していると言うことです。 では、三時のニュースをお伝えしました。』 「リン、下手なごまかし。多分ばれてるわよシロウ知ったら悲しむわ。」 「どうかしらね、鈍感だから気付いてないかもよ? それに何よ、あんただって同じ事考えてたでしょ?」 だって、しょうがないじゃない。ああでも言わなければ士郎の馬鹿は、桜を助ける為に間桐の家に行くのは目に見えてる。十中八九、桜は間桐臓硯の駒として使われているはず、対策を考えずに行くと桜を人質にされ全滅する恐れがある、忌々しい蟲爺め。 「まあ良いわ、それより聞きたい事があるのリン。昨日、サイファの人間と話したって言ってたでしょ。でね、一つ気になる事を言ってたんだけど。」 「何?」 「遠坂の戸籍と間桐の戸籍に同時期に戸籍の改竄の跡がある。そこの確認が取れ次第、連絡してくれだそうよ。」 ・・・何て情報網だ、短時間で戸籍までを調べるとは・・・サイファは国と太いパイプでもあるのだろうか? しかし、そこを突いてくるとは流石と言うべきだ。 要するに疑われているのだ、敵としての間桐と遠坂の関係を、イリヤも薄々勘付いているのだろう、だから士郎の居ないこのタイミングで、手遅れにならない早い時期で聞いてきた。 『貴女はどういう立場に居るの?』と言う意味だろう。でも、その心遣いは今とても有難い。 本当の所、私と桜は血の繋がった姉妹だ。間桐、いやマキリの家系は元々この地の魔術師ではない。 彼らの発祥の地は知らないが、この地に降り立ったマキリは異国の土が合わなかった為、代を重ねる度に子供が生まれる度に魔術回路が減っていったらしい。そして間桐慎二の代になってからは一切魔術は使えなくなった。 完全に魔術回路が無くなったのだ、そこで間桐は考えた。 『魔術回路が無いのならば、ある所から持って来れば良い。』と、その条件にあったモノは案外簡単に満たされた。 魔術師の家系は一子相伝、その家督は、その英知は兄弟が何人いようとも、ただ一人にだけに継がれる。 そして、遠坂の家系は当時二人姉妹だった。 その流れから桜は養子に出された、欲しがるマキリもそうだが、お父様もお父様だ。でもお父様も今の桜を見たら後悔するだろう、高校に入った時の桜を見たときは無残なものだった、今の桜は昔より閉鎖的で笑顔も出ない。以前は、あんなに活発的で笑顔が綺麗な子だったのに。 「間違ってたら、ゴメンナサイ。もしかして、リンとサクラは血の繋がりがあるんじゃない?」 「何でそう思うの?」 「リンのサクラを見る目かな? ふとした時にサクラを見ているから最初はあっちのケがあるのかなって思ったけど、見守っている様な言いたい事を我慢している様な顔をしてたから、何かあるな〜と思ってた。そして、今回のサイファの話でピンと来たわ、リンとサクラは姉妹もしくは血の繋がりのある関係じゃないかって。」 「はあ、あんたには隠し事しても無理みたいね・・・・そうよ。小さい頃、間桐に養子にでたのは私の妹の桜。これで良い?」 「・・・・・・」 私の返答に途端に黙り込むイリヤ。苦しむような沈痛の面持、その顔は魔術師の顔ではなく人間としてのイリヤの顔、士郎と共に暮らして培ってきた暖かな感情。 「どうしたの、イリヤ?」 「リン、言いたくなかった事だけど、あなたに話さなきゃ・・・・いけないわ、どうしても。」 その時の言葉は・・・・・・。 マウント商店街、新都の商店街やデパートにも引けを取らない食料関係だけは充実する深山町の商店街。 そこにあるタイヤキ屋、とても美味しいとの評判で甘党の人間にはたまらないと言う。穂群原学院の生徒の買い食いのスポットの一つでもある。何故ならば、ここタイヤキは一個90円でかなり大きい上に美味い。その美味しさの秘訣は手作りの餡子の丁寧に作られているからだと俺は予想している。 「と思うんだが、どうかなライダー。」 ライダーとの帰り道、ちょっと小腹が空いてたので、作戦会議を体よく追い出された腹いせと言わんがばかりに二人で公園で小休止。 二人ブランコでタイヤキを頬張っていた。 「ふむ、士郎の言い分も解りますが、私はタイヤキの皮と餡子の比率に注目したい。ほんの少しだけ多めに残した皮が逆にアクセントとなり餡の美味しさを引き立てていると思うのですが。」 「そういう考えもあるなあ。」 ライダーの意見を聞きながら空を仰ぎ見る。なんて平和な日だ。 でもそんな平和な日常の裏では刻一刻と犠牲者が出続けている。正義の味方それについて、あれからずっと考えた。でも結果は出てこない俺の理想は所詮借り物だ、その事は教会の地下で嫌と言うほど思い知った。だけど、それを受け継いだ限り捨てるわけにはいけない、俺が生き続けている限りあの時死んだ人間の代わりに走り続けないと、立ち止る訳には行かない。 「士郎どうしました?」 「ちょっとね。」 まずは、間桐臓硯からだ。冬木中央公園の血痕、ニュースの話を元にすると犠牲者は20人、昨日の朝の戦闘を合わせると50人近く犠牲になっていると言う。 「士郎、焦ってますね。」 「ライダー。」 「なんでしょうか?」 「俺、焦ってるか?」 「ええ、私と話している時も上の空。その上に眉間に皺が寄っています。サクラを助けに行きたいのは解りますが、もう少し落ち着かないと出来る事も出来ません。」 そうか俺そんな顔していたか、少し落ち着かなきゃな。こんなんだから、イリヤと遠坂に追い出されたのかもしれない。 ・・・・?今ライダーの口から思いもかけない言葉が出なかったか? 「ライダー、お前桜の事知っているのか?」 「・・・当然です、私のマスターは誰か知っているでしょう?」 「そうじゃなくってさ、何かこう桜を知っているとかじゃなくて、桜と知り合いって感じで言わなかったか?」 「いえ、それは士郎の気のせいでしょう。」 アッサリとかわされる、だが疑問は消えない、むしろ深まる。俺の疑問を振り払うようにライダーはブランコから勢い良く立ち上がり、少しほんの少し憂いを含んだ笑顔で振り返った。 「そろそろ、帰りましょうリン達の内緒話も、そろそろ終わる頃だと思いますので。」 「ああ、そうだな。」 ったく。あいつ等、一体何を隠してるんだ?俺にも手伝わせてくれたっていいと思うが、確かに俺は頼りないと思うけど、もうちょっと信用してくれても良いんじゃないか? だが、その俺の不平不満も交差点までだった。 交差点を曲がる見知った赤い背中。 「なっ!!」 アイツは、何で?いや、この展開はあるべきだ。ライダーやランサーが居るなら、アイツも出てくる事も可能性にある筈だ。 「どうしました、士郎?」 「アイツがいた、後姿だったけど間違いないアーチャーが・・・。」 でもアイツ、戻って居るなら何故遠坂の元へと帰ってこない?アイツは俺にとっては、いけ好かない奴だが遠坂だけは裏切らない、それだけは確かだと思っていた。 「何故だ?」 「そんな事より、本当にアーチャーが居たんですか?」 「ああ、この目で見た。ライダーちょっと気になる事があるんだ行くぞ。」 そう言うと呆れた目で見られる。 「士郎、先ほども言いましたが・・・・まあ、それが貴方らしいと言えば貴方らしいのですが。」 「何だよそれ。」 「今の考え無しで無謀で無鉄砲な方が貴方らしいと言う事です、それより良いんですか?」 そうだった、こんな事を話している場合ではない追わないと。 でも俺はそんなに無謀か? 角で巻かれそうになりながらもギリギリで追い着き、アイツを追い続けて五分思いがけない場所に出る。 「ここは・・・・。」 そこは、間桐邸だった。 広い洞窟、その中心には巨大な石柱、その上には黒い卵が浮かんでいた。洞窟自体が光を放ち足元を照らしていると言うのに、その老人の足元は黒い影が蠢いていた。その後ろに白い髑髏の面をつけた男が一人。 「後一騎でサーバントは七騎揃い、聖杯は間違いながらも起動する。時は満ちた今度こそ聖杯を使い我が願いの成就を。」 「にして主殿、今後はどうなさる?」 髑髏の仮面が洩れるように喋りかけてくる。 「計画通りに事を進めるだけじゃ。」 「では?」 老人は知れた事と一言呟き醜悪に顔を歪ませ笑う。 「衛宮の子倅を使い、あやつを何とかする。慎二の馬鹿者が生きておれば少しは楽だったがの。」 「遠坂とアインツベルンは?」 「負の感情と空腹に狂ったモノに乗っ取られたあやつが勝手に始末してくれるじゃろうて、寧ろその方が好都合アレの完成も近づく。それよりお主にはやって貰いたい事がある。」 髑髏の仮面が首を傾げる。 「暗殺しか能が無い私に何を?」 面に隠れて見えないが、その笑いは自虐に満ちている。 「弓兵よ、あやつは我々との利害関係で動いておる。しかし、いまいち信用がならんでな其処でお主に奴が裏切ったら殺す任を与える。」 「御意。」 「それともう一つ。先ほど言った疾薙紫門、奴の生死が解らん見つけ次第生きていたら殺せ。」 「主殿が焔の海に引きずり落としたのでは?」 「先にこちらの蟲人形が灰になってしもうて解らん、あやつは早く殺さねばならん・・・そうじゃアーチャーを使って共倒れを狙うのも悪くないの。その二つの任見事やって見せよ。」 「では。」 スウと音も無く消えた髑髏を一瞥もせずに老人は石柱を見上げる。何かを羨望するかのように、何かを思い出そうかと言うように。 『ニュースをお伝えします。 今朝の冬木市の中央公園の事件の続報です。今朝発見された血痕の他に10人近くの手足を発見した 冬木警察署の調べによってわかりま した。捜査本部では、これを大量殺人として捜査する見込みです。 続いて、不思議な事件をお送りします。 本日、10時過ぎに冬木ビジネスホテルから焼死体を見つけたとの、 110番通報がありました。駆け付けた警察官によると通報の死体は無く、そこには焼け焦げた物が引きずられた跡があったとして、何らかの事件があったと断定し、捜査を決定しました。 引き続き今日の天気・・・・・。』 |
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