第14話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 21時42分46秒公開
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Interlude 「いってきます〜す、士郎〜お姉ちゃんがいなくても寂しがらないでね〜。」 家の用事で隣の県まで行く藤ねえ、むしろ居ない方が食費が余りかからないで済むのだが。 「お〜気を付けていくんだぞ。」 「お姉ちゃんを子ども扱いするな〜。」 藤ねえは捨て台詞を吐きながら走るように出て行った。 「まったくタイガも困った人ね。」 「全くだ。」 「士郎もよ、ほら包帯かえるから居間にいくわよ。」 「おう。」 イリヤに手を引かれながら、居間に入る。 「あいててて。」 「全くもう、綺麗に焼かれちゃってねえ。だから、シロウがマキリに係わり合いにならない様、情報を教えなかったのにシロウったら関係無しに突っ込むのだもの。」 「すみませんイリヤスフィール、私が付いていながら。」 「ライダーは良いのよ、人の忠告を無視して突っ込んだ人が悪いのだから。」 衛宮邸の居間で俺は包帯の交換をして貰っている。昨日のアーチャーの攻撃により俺は火傷を負った、逃げている間にも追撃は激しかったが、ライダーのお陰で何とか逃げ切る事に成功、家に帰ると大した事は無いのだがイリヤが大騒ぎしてミイラ男にされてしまうなどと色々あった。 「イリヤ、大した事無い左腕を少し火傷しただけだ。」 「少し? これの何処が少しなの?左腕が広範囲にわたって二度の火傷、結構重症よ。リンが見たらなんて言われるか。」 昨日帰ると既に遠坂は居なかった、だが逆に居ない事に感謝する。今、遠坂の事を考えると正直気が重い、アイツの正体の事もそうだが昨日見た慎二の日記に書いていた桜の事もある。 正直会いづらい。 「どうしたの、シロウ? 怖い顔して。」 「ん? 何でも無い。ちょっとな・・・そうだイリヤこの本、何の本か解るか?」 買い物袋から出す一冊の本、日記と共に慎二の机の上から持ってきた一冊。 「何これ? 魔道書じゃない。どうしたのこれ?」 「やっぱりそうか、慎二の家から持ってきた。何か役に立つかもしれないから見てくれ俺にはさっぱりだ。」 「ふふ、ヤッパリ。シロウはシロウね。」 皮肉を言いながら本を開き読み始めたイリヤを他所に服を着る。 ・・・・・一つ疑問が残る、あの日記と魔術書は一体誰があそこに置いたのか?しかも、机の上に目立つように置かれていた、あの置き方は誰かに見せるために置かれていた。一体誰が?疑問は積もるばかりだ。 その時、状況の整理が出来なくて頭を悩ました俺の耳に玄関からの声が入ってきた。 「すいませ〜ん、誰か居ますか?」 女性の声、遠坂なら断って入ってくる事も無いから一体誰だろう。 「イリヤ、遠坂が来てから話をしよう。ちょっと色々と聞きたい事がある。」 そう言って玄関に急ぐ。そこには知らない女性がこちらを背にして玄関に座っていた。 ジーンズのパンツと首のチョーカーで留められた背中の大きく開いた黒の服、肩に掛けた釣りの道具入れの様な長い荷物。俺の姿を見つけると急いで立ち上がりウエストバックから名刺入れを取り出し名刺を差し出してくる。 「砕破総合警備保障から来ました霧島双葉です。ここにイリヤスフィール・フォン・アインツベルンが居ると聞いてきたんですが。」 「え? あ、はい。イリヤ〜砕破総合警備保障さんが尋ねてきたんだけど?」 居間に呼びに行く間もなくイリヤは俺の横に来ていた。 「あなたがサイファからの使者? 思ったより若い人が来たのね?」 お前の方が若いぞと言う事は飲み込む。確かに若い、大きな目と一見あどけないが芯が通った顔つき、見た目は俺と同じ十代後半位だろうか?同じ会社の人の紫門さんと比べても若すぎるぐらいだ。 「そうですか? 確かに若く見られますけど、これでも24歳ですよ。」 そう言いながら、髪の毛をクルクルと弄りながら首を傾げる。24の割には少し幼い所があると言うか何と言うか、一言で言うとなんか可愛い人だ。 「まあ、そんな事は兎も角、本社の決定と今後の方針を伝えたいのでチョット上がらせて貰っても宜しいでしょうか?」 断る理由も無く、俺はイリヤと顔を見合わせた。 冬木市中央公園 お腹が減ったと言っている。生まれ出でる為には未だ足りないと、もっともっと喰らいたいと言っている。私の身体の中の子は私を急き立てる。もっと誘えと、もっと襲えと、もっと喰らえと。そしてこの世界に早く生まれ堕たいと。 何時からか私の中には黒い何かが棲んでいた、お爺様に聞いても「聖杯の中の英霊が影響している」としか言葉が返ってこない、それは嘘だと解っていた、英霊がこんなに禍々しい訳は無い。だが、知ったからと言ってどうする事は出来ない、限りなく不安なのだ。この子は人を喰らう昨日もお爺様の命令で数十人の人間を誘い引き渡す前に耐えられなくなって食べてしまった。 身体の中の子は日々強力になり私の心も体も蝕む、そして今身体の疼きに耐えている内に私も段々乾いて来た。 もう限界かもしれない。 乾く体が乾く、確実に私は欲しがっている、だけど、駄目。まだ日が高い。乾く、飢える。欲しい、もっともっともっともっともっと欲しい、欲しい、彼が欲しい、綺麗な心、彼の体、私の憧れ、私の 「大丈夫か?」 ベンチに蹲った私にかけられる声、その聞き慣れた様な切迫した声に身体の疼きも一瞬忘れて我にかえる。 見上げると赤い騎士、アインツベルンの城跡で復活させてから、何故か私に色々と世話を焼いてくれる。 何で協力してくれるか解らない、何度聞いても「気紛れだ」としか返してこない。 だが不思議とこの人の言葉には不安は無い、皮肉屋だが何処かしら私を守ろうとする態度と優しい眼差しが私を安心させる。 その騎士が、緊張の面持で私の手を引いた。 「桜、苦しい所で申し訳ないが走れるか?」 「どうかしたんですか?」 「周りを見ろ、幾ら人が少ない公園と言えども全く人が居ないなんて異常だ、誰かが人払いの結界を施している。ライダー程ではないが、この巧妙さはかなりの術者だ。」 一息でそこまで言うと双剣を手に周囲を警戒するアーチャーさん。確かに人払いの結界が張られている幾ら私が身体の中の子に気を取られていたと言っても、何時の間に? ・・・・・何?お腹の子が怯えている? 「この場を離れよう、周囲に気配が無いが・・・・妙な胸騒ぎがする、どうした桜?」 「いえ、何でもないです。」 何?この子の怯えようは私までそれが伝わってくる。こんな事は今まで無かった。 轟!! 轟と風が吹いた。それは体で感じる風ではないマナの風。マナに引かれ風が巻く、濃密なマナの清浄な力の風が。 中の子が一層怯える。何処からとも無く声が響く、池に石を投げ込んだ時に出来る波紋のような声。 「トホカミエミタメ 祓い給え 清め給え」 大地からマナが湧き上がる。地脈の力を直接使ってる?そんな馬鹿な、この量は人間に扱える量ではない、何かしらの宝具だろうか? 風が一層強くなる。隣にいるアーチャーさんが風から私を庇う様に立ちはだかる。 「ふるへ ゆらゆらと ふるへ」 風がうねる、マナはさらに濃くなる、まるで濃密な水の中に居るようだ。 轟!!! 巨大な風の塊が一点に落ちる。十メートル先の広場、そこには先ほど誰も居なかったはず唐突に現れた影、目を凝らすとそこには一人の男が立っていた、 年は二十代後半位だろうか、濃紺のウインドブレーカーを羽織り腰に三本の剣を差した奇妙な男。 「さて、準備は整った。君、そう君だ。」 私を指差してくる。 「穢れにまみれた、いや穢れを撒き散らす大本とも言える君が存在する限り、私は今一度戻らなければいけない。祓いの三家、疾薙紫門として相対させてもらう。ついでに過去見の望遠鏡を返してもらうかな?」 「それは私を倒してからにして貰おう。」 赤い背中が私と疾薙と名乗った男の間に立ち塞がる。その手には先ほどの双剣は無く、弓を男に向けて矢も無く引いていた。 「引け英霊、お前も英霊なら解るだろう? それを放って置いては危険な事を。」 「正規の英霊ね、生憎と私はまっとうな英霊ではないので解らんな。」 顔は見えないが、その顔は皮肉げに笑いっているのだろう。対する疾薙も奇妙な表情をする。 「・・・・君は? まさか? 耳が同じ、目の雰囲気は余り変わってない少し荒んでいるか。身長も違う・・・英霊の定義、英霊のいる座は世界より切り離されているとすれば、可能性は無くは無いか。」 「何をブツブツ言っている、やるのか?やらないのか?」 「一つ、聞かせて貰って良いかな?」 「私にか?」 「そう君だ。君は生前の理想は? 理想を叶えられたのか?」 「どう言う事だ?」 赤い騎士の背中は冷静な言葉とは裏腹に背中を緊張させる。アーチャーさんの理想・・・・疾薙紫問は一体何を知っていると言うのだろう。 「一つ良い事を教えておこう、幾ら整形しても眼つきと耳は変えられないんだ。さあ、君には退くつもりが無い・・・ならば押し通る!!」 言葉と共に駆け出す男それが、開戦の合図だった。 神職において穢れとは最も忌むべくモノだ。 有名な話としてはイザナギノミコトが黄泉より帰った時、日向の橘の小戸の阿波岐原で黄泉の国の穢れを禊いだのが挙げられる。 その時、産まれた神『三貴神』は有名な話ではある。 実際問題、目の前の女性には禊いで貰いたい・・・が、あの大量の狂気に塗れた穢れに憑かれた状態では無理だ。 ならば、 祓う しかない。 祓いとは心身を祓い清めるイメージがあるが極論で言わせて貰うと刑罰の一種、古くはスサノオがアマテラスの神聖な斎場を穢した事からの刑罰に始まるともされる。 そして、疾薙に於いては葬る事によって祓うとされる場合がある。 今がその状況なのだろう。 幾人もの人間を殺しその死の穢れの気を帯びたその心身は私が祓わせて貰う。 たとえ、他人にとって大切な人でも。 最初は忘れていた、磨耗した記憶の中での彼女は擦り切れたフィルムの様に存在していた。 擦り切れた記憶の所為か、それともその記憶が私にとって辛い記憶のためか、目覚めた時その声は酷く心に染みた、彼女の苦しみが染みこんだ気がした。 「貴方は、遠坂先輩のサーヴァントのアーチャーですね?」 彼女は事務的に聞いてきた、その声に記憶の深い位置を占めるエミヤシロウの記憶がゆっくりと浮かび上がってくる。 だが今は、状況の整理をつける為その記憶を抑えつけた。 それが原因かは解らないが、凛に召還された当初の時のように少し軽い混乱を覚える。 「アーチャー、此方の話を聞いているのですか? 早く私達の質問に答えなさい。」 ローブの女性が、何処かで見た事がある女が、刺がある声で聞いてくる。 益々混乱が深まる。 何故、此処に間桐桜が居る?何故、此処にサーヴァントが居る?何故二人が一緒に居る?何故、私は今だ現界している?何故だ何故だ何故だ? あの時、バーサーカーの一撃の元に私は消え去るはずだった。 焦げた臭いの中に新緑の香りが混じり鼻腔をくすぐる、青い臭いに脳が刺激され混乱した頭に冷静さが広がっていく、明らかに季節が変わっている。周囲を見ると焼け焦げた瓦礫と森、記憶が正しければ、あれはアインツベルンの森・・・・ならば、この周りの瓦礫は城の残骸か? 「・・・・今はいつだ?」 「聖杯戦争から三ヶ月近く立ちます。聖杯戦争の結果が知りたいですか?」 彼女は能面のような顔で聞いてきた。 「聞かせてもらおう。」 「勝者は貴方のマスター遠坂先輩、聖杯は危険な呪いを内包していた為破壊したと言う事になっています。」 得々と語る彼女の声に、心が疼く。記憶が浮かぶ。 『先輩・・・・私は・・・・・・・。だから・・・・』 声が耳に響く。染みこむ声が記憶を鮮明にする。 ああ、そうだ彼女は、私の・・・・。 『先輩は正義の味方なんですよね? だったら・・・・』 思い出した言葉は、笑顔は私の意志を固めるには十分な物だった。 『殺してください・・・・ね。約束ですよ。』 左薙ぎ、袈裟、足払い、刺突、逆風、逆袈裟、右切上、その剣は正に暴風。間断なく打ち込んでくる双剣を同じく双剣で受け止め、払い、時には避ける。 右からの薙ぎを左の干将で受け止めた瞬間、疾薙の姿が消えた。 下!! 受け止めた瞬間、弧を描く歩法で私の側面に回りこんだ疾薙は、剣の接点を支点に上に持ち上げながら右の剣での下からの刺突をうってくる。それを莫邪の刀身で受け止めた。 ギャン!ドゴッ!! 剣の接点が擦れ火花が飛び散る。腹部に痛烈な打撃、中段蹴り!! 「グッ。」 蹴られた衝撃を利用して相手との距離をとる。何十合目の打ち合いが止まる。相対距離六メートル林を背に奴は二刀の持ち手をダラリと下ろした。 「なかなかやる。この不利な条件の下で此処まで動けるとは。さすが英霊。」 「ぬかせ。」 実際は少し押されている皮肉の一つも言ってやりたいが、体が重くそんな余裕も無い、対する疾薙も軽口が出ているが、奴も相当無理をしているのが解る。 自分より身体能力が上の相手と戦う、勝利するにはどうすれば言いか? その答えを簡単に答えると何処かでズルをする自分の土俵にもって来ると言う事だ。以前エミヤシロウにも言った『最強の自分をイメージしろ』と同様の事だ。 この場合の疾薙が取った方法は、こちらの戦力を想定して、大規模な結界を張り、こちらの戦力を制限したうえでの戦い。 奴の一番の問題は結界の維持だろう、見るかぎり地脈から直接エネルギーを抽出し変換、それを陣としてこちらを制限する効果をだしている。 これは一種の固有結界、もしくは柳洞寺の結界、キャスターの神殿作成スキルに近いと推測する、ならば維持に消費される魔力は大部分を地脈に負担させているとしても、かなりの力を持っていかれているはずだ。 それ以前に相当の魔術の力量と魔力量が無いと出来ない、それを考えると甚だ恐ろしい相手だ。 フードに隠れた顔が哂う、フードに目が隠れた状態で何故此処まで戦えると言う事も脅威の一つだ、これでは相手の次の手が読めない、生前戦っていたら確実に葬られている。 「戦闘中に考え事か?」 棒立ちの疾薙がユラリと残像を残すような予備動作なしの疾走を始める、チィ出遅れた。 その向かう先には、 「桜!!」 蹲る桜が居た。場所は先程のベンチから差程離れてない場所、先ほどの発作が叉出たのか!? マズイ!!此処からでは疾薙の剣刃から桜を守れない。 「――――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻れ狂う)」 干将と莫邪を消し、弓に剣をつがえる。狙うは桜と疾薙の中間地点。 「偽・螺旋(カラド)・・・!!」 剣を放つタイミングに疾薙は急制動を掛け、こちらに走り来る。 「くっ!!」 フェイントか!!狙いを疾薙にかえるが・・・・間に合わん!! 袈裟の一撃、斬られる瞬間、後ろに大きく飛び躱しながら疾薙の足元に弓につがえた剣を突き立てる。 「壊れた幻想(ブロークンファンタズム)!!」 ゴウン!! 爆風を利用し距離を再び開ける。やったか?爆煙が収まらぬ、その場所を鷹の目で凝視する。 「馬鹿な・・・・。」 煙幕が収まる場所には、淡く光る剣を十字に構えその場に佇む男が居た。右手を水平に構え、左手の剣の平を盾にするように地に突き立てた姿。結界が威力を削ぎ落としていると言えども無傷なのはありえない。 ランクが下がるとは言え宝具の爆発力を相殺するなど!! 淡く光る剣を抜き、ゆっくりと立ち上がる疾薙。 自然と剣に目が行く、この身は剣で出来ている、其れ故か解らないが剣への執着は人一倍だ、だが目が行くのは其れだけではない・・・・・・まさか、無傷の理由はあの剣か?解析を行なう。 大量の情報が頭に入ってくる、莫大な量の怨念と願いと祈りが概念が妄執が、解析停止。 判明はしなかった、だが断片的な情報からだけでも名前は解る、日本人なら大抵誰でも知ってる剣の名前。 「草薙、天叢雲!! 一本ではなく二本だと!? まさか、史実とは違うぞ、別々の剣だったとは。」 神話にある、草薙剣とは日本武尊が東方を攻めた際、火計で草原ごと焼き殺されそうになった時、草を薙ぎ払い危機を脱したと言われる剣、八俣の大蛇がいる場所の天には叢雲を集め雨を降らせたのはこの剣の力、故に天叢雲とも言われる。 史実では壇ノ浦の戦いの時に海に消えたと言う話だ。 だが今見る限りあれは二本とも本物だ、そして其れ故の効果。 あの剣は護剣、焔や厄災や弓矢などから所有者を守ると言う。日本の三種の神器を持ち出してくるとは奴は何者だ? 「良く解ったな。産まれ出でて二千年余、何度も鍛冶神によって打ち直しを受け原形を留めていない草薙と天叢雲を見抜くとは・・・・貴様、本当に何者だ?いや、彼を調べた方が早いか。」 「単なる弓が得意な魔術使いさ。気にする程の者ではない。」 「ぬかせ。力の温存を考えていたが、その宝具を使い捨てできる能力は厄介だ。全力で行かせて貰うぞ!!」 爆発と言っても過言では無い程の突進、かといって上体はぶれない無駄の無い疾走。 干将、莫邪を投影し迎え撃つ。 ガン!! 剣戟の音が違う!!右の袈裟斬りからの左の刺突。先ほどの剣戟が軽く感じるほど重く速い一撃、クッ避けられるか? 相手の左へ回り込むように避ける脇を少々切り裂かれる。 それすらも読んでいたかの様な今日二度目の右回し中段蹴り。それを今度は剣で受け止める。 ゴン!! 斬れないどころか逆に吹飛ばされる、目を凝らし斬った箇所を確認する。服は切れているが、その中の身体は斬れていない。これは硬気功?刃筋が通ってないとはいえ宝具で切れないとは、正真正銘の化け物か!!ならば、 「――――投影、開始」 双剣で受け止めるのではなく、捌く。 「天凪流 破法 天手力雄命!!」 三・四合も捌くと急激に衝撃が上がる、バーサーカーほどではないが、何て力だ。自己暗示による肉体強化か? 「――――投影、装填」 だが、これで疾薙の手は解った、強力な結界の所為で他の術が使えないのではないのだろう、これは見たところ強化と自己暗示の身体能力の飛躍。 捌きつつ、反撃に転じる・・・・クッ間に合うか? 「―――鶴翼、欠落ヲ不ラズ」 双剣で疾薙の剣を払う。 「―――心技、泰山ニ至リ」 右の莫邪を投げる、腰を落とし避ける疾薙、踏み込んでくる。 「―――心技 黄河ヲ渡ル」 左の干将で心臓を突く、が草薙に薙ぎ弾かれ干将は手から空へと離れる。疾薙の勝利に満ちた笑い、その口が強張る。 それが隙。 「――――投影、開始」 再び現れる干渉と莫邪。その驚きが命取りだ疾薙!! 「 ―――唯名 別天ニ納メ。」 双剣を同時に振り下ろす。バックステップで簡単に避けられる。 「―――両雄、共ニ命ヲ別ツ……!!」 陰陽に分かれた夫婦剣、その剣は例え遠くに離れようともお互いの元に返る。 投げた剣が、弾かれた剣が楕円の軌道を描いて戻ってくる、その先には疾薙の背中、必殺のタイミング。 「甘い。」 双剣を背に回し双剣を弾く疾薙。甘いのは貴様だ!! 「全工程投影完了――――是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)!!」 何十もの剣が疾薙に降り注ぐ。 これで詰み。 一度は捨てたモノ、もう一度取り戻せるなら、もう一度守れるならば、今度は・・・。 「壊れた幻想(ブロークンファンタズム)!!」 全てが閃光に包まれる。 衛宮家の居間は静まりかえっていた。イリヤは平然とお茶を啜り、ランサーは目を見開き、ライダーは何を言われているのか今一つ解っていない風だった。その雰囲気を作った張本人、双葉さんはニコニコと笑い、こちらを見ている。 「あー、それじゃあ。そっちの会社の目的は聖杯じゃなくて、英霊って事か?」 「はい。」 満面の笑みで返される。先ほどの人懐っこいような笑顔ではない、仕事と言う意味の笑顔で。 「うちの会社としては聖杯は要らないそうですね。我々に必要なのは、優秀な人材です。」 「優秀・・・?」 傍目に見ると戦闘にしか使えないような気がする。戦争に投入する為か?もしそうだとしたら・・・。 「あんたら、な・・・。」 「例えば、要人警護とかはどうです?」 俺の次の言葉を予想していたのか、発言に被せるように聞き返される。 「英霊は過去の失われた術を知り得る術のエキスパート、その英霊によって雇用面には多様性に富みます。失われた技や考古学、薬草学などの諸々の知識は当然、魔術の系統自体もかなり違うそんな知識が欲しいのです。まあ最悪あなたの思う様にもなるかもしれませんけど。実際、雇用に関するクレームは、あなたではなく英霊自身もしくは召喚した地の管理者の権限です。わかりますか?衛宮さん。」 むう、それは俺には反対する権利はないって事か。 「でも何で遠坂には権利があるんだ?」 「それは英霊復活に聖杯が関係してるからよ。」 何時の間にか帰って来ていた遠坂が大きな荷物を抱えて襖を開き入ってきていた。 「聖杯が関係?」 「ええ、おかしいって思ってたのよ。ランサーのゲイボルグや聖杯の再起動。二回連続での聖杯の破壊が原因と言えども、そう簡単に聖杯は動かないし、作ると言えども宝具なんて物そう簡単に作れるとは思えない。結果が出ているなら経緯は推測できる。一番、コストが少なくその場に有る物で作るとしたら、サイファが聖杯のシステムを一時的に利用したと言うことね。ちょっと考えれば解ったはずなのに私のミスね。」 「その通りです。」 よく出来ましたと言わんがばかりの笑み、それを見た遠坂は不機嫌そうに顔を顰める。 「要するに、今更ながら遠坂の方に筋を通したい訳ね。それは良いけど、何で今話すの?言わなければそのままだったかも知れないのに。」 「いずれは解る事ですし。それと社長が後で、ごねられたら困るからだって言ってました。」 即答された言葉にグッと息を飲み込む遠坂、後でごねて何かするつもりだったんだな、遠坂。 「でも勝手に私の土地に入ってきてからの行為はペナルティよ、そこん所はわかってるわね?」 「ええ。解っていますわ、ペナルティは宝石の方がいいですわよね、遠坂さんには。」 挑戦的な遠坂と、それを柳のように笑顔で受け流す双葉さん・・・・女の戦いは怖い。 そんな事より・・・。 「でも、その話はランサーは良いのか?いい様に使われてしまうのかもしれないんだぞ。」 「俺か? 俺は別にかまわんぜ。戦えるのならな、それ以前に元より死んだ身だしな今以上に怖い事なんてねえよ。」 「ライダーは?」 「ランサーの意見を支持します。私も、今ある目的を果たせば構いません。」 むう、二人が構わないのなら俺に言う事は無くなってしまった。 「衛宮さん、私達は悪い様には使いませんから安心してください。それは兎も角・・・・・失礼、電話が。」 携帯を手に縁側に出る双葉さん。イリヤと遠坂が顔を近づけてコソコソ話し出す。 「イリヤ、話には聞いてたけど、とんでもない企業ね。あれは、お金があるからの余裕かしら?ムカツクったらありゃしない。」 「ええ、たかが英霊にお金をかけるなんて、あの企業の特殊性で無いと考えられないわ。」 「特殊性って何だ?」 「衛宮君? 企業としては何が目的であると思う?」 「えっと、なんだ?」 「・・・・相変わらず頭痛くなるわね、企業とは一番に利益を作り出す一つのコミュニティと思えば良いわ。ところがこのサイファと言う会社はそれが一番ではない。」 「一番じゃない? じゃあ何が一番なんだ?」 「私がサイファから聞いた事によると、サイファ設立当初の目的は世界の異物の排除と言うものらしいわ。」 さらに顔を寄せて話すイリヤ。 「もうちょっと顔を離せイリヤ、で?異物って?」 「世界に著しく影響を与える特異点から産まれ出でる何かとしか聞いていないわ。設立当初のサイファの目的はその排除、それを行なうために会社要するにバックアップする組織を作り出した。だから利益は二の次なのよ。簡単に言うと世界を一個の生命体として考えるとサイファと言う会社は免疫システムと言うわけね。」 「会社って、そんなんでやっていけるモノなのか? かなり大変な事だと思うけどな。」 「それだけ、会社の上位陣が特殊かつ有能なんじゃない?じゃないと、排除に使ったノウハウを商売に使うなんて普通出来ないもの。多分利益だけ追っていたら世界一位の企業になってるかもね。」 遠坂はウンウン頷きながら一人納得していた。 「で? リンはそのサイファに喰らいついて、幾ら位強請り取るつもり?」 「最低でも、一千・・・・・・・強請り取るって人聞きが悪い!!」 気が緩んでいたんだろうか、つい本音が出た遠坂。強請り取るってオイオイ、一瞬言った言葉から察するに最低一千万か? 「貧乏な魔術師っていやねぇ。」 「私の家系の魔術はお金がかかるから、しょうがないのよ!!」 しょうがないなら、強請っても良い理由にならんと思うが。 「ちょ、ちょっと!!一人でって紫門、紫門!!」 縁側の廊下から怒鳴り声が聞こえた。電話が切れたのか携帯をしまいこちらに帰ってくる。 「ごめんなさい、声を荒げてしまって。」 「紫門さんがどうかしたんですか?」 「ええ、何か『穢れ』とサーヴァントが一緒にいたから何とかするって連絡があったの・・・・・あの人は全く・・・・。ちょっと話は後でと言う事で良いでしょうか?様子を見てきます。」 そう言って立ち上がる双葉さん。 「私も付いて行っても良いかしら?」 「遠坂?」 「何よ? 私が付いて行くのに文句があるって言うの?」 「そうじゃない、何で付いて行くんだ? お前の事だから何か考えがあってからだろ?」 同じ疑問なんだろうか、双葉さんもキョトンとした顔でこちらを見た。微笑みながら遠坂は指を三本立てる。 「一つ目は管理者としての義務、今何が起きているのかを把握する為、二つ目は魔術師として疾薙の魔術と『穢れ』とやらが気になる。三つ目は助けられて何もしないなんて私の流儀に反するわ。解った?」 お前の場合はどちらかと言うと最後の理由が大きいんじゃないか?ホント素直じゃないんだから。 「わかった、なら俺も付いて行く。師匠が行くなら弟子も行かなきゃだろ?それに途中遠坂に聞きたい事があるしな。」 「足手まといよ・・・って言っても、あんたの事だから勝手に付いてきそうね。もう、何度言っても聞かないんだから、足引っ張るんじゃないわよ、士郎。」 「おう。」 と双葉さんに付いて行こうとした、その時。 「ゴメンナサイ。理由は後で話すから、ちょっと先に行ってて貰える?出来ればサーヴァント連れて。」 「どうしたの?」 双葉さんの横顔を見た瞬間ゾッと寒気がした。気温は大分暖かい筈なのに体全身に鳥肌が立つ、まさに凍りつく様な気迫。 彼女が別人に変った様な感覚・・・・この人は今さっきまでいた人と同一人物なのか? その原因と思える人間は、天井をジッと見つめて、肩に担いでいた長い荷物を紐解く。長い刀身その刃は片刃、その倍はある折りたたみ式の柄。その武器は始めてみた、時代劇とかでしか見た事がない武器。その柄を伸ばし脇に構える。 「薙刀。」 「先に行ってなさい、私もなるだけ早く行くから。場所は冬木中央公園。」 簡潔に、それだけを言うと彼女は家を飛び出した。 追ったが玄関を出た時点で見失った、何て早いんだ。 「ランサー、追いましょう。リンとシロウは公園の方に行っていて。私はあの人の様子が気になる。」 イリヤが立ち上がり、座っていたランサーの背中にチョンと乗る。 「イリヤ?」 いきなり何を言い出すんだ? 「何か胸騒ぎがするの、もし相手がサーヴァントなら戦力が多い方が良いでしょ?ほら、ランサー行くわよ。」 「へいへい。」 「ちょイリヤ!!」 待ち切れないと、ランサーはイリヤを担ぎ双葉さんの後を追うように外へと飛び出した。 Interlude out |
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