第15話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 21時46分50秒公開
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草薙の剣。 日本神話において、これほど有名な剣は無い。正に最強に近い護りの剣、この剣は天叢雲の剣と十握の剣同様、代々疾薙家に受け継がれた至宝の三剣・・・・・天皇家に受け継がれている剣はって? あれは、儀式用の剣であり実はこっちが本物だったりする。 何で二本?とかの理由は長くなるので言わないが、その効果は見ての通りだ。 草薙と天叢雲は神話に語られる通り護剣、いや魔剣と呼んだ方がいいのかも知れない。 理由はいたって簡単、この剣は日本幻想種の中でも最強に近い龍種ヤマタノオロチより生まれたからだ。この剣の製作者は解っていない、これは私の推測だが剣を飲み込んだヤマタノオロチの中で鍛えられた剣ではないか?と推測する。 そう思った理由はこの剣の持つ祭具としての性質が問題だからである。 と言うような上記の理由により、この二剣はサーヴァントの持つ宝具に匹敵する剣である。 言い訳っぽくなったなあ・・・・・。 「壊れた幻想(ブロークンファンタズム)!!」 止めとばかりに彼は、彼のなれの果ては数十本の剣を大爆発させた。 ぐううぅぅぅっ!!! 疾薙の術を使い、草薙の加護を受け其れを防ぐ。体中が重複した術の行使で悲鳴を上げている。 今回は作戦を誤った、サーヴァントの戦闘能力を甘く見たのと術の使用を見誤ったのが原因だ。 特に後者が問題だ。 天凪の八尺瓊勾玉(サカヤニノマガタマ)、巫覡の八咫鏡(ヤタノカガミ)、疾薙の十握剣これが祓いの三家の持つ大意。これは神話に基づいて伝え続けた術の性質を表す。 あらゆる者を征せし王なりし力の具現、八尺瓊勾玉。その力を持つ天凪は身体の属性強化を得意とする、その効果は葛木戦を見てもらえれば良いだろう。 巫覡の八咫鏡はその鏡に刻まれた『この鏡を見るときは我が姿を見ると思え』との言葉通り神の姿をその身に写し神の力を顕現させる、これはアインツベルン城との戦いを見て欲しい。 そして、疾薙は伊邪那岐命が黄泉の国より逃げ帰る時、剣を用いて線を引き死者の出入りを禁じた事より始まった事より始まった、すなわち境界を引く、祝詞により空間を書き換える神域を作る事を主とする術『神域結界』。 実は他の三家の術の併用は難しい。 其れが今回の失敗に繋がった。 一つ、サーヴァントに対しては疾薙の術は決定打が少ない上に攻撃力に欠ける。 二つ、あの弓兵とは相性が少々悪いのもある。特にあの赤い外套が厄介。 三つ、サーヴァントの戦闘能力が結界内でも宝具を使われれば力が拮抗してしまう。 今、何とか戦えるのは天凪の属性身体強化と結界の効果の併用のお陰だ。身体に負担がかかるエネルギーは地脈から使わせて貰っているから特に問題は無いが、このまま戦い続ければでは身体が焼きついてしまう。 だからと言って、疾薙本来の戦い方は・・・・インビンジブルとしての自分を思い出す、倒す相手が居ない。 だが、今はそんな事はどうでもいい、問題は目の前の赤い男をどうするかだ。 疾薙の術は、これだけではない。二千年に渡る荒神や妖物、疫病や厄災との戦いは祓いの三家に様々な術をもたらした。 今まで身体への負担と暗殺者としての自分を忘れるために余り使わなかったが今はそんな事は言ってられない。 更に身体の負担が大きくなるが仕方がない。 モウモウと舞う土煙の中、懐から四本の三日月状の刃を取り出し、先ほどの彼がいた場所に放つ。 ギャン!! 四方から襲い掛かるように放ったが、予想どうり弾かれたか。 あれを牽制と思っていると思うだろうが、只投げたと思ったのが運の尽きだ。 「トホカミエミタメ 祓い給え 清め給え 」 古神道の疾薙流において祝詞は重要だ、舞を祝詞とする巫覡とは違い音を触媒として術と成す為。 「──────フルヘ ユラユラト フルへ ヒト フト ミ ヨ イ ムヨ ナヤ ココ タリ フルヘ ユラユラト フルへ 」 特殊な発声法で言霊が波紋の様に空間に広がる。疾薙の結界の中では、それを更に確たるものと成す。 同時に前に走る。 ギャイン!! 目前に構えた草薙ぶつかり、火花を上げながら後方へと流れる剣。 「──────フルヘ ユラユラト フルへ ヒト フト ミ ヨ イ ムヨ ナヤ ココ タリ フルヘ ユラユラト フルへ 」 増幅される力、土煙の中を音を立てながら円を書くように走る。足元の石を掬い取り一挙動で投げる、投げた動作そのままで左手の草薙を投げ剣の影に掛かるように天叢雲を投げる。 一本目が弾かれる、だが意外性を狙った二本目が腹をかすめる様に飛び相手の背後に突き刺さる、土煙の中で浮かぶ人影を一瞬だけ体勢を崩した、好機。 「──────フルヘ ユラユラト フルへ ヒト フト ミ ヨ イ ムヨ ナヤ ココ タリ フルヘ ユラユラト フルへ 」 魂振りにより増幅された力が、最初に弾かれた刃を基点として顕現する。 「顕!! 疾薙流 結界縛。」 「ガア!!」 苦しみに満ちた声。 「祓え。」 私が一つ手を祓うと土煙がマナの風に吹飛ばされ掻き消される。 土煙が去った先には不可視の壁に封じ込められた男がもだえ苦しむ姿があった。 「どうかな、疾薙の結界は? 拘束と共に力が奪われるだろう?」 片膝が崩れ落ちる男を尻目に『穢れ』を視界の端に収める。 「正義の味方か・・・・何があった?なんて聞きはしない、その末路は火を見るよりも明らかだからな。だが目の前の厄災を護ると言う行為は愚行だ正義の味方に反するだろう?」 「黙れ貴様に何がわかる。この化け物め。」 「何も解らないさ、解ったなんて言わない只予想が出来るだけだ。そして今は『穢れ』を祓うだけ。化け物でもなく探索者としてではなく祓いの三家の疾薙紫門として。」 復讐の為に捨てたはずの疾薙の姓、そして十年前に一度死んだ時に復讐を諦めた時、暗殺者の名前と共に捨てた筈だったが捨てきる事は出来なかったな。 己の信念も貫けない恥さらし。 だが、今は目の前の『穢れ』を祓う為その恥も甘んじて受けよう。 この行為は、少なくとも祓いの三家の分野、ならばもう一度神官に立ち戻る。 弾かれた双剣を拾い鞘に差し、もう一つの剣を抜く。母神殺しの剣であり竜殺しの剣でもある神焔を宿せし神の剣。 「十握の剣。」 震える声を背に受けて、蹲る『穢れ』の前に立つ。剣を振り上げる、後は振り下ろすだけだ。 「やめろぉぉぉぉ!!!!!」 蹲る『穢れ』がこちらを見上げた。 「早く、殺してください。」 目が狂っているか?・・・・いや、まだ。 「何故だ?」 「私は汚れているんです。生きていてはいけないんです。ホントは死んでしまった方が良いんです、じゃないと先輩まで汚してしまう。私じゃ、自分じゃ死ねないんです、手が震えるんです、怖いんです。だから、この子が体の中の子が動けるようになる前に早く早く早く早く早く早く・・・・・・。」 理解出来ない言葉、良い訳じみた言葉、己が傷つかない様に閉じこもったか?現実に耐え切れなかったか?壊れかけている、表情に統一感が無い、顔色もおかしい、焦点のずれた目、自律神経系に異常が起きている。外的要因による精神異常・・・早く終らせてやるのも慈悲か?、ならば勝機のあるうちに一刀の下にせめて痛みが無いように・・・・私も良い訳じみてきた。 「呪うなら私を呪うがいい。我は疾薙、黄泉平坂へと続く門の門番なり百七代目紫門の名において今此処に死の門を開き汝を導かん。」 振り下ろす瞬間、殺気を感じ大きく飛び退く。 ザン!! 先ほどまでいた場所に一本の剣と複数の魔力弾が突き刺さった。新手か? 「何!?」 打ち出された方向を見る、そこには弓を構えた一人の男と、こちらを指差すツインテールの少女が居た。 士郎君ともう一人は誰だ?だが、疑問に対して考える暇などない、一刻も早く『穢れ』を・・・む。 ジャラジャラジャラ 穢れへと踏み込む私の前に鎖が舞う、その動きは蛇のように私の周囲を包囲してくた。身体に巻きつく前に離脱する為に更に大きく飛びのく。飛びのいた場所に釘の様な短剣が突き立てられる、間一髪。 「シモン、桜から離れなさい。」 紫の髪、妖艶な身体の線、美しいと予想される顔を覆うのは無骨な眼帯。見た事のあるその姿は。 「ライダーか。」 「やらせません。」 再び接近を試みるが回り込まれライダーの機動力に阻まれる、結界内では私以外の動きは制限されている筈なのに何て速さだ、流石最高の機動力を持つ英霊。 「桜!!」 駆け寄る士郎君。 「駄目です、先輩は来ないでください。」 憔悴しきった声で静止をかける『穢れ』。 「どうしてだ、桜。」 「どうしてもです、私と一緒には居てはいけないんです。一緒に居ると先輩まで汚れてしまいます。じゃないと私先輩を・・・・・早く、逃げてください此処から。いいえ、この町から早く。」 「何言っているんだ桜?俺はお前を・・・・・。」 会話が進む中ライダーと私の対峙は今だ続いていた。 「退け。」 「何故です、何故桜を。」 「君も解っているだろう? そこで私を狙っている君も。」 視界の端にうつるツインテールの女性を警戒しつつ、ゆっくりとした移動を感じさせない歩法で距離を詰める。 「彼女の内包しているモノは目視しても解った。アレは世界を破滅させるもの、『穢れ』ているモノは祓い清めねばならない。」 「かといって『ハイ、ソーデスカ』って納得いく訳は無いでしょう!!」 「凛の意見に賛成です。貴方の意見には賛同しかねる。」 「未来を見据えろ。君らの力量でアレに勝てると思うのか?アレから開放できると思うのか?君らには出来まい。」 「あんた余計なお世話よ。桜の事は私達が考えるわ!!」 「交渉決裂か。」 女性の指から魔力塊と思われるモノがマシンガンのように放たれる。 「 祓へ 」 先ほどと同じように振り払う仕草と共に紡がれる言霊が、魔力の塊を吹き散らす。魔力に頼った術など神剣を使うまでも無い、疾薙の術の特性だけで大丈夫だ。 「な!!」 「無駄だ。私は大抵の魔術関係なら無効に出来る。この私の結界内なら尚更だ。」 まあ、魔法使いが居れば不味かったがなとは言葉にせずに飲み込んだ、本当に現れたら困る。 言葉には力がある、日本神道の大きな特徴を挙げるなら其れが大きいだろう。言霊、解りやすく言えば言葉の中に魔力回路があると思ってくれれば良いだろう、正確には体内の魔力回路を写し、音に乗せるような行為。その為、言葉の意味通りの現象が現れる効果は見ての通りだ。今回は対『穢れ』仕様『神言結界』内での制限と浄化なので効果は絶大。 「何だ!?」 だが、その結界が唐突に消えた、文字通り霧散した。 驚愕に値する事だ、結界が一瞬にして消えた。気配が増える、その方向を見据えると歪な短剣を赤い男を拘束する結界に深々と突き刺すローブを着た女が居た。 Interlude 「破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)!!」 体を縛る不可視の結界が霧散する、それを破ったキャスターは宝具を片手に目の前に立っていた。 「大丈夫ですかアーチャー?・・・・・そんな顔をしてどうしました。」 「いや正直、君が助けてくれるとは思わなかったのでね。」 「私には私の事情があります。貴方には貴方の企みがあるように。」 含みのある言い方に少しむっとするが、ここは礼を言っても損はないだろう。 「何はともあれ、助かった礼を言う。」 「いえ、あの娘が死んでしまったら。あの方の命が危険にさらせれるのは火を見るより明らかです。貴方に礼を言われる理由はありませんが、礼は受け取っておきましょう。 まったく、なぜ私が知っている女性は皆こうなのだろう? 「それよりアーチャー、昨晩の話ですが・・・。」 「気が変わったか?」 「貴方の提案に乗ります。信用は出来ませんが、少なくとも貴方はあの腐った蟲よりは信用できます。」 「信用する所に不満を感じるが、よかろう。」 「今はそんな事より、時間稼ぎをしますので、桜を。」 キャスターがゆっくりと空へと昇る。魔力の高まりが見て取れる、巻き添えになる前に・・・・。 「状況が悪いな・・・さて、一時休戦といかないか?このままじゃ巻き込まれるぞ。」 振り返るとヤレヤレと肩を落とした疾薙はフードで隠れた目を凛に送る。 それを受けた凛は少し考え込むように、眉間に皺を寄せていた。あの表情は何を考えているか手に取る様に解る。きっと今の状況を考えて、誰が敵か味方か分けた後、今自分がすべき事を考えている、そんな魔術師の顔だ。 疾薙はフードを目深に被り直し、凛は目で肯定の合図を送る。それが共闘の合図。 「桜の件は今は後回しよ、此処でやられたら意味が無いわ後でキッチリ説明してもらうから。あいつは、キャスター魔力に特化したサーヴァントよ。最弱とはいえ前回はセイバーでもピンチになった相手よ。」 「なるほどね・・・・・。」 「あら、疾薙の神官とあろう者が怖じ気づいた?」 「まさか、君のお手並み拝見といこうか。それに私には・・・・。」 キャスターが時間稼ぎをしている間に私は自分の成すべき事を。 「桜!!」 蹲る桜の様子がおかしい、これは私の記憶にある『あの時の桜』だ。ゆっくりと立ち上がる、暗く深い闇をたたえた瞳、その唇には妖艶な笑みが張り付いていた。 「桜・・・・?」 衛宮士郎も桜の変わりように呆然としている。止むを得ない桜のあの変わり様は、あの時経験を積んで相対した私でさえ呆然としてしまったのだから。 だが今の状況では拙い。 「クスクスクス。」 含むような笑い声と共に黒いモノが桜の足元から、ゆっくりと影から滲み出してくる。 「先輩早く逃げてくださいって、何で言う事聞いてくれないんですか? さっきの人が言ってたみたいに私が『穢れ』ているからですか? 言う事を聞いてくれない悪い先輩は少し痛い目にあった方が良いかも知れませんね。それとも、先輩が私を倒します? アハハ、アハハハハハハハハハ。」 楽しそうに本当に楽しそうに笑っている。英霊の身体はあの桜を怖がっている。 目だけを動かし横を見ると衛宮士郎も桜を、影を恐れて躊躇している。 「衛宮士郎、一つ忠告しておく。今の桜には近づくな。」 「アーチャー、お前何か知っているのか?」 「答えは既に出ているが、お前のその愚かな頭で解るとは思えんな、イリヤに聞けば解るとでも言っておこうか。」 「お前こんな時に・・・・。」 憎々しげ睨みつけて来る衛宮士郎。愚かな、この状況は私に突っかかってくる所ではあるまい、ここは引く所だ。例え此処で本当の事を話したとしても目の前の桜を不安定な桜をおかしくするだけだ。 「桜!!一体どうしたと言うのですか。」 「あら、ライダー。何故私の前に居るの? マスターの命令も守れないサーヴァントが一体、何の用ですか?」 「桜・・・・・私は・・・・。」 「言い訳は良いです、ライダー。貴方にはやって欲しい事があるんです・・・・・私の為に消えな・・・・・ああ。」 未だ完全に成っていないのか?再び胸を抑えて苦しむ桜、だが足元に広がる影は消えない、泥のような影は消える所か、ゆっくりと広がってきている。影が桜を心配して踏む込んだ衛宮士郎の足を軽く焼いた。 「ぐっ・・あああああああああ!!!!!」 「馬鹿者!!」 衛宮士郎の襟を掴むと間を開けるように大きく飛びのく。 「ライダー、君も離れたまえ、このままでは君も飲み込まれる。」 「アーチャーさん何を言ってるんですか?あなたは私の味方をしてくれるんじゃなかったんですか?」 「ライダーは君の元サーヴァントだろう?君の信頼しているサーヴァントには、それぐらい構わないと思うが。」 瘴気、そう言っても差し支えのないモノが辺りを包み始めている。まさに死を連想させる瘴気、疾薙の言っている事が裏づけられる状況。 クソッ、おもしろくない。 「・・・ウウッあれは、この感覚は。アン・・・・・・」 やっと気付いたか、足元で蹲る衛宮士郎は虚ろな目で桜を見ながら呟いていた。 夢を見ているようだ。 ランサーの背中で、その光景を見た時に一番最初に思った事はそれだった。 同時刻 穂群原学園 裏山 ギャン!! 踏み込みながら彼女は先端につく長い刃の腹で飛び来るナイフ・ダークを払う。 ギャン、ギャン!! 払ったダークで更に飛び来るダークを弾き、払う。それだけでは踏み込む足は止まらない薙刀の刃は円を描く様に返す刃で三本目のダークを叩き落とす。 後で聞いた話では、あれは突き刺すだけではなく薙ぎ払う事も重点に置かれた日本の武器、薙刀と言うらしい。 ザザザザ 霧島双葉と名乗った女は投げられたダークを払い落とすと同時に、それを投げた白い髑髏仮面の男に肉迫する。腰だめに構えた薙刀を身体の捻りのみで髑髏仮面の男の首を払う。 音も無く避ける髑髏仮面、同時に再びダークを投げる。 ゴウ 避けながら踏み込み一回転。風を薙払うかのような音と共に周囲に生えていたランサーの腿程の太さの樹が斜めにずれ落ちる。薙刀の風圧で、ダークが吹き散らされる。 ゴウ 突風を連想させる様な下段からの切り上げが土を撒き散らしながら刄が昇る。が、大きな跳躍で間を開ける白髑髏。 シュッ 風を穿たんばかりの疾さ。手元の操作で引き戻し反動を利用し相手の心臓を突き狙う。 それも避ける白髑髏。 「凄い、あんなに大きな物をあんな速さで・・・人が出来る動きなの?」 流麗にして精密な斬撃が謎のサーヴァントを追い詰める。食い入るように見つめるランサーは先程から微動だにしない。 「ランサー、どうしたの? さっきから黙っちゃって。」 「あの見たことのねえ、武器を相手で俺だったらどう戦うか考えてた。」 「え?」 ランサーの背中越しに顔を見ると、その表情は不敵に笑っていた。 「あの動きは槍術とも違う・・・・元は杖術か?それより問題なのは、あの武器だ。あの槍は俺のゲイボルクと違いハルパートの様に斬るのに適してる、しかもなんて長さだ。」 確かにあの槍と似た武器は刃渡り30cm柄の長さが2m近くと言う所か。 「どう言う事?」 「攻撃手段が増えるんだ、さらに手元の操作で変幻自在の攻撃が仕掛けられる。しかも、あのデカイ武器をあそこまで軽々と使われると厄介だな。」 「ようするに、ランサーでも戦ったら負けるかもって事?」 「いや達人でも人間相手なら負けはしねえが・・・あの女、本気じゃねえ。あれはシモンと同じく化け物の類いだ。サーヴァントでも合い討ちするんじゃねえか?」 「へ?」 再び戦いに目を向けると先程と変わらない攻防が繰り返されてる。 「あれで本気じゃないの?」 「殺気が一切感じられねえ。その上あの女、白髑髏の隙に気付いているのに、そこを突かねえ、確かにあの隙は誘いだろうが俺の読み通りの力量なら関係ねえ筈だ、解せねえな。何でかは知らねえがな。」 ・・・言われて見れば、何か違う。物足りなさを感じさせる攻防、女の口元には薄笑いがでている。 「・・・何かある。あの女は何かをする為・・・・・もしくは捕らえる為に力を温存してやがる。」 「加勢するとかできないの?」 「無理だな、あそこまで出来上がっちまうと逆に邪魔だ。」 ドゴッ 鈍く重く響く音。と共に崩れ落ちる白髑髏。足が深く腹に突き刺さっている。 風切り音と共に、首に刄が当てられる。 「何を企んでるの?」 「何の事だ?」 仮面越しのくぐもった声が聞こえる。 「あの家で何で貴方が居るのに気付いたのか解る?あれだけ完璧な気配遮断は見事としか言えないけど一つだけ見落としてたわ。起動前のナノマシンの共振反応がでてたわよ貴方の持ってたものから。それで直ぐにわかったのよ、知らなかったのは貴方の責任じゃないけど、迂闊だったわね」 「・・・」 「それを、あの家で復活させるつもりだったの?そう言う訳にはいかないわよ。紫門から言われてるのそれを復活させてはいけな言ってた、だから緊急事態と思って追って来たんだけど、さあ一体何処に隠したの?」 復活?一体何を?暫らくの沈黙の後、髑髏のサーバントは肩を揺すらせながら、くぐもった笑い声をあげる。 何?何故か胸騒ぎが大きくなる。違う胸騒ぎじゃない、これは心臓!? 「ククク、もう遅い。」 「グッ・・・ランサー!!」 「どうした!?」 胸が苦しい・・・心臓が聖杯が大聖杯の本起動に反応している!? 「主殿はこう言っていた『聖杯戦争は七人のサーバントが揃い始まる』と。」 そう言う事か、あの蟲爺やってくれる。 「『前回と違い聖杯の中は力に満ちている、だから一体でも消えれば、そこで戦争は終わる。』」 「まさか・・・。」 「■■■■■■■■ーーーー!!」 私の疑問はその懐かしくも恐ろしい声に掻き消された。 Interlude out オオオォォォーー・・・ 魔力切れか?爆裂の音と破滅の光が止まる。辛うじて防ぎきった。 あの後、空中から降り注がれる魔力の雨から私達は防戦一方だった。結界の維持とアーチャーとの戦いに大幅で力を消費したのにもかかわらず、ここまで善戦したのは護りの剣を持っていたのと隣でへばっている女性が居てくれたからだろう。 「あなたの、その剣は・・・。」 忌々しそうに見つめてくるキャスター。 「魔に携わる者は、決して私には勝てんよ。」 全ての厄災はこの剣に切り祓われる、全てはこの剣に飲み込まれる。 「君、二十秒だけ持たせてくれ。城で使ったのを使う。」 言葉もなく立ち上がると一つ頷くと手に宝石を構える女性。 さて、 「ふるへ ゆらゆらと ふるへ」 魔力とは、霊力とは、命もしくは活力。 私の唱える祝詞は延命法と言われる術を改良した増幅の効果をもつ術、一時的だが魔力を倍増させる事が出来る。 「天切る 地切る 八方切る 天に八違 地に十の文字 秘音 一に十々 」 周囲のマナを支配し暴風とし、あらゆる術を魔を吹き散らす術。そう、飛行の魔術もだ。侮って、空から見下ろすキャスター守りの障壁を張っているのだろう、それは間違いだ。 「吹っ切って放つ 魔を祓へ!!」 地より湧き出したマナが風となり八方に散り効果をあらわす。 「キャアアァァァ!!」 結果は簡単見ての通り重力に引かれ落ちるのみ。 「キャアアァァァ!!」 ええ? 同時に叫ぶ『穢れ』、一体何があった? その顔をみると、先程とは違う顔つき・・・・・本当に何があった? 崩れ落ちる『穢れ』、私の驚愕の隙を突き赤い外套が走る。 「待ちなさいアーチャー!!」 ライダーが鎖を放つが、その姿を捉えることは出来ない。 『穢れ』桜と言ったか?彼女を抱え倒れ臥すキャスターの元へと走る。 「キャスター大丈夫か?」 「遅いですよアーチャー。」 「すまない、桜を頼む。」 気絶している桜をキャスターに渡すと、こちらを牽制するようにこちらに向くアーチャー。 「貴方はどうするのです?」 「何とかする、神に仕える者を見つけたのでな、引く訳はいかなくなった。この後は計画通りに頼む、お互いの為に。」 「解りました。お気を付けて。」 見えないフードの下でニヤリと笑うと、桜を抱きかかえると現れたと同じように消え去るキャスター、空間転移まで使えるのか。 「さて、アーチャーこの場をどうやって切り抜ける?」 「逃げられるとは思わないことです、アーチャー桜を何処に連れ去ったか教えてもらいましょう。」 「さてと、どうするかな?」 いけしゃあしゃあと、穢れがいなくなった今の状況は違う。 ゆっくりとアーチャーの退路を塞ぐ、ライダーも同じようにアーチャーの後ろに回りこむ。逃げる事は出来まい、キャスターのような空間転移が出来れば逃げ切れるだろうが。 とその時、私達の意図とは違った動きをするツインテールの赤い服着た女性が、さも当然のようにツカツカと赤い弓兵に近寄って行っている。 「君!! 危険だ先走る・・・・な。」 笑顔で阻まれた・・・・・・メチャクチャ怖い・・・・・・。 「ちょっちょっと待て!!凛、君は少し冷静になるべきだ、まず私の話ぐらい聞きたまえ!!」 先程の緊迫感は何処か、アーチャーの静止を聞かずに唐突に殴りつける凛と呼ばれる女性。 「ぐお!!」 ベアナックルか・・・痛いなアレは。 「馬鹿!!馬鹿・・・馬鹿、戻ってきてたら・・・・早く言いなさいよ。」 おいおい、魔力の充分乗ったベアナックルって、やりすぎじゃあないのか?確実に私の戦闘よりきついぞ。 涙つきはキツイな・・・・うん。 「私を後悔させるんでしょう・・・・・・。」 「すまない、凛。」 まいったな、戦いの雰囲気じゃない。 後は、あの娘に任せて置けば良い様な気がする・・・・勘だが。 横を見ると同じ事を考えたのか、こちらを見るライダーと眼帯越しに目が合った。 「シモンあなたは何がしたいのですか?先日は凛達を助け今日は敵になった、そして今また共闘する。その行動原理は正直私には良く解りません。」 「色々あるのさ、最初は会社、この間は成り行き、今日は個人的な使命感。そんなところだ。」 にしても、疲れた・・・・。 ん?こいつ等がいるって事は双葉はどうした? 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