第16話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 21時47分46秒公開
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言葉、とは不思議なものだ。 『愛』『優』『嬉』等と書くと、暖かく感じる、温湯に浸かっている気分になる人も居るだろう。 『憎』『殺』『悲』等と書くと、苦しく感じたり戦慄を感じたりする。 まあ、人によっては逆に感じるのも居るかもしれないが。これを一般として考えても、言葉は不思議だ。 言葉にはモノに対する影響力が高い。なんせ、相手に『好き』だと言えば相手に自分が『好きだ』と言う事が伝わる上に相手の自分に対する見方も変わる。これは単純に考えても凄い事だ。 よく小説で『力ある言葉』とか言うがあれは正確じゃない『言葉』には最初から力がある。 言葉とは、良くも悪くも影響力だ。 結局の処、モノに影響させる条件は『言葉自体の強さ』『伝える者の想いの強さ』と『聞くモノに伝わっているかどうか』の三つが大きい。 最後の一つは特に重要だ、なにせ届かなければ、どんな言葉も意味がない。 『只今電話にでる事が出来ません・・・』 ドン!! 「携帯に出なければ連絡役の意味がないだろうが!!」 思わず車のサイドボードを殴り付けてしまう、焦りで苛立ってしまった。 「落ち着きなさい、連絡が無いからと言って、必ず何かあった訳ではないでしょう。」 再び協力を取り付けた、ライダーに道理を説かれる。 「普通の人間ならな。だが、執行部の人間は普通じゃない。単純な戦闘力だけなら私より数段上なんだ、そんな化け物みたいなのが連絡出来ないと言うのはおかしい。」 サイファグループ執行部、異界より現れるモノを封じ滅する社内でも限られた人間しか知らない会長直属の部隊、神と相対してきた一族の出である私が化け物と言うぐらい戦闘力が高い。 霧島双葉の所属部隊は最強と言われる『第一部隊』は、四人で某国の一個大隊を三日で全滅させる位だ、その実力は押して知るべし。 「貴方の言う通りとしても、他に調べる方法はないのですか?」 「あるさ、それに以前に問題がある。あの三人を放って置くのはどうなのか。」 傍に目をやると焦点の合わない虚ろな目をした士郎君と未だ口論中の赤二人。 「士郎は私が運びます、彼の事ですからもうすぐ目を覚ますでしょう。が・・・あの二人はどうしますか?」 さて、それが問題だ。あの喧喧轟々の調子だと何時までかかるやら。 と、二人で悩んでいると凛と呼ばれる女性が口論を中断して近寄ってくる。 「何かありました? その様子だと霧島さんの事ですよね? 先に行っててもらえるかしら、私はコイツとまだ話す事があるから。」 言葉の後半は荒れつつ、なるだけ丁寧に・・・・猫被れてない。 それは兎も角、今は時間が惜しい、話が早いのに越した事はない。 「解った、念の為に予備の携帯を預ける使い方は解るか?」 「えっ!! ええ。」 何故そこで詰まるかな・・・・まあ、いい。予備の携帯を預け、もう一度電話をかける連絡先はサイファ東京本社調査部だ。 「ライダー、公園の外に車を着けている。行くぞ。」 Interlude 乱れ飛ぶ青い影、それを追う様に斧剣を振るう黒い巨体。 青い影が小石を投げる。 「イス。」 青い影の言葉に答えるかのよう石が反応する。不可視の壁が斧剣を阻むが、ほんの少しの抵抗を与えるだけで障害にもなりえていない。 だが、その一瞬を逃さず手に持つ赤い槍で地に字を書く。 遥か神話の時代『散文のエッダ』 に登場する北欧の神オーディーンが作り出したとされる秘文字。文字それぞれに意味があり、力がある。今回書いているのはルーンを二文字以上重ね合わせた複合ルーンだろう。 何故解ると聞かれれば、それが魔方陣の如く複雑な図形をしているからだ。 「スリサズ、ハガラズ、ウルズ、ラグズ!!」 陣が完成する。流れる様に巨大な雹が巨体に迫る。が、傷一つつかない。 「チッやっぱ効かねえ!!」 青い影は舌打ちと共に再び距離をとる。 「やっぱ魔力がCランクじゃ足止めもままなんねーのかよ。」 ぼやく影、追う巨体。 「バーサーカー!!」 叫ぶように投げかける言葉は届かない。 その姿は私を護っていた時とは違う醜悪な姿。黒い粘液質の蟲に包まれた身体、そして狂ったままの心。 「■■■■■■■■■■ーーーーーー!!!!」 叫び声と共に青い影を追うバーサーカー、不可視の壁をものともせず突き進む。 ギャン 後ろには傷つきながらもダークを打ち払うフタバが居た。 「ガッ!!」 肩に一本、足に三本、腕に一本、計五本ダークが突き刺さりながらも動けるのは驚愕に値する、確かにランサーが言う通り化け物だ。 「大丈夫? 顔色が悪いわ。」 「大丈夫、失血はナイフを抜かない限り酷くはならないわ。」 笑顔で返される。 体中に刺さっているナイフをものとせず、傷なんて元から無いような素振り、笑顔を出す余裕まである。 きっとこの目の前の女は危険が近づいても、死が近づいても命が尽きるのも気にせず笑い飛ばせる、この女は化け物だ。 ギャン!! 定期的にかといって追い詰める訳でもない私を狙ったナイフ。 「マスターを狙う陰湿なやり口、アサシンのサーヴァントね。」 「ほう、流石に詳しいと見えるアインツベルンの聖杯は。」 気配もなく、周りの木々が喋ったかの様なくぐもった声が落ちてくるような声で語りかける。場所が特定できない、背中あわせで立つフタバも特定できないのか、新緑が生い茂る木々の隙間を舐める様に探している。 「貴様らのとる道は二つだ。バーサーカーを殺すか、バーサーカーに殺されるか。どちらを選ぶ?」 私は聖杯戦争の為に生み出されたホムンクルスだ。 物心が付いたのは培養槽の中だった。産まれたばかりの身体は強い光に弱いため、部屋の中は薄ら暗い、光と言えば培養槽の操作盤の光のみ。 その仄暗い世界が、それが最初の私の世界だった。 物心が付いたと言っても感情はなかった、日がな一日外を眺めていた。 私が目が覚めると同時に詰め込まれる知識。 一般教養、語学、魔術、聖杯戦争やサーヴァントの事や、その他色々な事。 事務的に教える機械のような教師。だがそれしかする事が無いので、ただ聞いていた日々。 そして、ある日。 今までは気にしなかった培養槽の周りにいる人間達の声を聞いていた時の事だった。 「これが今回の聖杯か?」 「今回の聖杯は交換条件で極東の企業が製作に加わっているらしい。」 「ああ、どおりで。設備が整っているわけだ。」 「最新の設備だ、これで過去最高の聖杯が生まれる。」 「だが、母体のユスティーツァはもう持たないと聞いた、そんなモノから作った聖杯は最高と言えるのか?」 「それについては問題ない。極東の企業から最新の技術も提供を受けて、その原因は解ったらしい。」 「解ったのか?」 「らしいぞ、話によるとDNAコピー限界によるDNA劣化と言うのが原因らしい。」 「へえ、それによる打開策が・・・・アレか。」 「そう、あの東洋人の魔術師の殺し屋『衛宮切嗣』らしい。それも解っていたかのように、東洋の企業サイファが用意周到に探し出していたらしい。最高の器になる為のDNAを持つ男を。」 「けっうらやましい事で。」 これは、ある日の会話。 培養槽の前で語った二人の人間の会話。その会話は私の興味を大いに惹いた。 その中で一番気になった言葉は『衛宮切嗣』、私の生物学的な父親らしい。 その男は、父親とはどう言うものだろう?どんな人なんだろう、どんな顔をしているのだろう、どんな声をしているのだろう・・・そんな思いが私の中に生まれて来た。 意外にも、その願いは直ぐに叶えられる事になる。 会話を聞いた数日後、一人の男が培養層の前に立った。 「やあ。」 無邪気な子供のような笑顔でその男は私に語りかけてきた。 「声は聞こえるかい?言葉は理解しているとは聞いているけど。」 私が一つ頷くと、男は満足そうに笑った。 「はじめまして、僕が君の・・・・ん〜一応、父親と言うのかな? この場合は。衛宮切嗣だ、よろしく。」 それが私とキリツグの出会いだった。ボサボサの髪と無精髭、だらりと着流した背広、第一印象がだらしない、けどとても笑顔が印象的。それがエミヤ キリツグ、私のお父さん。 それから一ヶ月彼は色んな事を話してくれた。 外の世界の事、外は色彩豊かな綺麗な世界であり季節によって、その色合いを変える事。 自分の事、自分の理想の事。自分では愚かと思いながら目指した夢。 仕事の時に出来た友達の事。復讐の為に暗殺者になった報われない友達の話。 自分の生まれた国の話。四季が豊かで、特に春に咲く桜がとても綺麗で儚い花である事。 いろいろな事を聞いた、楽しい話もあったし良く解らない話もあった。 でも、とても楽しかった日々だった。 彼が傍に居てくれるだけでとても楽しかった。 でも、そんな日々も突然終る。 申し訳無さそうに、培養槽の前に立つキリツグ。 悲しそうに暫く立ち尽くしていた。 どうしたの?と私は口だけで言葉を形作る。 「イリヤ、此処を離れる。君とも暫くお別れだ。」 どうして? 「それが元々の、アインツベルンとの契約だから。」 どこにいくの? 「日本の、僕の産まれた国の『冬木』という街にね。」 なにをするの? 「聖杯戦争・・・・・・君は当然知っているよね。」 聖杯戦争、聖杯を手に入れるため七人の魔術師と七騎のサーヴァントを持って殺しあう戦争だという。 知識としては知っていたが、それに臨む人間がキリツグだったとは。 ならば私は、聖杯としてのこの身は、キリツグと共にその戦争に臨むのだろうか? でも、それも良いかも知れないキリツグと一緒に外の世界を見る。それはとても楽しい事だろう。 わたしはつれていってくれないの? 「それは駄目なんだ君の身体はまだ安定していない上に聖杯としての機能もまだ成っていない。君は連れて行けない、それ以前に君は聖杯としては僕は生きて貰いたくないな。普通の女の子として生きて貰いたい、だから僕は行くよ。君が次の聖杯と成らない様に頑張ってくるよ。」 キリツグとは外に行けない、その事実は私の心を締め付けた。 「イリヤ、大丈夫。きっと叉会えるさ。」 その言葉を最後に彼は行ってしまった。聖杯戦争の地『冬木』へ。 それから暫くしても彼は帰って来なかった。 最初は死んだと思っていたが、違ったらしい。彼は生きていた、最後まで勝ち残っていたのにも関わらず、聖杯を破壊しそのままそこに住み着いたらしい、知らない子供を引き取って・・・・・。 私は捨てられたのだろうか、いや捨てられたと思った。 帰ってくるとは約束はしていなかった、けど捨てられたと思った。 私は、いらないのだと言われた気がした。 何故なら私は、次の聖杯なのだから。 それからの毎日は変化の余り無い日々だった。 城から出される事無く十年の月日が経つ。 培養槽から出され、双子と見紛うと思われる(多少胸の大きさは違ったが)メイド二人に世話され。 そして、聖杯戦争が始まる予兆。 そして新たな出会い。 バーサーカーと出会ったのは聖杯戦争が始まる二ヶ月前、その頃の私は今ある状況とキリツグに対する憎悪に染まっていた。ホムンクルスとしての私、聖杯としての私、その役目を押し付けるアインツベルンの人間、私を捨てたキリツグ。 そんな、憎悪に塗れていた私に聖杯戦争がきた事が告げられる。 最初は喜んだ、キリツグの住む町にいけると。 キリツグが引き取った私の弟に会えると。 冬木市から遠いアインツベルンの地でサーヴァント縁の物を使い、半ば反則的な英霊と契約をさせられた。 サーヴァントの契約は苦痛を伴った。只でさえ身体に負担をかけるサーヴァント召喚、反則的な高位の英霊、それをバーサーカーとして召喚し尚且つ制御する。これが如何なる苦痛かは筆舌に尽くしがたい、どれほどかは想像にお任せする。 だが、それを乗り越えられたのは、キリツグに対する想いであり、憎しみであり、恋しさだった。 聖杯戦争間近のある日、アインツベルンの老人達にサーヴァントを巧く使う為の訓練と称して真冬の森に出された時だ。 魔力の使い方を覚える為に軽装で森へ出た。別にそれが悪い訳ではないのだけど、きっとあいつらには 私はとても美味しそうな獲物に見えただろう。 身体を麻痺させる凍てつく寒さと圧迫感と恐怖。囲まれていた、ゆっくりと包囲を縮めてくる森に棲む狼達。そばには鉛色の巨人が立ち尽くしている、何故ならば私が恐怖に囚われて、なんら命令をしていないからだ。バーサーカーはサーヴァントクラス特性状、理性が無い。私が命令をしなければそのままだ。 ガウッ 低い唸り声と共に一匹が飛び掛ってくる。 「!!!!!!!」 恐怖に声も出ず身を縮めるが何時までったても、その牙は私に襲い掛かってこない。 ?? 疑問に思い目をあげると、太い腕が襲い掛かってきた狼との間に割り込んでいた。何時の間にかバーサーカーは私の前に立っていた、その大きな身体を楯にして。 「バーサーカー!!戦って!!」 命令するように念じるがバーサーカーは動かない。次々と襲い掛かる狼達、その太い腕に胸に足に太腿に手首に首に。あらゆる所を噛み付き傷は浅いながらも身体を引き裂いていく。 「!!」 私に向けられる殺気ではないが、そのぶつける様な野生の殺気に声にならない。数匹がこちらへ、にじり寄って来る。私は恐怖で動けなかった。 ガウッ ・・・・・・!! 今度こそやられる、そう思った。だが牙は私に突き立てられなかった。巨大な斧剣が目の前に叩き付けられる。斧剣が持ち上げられると、嘘の様にペシャンコになった狼。 襲い来る獣振るわれる斧剣。 振るわれる度に弾け飛ぶ様に肉塊へと変える斧剣、それを終わりまで呆然と見ていた。 その一方的な虐殺が終ると再びバーサーカーは、何も無かったかの様に仁王立ちになる。 ・・・・・・守ってくれた?理性が無いのに何故?狂っている筈なのに。 一つの仮説に思い至った。が、其れはどうでも良い事だった。 「バーサーカーは強いね。」 そっとバーサーかに触れるバーサーカーの手は温かった、私を守ってくれた、何故かキリツグを思い出した 空から白い雪が降ってきた。 フワフワと綿のみたいな白い雪。 「イリヤの髪は雪の様だ。」 死んだ人の、そんなセリフを思い出した。 ギャン!! 振り払われる、複数のダーク。払い落とせずに抜けたダークがフタバの身体に刺さる。 「ぐっ。」 くぐもった声、さっきから段々と動きが悪くなっている、まるで呪いか何かにかけられたかの様。 「フタバ、貴女まさか。」 「へへ、ばれた? 多分毒ね、さっきから体が重くなって来てる。傷なら何とかなるけど解毒を同時となると今の状況じゃ無理。あなた解毒は出来る?」 屈託も無く笑うフタバの顔は青白い、簡単に言ってくる。 「無理、聖杯戦争に勝つ為だけに造られた身体に治癒系の魔術は備わっていないわ。」 「拙いなあ。ランサー!! どれぐらい持つ?」 「あ〜!? こっちは今楽しんでるんだ!! 邪魔すんな!!」 言葉とは裏腹にかなり苦戦をしているランサー、ルーン魔術を併用して戦っているけど、押され気味なのは間違いない。 「あっちはあんな事言ってるけど、聖杯戦争経験者として戦況はどう見る?」 「拙いわ。ランサー口じゃあ言っているけど内心はきつい筈よ、理由はあのサーヴァント。あのサーヴァントは元々私のサーヴァントよ真名はヘラクレス。最強の攻撃力と防御力を誇る冬木聖杯戦争最強のサーヴァントだった。」 あからさまに肩を落とすフタバ。 「マジ? あ〜参ったな。本装備で来れば良かった・・・・・・もしくは封印解除許可を貰っとくべきだった。で、噂の宝具は? ヘラクレスなら確かライオンの皮とか、竜退治の焔?ヒュドラ毒の矢?アトラス騙して手に入れた林檎は流石に無いわね、多分。」 ギャン!! 隙を狙って投げられたダークを再び払う音が森に響く。 「あながち間違っていないけど不正解、今言った試練を含む12の試練を潜り抜けた功績は一つ一つが命を賭ける程の冒険、其れ自体が宝具になっている。『十二の試練(ゴッド・ハンド)』命のストックがその数だけある反則級の宝具よ。」 「手に負えないわね。」 はあ、と溜息を吐くフタバ。 「道理でランサーが宝具使わない訳だ、ゲイボルグを使おうにも使った瞬間死んでしまう可能性が高いから。」 「そうね。近距離で使おうにも突き刺した瞬間を狙われて終わり。遠距離で投げても、武器が無ければ、二度目が無い。武器が帰って来る機能が備わってると仮定しても二度目があるかどうか怪しいわね。」 「そう、完全に不利だわ。」 ギャン!! 再び投げられるダーク、間隔が短くなってきた。 「・・・・・ヘラクレスか。イリヤ、ヘラクレスの最後は神話ではどうなったんだっけ?」 「ヒュドラの毒に身を犯され、毒に苦しみながら生きながら火葬、最後は父神の救いで神になったって 聞いているけど。」 考え込む様に押し黙るフタバ。 「ふむ、神性に不死身の体『十二の試練(ゴッド・ハンド)』か・・・・あれほど強力な姿で現界ができるなら神話通りのはず、なら紫門がいえ紫門の持つ祭具なら倒せるわ。イリヤスフィール!!私のポケットから携帯を出して連絡をとって。」 「どう言う事? 人間がサーヴァントに勝てるわけ無いでしょ!!」 「少なくとも私は勝てるけど、この状態は無理!! なら生き残る可能性にかけるわ、早く。」 深く低い女の声、信じても良いのだろうか?でも今は信じるしかない。 「そうはさせん。」 くぐもった仮面の声の主が唐突に目の前10メートル程にに現れる。フタバは動けないながらも私の前に立ち塞がる。 「主殿から疾薙は厄介と聞いている、今呼ばれる訳にはいかん。此処で死ぬがいい。」 アサシンが隠していた右手を懐から取り出した、歪な長い手を。左手でダークを投げ、力を解放する言葉を呟く。 「妄想心音(ザバーニーヤ)。」 私の心臓を狙って、禍々しい腕が伸びる。フタバが庇おうと前に出るが六本のダークを打ち払いながらだから間に合わない。 直感でわかる、あれは私の心臓を抉る。 これで終るの? 誰も守れないまま。 「御刃 全てを斬り裂き 呪いすらも斬り祓う 顕現 経津主神!!応えよ草薙!!」 フツッ 妙な音と共にアサシンの伸びる手が止まり、幻想の腕が切り裂かれ霧の様に消えうせる。 「イリヤ!!」 「シロウ!?」 アーチャーの持っていたと記憶する双剣を手にこちらに駆け寄ってくるシロウ。 「イリヤ大丈夫か?双葉さんも酷い傷・・・大丈夫ですか?」 「アサシンは・・・・流石に退いたか、大丈夫よ取り敢えず落ち着きなさい。それにしてもナイスタイミング、正義の味方の登場みたいよ。紫門、どうやって此処の場所が?」 「本社の方から電話会社のサーバーにハッキング、そこから携帯電話の位置情報サービスを使って此処まで来た。全く、連絡役が戦ってどうする。」 呆れ顔でボロボロの服を着たシモンが駆けて来た。 「ボロボロの身体で何よ、あなたが弱いから私が出張るんじゃない。」 「あー、それは否定はせんが身体どうした?」 「バーサーカーの出現に隙見せて、毒ナイフ三本身体に受けてこの様。まあ、この話は後でするとして、バーサーカーを倒さなければいけないんだけど。まず狂ってるの何とかならない?」 「無理よ。」 「イリヤ?」 そう無理だ、聖杯戦争の時は令呪で制御していた。そして、バーサーカーとの最後の日あの時は令呪の力で狂わした。令呪が無い今止める事は出来ない。 「そう無理、あなた達の会社はサーヴァントを出来るだけ回収しようと考えているでしょうけど、あのサーヴァントは無理よ最初から狂っている。」 「だろうな、例え戻ったとしても回りの蟲が邪魔だ。」 「どう言う事?」 紫門も一目で気付いていたみたいだ、あのバーサーカーの周りにまとわりつく蟲あれが狂化を助長している。 「詳しい事は解らないが多分『蟲毒』だ。」 「『蟲毒』?」 聴きなれない言葉に俺は首を傾げる。イリヤには白い目で見られ、紫門さんと双葉さんには呆れられた。 ・・・・そんな目で見なくても良いと思うが。 「シロウ・・・・リンに聞かれたら大変よ。」 「紫門。この子、本当に魔術師?」 「知らないものはしょうがないだろう。知るは一時の恥知らぬは一生の恥だ。聞いてくる分発展の望みはまだある。」 返す言葉も無い、俺そんなに酷いか? む〜と睨むイリヤを窘めながら、紫門さんの話を聞きたかったのだが双葉さんが話を切ってきた。 「二人とも、話は後。ランサー!! もう一寸持たせて!! 紫門、あの剣持ってきてる?」 「剣? ああ、持ってきてるが。」 「バーサーカーの真名はヘラクレス、神性がある。」 「・・・なるほどね、だが問題が一つある。私にはもう力が残ってない、残っているのは天叢雲と是の中だけだ。」 懐から四枚の三日月状の刃・・・・鎌?を出す。 「ええ!? 魔力が残ってない? ・・・・何よそれ、丸っきりの役立たずじゃない。」 「やかましい、今さっきまでサーヴァントと戦ってきたんだ、無茶言うな。もう一寸待てば魔力は少し戻るぞ」 顔を顰める、その顔は本当に辛そうだ。実際アーチャーとの戦いを一部始終見ていたが、本当に凄い戦いだった。双剣対双剣、あの夜のランサーとアーチャーとの戦いにも勝るとも劣らない戦い。 俺もいずれ・・・。 「じゃあ、誰か剣が使えるのはいないの?」 二人がこちらを見る。イリヤを見る、俺を見る。 ・・・・え?俺? 「紫門、剣は握れないの?」 双葉さん諦めないでください。 「他のクラス相手だったら何とかなるが、あのパワーは捌ききれん、天凪の術が使えれば何とかなるが、最低六時間の休息を取らねば使えん。無理だ。」 その時口から言葉が出た。 「俺に出来る事なら言ってください。」 此処まで来て何も出来ないなんて嫌だ、何よりも正義の味方を目指す自分が許せない。 「猫の手を借りたいと言うけど、この子大丈夫?」 「・・・・・頼めるか?」 そう言って、目の前に立つと一本の剣を渡される。 視線が俺を試すかの様に厳しさを増す。 「はい。」 自然と解析してしまい剣の名前を知り驚いた。 「十握剣・・・・・。」 聖杯戦争中のバーサーカー、聖杯戦争の中で最大の難関だった。 投影したカリバーンをセイバーと二人で振るい、辛うじて倒したギリシャ最大の英雄。あれを叉倒すと言うのか。 だが今回は少し状況が違う。前回よりも良いと思える点もある、それはこの手にある一本の剣。 「イリヤ、良いのか?」 コクンと一つ頷くイリヤ。 「お願いシロウ、このままだと町に出て被害がでるわ。リンには迷惑かけるし、シロウはそれを見逃せない筈よね?他に方法は無いわ。」 「イリヤ。そんな事は聞いていない、お前はどう考えているんだ? イリヤのサーヴァントなんだろ? イリヤはどうして欲しいんだ?」 「倒して、じゃないと皆死ぬわ。それが一番の良策よ。」 「イリヤ気付いてないのか? お前、泣いてるんだぞ。もう一度聞く、俺にどうして欲しい?」 ハッとした表情で顔に手を当てる。気付いていなかったのか。最初バーサーカーを倒した時もイリヤは暫く放心状態だった、後で聞いた話だイリヤとバーサーカーは聖杯戦争が始まるかなり前から一緒だっ たらしい、二人には俺には解らない・・・・多分、セイバーと俺に近い何かがあった、そう思う。 「倒して、多分もうバーサーカーは戻る事は出来ない。令呪があっても戻す事出来るかも怪しいわ。その上あの蟲がバーサーカーの特性の狂化を利用して助長している。唯一の救いは倒す事だけよ。」 「紫門さん、何か方法は無いのか?」 「無理だ。蟲が同化している以上バーサーカーごと倒すしかない。簡単に説明しよう『蟲毒』とは中国に古くから伝わる呪い。士郎君、数十匹の毒蟲や毒をもつ小動物を一つの壺に入れ暫くすると、どうなると思う?」 「・・・・餌が無いから共食いですか?」 「そう、共食いを始める。それを最後の一匹になるまで行なわせるのが『蟲毒』だ。」 ザザ!! 木々を揺らす風と共にライダーが現れる。その途端、周囲が軽く赤く染まった。 これは、学校で張られた結界と同じ!? 「シモン貴方の言うとおり、この周辺に他者封印・鮮血神殿(ブラッドフォート・アンドロメダ)を張りました。これで誰も出入りできません。」 「すまん、ついでで良いがランサーの援護頼む。私たちも直ぐに行く。」 「・・・・・仕方ありませんね・・・・・・。」 口元の嫌そうな表情を隠そうとせずにランサーの加勢に行くライダー。一体ライダーに何をしたんだランサー? 「俺はまだ行かなくて良いんですか?」 「君はまだだ。イリヤスフィールの意見に納得していない君を出す方が、現時点で逆に危険だとだ判断する。今の君は養父の様に割り切れまい。」 図星だ。今の俺はバーサーカーも助ける道を模索している。 「良いか? 『蟲毒』の性質は蟲を食べる事により蟲のヒエラルキーを取り込む事にある。一種の強化に近い。だが、今回の場合は『狂化』も強化している為に戻せないと言う事だ。先に言って置くが、祓う事や元に戻す事はできない。術の構成式が怨念の力で強力すぎて無理、唯一祓う方法は蟲から得たモノに熨斗をつけてを捨てる事、だが量がどれくらい解らない上に形が無い、それ以前に捨てる相手が狂っているからこの案も無理。しかも放って置いたらバーサーカー自体が蟲に喰われる。八方塞だ。」 「それじゃあ。」 「そう。イリヤスフィールの言う通り、倒す事が救いだ。」 『厄災』 サイファが探し破壊を求める厄災、その姿は様々だ、器物であったり植物であったり様々な形をしている。 その性質は共通して全て同じ、『滅びに繋がる』『争いを呼ぶ』『死を撒き散らす』事だ。 これは特異点から産まれる、サイファの開発研究部からのデータによると実態は特異点より起こりうる因果律の『歪み』と言うのが通説になっている。 私の探索者としての本調査はこれを探し出す事。 周りの事象より観察し答えを出すのが私の役目。 今回の目標は『聖杯』絡みだと睨んでいる。 何が災いを生むのか、何が災いへと引き込むのか?その基点を探し索めるのが目的。 一体何が厄災で誰が厄災なのか。 今確信できる段階では無い。 「こんな所にあったとは・・・この国で言う所の『灯台下暗し』と言うやつね。」 抱えた桜をその場にゆっくりと横たえ、その大空洞の中心にあるモノを仰ぎ見て私は呟いた。 「カカカ、驚いたか。この場所を知るのは霊脈の管理をしてきた遠坂と聖杯の作り手たるアインツベルンとこのマキリのみよ。」 擦れた老人の声。奇怪な。 まるで空洞が喋っているかの様なその声は、妙に私の癇に障る。 「貴様の陣地の地下深くに有るとは想像だにせんかったじゃろう。」 「ええ、道理で探査の目を飛ばしても見つからない筈。これは・・・・『キャスター』の私でも解析できない、これは普通の聖杯ではないですね一体何をするモノなのです。」 「コルシカの裏切りの魔女でも解らんか。光栄な事じゃのう。」 「ゾウケン。私をその名で呼ぶのは止めなさい。」 私の呪い名、その名で呼ばれると私は攻め立てられる感覚に陥る。 「失言は謝ろう、そう気を悪くするな。しかし、主でも解らぬか・・・・まあいい、聖杯は本来の目的より、ワシの目的の為に使わせて貰う、知る事は二の次。」 醜悪な、知ることを由とせず過程を知らずに目的だけを欲するとは・・・・愚劣な、いや腐っている。 「問題は、疾薙と遠坂、アインツベルン。疾薙はお主とアサシンとセイバーにやってもらえるかのう?」 音も無く現れる影に思わず息を飲んだ。 「宗一郎様・・・・・。」 その顔は無表情、だが以前とは違う表情だ。以前は無いと言っても無愛想と言った方がいい方だったが今は違う。 近寄ろうとした私はゾウケンの声で止められた。 「そ奴を死なせたくなければ近寄るなキャスター、約束はワシが聖杯を手に入れてからじゃろう?」 さも楽しそうに笑う蟲。口惜しい、宗一郎様がこの様な状態でなければ、こんな腐った蟲一瞬で消し去ってくれるのに。いや、早めに消し去らなくては。 「カカカ、そうそれで良い。ではキャスターお前にはもう一仕事して貰おう。遠坂やアインツベルンの進入を阻む結界を作って貰うぞ。」 悔しそうな表情を作り、忌々しそうな目で一つ頷く。 この屈辱は少しの我慢、その為に今一つ信用ならない赤い弓兵の作戦に乗ったのだ。 私の願いは只一つ。 今度こそ、間違わずに自分の意思で生きる事。 そして、共に生きる事。 愛する者の、その顔をフードの陰からそっと盗み見た。 Interlude out |
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