第17話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 21時49分44秒公開
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
力切れと言うのは半分嘘だ。 何が本当かと聞かれたら、それは巫覡の術が無理をすれば後一・二回位は何とかなる位。 三時間も寝れば体力は殆ど回復もする位だが今そんな時間は無い。 アーチャー戦で解ったが、対サーヴァント戦の時は巫覡の術が必須だ。キャスターは例外だったが、この状況を打開するには最後の一撃を如何するかが鍵だろう、とすれば普通に大技をかけられるのは後一回位か。 ついでに単体での直接対決は拙い。 だが、今の状態と状況はそれを許さない。蟲の侵食能力と耐久力は思った以上に厄介だ、更に特筆するべきは先ほどイリヤスフィールから聞いたバーサーカーの宝具だ。 『十二の試練(ゴッド・ハンド)』 一回死ぬ事に次の命が補填される、反則だ。 最後の一撃で一気にやるしかない。 本当の所、こんな戦いの場合は後方からランサーとライダーの援護を行なうのが普通だろうが、あの二人だけではチョットきついだろうなと言うのが私の見解だ。 私の意思と反しどっちみち、私は最前線に立つ運命の様だ。 ちなみに双葉のサーヴァント雇用の件は別件で本当の事である。 成るだけサーヴァントを回収したいのは本音ではある、あしからず。 パンッ 掘削機の様な一撃が瑞々しい低木を砕く。 なんて速さと威力だ、この時期の青々として柔軟にしなる木を折るのではなく砕くとは。バーサーカーの周囲はその力によって既に荒地と化している。 荒地の外周では紫の髪が木々の間を編むように疾り、鎖が曲線を描き飛ぶ。その間を赤い槍が閃光を思わせるように縫った。 「何とか何ねえのか?バーサーカーの旦那、強すぎだぜ!!」 槍が蟲に阻まれる上に油のような体液で滑り体に突き刺さらない、ライダーの短剣も同様だ。大きく後ろに跳躍し間を開ける。 入れ替わるように私は前に出る。草薙と天叢雲を逆手に持ち構えた。 「ランサー、シモン時間を稼いでいただけますか?やれるかどうか解りませんがアレの足を止めます、頼みます。」 「美人の頼みとあっちゃ断れねえよな、オイ。」 「オイって言われてもな。・・・・あれの相手なら二・三分が限度だ。できるか?」 「十分です、合図をしたらあちらの方に誘導してください。後は頼みます。」 林の一角を指すとライダーは走り出した。 「了解。」 「さ〜て、やるか・・・よっと!!」 ダン!! 背中に衝撃が走る。 「ワリィ。」 悪びれもせず頭上を走る声。踏み台にしたな・・・。 「まったく。」 呟くと同時に駆ける。頭上と下からの二面攻撃。 「■■■■■■■■ーーーーーーー!!!」 振り下ろされる斧剣を剣の加護と刃筋をずらす事で受け流す。 「ぬうう!!」 右手一本での受け流しからの左の草薙の脛への一撃。それをバーサーカーは前に踏み出す事によって持ちこたえた。 浅いか!! 「こっちだ!!」 そこにランサーの空中からの刺突。 「■■■■■■■■ーーーーーーー!!!」 剣を持たぬ太い腕が掲げられ掌で槍を受け止める。だが深々と槍が刺さるが痛痒を感じない体には無意味、動揺すらも感じられない。 そこに横薙ぎの斧剣が振るわれ──。 「当たるかよ!!」 掌を蹴り槍を引き抜きつつバーサーカーの後ろに飛び降りた。 「ゥラア!!」 振り向きざまに闘気と共に放たれる槍の三連撃、狙うは心臓、背椎、延髄。だが、蟲によって阻まれる。 「まだ!!」 それに続くように私も右手に回り込み斬り付ける。一息で行なう同じく三連撃、股関節を薙ぐ、脇を突く、肝臓蹴り抜く。 グシャ 蟲がつぶれる音、斬撃は受けつかなかったが一瞬その巨体が空中に浮き行動不能になる刹那の一瞬。だがその一瞬でいい、起動の言葉を唱えるには。 「ケン アンサズ!!」 爆裂するバーサーカーの背中、刺突と同時にルーンを刻んだか。しかし、怯みもしないバーサーカー。 ライダーの指定する場所まで二メートル強。天凪の強化を行なう為精神を切り替える。身体の強化を行なうと同時に自己暗示によるリミッターを外す。 「とはかみえみため 我が右手に宿り給え 建御名方神 両足に宿り給え 神威の神槍 天の逆鉾 」 左手の草薙を鞘にいれ、右手の天叢雲を逆手に構え再び走る。左手から袈裟に迫る斧剣。 「ふっ」 太刀筋を見切り、体を僅かにずらし剣を避け、踏み込む足を軸にし後ろ足で前に蹴る。 「破法 天神打ち」 ズシン 深い音と共に吹き飛ぶ巨体、だがダメージは無い。肘に当たったか。 更に踏み込み間を詰める。 「■■■■■■■■ーーーーーーー!!!」 吹飛ばされながらも横なぎの二連撃、それを体を深く沈め避け、反動で鳩尾を突き上げるように蹴り抜く。 「破法 浮き船」 蹴り抜いた足を地に落とすと同時に大地を踏みしめ、宙に浮くバーサーカーの手を取る。蹴技からの投げ技、落ちてくる荷重を捌きつつ引き投げる。 「柔法 千引石」 ドズン 重く響く二つの音、投げ切ると振りぬきざまにバーサーカーの蹴りが脇腹に入り吹飛ばされる。 「グウウッ」 相手が空中にいたためか思ったより重くないが骨が折れてる、何て奴だあの体勢で葛木の拳と同じか。 痛みを耐え、頭を上げると其処にはゆっくりと立ち上がる鉛色の巨体。 脇腹の怪我と天凪の技の影響を取るためナノマシンによる修復を行なうが体が動くまで早く見積もって一分。 この状況では間に合わない。 迫るバーサーカー。だが、幸運は私に味方した。 バーサーカーの足元にはライダーの指定する場所があり、そして其処には。 「大物が釣れたぜ ゲル イエーラ!!」 ランサーの轟く声と共に複合ルーンが起動する。大きく口を開く大地に足をはさまれるバーサーカー。 「今だ!!ライダー!!」 合図と共にジャラジャラと鳴る鎖が陣を成す。その形は獲物に絡みつき逃がさんとする陣、まさに蜘蛛の巣。 「捕らえました、バーサーカー。」 ライダーが再び鎖を引く。すると木々を織り成す鎖で構成された蜘蛛の巣が、一瞬にして鉛色の巨体を縛り上げた。 「■■■■■■■■ーーーーーーー!!!」 「無駄です。如何に強化されようとも、合計四十本の樹を経由させて編んだ鎖の陣は簡単には破れません。」 多分それだけではない、互いに鎖を補強する様に編んでいる筈。大地の顎と蜘蛛の巣に囚われたバーサーカー、だが辛うじて手だけは回避したのか斧剣はまだ振り回されている。 「ランサー今です!!」 編まれた鎖の上を走る蒼い影。 「おうよ!!」 愛用の槍を腰に構え、爆発した如く肉迫する。口には獰猛な笑いが張り付く。 「ワリーな三対一で、出来ればギリシャ最大の英雄のあんたとはサシでやりたかったぜ。まず一つ!!刺し穿つ(ゲイ)」 鎖のたわみを利用しバーサーカーの頭上へと飛ぶ。 「死翔の槍(ボルグ)!!」 左の鎖骨の窪みを穿ちバーサーカーの心臓を抉る。だが、倒せない『十二の試練(ゴッド・ハンド)』がすぐさま体を再生する。 身体の修復はまだだが動けはする、やるしかない。 「まだ!!もたせろランサー、畳み掛ける!!剣よ その名に従い呼べ叢雲を それより落ちるは神の一撃 神鳴る力!!」 左手に持つ剣を順手に持ち替え、曇り空が一層深くなるのを確認する、駆ける、跳ぶ勢いを殺さずに鎖の上を走る。 目の前にショットガンの様な刺突を加えるランサーの横をすり抜ける。 削岩機の様な剣風をランサーの助力で掻い潜り、鎖を伝いバーサーカーに迫る。 一瞬、影が目に入った。 「ちいい!!」 長年の経験から来る勘で鎖の下へと身を躍らせる、その上を斧剣が通り過ぎた。返す刀で再び振り下ろされる斧剣、速い!! 「歩法 蛟」 鎖の下を這うように駆け、斧剣をやり過ごす。今のは危なかった、少し侮りすぎたか、視界の端に鎖を操るライダーの姿が映る。 「今です!!」 鎖を操りバーサーカーの腕を封じるライダー、持つのは一秒も無い!!一気に走りこみバーサーカーの腹部を下から体当たりのように抉る。 「私の持つ巫覡の最大の術、喰らえ!!」 バチン!! 手に巻きつけられた鎖が爆ぜる、落ちてくる斧を剣を腹に残して、飛びのいた。 「砕け散れ!!御力 全てを砕く、天の鉄槌を貸し与え給え 顕現 建御雷神 応えろ 天叢雲!!天雷陣!!」 轟!!!! 一際空が輝き天空より剣に向かって雷が落ちる。その雷はさながらゼウスの雷ケラヴィノス。 轟音と共に大地が爆ぜ、土砂と降り積もった枯葉を伴なった壁が巻き起こる。 拙い。 「二人とも退け!!」 轟音の為に一時的に音が聞こえない上に視界が悪い、そんな時に削岩機の様な斧剣の間合いには入れない。二人は私の声を聞くより早くランサーは間合いを広げていたライダーは鎖を緩め待機している。 戦うのは一番近い私、私が立ち塞がるしかない。 少し無茶だが、視覚を使わない戦いが出来るのは私ぐらいだ。 そっとフードを深く被りなおす。 「ふふ。」 自然と唇が歪んだ気がした。対七夜用の戦法がこんな所に生きてくるとは先代も思わなかっただろう。 「ふるへ ゆらゆらと ふるへ」 残り少ない力を増幅して言葉を紡ぎ出す。 こんな時に長々と大祓への祝詞は唱えてられない、唱える祝詞は大祓への省略、最要祓い。 「高天原天つ 祝詞の大祝詞を加加む呑んでむ 祓へ!!」 腕を振るう瞬間、土煙より斧剣が現る。『祓へ』の祝詞と共に現れる不可視の楯。 タン タタン タン タタン 『兎歩』 万難を排し、神事を行なうために不確定要素を祓う特殊歩法。 真っ向から剣を弾き返し、兎の走りの様な歩法で斧剣の振るわれた場所から計算するバーサーカーの後ろに回りこむ。 「我、神事を持って神意を成さん。薙鎌よ神を示せ!!」 三日月状の鎌を三枚放つ、腰に差した草薙を抜き、土煙の舞う斧剣の間合いへと踏み込む。 ゴウ!! 来た、振り下ろしの一撃。音に気付く前に体は紙一重で軸をずらしている。。 振り落とされる斧剣に手を掛け、振り下ろされる反動を使いで一回転、剣の上に乗る。 「ふっ!!」 斧剣を貫き大地に縫いとめる『一瞬』隙を作る。 バーサーカーが力任せに剣を持ち上げた瞬間、薙ぎ鎌がバーサーカーに深々と刺さった。 「薙ぎ鎌の神事此処に成らん!!」 腹に刺さっている天叢雲と草薙を引き抜きつつ、間合いを離す。 「■・■■■■■■■ーーーーーーー!!!」 戸惑うような雄たけび、反応はあった、苦しみの雄たけびが森を振るわせる。 薙ぎ鎌の神事。 境界を意味する薙ぎ鎌を選ばれた樹に打ち込む事によって、神と神以外を選別する。 選別する事によりバーサーカーの神性を上げ蟲毒に対抗すると言う思惑だったが、思いの他効いた。 だが、神事は終わっていない。 「ランサー!!」 「おう!!」 嬉々として前に出るランサー、ホントにこいつは戦いが好きみたいだ。 「美鈴刈る冬木の国の北の国境を領有きます 掛けまくも畏こき境の宮の大前に恐み恐みも申さくは疾薙の宮司 謹み敬ひ 恐み恐みも申す。」 順番は変わったが、これで薙ぎ鎌は正常に作動する。 更に動きが鈍る、お膳立ては終わった。 後は、彼が決めるだけだ。 「今だ!!」 私の声と同時に飛び出す赤い髪の少年。 Interlude 俺は飛び出した。 一瞬、迷った、今何をすればいいか。 見つからない。自分の弱さを、力の無さを痛切に感じる。 紫門さんは『今自分の出来る事はなんだ、今君が此処に居る意味は』と言う。 自分には遠坂みたいに五大元素を使うような才能は無い。 イリヤの様な聖杯の知識は無い。 セイバーの様な神掛かった剣技は無い。 『貴様、贋作者か。』 あるのは借り物の理想と偽物の作り手と言う『贋作』の才能。 剣を投影してもその剣を100%使えない逆に振り回される位だ。 只、自分は剣を複製するだけのモノ。 『最強の自分をイメージしろ。』 あの言葉は俺の未来たるアイツが良く解っていた為だ。 俺の未来への・・・いや聖杯戦争にいる俺への不甲斐なさが情けなさが無知さがアイツの重い口を開かせたのだろう。 そして、その言葉は的をいていた。 ならば今自分がイメージするべきものは何か。 『――――I am the bone of my sword.』 それを考えるとアイツの声が頭で響く。 何も答えが出ない、寧ろこれが答えなのか? 今はいくら考えても答えは出ない、そして守る為にもう一度あの鉛色の巨人を倒さなければいけない。 腰の剣に手を添える、この剣がバーサーカーを倒す手段。 『お願い、バーサーカーを救ってシロウ。』 俺の今出来る事は、ここに居る意味は。 「今だ!!」 そんな重い想いを胸に抱え俺は飛び出した。 「投影開始(トレース・オン)」 集中する、腰のベルトに差していた十握剣を引き抜き右手に持つ、左手に弓を右手に捻じれた剣を思い浮かべる。 あいつに出来るなら俺にも出来るはず。 「グウウウ」 回路に負担がかかる。まだだ、もう少しだけ持ちこたえろ俺の魔術回路。 左手に西洋の弓が現れる、少し俺のイメージが強いのか和弓になっているがそれでいい。今この一撃が入れば良いのだから。 「――――I am the bone of my sword.」 その一節は俺の全てを表す呪文。俺の出来る事を表す詞。 鎖に縛られた黒焦げの巨人。 七凪さんの様に鎖を疾風の如く潜れない。ランサーの様に鎖の上を俊敏に走れない。 俺は遠坂の言う通り『ヘッポコ』魔術師、そんな俺でも今やれる事がある、やるべき事がある。 「フッ」 イメージしろバーサーカーの首に剣が突き立つ姿を。イメージしろ間桐の家で俺に襲い掛かった捻じれた剣を。 右手につがえた十握の剣に被る様に捻じれた剣が重なり合う。 「――――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)」 完成した弓と矢、八節の足踏み・胴造り・打起し・引分け・会、狙うは首。 『士郎君、この剣は産まれたばかりの火之迦倶槌神が伊邪那美命を焼き殺してしまったのを怒り、伊邪那岐命が火之迦倶槌神の首を刎ねた剣だ。』 そして離れ、真名を開放する。 「―――“偽・螺旋剣”(カラドボルグ)」 緩い放物線を描き、鎖で雁字搦めになったバーサーカーの喉に吸い込まれるように突き立つ。 蟲が剣を阻むが捻じれた剣がその勢い殺さず喉に捻り込む。 残心。 「壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)」 ドンと小さく弾ける螺旋剣、今の俺ではアーチャーほどの爆発は作れない。だが、蟲を蹴散らすには十分だ。 小さな煙が晴れた時その首に深々と刺さる十握の剣。 「神殺しは成った!! 十握の剣よ、その力を示せ!!」 七凪さんが叫ぶ、剣から爆発するように焔が漏れ、瞬く間にバーサーカーを包み込んだ。 Interlude out |
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
■一覧に戻る ■感想を書く ■削除・編集 |