第18話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 21時50分37秒公開
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『蟲』と『虫』 その違いは皆さんわかるだろうか? 虫と書くものは元々『まむし』を意味する。 要するに蛇の事だ。 蟲と書くと足のある蛇となる。 では今回のムシを使う魔術師の間桐臓硯はどちらのムシを使うのだろうか。 とても気になる所ではある。 祓いの三家の疾薙紫門としては、それが命運を分けるものと知っているからだ。 車のキーを差込み、エンジンをかける前にオーディオにCDを入れる。車内にかかる曲は『般若心経』。そのまんま、般若心経の読経がスピーカーから流れ出る 「相変わらず、曲の趣味が今一つ理解できないわ。聞いても誰の曲か知ってる人間少ないってば。」 半眼でのたまう女、確かにこの曲を知っている人間は少ないだろうが余計なお世話だ。 「これが良いって言ってくれる人も居るぞ、例えば・・・・。」 「いいわよ、でも弔いのつもり? 神職の人間がやるもんじゃないわよ。」 俺にそんな暇は無いから代わりさ、そう言うと複雑な顔をする双葉。 「それは兎も角・・・・ねえ、紫門何処行くのよ。」 双葉は運転手側の窓を掴み、不貞腐れたように小振りの唇をつむぐ。 「ホテルに一回戻り儀式用の祭具を取ってくる。ついでに大聖杯に通じる地脈に働きかけて大聖杯の機能を一時的に止めてくる。」 「ついでにってそんな簡単に。そんな事できるの?」 ゴチ 胡散臭げにこちらを見つめる女の額を軽く叩く。 「いったー」 「疾薙の術の多くは周囲の力を吸い出し、もしくは操作し奇蹟とする。地脈を操るのは大前提だ。大聖杯自体の構造式は触らなくても主幹の地脈の流れを逆転させる。そうすれば大聖杯の霊力を吸い出すと相手側も思うだろう?」 「なるほどね、逆転させる事でなくてそれを引き起こした事で相手を慌てさせ時間を稼ぐつもりね。」 可愛らしい顔とは不釣合いな不敵な笑顔。 「総攻撃するにしてもこっちは疲弊しきってる。せめて一分一秒でも時間を稼ぐ安全策だ。『焼滅』風に言うならば、後手後手に回らないように先手を打てかな?」 そうねと言いながら双葉は否定の意を笑顔で返す。 「ただ、その体力で出来るの? って事。ナノマシンで回復力が異常に高いと言っても最低は1時間は必要でしょう?それに十分な食料、せっかく士郎君が食事作ってくれたって言うのに食べて行きなさいよ。とっても美味しそうだって〜。」 確かにさっきまでの連続戦闘で体はクタクタ気力は空、美味い飯でも食って休めば直ぐに戦えるが。 だが・・・・・・。 「・・・・カレーは駄目だ。」 「?? 駄目??」 「カレーは駄目だ。駄目なんだ。あのドロッとした茶色い物の中に紛れた地獄の香辛料が青色の使者を先頭に毎日毎日食べなきゃ死ぬ食べないと殺すと・・・・・・。」 「え?」 「遭難した雪山で二人黒い服のお姉さんがご馳走だよって具材も無いのにキーマ、チキン、マトンにダール、海鮮、野菜、チーズ毎日毎日毎日毎日毎日毎日ある日俺は腹痛に倒れたでも彼女はそれはカレーの量が足りないからだといって更にカレーを・・・・。」 「・・・・・・初めて知ったわ、貴方の嫌いなもの・・・。」 ええい、引き攣りつつ呆れた顔をするな!! 私にだってトラウマ、もとい嫌いな物ぐらいある!! 「何があったかは敢えて聞かないとして、食事ぐらいして行きなさいって。」 「断る!! 途中で何か食べる。お前こそ傷が完全に塞がってないだろう?美味い飯でも食べて早く治せ。」 カレーを食うぐらいなら敵の手にかかって死ぬ方を選ぶ。 「ハイハイ、言われなくとも解っているわ。ランサーこの人お願いね、能力的には高いんだけど変な所で抜けてるから。」 「やかましい。」 「オー任しとけ〜。」 と助手席でオニギリを頬張るランサーはやる気なさげに手をヒラヒラと振る、いつの間に持ってきたんだ? その時衛宮家の玄関から二人の人影が現れる、赤い二人組。 「車に御同乗よろしいかしら?」 「構わんよ、何処かに行くなら近くまで送ろう。」 「感謝しますわ。私の家までお願いできますか?」 二人は車に乗り込む。 「双葉。」 顔を近づける双葉に耳打ちをする。 「例の件頼む。あと、例のモノと食材の用意も渡した、薬は渡した通り頼む。」 「了解。気を付けてね。」 「夜には戻る。」 だれも喋らない車内、ランサーの『辛気臭い』との意見でアップテンポの曲が流れる。ちょいと古いクイーンの曲だ。今度はランサーはご満悦だ。 「で?」 「と言いますと?」 「何か、聞きたい事があってきたんだろ?って言いたいんだよ。態度見てりゃ解るぜ、家までってのは口実だろう?」 「ランサー君が何故答える?」 助手席と後部座席で睨み合う赤と青。鬱陶しい、一人で来た方が良かったと少しだけ後悔した。 「・・・・あー、そのなんだ。」 「ここは遠坂家が管理する土地。何をやるかは知りませんが勝手な事は困りますわ。」 「ならば今許可を貰いたい。君達から聞いた話だと聖杯は発動してからが危険な物と聞く、今からする事を黙殺してくれるだけでいい。」 ウインカーを出し冬木大橋へと回る。 「それは会社として? それとも個人的なもの?」 「個人的なものでもあり会社としてでもある。」 捨てたはずの過去が、いや眠らせていた筈の過去が起きた、もう見過ごす事が出来ない。 穢れを祓い切る、その為に立ち塞がるモノは全て斬り捨てる。 静まり返る車内の中では音楽だけが鳴り響く。 「なあ嬢ちゃん聞きたいんだが・・・・。」 「却下だ。」 「何でお前が答えんだよ。」 「凛、気を付けろ。この男と話すと馬鹿が感染する。」 「何だとテメエ!!」 「二人とも止めなさい!!!!!」 車内に名前と同じく凛とするとは掛け離れた大きすぎる声が響いた。 また、耳が痛い。 Interlude 「聖杯戦争でもないのに、あんた達こんな時に何いがみ合ってんのよ。」 「それはこの軽薄槍馬鹿が話に横槍を入れようとするからだ。」 「槍馬鹿って何だ!! 俺が槍馬鹿だったら、お前は弓馬鹿か?いや、弓より剣だから剣馬鹿か?」 「ハン、私の言葉を反芻することしか出来ない君はただの大馬鹿で十分だったな。」 「テメエ、なんだそりゃアァ!? その見下した目は!! アア!?」 「何を言ってるんだ君は?ちゃんと言葉を話したまえ。ああ、すまない犬に人語を話せとは酷な事だった、心から謝罪しよう。すまないランサー今までの非礼をお詫びしよう。」 ブチッ 見下した顔と心からの笑顔を足して二で割った顔で謝罪するアーチャーと、何かが切れる音と共に見る見る険しくなるランサーの顔。 今の音は間違いないランサーの血管の切れる音だ。 頭が痛い、全くこの二人何でこんなに仲が悪いんだろう。 「アーチャーあんた・・・・いい加減。」 こんな狭い場所でやめなさいと言葉を続ける前にぬっと突き出されるゲイボルグ。 「何なら此処で決着付けても良いんだぜ?」 「ほう?」 さも楽しそうに皮肉げに口を歪めるアーチャー。 「狭い室内で、その長い槍が振るえるのかね?」 「達人は得物や場所を選らばねえ。それを教えてやるよ。」 獰猛な笑顔を返すランサー。 あーもう、こいつら・・・・場所と状況とか考えなさいよね。 ダンッ 私が止めようと口を開いた瞬間、両者の間に一本の剣が突き立つ。 「止めんか馬鹿者、いい加減にせんとこの場で叩っ斬る。」 七凪が口を開いた途端、車の中の雰囲気がガラリと変わる。 空間その物を捕まれる様な感覚に私とランサーは呑まれる。アーチャーも呑まれている様だが一度戦っているからだろうか平然とした顔をしている。 気を取り直して。 「そ、そうよ二人とも今は争っている場合じゃないのを解っているの?」 「凛、声が上ずってるぞ。」 「うるさい。」 ヤレヤレとジェスチャーするアーチャーを睨んで黙らせ本題に入る。 「話はこれだけではないの、七凪さん一つ聞きたいことがあります。」 「君達の戦いには協力すると上の方には言われてる、気にせずに聞きけばいい。」 「貴方達の機密に関わるかもしれない。」 ・・・・圧迫感、背中越しからでも伝わる視線、なにこれ? 「それは、その要求が通らなければ冬木の地での活動を制限すると?」 「それも在り得ると言う事です。」 バックミラー越しから見える鋭い目から険が消える。 「解った、質問に答えよう。共闘した戦友に頼まれたのではしょうがない。」 後姿からでも解る機嫌の良い声でアッサリ返された。 その態度に少し拍子抜け、戦友ね・・・・最初から答える心算だったみたい、脅しなんか使わなくても良かったみたいだ。 「聞きたいのは幾つもあるわ、例えば今使ってた剣とかね。」 「幾つもは困るな、せめて一つ二つぐらいにしてくれ。」 これで良い、元から聞きたかったことは一つだ、幾つもと言ったのはその一つの答えを逸らされない為だ。 「それでは一つだけ。」 この質問は、私たちの戦いに大きく関わるであろう物だ。 「英霊を呼び戻した道具について・・・・・・。」 鍋に入っている茶褐色の液体を横に置いてあった金属製のお玉で少量すくい取って小皿に移し口の中に流し込む。 「・・・・ん。」 口の中に鮮烈な辛さと甘さが広がり後からゆっくりとした辛さと旨みが広がる。 「野菜をミキサーにかけて煮て、後からブラックペッパーにレッドチリ、カルダモン、スターシード、ジンジャー、フェンネル、ハッカ、隠し味に韓国唐辛子とチョコレートかな?むむ中々やるわね士郎君。」 「良く解りますね。」 「うひゃあ。」 振り返ると台所の入り口に士郎君が立っていた。 「びっくりしたー。」 「摘み食いですか?」 「いやいやいや、違う違う。一寸良い匂いしたから味見を〜。」 慌てて取り繕うが、ばれているっぽいなぁ。あの士郎君の柔らかな笑顔は全てを見通すようなお母さんの笑顔だ。この笑顔にはちょっと敵いそうに無い。 当の士郎君は冷蔵庫からトレイを取り出し、其処から赤く染まった鳥をまな板のせ手早く切り刻んでいく。 「香辛料に漬けた鳥入れるの!?かなり拘ってるわね。」 「休み中は、外に出ないつもりだったから凝った物でも作ってみようかと思って。」 「何でまた、長い連休遊びに行かないの?」 「ええ、少し事情がありまして。」 自然と沈黙してしまう。台所にコトコトと言う音が鳴り響く。 む〜静かな雰囲気に絶えられない。 「何か手伝いましょうか?」 「え?ああ、はい。こっちの野菜を切って貰って良いですか?後から入れるんで。」 「まかせて。」 人参とジャガイモを渡されシンクの中に放り込む。水道の口を手前に寄せタワシを使って手早く洗う。 「皮は?」 「人参は剥いて、ジャガイモは切って水にさらして置いて下さい。」 「うい。」 土汚れを綺麗に取ったらジャガイモは一口大に切り水にさらして置く。人参を剥いて・・・・ここは桜の形に切ってみよう。 「双葉さん、ジャガイモをこっちの鍋に。」 ハイハイと心の中で返事をしつつ水の張った鍋にジャガイモを放り込み火をかける。ふと士郎君の方を見るとリンゴを磨っていた。 「手をかけるわね。」 「え?」 仕事に熱中していたのか声をかけられるのに驚いたのか、素っ頓狂な声で返された。 「リンゴすってカレーに入れるんでしょう?手がかかってるわ、愛情たっぷりね。今見た下地だけでも相当手をかけてるのに更に手をかける、凄いわ。見習わないと。」 「そうですか?」 「普通の主婦は其処まで手をかけないわ。考えるのは如何に材料費を安くするかよ。」 「そういうものですか?」 「そういうものよ、良い奥さんになれるわねえ。」 「奥さん・・・。」 顔を引きつらせる士郎君の顔は面白い。 「でも、士郎君は料理巧いねえ。」 「昔から料理してたら、これくらい当たり前ですよ。すみません、冷蔵庫からヨーグルト取ってもらって良いですか?」 冷蔵庫からヨーグルトを取り出し手渡す。 「はい。昔って?」 「切嗣、親父の事なんですけど、あんまり体が良くない割に食が細いかったんです。」 ヨーグルトをボウルに移し変え牛乳を少し加えて混ぜる。ラッシーかな? 「食事をしない親父を何とかしようと思った俺は、元気にしようと自分で料理をしたのが最初なんです。」 「それから、作り続けたわけね。」 「ええ、親父が元気になるように毎日毎日作りました。でも最初は下手だったんですよ。」 掻き混ぜる手が止まる。 「でも親父は一口食べては笑ってて決まって最後には『士郎、おいしいよ』って・・・・。」 うっ拙い。しんみりして来た。失敗したなぁ・・・・。この状況苦手なんだよなあ。 そんな時、救いの女神がきた。この状況を打破できる救いの主。 「ねえ士郎〜ご飯まだ〜。」 無邪気な声が台所に響く。 「イリヤ、無理しちゃ駄目じゃないか。身体はいいのか?」 先ほどの戦いでイリヤスフィールは倒れた、慌てた私達は彼女を抱えてこの家へ連れ戻った。普通の医者よりも知識がある紫門に見てもらい、士郎君には緊張感と疲れでと言ってはいるが・・・。 「大丈夫よ、それよりお腹空いた〜カレーはまだ?」 「ん、一寸待ってろ、もう一煮込みしたらな。でもカレーなんかでいいのか? 倒れたんだから、お粥が良いんじゃないのか?」 「む〜、私が良いって言ったら良いの!!! シモンも食べ物には気を使わなくても良いって言ってたでしょう?」 元気に返すイリヤスフィールに満足したのか、安堵に満ちた笑いを浮かべる士郎君。 「はは、わかったよ。大人しく待ってろよ。」 「えっと、私はこの子を連れて行くから。」 「お願いします。」 イリヤを連れて出ながら目の端に写ったものが頭を悩ませた。 「カレーにオクラと豆腐?」 オクラと豆腐とカレーの関連性を考えながら客間への廊下を歩く。 「それはそうとイリヤスフィール、身体は大丈夫?」 「大丈夫よ。」 全くこの子は、無理して。 「・・・・嘘。崩壊寸前なんでしょ? 本社から聞いたわよ、今回の聖杯戦争の時期と製作時の製法と小聖杯の機能による体の酷使の時間を重ね合わすと自ずと答えは出たらしいわよ、遠坂家の協力によって機能を普通のホムンクルスの状態に戻したといっても寿命は短い。」 振り向きざまに睨まれる、その瞳は姿に似合わない冷ややかな目。可愛い女の子はそんな顔しちゃ駄目なのに。 「あら?間違った?」 スッと襖を開けると中に入れと促される。 「防音の魔術は使わなくても良いわよ、誰かが来たら私が気づくし、もし下手にばれたら何を話してたか問い詰められるわよ、彼の性格から言って。」 「そうね。」 苦笑いをしながら頷くと周りを伺いながらイリヤスフィールは音を立てないように襖を閉めた。 「・・・・あなたの言う通り。私には時間がないわ。それは誰よりも私がわかってる、貴女の会社よりもね。だから何だって言うの?」 「別に、貴女の命は貴女のものだから文句を言うつもりはないんだけど。ただそれで貴女の目的は達するの?」 「目的?私の目的は士郎を守る事よ。その為にはまず聖杯を破壊する、たとえ私が目的の為に命を使うとしてもよ。そう貴女の上司に言ったはずだけど?」 「正確には私の上司じゃないけどね。でも本当にいいの?」 「何よ含みがある言い方して、ハッキリ言ったらどう?」 挑戦的な自分の理念に間違いは無いという目。 「ん〜ん。直感として言ってるだけだから気にしないで。ハッキリ言葉に出来ないだけなのよ。」 目的と手段が噛合ってない、でもこれは自分で気付かないと。 「紫門にも良く言われるけど私は『勘は良いけど言葉に疎い』らしいの、だから何ていうか噛み合ってないと言うかな?」 ここははぐらかそう、幾ら私が言っても無駄だ。 「なにそれ。」 呆れ顔のイリヤスフィール。 「でも覚えておいて、私はあなたの説明に何故か納得がいかない。それは多分貴女の言い分に問題があると思うの。」 「だから何が?」 「ははは、ゴメン言葉に出来ないや。」 誤魔化しつつも私は足跡を聞いた。 「イリヤスフィール。」 口に人差し指を立てる、無言で頷くと唐突に話を変えた。 「今日はカレーらしいけど────」 「イリヤ、ご飯出来たぞ。ああ、双葉さんも居たんですか、ご飯出来たんで食べてください。」 「では、遠慮なく。」 立って出る瞬間、イリヤスフィールに袖を掴まれた。 「話の続きは後よ・・・・後イリヤでいいわ、よろしくフタバ。」 チョコンとスカートを持ち上げる礼儀正しい挨拶。 「ええ、ヨロシクねイリヤ。」 Interlude out |
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