第19話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 21時51分32秒公開
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我が疾薙は結界術に長ける、理由は簡単だ。 奉ずる神が関係している。 『サイの神』 場所によっては『際の神』と呼ばれる、道の神、封印の神、境界の神。 疾薙の口伝によれば、父神イザナギノミコトが黄泉の国から逃げ帰る時に、十握の剣を使い境界を引き黄泉の軍勢を押し止め大岩を持って道を塞いだとある。 黄泉と現世の道を分かつ『門の神』。 際を作り、境界を作り、封印を施し、門と成す。 疾薙の術はそれを作る為にある。 場を祓い、清め、界を作る。 しかも、この神は日本では知名度は恐ろしく高い故に概念的にも強力。 知らない人は居ないとも言える。 仏教と混じってから、その知名度は鰻登りになった。 道々に佇む姿は我々が良く見るところでもある。 日本での仏教において、その名は『地蔵菩薩』と言う。 『柳洞寺』 深山町の町外れにある山寺。 深山に流れる霊脈の要たる山寺。 聖杯戦争時には山門から入る以外にはサーヴァントには苦労するという場所だったらしい。 堂々と山門から入ればいいと思うのだが話によるとその山門には一人の門番がいたと言う。 アサシン・佐々木小次郎 ランサー曰くいきなり初対面で名乗りを上げるという些か古風な戦い方だ。 聞いた時にはアサシン? と一瞬耳を疑った、暗殺者が名乗りを上げる時は相手が死ぬ時位だ。 ・・・・ちなみに葛木との時は私は暗殺者休業中だからだと言い訳をしておく。 という理由により目の前の山門にいる群青色の陣羽織を着た侍はきっとアサシンなんだろう。 「というわけで頼むぞ。」 「いきなりだな、おい・・・いや、異存は無いんだが。いつも先陣を切りたがる奴がアッサリ言うなと思ってな。」 人をお前みたいな戦闘好きと一緒にするな。今日は連戦で勝つ見込みが無いだけだ。 「この男に言われる事を同情するぞ七凪。」 「ああ!? てめえ、そりゃどーいう意味だ。」 「聞いての通りだが? 言葉もわからなくなったのかねランサー。」 「チッいちいちムカつく奴だな。」 再び睨みあう二人、車外だからもう止めんぞ。 「はーい、ヤメヤメ。二人とも此処が何処か理解してる? 状況は?」 「理解しているとも、これはリラックスする為のいつもの余興だ。こうやって、戦いの為のテンションをあげているのだよ。」 「そうそう、女にゃ解らん世界だ。解ってるじゃねーかアーチャー。」 「気持ちは解る、君と意見が合うとは心外だがね。」 皮肉げに笑うアーチャーと豪快に笑うランサー。 「あんた達は・・・・・。」 「「ん?」」 据わった目でゆっくりと指を上げる遠坂嬢、巻き込まれる前に少し離れよう。と、少し距離を置いた途端に火を噴く指先。 「仲が良いのか悪いのかハッキリしなさい!!」 「ちょ、一寸待ちたまえ。これはだな・・・・。」 「うるさい、このヘッポコ!!問答無用!!」 「俺は関係ないだろ!!うお!!今避けなかったら当たってたぞ!!」 「凛、腹が立ったからといって無闇にガンド撃つのは立派なレディとはいえないぞ。」 「うっさい、この!!真顔で言うな!!余計腹が立つ!!」 ・・・・・・・・無視しておこう二人とも余裕でよけてるしな、それより今は目の前の相手か。 「お初にお目にかかる、七凪紫門と言う短い間だがお見知りおきを。」 「ふむ、後ろの二人共々、中々の手練のようだ。一つ手合わせ願おう。今回はセイバーのサーバントとして召還された。佐々木小次郎、推して参る。」 長刀を抜く佐々木小次郎に対して草薙と十握を抜き構える。まったくサーヴァントには戦闘好きが多いのか・・・・・ん? セイバー? ギン 切り結ぶ音。打ち鳴らされる剣戟。 順手に持った右の草薙で上段の打ち下ろしを受け流す。瞬間受け流した方向から襲い来る切り返しの払い。 「むっ。」 逆手の十握で受け止めると同時に剣を滑らしながら懐に入ろうとするが。 「刺突!!」 抵抗の無い流麗な動きで突いてきた。動かし始めた体を無理やり落とし・・・・・。 ダダダダダン 石段を転がり落ちながら、物干し竿と言われる長刀から大きく間合いを離した。 「一寸待て!!」 「どうした、神討ちの神官、伝説はそんなものか?」 「神討ち? イヤイヤイヤそれも疑問だが、あんたアサシンではないのか?」 「先ほど、セイバーと言ったはずだが?」 まさか、セイバークラスは魔力以外が水準以上で無ければならないはず。 今、目の前の男は以前この地に召還された時にはアサシンとして召還された男だ。それが意味する事は、私の個人的見解だが剣士故に剣技のみに長けた故に、このクラスにしかなれなかったのではないか? そして7クラスの中で適応していたのがアサシンのみだったのではないかと・・・・・ただの憶測だ、だがルール違反だけではないはずだ。 「ふむ確かに異常だが理由は容易に想像がつく。」 後ろに立つ赤い外套の男が苦笑する、少し喜びに満ちた顔で。 「理由?」 「セイバーは己のやるべき事を見出して自分の戦場へと帰ったそれだけだ。」 何があったかは知らないが、後ろに立つ男が今の士郎君と重なる。私の視線を知ってか知らずか話を続けるアーチャー。 「セイバー・・・・・いや小次郎と呼んでもかまわないかな?」 「かまわぬ。」 「今回、ここに居るのは今回もまたキャスターの命令かね?」 「あの女狐は全然関係ない。と言いたい所だが、残念ながら今回もあの女に使われる身。」 何時の間にか肩を並べるランサー。 「てぇ事は何だ? 又この門の門番かい?」 「不本意ながら。だが、」 小次郎は端正な唇を三日月に満足そうに涼やかに笑った。 「再び、お主等と戦えると思えば悪く無い。」 「同感だ、おいシモンここは俺に任せろ。」 「それは構わんが。」 と、言うか最初からそのつもりだ。 「ランサー二人で戦った方が確実だが・・・・そんな事を聞く君ではなかったな。」 「たりめーだ、あいつとは前回から先約があんだよ。」 赤い槍を持ち腰を低く構えるランサー。 「そうだったな、お主とは約束があったな。」 「おお、あの時は索敵と情報収集のみだったからな今度は思う存分やれる。」 睨み合う二人。 アーチャーがこちらに耳打ちする。 「今の内に中に入る。」 「同感だ、この膠着状態は願ってもない事だ。走り抜ける、おまえのマスターは着いて来れるか?」 「問題ない、私が抱えていく。」 そう言うとアーチャーは遠坂嬢を抱え先行して走り出す。 「ランサー頼んだぞ。」 返事を聞く前に睨み合う二人を横に私達は境内へと入っていった。 Interlude 縁側に座り空を見上げる。 曇り空は私の心の様相を現すかのようです。 「行かないの?」 黒髪の女性が居間へと続く廊下から現れる。たしか・・・・・。 「双葉よ。よろしくライダー。」 笑顔で手を差し出してくる。 「ああ、はい宜しくお願いします。」 「?」 笑顔で手を出してくる・・・・? 「あ〜そういう習慣は気を許した相手だけだっけ?失礼失礼。」 出した手をそのまま腰へと組み替え。 「ご飯だって、士郎君が呼んでたわよ。戦いの後はナノマシンのエネルギー補給が必要だからちゃんと食べないとね。」 「待ってください。」 「?」 「貴女の先ほどの言葉はどのような意味ですか?」 「いや、ご飯だよって。」 「貴女は馬鹿にしているのですか?その前です。」 悪戯が見つかった様な少女のような顔で笑う彼女は形の良い唇を開く。 「冗談、じょーだんよ。解ってますって、今さっきの貴女は何だか飛び出しそうな感じがしてたから、つい・・・ね。」 「飛び出しそう?」 「ええ、誰かの下へとね。」 そう見えるのだろうか? 「・・・・・・・・・」 「行きたいの?元のマスターの下へ。貴女を蔑み取り込もうとしたマスターの下へ?」 そう、彼女に言われた言葉は労いではなく辛いものだった。 だがそれは彼女の下に行かない理由ではない。行かない理由はシモンの一言だった。 「行かない方がいい。」 首を貫く短剣を止め、振り返ると何時の間にかシモンが立っていた。 「止めないでください、私は彼女に何と言われようとも傍にいる事にしたのです。それを教えてくれたのは貴方ではないのですか?」 「以前と同じ彼女であれば私も問題は無いと思うがね。」 「それはどう言う事ですか?」 フードをとり顔を出したシモンの顔は厳しい目をしていた。 「アインツベルンの城で戦った蟲の操り人形を覚えているか?」 「覚えています、それがどうしたと言うのですか?」 「ランサーにも言ったのだが生物と言う物は体の外から何かに侵入されると何か反応を起こす物だ。虫に刺されたら赤くなる、身体をぶつけたら青痣が出来るとかね。」 「桜が何かにされていると言うのですか?」 確かにゾウケンに何かされている感はありましたが。 「東洋医学に面相を見て診断する学問があり、その中にあるんだ蟲に犯され寄生される『蟲相』て言う奴が。」 「しかし、サクラはマキリの蟲使いを継承すると聞いています。其れゆえの反応ではないのですか?」 シモンの言葉に不安を感じる。目の前の男が不吉を運んで来るかのよう。 思わず大声で突っかかってしまう。 「だと良いが、あの相はかなり末期だ。多分、自分の魔力であれ以上の進行を抑えているのだろう。後、下腿浮腫を薄ら見かけた私の見立てが間違いなければ心臓に巣食ってるのが一番厄介だ。」 「魔力で進行を抑えているのでしょう?ならば!!」 「心臓は拙い。心は神が宿る場所にて心を司る。心臓を冒されれば心が乗っ取られる。」 「馬鹿な。」 口で言うが心が否定する。苦しみだす前と後のサクラあの違いはどう説明つけるというのだ、そしてそれ以上にあの様なサクラを私は・・・。 「それに、乗っ取っているのは蟲だけではない。」 「どういう事ですか?」 「君は、その目の封印の所為で見えてなかったと思うが一度眼帯無しで彼女を見てみればいい。なに安心したまえ、あの魔力量ならば彼女は簡単に石にはならない。」 「だから何だと言うのですか!!」 「穢れが、纏わり付いていた。しかも驚嘆に値する量だ、現時点のあの量でまだ精神が耐え切れているとは奇跡に近い。穢れとは、人の負のエネルギーの塊の事を言う、あんな物が憑いていたら人の心はどうなるやら。」 「では、サクラは今のサクラはどうしたと言うのですか?」 「解らない、ただ救う見込みはある。蟲を祓い穢れを祓う。そうすれば、あるいは。」 その目は何かを語っていた。 サクラを助けたければ自分に協力しろと言う事ですか。 口を開く直前、その声が聞こえた。 「その話は、本当か!!」 足元から聞こえる声。その主がゆっくりと覚束ない足取りで立ち上がる、今にも倒れそうだ、頭を抑えながら此方に目を向けてくるその目は空ろ。 「気がついたか、大丈夫か?」 「ええ、二回目なんで。それより、その話は本当なんですか?」 「二回目? 私の予測だが、間違っていないと自負はある。」 悲痛の面持ちで、立ち尽くすシロウ。 「アンリ・マユ。まだ、存在していた。聖杯は破壊したはずなのに。」 彼は倒れた。 「ライダー。」 「うわ!!」 目の前のフタバの顔に驚き思わず後ずさる。 「ななな、何ですか。」 「いや自分の世界に入ってたから呼んでみただけ。ほら、今さっきから士郎君がご飯だぞーって呼んでるから。行きましょ。」 「ああ、はい。」 今はそう、出来る事を体を回復させる。そうしなければ彼女を救うことも出来ない。 「ライダー。」 フタバは振り返り。 「今は力を溜めなさい。そう、来るべき時の為に。」 そう言った。 まさかこんな状況に陥るとは思わなかった。 七凪は私に重複の防御魔術が掛かったウインドブレーカーを渡して『五分ぐらい持ちこたえてくれ』と言ってどこかへ消えた。 「何かやるつもりなら説明してから行きなさいっての。」 アーチャーは葛木先生と戦っている、強化されているのだろうか信じられない位のスピードと正確さで二刀のアーチャーと戦っている。 私はと言うとキャスターと対峙していた。 「それで? お嬢ちゃん、あの男は何処に行ったの?」 「さあ? 私に時間を稼いでくれって言うだけで消えちゃったのよ、私に解る訳無いじゃない。」 「ふうん、あくまで黙秘するって事ね。───────。」 聞いたことの無い言葉、これは高速真言!! 瞬間、ウインドブレーカーから文字が浮かぶ、何処かで見た事があるような不思議な文字。 ブシュ!! 潰れる音ともに文字が一つ消滅、魔力弾が何も無かったかのように霧散する。 「な!!」 「何これ!!」 高圧に圧縮された現代の魔術では再現出来ない魔力の塊を相殺した? いや違う、分解した!! その証拠に先ほどの魔力がマナとなって漂っている。 そして、先ほどの浮かんだ文字あれは・・・・・。 「貴女何をしたの?」 「解んないわよ、この服借り物なんだから。」 先ほどのキャスターの魔術は恐らくは神代の魔術、服の形状やローブから見え隠れする長い耳と白い肌を見る限り、北欧かギリシャ出の魔術師。 その魔術を防ぐのではなく一瞬にして分解してしまう、この服の魔術は研究に値する。 そして、その意味はこの服にかけられた魔術も神代より伝わる魔術と言う事だろう。 「先ほどの魔術文字は初めて見ます。きっと私と同じ時代から伝わる魔術。しかも昼戦った疾薙と同じ魔術、それなら納得がいきます。」 さも、面白くなさそうに笑うキャスター。 それはそうだろう自分の十八番を簡単に防がれれば誰だって面白くない。 だが、それは私にとっては有利!! 「今さっきの文字は多分この国に古くから伝わる神代文字の一つ。それなら、あんたの魔術を防げたのも納得はいくわね。」 私はポケットに忍ばせていた宝石を取り出して構え。 口に入れ、走った。 「何!?」 拳が空をきる。外した!! だけど、これで終わりじゃない。 「魔術師が肉弾戦など!!」 「現代の魔術師は護身術も必須科目よ!!」 宝石の魔力によって強化された全身のバネを使い、飛ぶ。 数十の魔術塊が幾重にも重なりながら襲い来るが、すべて服の神代文字によって分解される 左拳がキャスターの胸へと届く。 「神代の魔術師に、魔術で勝てるわけ無い。それならば、勝てる方法で戦うだけよ。覇!!」 以前、言峰がやっていたのを見ていて覚えた武術。話によると二百年前に聖杯戦争を始めた遠坂永人は武術と魔術を等しく見ていたらしく、その思想は代々受け継がれて父もやっていたらしい。私の代で少し衰えたがそれは大目に見てほしい。 利き手の右手と左手が同時に上がり拳がキャスターの顎へと当たる、手足を落とす力を利用し共に頭突き。 「ガッ」 キャスターの喉が頭突きで潰れ吹っ飛ぶ。動かなくなったキャスターをその場に残しアーチャーへと振り返る。 「アーチャー!!」 間合いを広げるアーチャー、詰める葛木先生。 「────Anfang」 葛木先生を指し集中する。 北欧に伝わる呪い、ガンド。呪いたい相手を指差すことで体調を崩させる呪いだ。 私のガンドは直接的なダメージを与える強力な一撃にする為に魔力を最大限に乗せガンド最高レベルの『フィンの一撃』レベルまで上げている。 「アーチャー当たんないでよ!!」 「君は、また無茶な事をする。」 ガンドを撃つ。瞬間、爆発したかのように跳び退る葛木先生。それを再び追うアーチャー。 「無駄よ、宗一郎様は私の魔術によって最大限まで強化されているわ、貴方の視線と指の動きでガンドを避ける事は容易いわ。鍛えられた肉体を強化された宗一郎様はサーヴァントも敵じゃあない。」 「そんな・・・喉を潰したのに、魔術としても早すぎる。」 ユラリと言う様な擬音語と共に立ち上がるキャスター。 「不思議な顔ね? その気持ちは解らなくも無いわ、私もサクラが持っていた説明書を読むまで信じられなかった。」 フードから見える唇が歪む。 「この体はナノマシンと言う名の使い魔が構成している。どこか怪我をすれば、すぐさま其処に集中し傷を治すそうよ。笑っちゃうわね、人のままで不老不死に近い命が手に入る。」 「そうね、こんな物が主流になれば魔術師は何の意味も無くなる。」 「だけど私はその技術によってこの場にいる。聖杯などに頼らなくてもこの場に居れる。共に居たい相手と居れる、その為ならば誰の手先だろうがやるわ。」 先ほどとは違う柔らかなそれでいて力強い笑み。 「そうね、私もそう思うわ・・・・・。」 「何をしておるキャスター」 その時、声が境内に響いた。皺嗄れた聞きづらい声、もう二度とは聞きたくなかった声。 「間桐臓硯!!」 声のする方向を見ると倒れ伏したアーチャーとそれを踏みつける葛木先生、もしかして今の声は先生? 半信半疑だったがこれで腹は決まった。 「何をしておる、さっさとその女を始末せんか。」 「あら、マキリのご老人は私が邪魔みたいですわね。」 キン 「ワシの二百年まった願いが叶う。その瞬間を邪魔される訳にはいかんのでな、どんな小さい石でも細心の注意を払うという事じゃよ。」 「あら? 私は小石なの?」 臓硯は葛木先生の顔で笑った、背後のキャスターからはギリという歯噛みが聞こえる。 キン 「そうじゃな、そこらに落ちている路傍の石ころと言うところじゃの、カカカカ。」 「クククク。」 笑い声にアーチャーの笑い声が重なる。その顔は悪戯が成功した少年のような顔。 「何が可笑しい!!」 「フフフフフ。」 キャスターも小刻みに笑う、余りの可笑しさか体がくの字に曲がる。私も釣られて笑ってしまう。 「プックククク。」 キン 「貴様ら何が可笑しい!!」 「臓硯、貴様の耳は腐っているのかね?耳を澄ましたまえ、聞こえるだろう?」 私の肌にも感じ取れる柳洞寺の結界が変質しかかっている、あの男は一体どうやってやっているのだろうか? いや先ほどのウインドブレーカーで殆ど解っている。あのウインドブレーカーは元々ランサーに掛けさせたルーン文字による防御魔術だったんだろう。 それを、あの男は弄り日本の神代文字に書き換えた、冬木公園では上空からの魔力弾の雨を魔術で吹き散らしていた、アインツベルンの城では魔術の構成式を消し去っていた、きっと其れこそがあの男の魔術の特性。 ならば、あの男にとって結界は『積み木細工』に過ぎない。 キン ここの空間に何かが打ち込まれる様な音が、あの蟲には聞えないらしい。 「貴様が小石に躓く音だ。」 次の瞬間、結界が書き換わった。 時間は少し遡る。 ギィン 交錯する火花。 「シッ」 一呼吸で八度の突きを繰り出す。 それを野郎は涼しげな顔で避けやがる。 四つの本命と四つのフェイクを織り交ぜた刺突、一つ目の喉下への突きは上体の移動で避けられ、二つ目のリバーは長刀に払われ、三つ目の左の大腿は返す刀に受けられ、最後の四撃目の腹への突きはは悔しいがあいつの突きによって阻まれる。 「アンタ、やっぱやるなあ。」 「貴殿こそ噂に違わぬ勇猛ぶり、感服いたす。」 強えなぁ、おい。 だらりと垂らした腕から伸びる長刀、俺の槍に匹敵するほどの長さの長刀自体は何の脅威にもなりはしない、寧ろあれだけの長さその重さで不利になるはず。 問題はあの長刀を自由自在に操る力と攻撃を見抜く見切りと、これが一番厄介な意図も無く看破出来る心眼。 「どうやったら、そんな事できんだ?」 「明鏡止水の心で居ればよい、さすれば自ずと道は開ける。」 「メイキョーシスイ?なんだそりゃ。」 「お主に説いた拙者が悪かった。」 「なんだい、ノリが悪いねえ。」 戯言の様な会話、表情は変わらず互いの殺気が膨れ上がる。 山に住む梟が声をひそめる。 「確かに、お主の言うように付き合いが悪かったかな?」 ゆっくりと吹いていた風が止まった。 「おうよ、そろそろ本気見せろ。退屈すぎて寝ちまうぜ。」 空気が固まる、張り詰めた空間。 「では、槍兵殿を飽きさせぬ為に・・・・本気を出すとしよう。」 下半身を肩幅に開いたまま上半身を捻り背を向け刀を肩口で横へと構える構え。 「へっ、とうとう本気出しやがった。」 対して俺は深く腰を落とし這うような体勢、槍を下段に構える。 ジリ とにじり寄る。 ジリ 相手との間合いは目算で1m50cmあいつの刀の間合の際。そして、これは俺の槍の間合いでもある。 ジリ 間合いは1mまで縮まる。完全に刀の間合いに入る・・・・だが、それこそがこの距離が俺の作戦だ。 俺はランサー、全サーヴァント中で最高の敏捷性を持つクラス。 「てめえの刀が早いか俺が早いか勝負だ。」 「良かろう喰らうがいい我が秘剣────」 「受けろ我が魔槍!!刺し穿つ(ゲイ)!!」 流麗な動きで技を放つ小次郎。瞬間、刀がぶれ俺の周囲に刃が現れる。 ゼルリッチ!! 説明は出来ねえが分裂する魔法みたいなもんだ、その魔法みたいなモノを目の前の男は修練と執着のみで完成させた、英霊でもねえ唯の剣士が。 面白れえ、面白すぎんぜ。 てめえの言う通りだ小次郎、又くだらねえ戦いに巻き込まれるかと思ったが、こんなに楽しかったら楽しまなきゃ損ってやつだよなあ。 死力を尽くした戦い、お互いに楽しもうぜ。 この刃を避けて、この技を破らせてもらう!! 技の軌道を見るよりも早く俺はもうスタートしている。 刃が空を切るより早く、体に届くより早く、早く、早く、風よりも早く飛ぶように。 今より前へ、ここより前へ、そこより前へ!! 狙いは小次郎の振り下ろし初めの場所、刃の通過した場所、刃を横目に右の肩口へと跳ぶ。 「────燕返し!!」 ザン 踏み切った左膝が囲われた刃の籠に捕まるが、それ以外は無事。 背を向けた小次郎が右手に見える、驚愕が目の色に映ってるぜ色男!! この勝負は俺の勝ちだ、大技の出し終わりで隙がデケエ避けようって言ったってもう遅え!!この位置で、この槍は避けれねえよ。 「死棘の槍(ボルグ)!!」 ゾン 小次郎の技で左足を膝から切り落とされたが、勝利は目に見えていた。 「我が秘剣いかがかな?」 「ビックリだぜ。肝冷やしたぜ。」 「楽しめたなら僥倖、拙者も楽しかった。止めを刺すがいい。」 全く、こいつはスゲエ奴だ。 左手と左肩に深い刺し傷で石段に横たわる小次郎は生きていた。 ゲイボルグが当たる瞬間、左手を盾に突き刺し無理やり心臓から逸らしやがった。 因果の逆転で必ず心臓に当たる前に左手に突き刺し心臓より前に刺さった事にして呪いを無効にしやがった。 あー訳分かんなくなった、だが左手から左肩に貫く刺し傷は確実に戦闘不能だ。五分もすれば傷は塞がるらしいが。 「どうした、止めを刺さないのか?ランサー。」 「やめだやめ。てめえも聞いてんだろうがアーチャーの話。」 「女狐からその話は聞いておる、それとこれは話が違うのであろう。」 「あとな、楽しかったからいい。」 「どういうことだ?」 「こんな楽しい戦いなら何度もしてえ、そう思っただけだ。」 石段に腰を下ろす、片足がねえと動きがワリイな。 「それは同感だランサー。お主にもう一度再戦を申し込む。」 「約束か?」 「ああ、今度は拙者からの約束だ。」 そして暫く二人で笑った。 小次郎の柳眉が眉間へ歪められる。 「・・・・・境内の中の気配が変わる。」 「俺も感じた、結界が作り変えられる。」 二人で山門を仰ぎ見る、その姿は聖杯戦争の時と余り変わっていない。 Interlude out |
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