第20話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月01日(金) 21時52分23秒公開
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代々、我が家に伝わるものは三つある。 一つ目は、医術。 二つ目は、草薙と天叢雲二剣一対の魔剣。 三つ目は、この身体に流れる血だ、この血の力が『書き換え』を行う。 以前の喫茶店でのイリヤスフィールとの会話を覚えているだろうか。 「古くは三皇五帝に数えられる・・・・・。」 あの言葉には続きがある。 『疾薙は医家の家系、古くは三皇五帝に数えられる神農と呼ばれる神を祖に持つ。』 中国において『神農』の名は医学の神と称されている、その分家が日本へと渡り、少彦名神へと名を変えた。 その神の血を引く一族が我々疾薙である。 「・・・とは言え、いくら『書き換え』が出来ると言えども、これは無理だ。」 目の前の柳洞寺の結界の中心部を覗く。 寺の裏手にある深い枯れ井戸の底にある横穴に、その祠はあった。 その暗くジメジメとした中に柳洞寺の結界の中心部と思えないほどの小さな祠。 これはこの地下深くにあると言う大聖杯の基本構造式と繋がっているのだろう、この禍々しい魔力の感じから言って間違いない。 しかし、 「下手に扱うと柳洞寺の結界が消えてしまう。」 上の結界が消えると地下の大聖杯とのリンクが切れてしまう、そうなると当初の目的である大聖杯に影響を与える事が無理になる。 さてどうした物か。 ・・・・・・・・・・・。 「よし、結界を強めて魔力の消費を高める、か。」 そうすれば、基本構造式にも負担がかかり件の蟲も慌てるだろう。 「トホカミエミタメ 祓い給え 清め給え。」 ベルトに挟んだ薙ぎ鎌を祝詞と共にゆっくりと五方に打ち込んだ。 「な、何じゃ!! 一体何が起こった!!」 周囲に意識の目を飛ばす、完全に結界が書き換わっている。地脈が暴れない様に繋ぎ止める役割の柳洞寺の結界の上に、見た事のない術式が上塗りされ変っている。 ザザザザザ 黒い疾風が走る黒い蛇が藪を駆ける様な地を這う黒風。腰の後ろと両脇に携えた剣を収めたままその影は跳んだ。 「歩法 八咫鴉 」 襲い掛かる鳥の様に、影がゾウケンに乗っ取られた宗一郎様の体の背中を掴み、其処を中心点に一回転し背負い投げた。 「宗一郎様!!」 数メートル向こうまで弾き飛ばされたゾウケンは体制を立て直すと影へと向かい合った。 「これは貴様の仕業か疾薙、あの時倒せなかったのがワシの失策じゃった。」 「疾薙の神官は、あらゆる厄災への道を阻む門となる。『蟲物せる罪』を重ねた、あんたの呪術は阻ませてもらう。」 「ワシの悲願を呪いなどのと一緒にするでない!!」 アーチャーに手を貸しながら、せせら笑う疾薙のフードで隠れていない顔は鷹のような鋭さを持っていた。 「あんたの悲願は他人を犠牲にするものだ。しかも何万人単位でな、それにその体を維持する為に何人犠牲にした? その魔術が完成するまで何人殺した? そしてその果てで何人殺す? そんな悲願は呪術で十分だ。」 「私も同感だ。そんなモノの上に成り立つ悲願なぞ醜悪な呪いに違いない。」 皮肉げに笑うアーチャーの笑顔はゾウケンの怒りを触発するのには十分だった。 「たかが英霊の分際で、ワシの悲願を醜悪と言うか!!」 「何度でも言ってやろう。あんたの悲願は醜悪だよゾウケン、例え叶ったとしても誰にも理解されないだろう。君は何の為に願いを叶えるのか? それを考えた事はあるかね?」 「貴様、貴様、貴様、貴様キサマキサマキサマキサマキサマキサマ!!!! 英霊の分際でワシを語るな!! 貴様らまとめて葬ってくれる!!」 蟲が集い、黒い染みが境内の石畳を染める。 「──────────」 「え!?」 「どうしました、アーチャーのマスター?」 高速真言で空間を隔絶させ、私とアーチャーのマスターの周りの空間を確立させる。 「守ってくれるの?」 「意外ですか? フフフ・・・最初からの予定よ。」 そう、最初からの予定、大雑把な所は昨日のうちに決めていた。アーチャーのマスターと戦ったのもギリギリまでゾウケンを欺く為、流石に喉を潰されるとは思いませんでしたが。 「あのままではゾウケンの目的の為に宗一郎様が死んでしまいかねないので、アーチャーと手を組んだに過ぎないわ。そして組む以上アーチャーのマスターである貴女の身に、何かあると困ったことになりそうですし。」 「後で何か要求するんじゃないでしょうね。」 「しない訳はないでしょ、先程喉を潰して頂いたのを含めて請求させていただきます。貴女だってするでしょう?」 「減る、何かが減る、きっと減る・・・。」 苦い顔で俯くアーチャーのマスターを尻目に私は闘いへと目を移した。 それは昨夜、柳洞寺の離れに以前作っていた工房に入った時の事。 勝手に入ってくる人影を感じ振り返る。 「キャスター、君に相談があるのだが。」 「あら、アーチャー。この私に相談とは、どういう風の吹き回し?」 構えた体を向ける。 「どういう意味だね、それは。」 「貴方と目が合うと、しかめっ面で私を睨んでいるからよ。私の事が憎いのかと思って警戒していたわ。まあ、前回が前回ですから敢えて何も言いませんけども。」 「それは失敬した。君にどう持ちかけるか迷っていたのでね。」 「そう、で? 何で私の工房内に入り込んだわけ? 魔術師は工房に入られるのを嫌うってのは、あなたも知らないはずは無いでしょう?」 アーチャー敵意が無いことを示すかのように手を上げた。 「ゾウケンに知られたくないのでね、と言っても気付かれる恐れもあるので、そんなに長く話す事も出来ないのだが。」 「さっさと用件を言って頂戴。不快な命令をそれ以上に不快な蟲にされて、私も暇ではなくてよ。」 「それは私も同じだキャスター、でそのゾウケンの事だが『駆除』できないのか?」 「あらあら、かなりストレートな聞き方・・・それは無理ね、あの蟲は完全に同化してしまっている。切除しようとしても場所が悪すぎるわ。」 それは渋い顔、アーチャーらしかぬ顔、いえらしいと言うべきか。 「それは、何処にあるか大体予想はつくかね。」 「宗一郎様の? それともサクラのですか?」 押し黙り、皮肉げな笑いが肯定の証。 「宗一郎様は喉の重要な血管の近く、サクラは心臓よ。私の技術では取り除くことは出来るわ。」 「だが、治す事が出来ないか。」 「ええ。」 そう、治す魔術は出来ない事はないが、効率が悪い上に心臓や大きな動脈の場合素早く治さなくては失血で死んでしまう。 結論としては出来ない事はないが蟲の摘出で蟲の抵抗を考えると、どれだけの魔力を食うか想像出来ない為簡単に摘出が出来ない。 「ポーションの類はないのか?」 「残念ながら無いわ、ここに残っていると思ったのだけれども・・・・・やっぱり無い。」 ポーションを使って治すことを考えたが、肝心な物はなかった。今から作るにも、もう時間は無いだろう。 「・・・・・キャスター、一つ考えがある。」 「言ってみなさい、聞くだけは聞いてあげる。」 ヤレヤレと肩をすくめるとアーチャーは話し始めた。 「君は少しは素直になった方が良いと思うが・・・先程、ゾウケンからの命令があってね。『疾薙の神官を討て』と言われた。」 「それが一体どうしたというの?」 「君は知らんと思うが、この国の神官は面白いぞ。昔から伝えられた魔術で穢れや厄を祓うんだ。」 「呪いを解くとかではなく?おかしな話ね倒すのではなく払い落とす、ハハハハ面白いわね。」 「そう面白い、その祓い落とす物には『蟲』も含まれている。」 ・・・この男は今なんと言った? 「蟲を?」 「ああ、この日の本の神事には『蟇目神事』と言われる妖魔怪物を除き圧伏させる神事がある、それを行えば蟲は取り除けるかもしれん。」 「・・・・・何故、貴方がそれを知っているの?」 「その答えは簡潔だ。その神事には弓が必要であり、そして私がアーチャーだからだ。」 理由になってない。 「その答え、今見せてもらうわ。」 もし宗一郎様が死んだら貴方のマスターはどうなるかわからないわよ。 「アーチャー受け取れ。」 疾薙は何かを放ってよこす。 「これが!? そうなのか?」 三つの穴が開いたヒキガエルを模した木の鏃。 「お膳立てだけはしておく、お前がする事は私の言と共に弦を鳴らすのと正確に射る事だけだ。」 「弦を鳴らす?」 「弦は言に通ず、弓鳴り響くは弦が鳴る事、言葉が八方に鳴り響く。その行為自体が魔を払う神事となる。」 疾薙はゆっくりと剣を抜いた。左手に草薙、右手は徒手空拳。腰には水平に刺さったままの天叢雲と十握の剣。 「疾薙の神官の本当の戦い方を見せてやろう。」 先程戦った時とは違う構え、だが此方の方がより自然に見える。 「なるほど、それが本来の・・・・。」 「本来は神官としては忌むべき戦い方だ、全てを蹴散らすインビンジブルの戦い方、だが元々こんな戦い方だったんだろうなと思える。すぐに決着が付くから早めに用意しててくれ。」 インビンジブルの名前に葛木本来の目の光が一瞬蘇った。 「用意は一瞬ですむ、それよりそっちは大丈夫なのか? 私達との戦いで消耗が激しいようだが。」 「成せば成る。」 「ハッ心強い言葉だ。」 私の皮肉も聞かず、疾薙は飛び出した。 「トホカミエミタメ 祓い給え 清め給え」 ビィィィン 疾薙の祝詞と共に弓を空撃ちする。話によると、梓弓と言う弓や白木の弓を使うのが正道らしいので材質を白木の弓に変じた弓を引く。 「高天原に神留坐す皇が──────。」 ビィィィン 音の所為か周りの蟲が近寄らない。 「馬鹿が!!そう簡単にやらせると思うか!!」 葛木が手を振ると同時に蠢く蟲が疾薙を襲う。 「八百万の神等を神集えに集い────。」 ビィィィン 疾薙は左手の草薙をかざし蟲の中に飛び込む。 「ムウウゥゥゥ!! 剣の加護か!!」 黒い蟲の海が割れる。モーゼが海を割ったように蟲の中を突き進む。 葛木との距離は五メートル。 「種種の罪事は天津罪、国津罪、許許太久の罪─────。」 ビィィィン 一足で飛び葛木との距離を詰める、そこへ無言の葛木の鞭の様にしなる左拳が走る。 が、疾薙は上体を少しずらし紙一重で躱した。 「此く宣らば天つ神は──────。」 ビィィィン 「ぬううう!!なぜ当たらん!!」 当たるわけは無い、葛木と違い今身体を動かしているのは蟲だその技量は葛木と違い大人の技と子供が駄々をこねるように腕を振り回すぐらい違う、無計画に打ち続ける拳は全て疾薙に見切られ舞う様に躱される。 「夕べの御霧を朝霧、夕霧を払う事が如く─────。」 ビィィィン 疾薙の祝詞は止まらない、寧ろ言葉は早く朗々と歌われる。 ゴウゴウと聞える風切音を難なく躱す、躱す、躱す。 「加加呑みてば気吹戸に──────。」 ビィィィン 「是なら!!」 葛木が大きく矢を引くように引き絞る、その手には蠢く蟲。 必殺の間合い。 「喰らいつけ!!」 右拳が放たれる、と同時に腕から蟲も放たれる。 が、それを舞い様に避け、左手の草薙を引き右手で十握を握り、振り祓った。 ゴウッ 蟲が一瞬で焼き祓われる。 「祓給い清給う事を天津神、国津神、八百万神等共に間食せと白す!!」 ビィィィン 「アーチャー!! 三・五・七回の順で弓引け!!」 疾薙の指示通り弓を引く。 「二荒神、赤城神─────。」 弓引く中、懐から出した封書を左手に葛木の喉元に突付ける。 「甘いわ!!」 させじと葛木の左拳がうなる、甘いのは貴様だゾウケン、そんな簡単なフェイントに引っかかるとは。 「疾薙流 鍼術!!」 封書の手が下がり光る右手が腹に当てられた、アレは何だ!? 「鍼!?」 「蛇封じ!!」 ドゴォ 鈍い音が響く、封書を戻す力を使い腰を回転させ左拳を打つ、寸剄か!! いくら身体を強化されてると言えども、思いがけない所から来る強打は防ぎきれまい。 「臨 兵 闘 者 皆 陣 列 在 前」 九字を切り封書の紙を縛り更に懐から出した紙に重ねる。 「人型の紙・・・・。」 「この紙の人型の喉を打ちぬけ、アーチャー!!」 なるほど、対象を直接撃つのではなく、 「代わりとなる人型を撃つのだな。」 疾薙の言う様にお膳立てされている、簡単な事だ蛇の様に動く葛木より容易に狙い撃ち抜ける。 「サセルカ!!」 声にならない奇声を発し血を吐きながら起き上がる葛木、しかし起き上がるだけでそれ以上体が動かない。 「動けはせんよ、南米に行った時に用意していた対蛇用の概念を持った封じ鍼を発剄と共に打ち込んだ、その蛇と見立てた葛木の身体の内では早々には解けん!! 教えた通りに唱えろアーチャー!!」 人型に包まれた封書が天に舞う。 投げた疾薙は葛木を押さえ込む。 「 ひふみよいむね こともちろらね しきるゆいとは そはたまくめか 」 教えられた通りに唱え、呪文を唱える。 『――――I am the bone of my sword.』 高校の時に覚えた撃ち方ではなく、戦場で覚えた命を刈り取る戦いの撃ち方。 空につがえた弓に矢が現れる、すでに鏃は付いている。 矢が指から離れる。 ギュエエエエエエエ!!! ヒキガエルが鳴く様な音が鳴り響き人型を貫いた。 「ギャアアアアアアアアアアア!!!!」 「宗一郎様!!」 断末魔と同時に葛木は石畳に再び倒れ伏した。 「あれ? シロウ、フタバは?」 ん? 洗い物をしながら振り返るとそこには、少しやつれた白い妖精がいた。 「イリヤ寝てなきゃ駄目だろ? ほら足元が覚束無いぞ。」 「大丈夫よ、逆に動かないと体が止まっちゃいそう。」 「無茶するなよ、双葉さんは今さっき薬屋さんに行った。頼まれ物があるって言ってた。」 「ふーん。」 気の無い返事を返してくるイリヤ、その白い肌はいつもより白く見える。 「・・・・なあ、イリヤ。」 布巾で手に付いた水を拭いイリヤの傍へ。 「どうしたのシロウ?」 「どうしたの? じゃない、お前大丈夫なのか?」 「・・・・。」 口をつぐむイリヤは恐る恐る口を開いた。 「シロウも知ってるでしょ? 私の心臓は聖杯なのよ、大聖杯が起動した以上私の心臓も起動し始める。この間の聖杯戦争の時も同じだったじゃない。」 「嘘だ。」 「え・・・?」 そう嘘。イリヤの手を取る、もう振りほどく程の力も無いのか。 「前より酷い、お前今どんな顔しているか解っているのか? とても苦しそうだぞ、白い肌がこんなに白くなって・・・・手も震えてる。」 「シロウ・・・。」 「イリヤ、お願いだから正直に本当の事を言ってくれ。お前が置かれている今の状態を・・・。俺は家族としてお前を助けたい。」 「・・・・こんな時にだけ鋭いんだから、ずるいな。」 イリヤの小ぶりの唇から漏れる様に出た言葉は少し諦めに似ていた。 「例え教えたとしても、シロウには何も出来ないわ。」 「・・・でも。」 イリヤは俺の袖を引きしゃがむ様に促す。目線が同じ高さになる、イリヤの赤い目が俺を見据える。 「シロウの思いは嬉しいわ。でも、これは私の仕事なのイリヤスフィール・フォン・アインツベルンのみが出来る仕事。」 イリヤの目に吸い込まれる。 「そして貴方の、シロウのお姉ちゃんとして出来る唯一の事なのよ。シロウ、貴方の今助けたい人は誰?サクラじゃないの?」 体が動かない、舌の根が凍ったようで喋れない。 「だったら、助けなきゃ。皆を助けるんでしょ? だから、私が・・・・・。」 パン!! 手の叩く音で我に返る。体が、動く? 「イリヤ・・・・いけないわよ、自分が正しいなら、そんなモノ使わずに説得しなさい。」 まさか今のはイリヤの魔眼? 城に連れて行かれたときと同じ。 「フタバ!!」 声の方向を見ると紙袋を持った双葉さんが廊下の影に佇んでいた。イリヤは彼女を恨みがましい目で見ていた。 「隠れてみるなんて、里が知れるわよ。」 「ハイハイ、どうせ私の里は死ぬほど田舎よ。そんな事より今のは無いんじゃない? 魔眼を使って言う事聞かせるなんて。」 「む・・・・。だって、こうでもしないとシロウが・・・。」 「まあ気持ちは解んなくないけどね。でも、自分が正しいと思うなら、今の手は無しよ。恨まれたくは無いでしょう?」 そうだ。 「イリヤ・・・。」 「う・・・・。」 「今度こそ話してもらうぞ、一体何をするつもりだ?」 「む・・・・・。」 「教えてくれないって言うなら・・・双葉さん、何か知ってますね?」 「シロウ!!」 ヤレヤレといった顔で双葉さんは目をつぶり、片目だけを開きイリヤを見た。 「こうなれば、梃子でも動かないみたいよ、どうするのイリヤ? 私から話そうか?」 「裏切り者。」 諦め顔でイリヤはポツリポツリと話し始めた。 ゴリゴリゴリゴリ 乳鉢をする音のみ、衛宮家の今は静まり返っていた。 「聖杯を閉じる?」 「そうよ、私が大聖杯の中に天のドレスを着た状態で大聖杯に入ると大聖杯は魔力を湛えた一つ魔法を行う回路となるの。」 「魔法って、あの魔法か?」 目の前にはイリヤ、問い詰めると少しづつ話してくれた。 ちなみに双葉さんは秤と覚書のようなメモ帳と睨めっこしている、一体何をしているのだろう? 辛うじて解るのはそこから漏れる漢方薬のような匂いで薬と言う事が解るぐらいだ。 「そう、魔法。アインツベルンの悲願。」 「・・・・聖杯に入ったらお前はどうなるんだ?」 押し黙るイリヤ。 「帰って来れないんだな。」 「・・・・・そうよ、大聖杯の回路と同化するの。帰って来れないわ、元々そういう風に作られているんだから。」 「でも、だからと言って何でイリヤが聖杯に入るんだよ。」 「それしか方法が無いからよ。気付いているんでしょ『アンリマユ』がまだ留まっている事を!!」 桜が呼び出した黒い影に潜んだ黒いアレ、アレに接触した時解った。 『アンリマユ』がまだ消滅せずに残っている事を。 「アレはまだ大聖杯の中にいる。それを封じ込めるには大聖杯を閉じてしまうのが一番なのよ。」 「だったら破壊すればいい、その大聖杯を。」 「無理よ、大聖杯の位置はわかっていても、そこを守っている『蟲』がいるでしょう? 桜と言う人質を取った蟲が。それにどうやって破壊するのよ?」 「・・・でも、それでも、何でイリヤが犠牲になる必要があるってんだ!?」 「他に方法があるなら言ってよ!!それに、それに・・・。」 「それに・・・なんだ・・・」 ゴリ 乳鉢の音が止まる、双葉さんの目が向いている。喘ぐ様なイリヤ。 「それに・・・・私の命は持って二ヶ月ぐらい、聖杯の為に作られた身体よ、いまさら未練は無いわ。」 なんだよ、何だよそれ、イリヤが死ぬ? そんな。 「本当よ、元々作られた体の上に聖杯としての機能をつけらられた。この体はもう持たない。」 イリヤは俺の視線を避ける様に語る。 「イリヤ。」 「言って置くけど無理なんかはしてないわよ。」 「怖くないのか? 死ぬのが。俺は一度その体験はしているから解る。前に話しただろう? 十年前の火事の時だ俺はその時、親父に助けられた。あの時の親父の切嗣の顔は未だに忘れられない、俺はその時を目指して、正義の味方を目指している。だから今はイリヤを俺が救う番だ。」 俺は助けられた時見た、切嗣が嬉しそうに俺を抱き上げるのをその時俺は決めたんだ、親父の様になりたいって。 そして今度は俺が助ける。 親父にそう約束したんだ、あの縁側で。 その約束は親父の理想を俺が叶える事、親父の夢を叶える。 「そんな事。出来る訳ない。」 「聖杯を壊す、絶対だ。そしてイリヤも助ける、約束する。それが正義の味方の生き様だからな。それに大切な家族を俺は、失いたくないんだ。だから、俺の前から居なくならないでくれ」 「わかったわシロウ・・・・もう、本当に馬鹿なんだから。」 イリヤは泣きながら笑った、本当に嬉しそうに。馬鹿で結構だ、賢くても皆を守れないようだったら正義の味方失格だ。、 「で、そこまで言うならシロウに何か良い手があるんでしょうねぇ。あれだけ大きな事を言ったんだし。」 最近遠坂に似てきたなイリヤ、あかい悪魔ならぬ白い小悪魔だ。 「うっそれは〜え〜何だ。」 「あるんでしょうね?」 「プッ・・・クスクスクス。」 笑い声の主を見ると覚書で顔を半分隠して体を震わせながら笑っていた。 「なによフタバ。」 「なんでも無いわ、士郎君? 君の負け、と言う事で私から提案、良いかしら?」 「何をですか? ・・・あるんですか? 何か方法が。」 顔に似合わない不敵な笑みで双葉さんは言った。 「あるわよ、聖杯の方は兎も角、イリヤを助ける方法はね。」 ガラガラガラ ダッダッダッダッダ!! その時、玄関が開く音と廊下を走る音が多数。 バン!! 襖が勢い良く開く。 「士郎、客間借りるわよ!! キャスターこっちよ急いで!!」 「わかってます!!」 「ちょ!! 嬢ちゃん俺らも怪我人だぜ。」 「ランサー、君の怪我は大丈夫だ。放って置けば生えてくる。」 「トカゲの尻尾みたいに言うんじゃねえ。」 遠坂にランサー、アーチャーまでは解るが・・・。 「失礼するセイバーのマスター。」 「小次郎。君の傷も結構深い、暫く安静にした方がいい。」 キャスターにアサシン!? え!? 七凪さんに背負られた人は・・・・血まみれの葛木先生!? 「おっおい遠坂? 何で葛木先生。」 「話は後!! キャスター必要な物言って、アーチャーに取ってこさせるわ。」 「これを使え、大体のものは揃っている。」 ドタドタドタ 七凪さんが小脇に抱えた布袋を渡しながら廊下の奥に消えていった。 「何があったのかしら。」 双葉さんの素朴な疑問に俺とイリヤは首を捻るばかりだった。 |
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