第21話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年07月18日(月) 23時13分18秒公開
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キシュアゼルレッチ。 多重次元屈折現象と言う現象がある。 それを起こす物を宝石剣という特殊な術具らしい。 サイファの研究開発部に言わせると、それは他の世界とこの世界を繋げるモノであるらしい。 解りやすく言うと世界と世界に壁があるとしよう、その壁に仮に扉があるとしたら、その扉の鍵を開けるものと言うものが宝石剣だと言う。 その繋がる世界と言うものは、その先は一体どんな世界と言うのだろう。 昨日の柳洞寺の一戦から十五時間位経過した衛宮邸の客間の一室で、私と遠坂凛とそのサーヴァントのアーチャーとキャスターが狭い中で集まっていた。 「で? そっちの会社の方の回答は?」 「許可は下りた後で譲渡証明書にサインを頼む、そっちに丸ごと渡そうか? それとも。」 「いい、早く貰えるかしら?」 望遠鏡を差し出すと目の色を変えた彼女は光物の前のカラスの如く、待ってましたとばかりに奪い取った。 「凛・・・はしたないぞ。」 「うっさい、これの重要性を考えたらいてもたっても居られないわ、それよりアーチャーこれ分解できる?」 「ふむ、待ちたまえ。」 何処からともなく取り出したドライバーで螺子を一つ一つユックリと回し、望遠鏡を分解していくアーチャー。 後付の精密部品を外し望遠鏡本体へと作業は移る。 「それで、私は何をすればいいのかしら? 宗一郎様の看病を使い魔にやらせて来たのですから、それなりの事なんでしょうね?」 「大切な事よ、貴女には私を手伝ってもらいたいのよ。いえ、神代の魔術師にしか出来ない事。」 「何を手伝えばいいのかしら?」 気を良くしたのか、話を続けるように促すキャスター。 「これよ、これは他言無用で頼むわ。」 遠坂嬢は突き出すように一冊の本をキャスターに渡した。 「これは・・・短剣の設計図? いえ、これは・・・何かの術具ね、ここの術式の形態は空間転移の式と良く似ているし・・・。」 本を読むキャスターの目が見る見る真剣なものになっていく。暫く読んでパタンと本を閉じホウと息を吐くとキャスターは語りだした。 「空間を移動すると言うより繋げ、その路を発現させる。常時召還と退去を行う剣ね、只この剣の特異性は召還先や退去先を、この世界に留まらず平行世界にまで広がっている。簡単に読んで解るのはこれ位。」 「それだけ解れば十分よ、全く・・・自信なくしちゃうわ。それはね家に代々伝わる宿題なのよ。」 「宿題?」 「そっ、宿題。うちの大師父はとんでもない人で、自分の後継となる可能性のある家に宿題を出すの家それぞれで宿題が違うらしいんだけど、私の家はこの『宝石剣』。」 宝石剣か・・・なるほどね。 「だから、この望遠鏡か。」 「そういう事なのよ。」 「???」 頭が疑問符で包まれるキャスター、眉間に皺が寄ると綺麗な顔が台無しだな。葛木はそんな事はないだろうが。 「どう言う事? 二人だけにしか解らない話をしないで頂戴。それより話を聞く限り短剣を作る気なのは解るわ、確かに私が手伝えば時間の短縮は出来るでしょう。ですけど、これは製作に最低でも一年はかかる。」 「そうね、確かにそうよ貴女に手伝って貰っても一年以上はかかるでしょうね。メインのコアになる宝石の製作にはかなりの時間が掛かるでしょうから。」 「ならどうして?」 満面の微笑を浮かべる遠坂凛、エネルギーに満ち溢れた輝くような強さを湛えた笑顔・・・・日陰者の私としては眩しい事この上ない。 「ヒントを一つ、貴女はどうやって此処に存在しているの?」 「どうやって?」 簡単な様で複雑な質問だ、だが核心を突いている。 「私も最初にそれを考えた、どうやって貴女達はこの場所に来れたかってね。」 分解中の望遠鏡を指差す。 「そして、その謎は昨日の彼の持つ手袋を調べて解ったわ・・・これ『栄光の手』の作用を変えた物でしょう?」 まったく・・・この子は天才だ。 「概ね当たり正確には『栄光の手』と製法は似ているが、製作に使った材料その人間に成り済ます道具だ。」 不敵な笑い、似合うな良い事かどうか解らんが。その時、分解する手を止めたアーチャーから声が掛かる。 「凛、外れたぞ。これだな?」 少し目を離していた隙に分解が終わったアーチャーの手に、虹色に輝く拳より一回り小さい宝石が乗っていた。 「これは? ・・・なんて複雑なカットなんでしょう。いえ、それ以前、カットの面一つ一つにも複雑な式が書き込まれている芸術的でもある式・・・・屈折と絞りの効果位しか解りませんが、これは中で多重反射して合わせ鏡の様に・・・・まさか。」 もう一度、手に持っていた本を開くキャスター。 「この望遠鏡の中心部、この技術は59年前にキシュア・ゼルレッチ・シュタインバーグ老の技術提供から出来た代物だ。」 「そしてこれは、宝石剣の中心部になる物よ。」 interlude 失敗だった。 完全な失敗だったと言うわけではなかったが、失念していた。 疾薙の祓いは完璧だった。 失敗だったのは、祓った後の事だった。 祓った場所の蟲はそのまま消えるが、同化していた蟲が消えると言う事は、同化していた組織がゴッソリ無くなる事を意味する。 その為、今葛木は意識不明の重体だ。 「まだ、落ち込んでいるのか? 気にするな、次に失敗しなければいい事だ。」 「君か。」 製作の為にキャスターと凛に客間を追い出されて辿り着いたのは、聖杯戦争当時の周囲の監視を行っていた衛宮家の屋根の上ではなく、彼女が精神統一を行っていた道場だった。 そこで今回の反省を行っていると後ろからの声、振り返ると道場の入り口に黒の神官衣を着た疾薙がいた。 「・・・コスプレか?」 「私にとっての正装だ、お前にだけは言われたくない。」 奴は文句をつけながら苦笑交じりの溜息を吐くと、道場の神棚に向かって姿勢を正して座った。 「私はコスプレではない!! 私が好きで、こんな格好をしていると?」 「違うのか?」 「違う!!」 以前、偶然に出会った魔法使いの仕事の手伝いをした時、御礼だと言われ貰った物だ。 魔法使い曰く、『赤も青も嫌な事を思い出すからあげる。』だそうだ。 「これは、以前魔法使いが・・・。」 「最後まで言わんで良い、魔法使いで派手な服を造る奴は一人だけだ・・・。」 眉間に皺を寄せる疾薙、彼にも魔法使いの名には嫌な記憶があるらしい。 ・・・む、イカン私も嫌な怖気が。 「遠坂嬢はどうしているかな?」 「君が出て行った後、早速製作にかかった、今日の夕方には仕上げるとキャスターは豪語していたが。」 「それは凄い、うちの開発部が金に飽かしても十年以上かかるようなモノを半日か・・・何か作戦があるのだろうね彼女らには。」 再び溜息を吐く疾薙、背中に何故か年輪を感じる。 「あるのだろう、少なくとも私は凛を信じている。」 「そうか。」 興味が無くなったかのように瞑想に入る男。 「で、私に何か用かね? 何も私の服装をどやしに来ただけではあるまい。」 「お前には用は無い、この場所に用があるんだ。」 「邪魔なら出ていくが?」 「別に居ても構わん。邪魔だけはしなければな。」 そう言うと疾薙は神棚に向かい柏手を音も無く打つ。 「俺は何処に居ればいいですか?」 ヒタヒタと足音を消した人間が入ってくる、そんな風に入ってくれば普通は怪しい人間だと思うものだが、声を聞けば顔などを見なくても解る・・・いや忘れたくても忘れえぬ声だ。 「この道場の敷地内なら何処でも構わんよ。取り敢えず彼の近くにでもいい。」 隣に座るイリヤを背負うエミヤシロウ、普段と違う足音はイリヤに振動を与えない為か、こういう所は同じだと言いたいが此処は迂闊な行動を諌めるべきだ。 「貴様、何のつもりだ? あの男に言われているとは言え、ノコノコと私の隣に座るとは貴様殺されたいのか?」 「馬鹿いえ。俺はまだ死ぬ気はないぞ。」 「では何故だ。」 「流石のお前でもイリヤの前じゃ襲わないだろ?」 「むっ。」 確かに、私の目的は過去の私を殺し、今の私を掃除屋でしかない私を消し去る事だ。 前回の聖杯戦争では目的は果たせなかったが、今度こそとは思っていたが、昨日の凛との会話と疾薙との話し合いでもう一つの道を提案されたが・・・。 聖杯戦争時のイリヤの前ならいざしらず、今のエミヤシロウを慕うイリヤの前では些か殺し難い。 それ以前に今安らかに目を閉じエミヤシロウの背に顔を埋めるイリヤを起こすのは何故だか抵抗があった。 「はっ、私を甘く見るなよ。貴様なぞ音も無く一瞬で殺せる。」 とは言え、エミヤシロウに諭されるのも、些か気に食わない、これはチョットした報復だ。 「その時は全力で抵抗する、でも今は止めてくれ。」 「どういう事だ?」 「イリヤがもう持たない、出来るだけ今イリヤに刺激を与えたくない。」 な・・・頭が白くなる、今この男は何と言った? もたない? 「馬鹿な、早過ぎる!!」 「だけど事実だ。イリヤ本人にも聞いた。」 「私の記憶では、後二年・・・いや三年は持った筈だ。」 そう私の記憶では、聖杯戦争から三年目の春にイリヤは逝った。 いくら此処が時系列がズレていると言っても、この世界もあまり変わってはない筈だ、一体何があった? その答は新たに入って来た人間によってもたらされた。 「聖杯よ、小聖杯であるイリヤの心臓が体に負担をかけているのよ。」 「霧島さん。」 声のする方へと目を向けると資材を抱えた巫女がいた。 「あら、士郎君は巫女フェチ?」 「ちっ違います!!」 「まあエミヤシロウの性癖は置いといて、イリヤの身体が持たないのは本当か?」 霧島は持って来た資材を組み立てると祭壇を作り上げる。 「本当よ、ただでさえ制御に難しいヘラクレスをバーサーカーとして扱う為に無茶な調整体にして、さらにその無茶な体で聖杯戦争にでるから身体の各部組織が限界みたいね。一時期は遠坂さんの御蔭で普通の体と変わらない位に調整し直してたみたいだけど、流石に今回の大聖杯の起動で限界に来たみたい、紫門〜生玉と死返玉どこに置くの?」 組み立てた祭壇に剣、鏡などが並べられていく。 「話を聞く限り、君らにも責任があるのではないかね?」 「解ってる、だから対処しようとしているんだ。」 振り返った疾薙が当然とばかりに答えを返してくる。 祭壇が組み上がる、セイバーと打ち合った道場が見る見るうちに神殿へと様変わりしてきた。 「士郎君、イリヤスフィールと一緒に祭壇の前に。ああ、体勢は何でも良い。兎に角、今から天御中主神の力を使い君の生命力との共振をさせる事によってイリヤスフィールの四魂一霊を増幅させ、大国主神の力を使い三元八力を以って身体の状態を固定する。」 「共振? 四魂一霊? 三元八力?」 疑問で頭を悩ませる。 所詮、私は凛とは違い一介の『魔術使い』、魔術師ではない。 己の特化した魔術、もしくはそれに関係した魔術にのみに詳しく、他の魔術は身を以って知ったくらいだ。 特に英国の魔術協会は東洋やアジア圏内の呪術には詳しくない、それは逆に言うと魔術協会の魔術にも疎い奴が呪術などは詳しくない。 だが、その疑問は隣に座った巫女が答えた。 「日本古神道に於いて力の源は全て御魂にあるのよ。」 「御魂に?」 「そっ、世界に御魂が満ちているってやつね。解り易く言うと中国の気と一緒、世界に気が満ちて世界があるってやつと一緒。」 「ふむ、それなら解り易い。」 「人体を高天原としてみるの、そうすると祝詞の中にかかれてあるとおり、人体の中には『神留まる』。そして神の御魂が満ちている状態となる。」 ・・・。 「すなわち全ては神の顕現する事によって存在する事となると言う話。量子力学の講義みたいね・・・兎も角ね君達、魔術師が使うのはその御魂の中でも荒魂の力で・・・如何したの? 眉間にしわ寄せて。」 「自分の無知に腹が立っただけだ。気にしないでくれ。」 全く、死んで英霊の身になっても勉強するとは思わなかった。 「あはは、まあ説明は省きましょう。今は見ていればいいわ。」 「そうする事にしよう。」 祭壇の前にエミヤシロウがイリヤを抱いて座る。 張り詰める空気。 だが、その空気は不思議なほど緊張を感じさせない、むしろ清浄さを感じる。 誰もが押し黙った。 拍手が打ち鳴らされ、荘厳な雰囲気と共に祝詞が始まる。 「橘の小戸の禊を始めにて─────。」 疾薙の波紋の様な特殊な発声を持って祝詞が道場に響く。 「千早振る神の御末の吾なれば───。」 浪々と祝詞を唱える疾薙・・・・。 グラッ 何だ? 目の前が歪む。 「招ぎ奉る此の拍手に恐くも───。」 いや違う、これは・・・声に共振している!? 頭の中が熱い。 「奥津鏡、辺津鏡、八握剣、生玉、足玉、死反玉、道返玉────。」 「大丈夫? 身体が揺らめいているわよ・・・なるほど、共振しているのね。祝詞が今、士郎君自身の御魂にかけられている、逆に返すとそれはエミヤシロウと同等のものを持つ者ならば共振するという事ね。」 !! ・・・ではこれは、目の前の祭祀が・・・視界が、白く、塗り潰されていく。 「安心しなさい。死ぬものじゃないから、でもこれなら・・・・。」 「ひと ふと み よ い むよ なや ここ たり 」 これなら何だと言うのだ・・・。 「一体・・・何を・・・?」 「 ふるべ ゆらゆら 」 「調査も出来て一石二鳥ね。」 座ったまま、身体が前のめりに倒れ落ちる。最後の瞬間、見たのは私と同じく仰向けに倒れ落ちるエミヤシロウの姿だった。 「 ふるべ 」 キャスターとの協議の結果、やはり最終的な時間短縮には士郎の投影が一番早いと言う結果が出た。 決定的だったのはイリヤが見たバーサーカーを葬った士郎の投影だ。 十握の剣の上から捻れた剣を投影した事。 その話を聞いた時、私には一つの考えが浮かんでいた。 宝石剣に必要な基本的な骨組み等を先に作っておき、時間が掛かる所を士郎の投影で完成させる。 その為に今、士郎を探しに家の中を探して歩き回っていた。 「完璧、これで何とかなれば良いけど。」 「そうね、理論的には完璧だわ。でもいいの? 宿題をこんなデタラメじみた裏技で終わらせて。」 「別に宿題を終わらせるわけじゃないわ。私にとっての宿題と言うのは努力して試行錯誤して過程であって結果ではないわ、必要な時だから必要な物を作るだけよ。それに・・・キャスターも解っているんでしょ? あの子の事。」 隣を歩くフードを下ろしたキャスターが一つ溜息を吐いた。 「桜の事ね、解ってるわ。流石に貴女の妹というべきかしら?」 「キャスター、あなたの見解を聞かせて欲しい。公園で戦った時に一寸しか見ていなかったけど、あの泥。アレは何だと思う?」 公園でキャスターと戦った時、士郎と桜の会話の最中にあの子の影から滲み出した、黒い泥。私の覚えている桜の属性と重ね合わせると、多分最悪の結果になってしまう。 「いいわ、でも先に一つ聞かせてサクラの属性は一体何? あなた、あの子の血縁と聞いてましたけど知っているんでしょう?」 「第五要素よ。」 ニヤリと笑うキャスター・・・本当に魔女みたいだ。 「影。結果だけ言いましょう、アレはアンリ・マユの泥でしょうね。」 ヤッパリ。 流石に落ち込む、前回戦った士郎の話を聞いて解った事はかなり厄介だという事だ。 ああ、これで又どれだけ散財をするか考えると・・・頭痛い。 「何を落ち込んでいるの? 最初から、その事を想定して力に対抗する為に、この宝石剣を造ろうとしたのでしょう?」 「チョット今後の人生設計を考え直したいのよ・・・って、ん? ああ最初はね。」 「最初?」 道場へと続く道、聖杯戦争の時と違う匂い。 「最初は力に対抗する為に、それに見合うだけの力を手に入れるって、そう思っていた。でも、ここで半人前の馬鹿や白い小悪魔や昔妹だった娘と生活して行く内に少しづつ考えが変わっていたのよ。それにね。」 風が吹く、新緑の匂いをはらんだ風が身体を包む。 「あの子は笑っていたのよ。ここの生活が夢の世界だと思っているような笑い顔だった。あの娘の今にでも夢が覚めてしまうのを怯える様な笑顔を見てたら、遠坂のセカンドオーナーとしての立場を忘れていたわ。だから私は・・・何よキャスターその顔は。」 気付くとキャスターは笑っていた、ほほえましいモノを見る目で。 「イエイエ、貴女らしいと思うわよ。」 「な!?」 「聖杯戦争の時は生気の採取と使い魔による情報収集に徹してましたから、あなた達の事は良くも悪くも知っています。」 頭が真っ白だ、顔が暑い。 「貴女は少し魔術師らしくない、利があれば敵といえども協力し害があれば親といえども冷徹に切り捨てる。それが魔術師と言うモノです。が、貴女は強く優しい、だから切り捨てない。悪く言っているのではないですよ、魔術師以前に人間として貴女は強い。」 「・・・褒めたって何も出ないわよ。」 「あら残念ね、ふふふ。」 冗談めかした様な笑い。クッからかわれている。 「でも意外と貴女みたいな人が辿り着けるのかも知れないわ。マスタークラスの魔術師の素養もあるし。」 「マスタークラスなんて、なって当たり前。余計な事して心に贅肉つけて、ここまでやって成果が無いなんて愚の骨頂よ。結果がでなけりゃ破産しちゃう。」 それでなくても、遠坂の魔術はお金がかかるんだから。 「頑張ってね。」 「ええ、見てなさい・・・? 何してるの、あんたたち。」 話し込んでいるうちに道場に到着、その道場の入口で長い髪のスタイルの良い女と、いかにも軽薄そうな服装の男が中を覗いていた。 「よう嬢ちゃん。キャスターとつるんで何か造ってるって聞いてたんだが、もう出来たのか?」 「まだよ、後仕上げるだけって、それより二人とも何してるの。」 聞くと中を覗き込んでいたライダーが振り返り中を指差す。 「中を見れば解ります。」 道場の中を見ると・・・そこは。 「なに、これ?」 倒れている士郎とアーチャー、怪しげな祭壇、薙刀を分解している巫女、祭壇に向かっている神官。 一体なにこれ? 「止めなさい。」 一歩道場に入ろうとするのをキャスターに止められる。 「結界よ。しかも精神に作用する結界。」 「せ〜かい。」 結界の中にいる巫女が答える。 「そこから一歩でも入ると、そこの二人みたいに記憶の旅に連れて行かれるわよ。」 「記憶?」 「そう、記憶の旅よ。紫門の『魂振り』によってイリヤの命を救うと同時に『魂継ぎ』で士郎君にアーチャーの英霊になったルーツを見せる事によって、これからの起こり得る状況を見据えるって言う旅。」 なるほど、それは良いかもしれない。ヘッポコには一度現実と言うのを見せれば考えが変わるかもしれないし。 その時だった遥か昔に聞いた死んだ父から聞いた昔話を思い出した、そしてパズルのピースが合わさるようにある考えが閃く。 「なるほど・・・ね。それが貴女達の、いえ『サイファ』の真の目的ね。」 キン 視線を下げると剣先が私の喉下にある、何時の間にかに目の前の女の手に剣が握られていた。 いや、薙刀の先端の刃の部分が、そのまま刀になっている。 目の前にある、鈍色の刀がヌラリと光っていた。 「で? 貴女の識る真の目的って何?」 怖い笑顔と凍て付く様な声・・・昨日までとは違う、アサシンと戦った時の顔とも違う、顔は笑ってはいるが目に強烈なほどの氷の殺意が輝いている、これが本性。 刀身を見る、ヤッパリ・・・この剣は古い神秘が込められている。 「遠坂の家は二百年以上の家系、古くから続く家には色々な逸話が残されているの、中でもこの日本での最大の禁忌。今では御伽噺でしか語られない八剣『八方塞』とかね。」 気温が見る見るうちに下がっているようだ、身体が重く寒い。 「そこまで知っているなら話は早いわね・・・その事を外に話されると私達サイファとしては、とても困るんだけど。」 「話さないわよ、こんな話を他所にしたって笑われるだけよ。・・・その八方塞の目的は士郎、いいえ士郎の因果ね?」 フッと一瞬にして圧力が消える、それと同時に切っ先が下ろされた。ユックリと巫女が刀を収めた鞘を片手に結界から出てくる。 「まあ話さないって言うならいいわ、確かに今回の目的は士郎君の因果の調査だけど良く解ったわねえ。」 「アイツのお陰よ。」 そう言って、結界が張ってある道場に倒れ伏している赤いのを指差す。 「いくら別の世界の可能性の一つと言っても、未来の英霊が此処に来るのが一寸おかしいような気がしたのよ。大抵の事をしても変わるのは小さな未来で大本の歴史は余程の事をしなければ変わらないって某ネコ型ロボットも言ってるでしょう? アーチャーが此処に居る理由、肝心な理由があると思った。」 「正解。アーチャー君の記録を調べ崩壊の予兆『厄災の種』へと続く道を調べ破壊する事、それが目的。特に聖杯戦争と言う『世界』に影響を与えるかもしれない戦争に生き残った士郎君に何かのヒントがあると思ってね。」 「・・・だったら私は調べないの?」 「必要ないわ。」 アッサリ返された。 「何? 私は世界に影響を与えない小物って言うの?」 「ええ、与えないわ。あなたは心が真っ直ぐだから、あと強いから大抵の事でも乗り切れちゃうでしょ? そんな人は逆に大丈夫なの、世界の強制力と言うのが働いてそれ相応の敵が現れるから。一番良い例が貴女の祖キシュア・ゼルレッチ・シュタインバーグと月の王様のお話ね。」 古い話だ。その昔、『魔道元帥』『宝石のゼルレッチ』『万華鏡』の二つ名を持つ現存する五人の魔法使いの一人、大昔に吸血鬼の王様と一騎打ちをして落ちてくる巨大な石を力技で押し返したという。 「世界に大きなダメージを与えるような存在にはそれなりの相方が付くもの。日本の神が常に二柱や安定する三柱で存在するように、総ては太極の中で交わる印と同じ様に安定した姿で存在する。」 溜息を吐く、話が少し逸れたみたいだ。 「で、貴女達はどんな考えなの?」 「この現象自体は士郎君がアーチャーに成る為の必要不可欠なものだと判断したのだよ。」 結界の中からその返事が来た。 「もう、術は終わったの?」 「ああ、概ね終わった少々の障害があったがな・・・話を戻そう、むしろアーチャーを作り上げる為の決め手だと考えた、目標と言う形を目の前に出し作り上げてしまえばアーチャーとなる確率が高くなる。要するに予定調和だな、だがそれに伴う戦争や厄災は防がなければと言う事だ。」 「・・・その論理はちょっと強引じゃない?」 「解ってはいるが、その可能性が高いと言う上の判断で此処に遣らされているんだ・・・はぁ。」 憂鬱そうに溜息を吐く神官、心なしか哀愁が漂っている。 ・・・ん? 障害? 「一寸待って、今障害って言わなかった?」 「・・・言ったが、問題ない。イリヤスフィールからの記憶の逆流と二人の大喧嘩があってな、全く・・・あいつ等は・・・はぁ、もうそろそろ二人とも起きる頃だ、後は本人に聞け。」 疲れたのか、神官は肩を落としながらこの場を去っていった。 ・・・・・・・・・苦労してるのね。 interlude out |
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