第23話 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ディー
2005年08月26日(金) 22時25分06秒公開
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『魔術師殺し』こと衛宮切嗣と『インビンジブル』こと私の関係は? と言われると少し言葉を濁す事が多い。 ある時は『敵』として殺し合い、ある時は『相棒』として死線を潜り抜ける、そんな関係だった私達の関係は、ある種の奇妙な友情で結ばれていた。 それが決定的になったのは、カフェテラスの一件だろう。 あの時の切嗣は子供の未来を憂う一人の親だった、あの時の私は復讐を忘れた一人の友達だった。 逃げ惑う、さながら幼子の鬼ごっこの様に。 銃口から発せられる連続的なマズルフラッシュと重い爆発音、打ち込まれる弾丸。 交差させた剣より生まれ出る、不可視の障壁でそれを阻む。 だが、複数の打ち込まれた弾丸の威力までは消せなかった、普通なら大地に障壁を同化させ衝撃を消していたが、頭や胸を狙われた為に大地より引き剥がされ、障壁ごと吹き飛ばされる。 ボタボタボタ 不可視の障壁に張り付いた弾丸が、交差を解いた途端黒い泥となり地に滲み消えた。 「参ったな、昔と変わらぬ精密射撃の上に、アンリ・マユの泥で作った無尽蔵の弾丸か。」 「君も相変わらずデタラメな瞬発力の上に、年代物の魔剣を持ち出してきて・・・アレから更に奥の手が増えたみたいで、お互い様。」 あくまで無表情な切嗣、長閑に会話を繰り広げてはいるが事実アイツの銃口はこっちを向いていて、私の剣は常に交差する為の形を取っている。 完全な膠着状態。 だが、これでは決着はつかない。 障害は二つ、一つはあの弾丸思いのほか泥の弾の衝撃が激しく吹き飛ばされる上に呪いの追加効果がある。 もう一つは一番厄介な、あの男が洞窟の各部に敷いた『固有時制御』の結界。 『固有時制御』 任意空間に結界を敷き、その空間内に入ったモノの体感時間を伸ばしたり縮めたりとする特殊な魔術。 その結界内では私の精神の時間が延ばされたり、早められたりする。 これは、戦闘上で大きな障害だ。 拳銃の弾が見えるのに体が思うように動かない、途端に動けるようになり体制を崩してしまう。 接近戦だけではない、術中に嵌まった途端人は隙ができる。 隙の出来た人間を殺すのは、殺しのプロに取っては赤子の手を捻るより簡単だ。 「全くもって厄介な魔術だ。流石、最強の一人と噂された『魔術師殺し』だな。」 「その厄介な魔術を、一体どんな方法で破っているかを僕は聞きたいけどな。」 「知っていて、おまえ良く言うな。」 結界なら私の得意分野だ、発見次第解除、変質、もしくは破壊する。 だが、その行為すらも隙が出来る、その隙を目の前の男は見逃さない。 「後学の為に一つ聞きたい、今の君はどの背徳・・・六大魔に相当するんだい?」 「虚偽。」 ドン 呟きと共に前触れも無いクイックドロウ。 「ちぃ!!」 再び始まる鬼ごっこ、逃げるは私、追うは黒い弾丸。 ・・・これじゃあ、埒が明かない。 やはり使わざるを得ないか、使うつもりで下準備は全てしてきた全て万端だ。 「・・・切嗣!! 冥土の土産に見せてやろう。我が疾薙流最大の秘儀を!!」 懐にある二つの珠を服の上から押さえる。 「虚偽、か。今の君にはお似合いだ。正義の味方の意味を知っても貫き続けた、自分に嘘を吐き正義を貫き続けた、あの頃の君と一緒だ!!」 ドン!!ドンドン!! 呟きも消える程の三連撃が、今走っていた場所を貫き黒く染める。 「トホカミエミタメ 祓い給え 清め給え 」 唱える言霊に胸にある足玉、生玉が共鳴し周囲からマナを集め私の身体に力を補填する。 ザン!! 左手に持った草薙を地に付きたて、斜めに重ね合わせるように天叢雲を更に突き立てる。 手に持ち力を二剣で循環させないと持続性の障壁は生まれないが、一度展開すれば暫くは持つ。 息吹を整え、拍手を打ち、そして舞う。 ドン!!ドン!!ドン!!ドン!! 次々と打ち込まれる黒い泥の銃弾、あの弾丸の威力を考えると障壁は後持って30秒・・・だが、それで十分。 息吹を永くおこない空間に漂うマナを集める呼吸法『息吹永世』、空間を完全に把握し空間を掌握する。 身体に流れる血がおこす書き換えの能力が、草木も生えていない洞窟の大地に、見えるものでないと見えない不可視の陣・真澄の鏡を表す『布斗麻邇』が敷かれる。 肉薄してくる切嗣、だがもう遅い、舞に含まれる意味が祝詞となり空間に滲み込み。 術を完成させる言葉を発する。 「十握の剣 力を示せ 父神イザナギが引きし線 常世を隔絶せし境 その力持て 狭間の世界に道作れ!! 顕現 際の神!!」 空間にユックリと溶け込むように、神域が形成される。 以前この術を使わざるを得なかった魔術師によると、これは固有結界と言うらしい。 interlude 対峙する黒と黒。 こちらに背を向けた黒は腰だめに構えた刀に手をかけて腰を落とす。 向こうに居る髑髏仮面の黒は数本の短剣を投げてきた。 一閃。 ギャン!! シャン 数本の短剣が一瞬にして悉く打ち払われる。それと共に鳴る刀の鞘。 縁側に立つ双葉が鳴らす納刀の音は、この国の魔除けとされる鈴の音の様だった。 「まさか居合いとはな。いや、実戦古流ゆえの居合いと言うか。」 「居合い?」 身の安全や、援護の事を考えて小次郎の横へと来た私は、小次郎の呟きに双葉から目を離さずに質問をした。 腰を落とし、黒いレインコートの裾の中に隠した刀の柄に手の甲を当てて構えている双葉。 「私が聖杯の方から貰った知識での居合いとは違う気がするけど?」 確か居合いと言うのは刀の柄を握っているのではないだろうか。 「私も聞いただけだから上手く言えんが。古い流派には刀の柄に手の甲をつける秘伝があると言う。」 「それでどうなるっていうの?」 「話によると、『疾く』刀を振り抜けれるらしい。こう腕を表に返す動きを利用し反動で振りぬくのだ。」 ギャンギャンギャン!!! アサシンのダークが迫る瞬間、刀の柄に甲を当てた手が揺らいだかと思うと瞬間移動したかのように刀が現れ全てを打ち払う。 シャン そして、納刀。 早いどころではない、閃光といっても遜色がない程のスピード。 「確かに早い。がそれだけではないな。あの二人の立ち位置を見てみろキャスター。」 偉そうに説明する小次郎にムッとしながらも二人の位置関係を見る。 「何時の間に・・・。」 ゆっくり、そうゆっくりと二人の位置関係がずれている。 今さっきまで縁側の背にしていた双葉が段々と横に見えていた。 「ふふふ、アサシン仮面越しでも解るわ貴方の動揺が。前回は作戦通りに手加減していたとは言え、たかが人間にサーヴァントが押されるのかって。」 コロコロと笑いながらも跳ね上がる殺気。押し黙る仮面が、それを如実に肯定する。 「教えてあげましょうか。貴方達のアドバンテージは解る?」 余裕の表れか鞘を持つ手を挙げ、指を立てる。右手の甲は当てたままだ。 「一つ目は霊体の身体、これによって一般兵器や武器の類は効かない。二つ目は宝具ね、その破壊力や特殊性は目を見張る物があるわ。三つ目には生前の能力や知識と経験、これは大きいわね。話によるとキャスターの高速真言や神殿作成とかが良い例。」 「何が言いたい? それが、どうしたというのだ。」 「考えて見なさい、霊体の身体はこの私の持つ二千年以上前より続く古い剣『廉貞剣』によって斬り裂ける。宝具と言っても使い所によるわ貴方の今の状況でどう使えると言うのかしら?」 話によるとアサシンの宝具は呪いの腕で発動までの時間が大きいと言う、その為にはある程度の距離と足止めが必要となる。 そう、今の状況はアサシンにとっては不利なのだ。 「そして、英霊の身体と知識と記憶・・・私の戦闘経験とナノマシンで底上げした私の神の身体、どっちが上かこの間の時に解ってるでしょう?」 それ以前に暗殺者が表立って出ていること事態がおかしいと思うのだが、それは合えて言葉にしない。 小次郎風に言うと、興が削がれると言った所か。 「・・・それだけではあるまい。」 重い口を開くアサシン、死刑執行を受ける死刑囚の様。 「前回の戦いの時、所々で身体の異常を感じた、それもこの英霊の身体を固めるような。あれは貴様自身の能力だろう。」 「正解。・・・本当は私は戦闘に参加しない予定だったし、許可されていないから第一段階までしか使わないつもりだったけど・・・日本最強と自負する八方塞のプライドの為に使わせてもらうわ。」 空気が凍る、新しい葉が芽吹く春だと言うのに深々と身体が冷たくなった感じする・・・いいえ!! 「身体が冷たい!?」 「お主も感じたか・・・と言う事はコレは殺気のせいだけではない、な。」 殺気が一瞬にして霧散する、小さな口元を吊り上げると双葉は言葉を呟いた。 「凍りつけ!!」 バキバキバキ!! 一瞬にして凍りつくアサシン、いや間一髪で避けた仮面越しでも私にも解る、アレは動揺している。 「凍結の魔眼!?」 「うふふふふふふ、あははははははは!!!! 凍れ凍れ!! 我が前に於いては全て凍りつく、大地も空も水も風も全て全て!!」 逃げるアサシン、それを追う様に靄が追う、凍結と低温の為かその周囲が白く靄の様にかすんでるのだろう。 「凍れ!! 突き出ろ氷柱!!」 双葉は大地に手をつけ言葉を呟く、瞬間大地が黒く霞んだかと思うと現れ出でる凍結した大地と聳え立つ巨大な氷柱。 凍りついた大地がアサシンの足場を崩し氷柱が逃げ場を奪う、それを見逃す双葉ではなかった爆発する様に一足飛びで肉薄する。 それをアサシンのダークが押し止める、がそれは全て閃光に阻まれる。 フイと空を望む双葉が叫ぶ。 「凍れ!! 大気に浮かぶ水霊よ、雹と化し落ちろ!!」 瞬くように空が黒く染まると、無数の雹が大地に降り注ぐ。 牽制だろうが、二人は戦いを続ける。 「また黒く霞んだ・・・まさか、凍結ではないアレは・・・まさか、そんな、私の魔術の中でも高等な術を一工程(シングルアクション)で行う・・・。」 「どうしたのだキャスター。」 「貴方何で寛いでるの、少し緊張したらどう?Åったな。」 「解るさ、君の考えている事ぐらいは解るよ。何から何まで士郎がお世話になるみたいだね、君には感謝するよ。」 「構わん、会社の方針に従っただけだ。」 「フフッ、君の態度も相変わらずだ。それじゃあ、君とは此処でお別れかな?」 「ああ。」 笑う、ゆっくりと崩れる顔でも安心した顔だった。 私も笑い返す、笑って送り出してやる。 「それじゃあね、次に会うときは。」 「地獄で会おう。私達は天国って柄じゃない・・・だろ?」 満面の笑み。 「ああ、地獄で。」 そう言って笑って消えたのを確認すると。 「さて、一休みしてから行くか。さすがに堪えた。」 私は身体をゆっくりと大地に横たえた。 |
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