Fate×ダイの大冒険/Fate of Dragons(予告編) 傾:シリアス
作者: FOD編集   2007年10月01日(月) 22時36分41秒公開

 第六回聖杯戦争が開催される――
 未曾有の破壊と混乱を呼んだ第四回。それを経て、しかし最悪の事態を免れた第五回からわずか2年の後。聖杯はもはや満ちていた。白ではなく、闇色をした聖杯が――


「心よ――とまれ」
 そう呟いて――彼女は腐臭に満ちた闇に立つ。
 魔法陣の必要はない。この地下室こそはマキリの陣にして檻。そして彼女こそが最後の部品。
 理不尽でもない。外道でもない。マキリの魔術とはそういうモノ。否。そも、魔術などというモノはなべてそのようなものだ。
 闇と影を統べるマキリの業は、彼女の絶望と虚無を以て完結する。

 音はなかった。 黒い影が垂れ込めた。桜には姿が見えなかった。
 闇に溶け、闇にしかいない生物がそこにはいた。
「……すばらしい」
 密やかな、しかし堪えきれずに漏れた笑い声が闇に漂う。
 マキリの魔窟の闇の中、間桐臓硯は静かに孫娘の召喚を見守っている。その後ろには、すでにサーヴァントが存在していた。全身を黒く染めた、ピエロのような存在――アサシン。己のことを、道化師と名乗る存在だった。


 凛は手を翳して、呪文を紡いだ。どうしても、あのときのあの光景が甦ってしまう。それを無理に押し殺しはしなかった。強引さに任せたって、あの皮肉顔はどうしたって出てくるのだ。だったら、そこで見守ってくれればいい。
 そう思い、最後の小節を紡ぎ終えた。
「さあ、これで……って、え?」
 想定を越えることが起きていた。
 凛は戦慄した。魔力量の、桁が違った。量だけではなく、質までもが違う――これがキャスターでなく、何であろう。
 衝撃。間を置かずして輝き。
 地鳴りのような振動が収まるまで、凛は呼吸を整え続け、ようやくの事で言葉を紡いだ。
「キャスターね。私は遠坂凛。あなたのマスターよ」
 霧が緩やかに晴れていく。重い、霧にさえ魔力が溶け込んでいく。冷や汗を強引に押し込んだ。気圧されて、侮られてはならない。
「キャスター……だと?」
 霧が晴れていく。声が透る。
 新緑の服、マントが翻った。渦巻いた未知の勢いに、ばたつく髪の毛を抑えることすら忘れた。
「俺を、キャスターなんて変な名前で呼ぶんじゃねえ!」
 青年の顔が見えた。強い意志の瞳をしていた。気圧されまい、と踏ん張り凛は声を発した。
「だったら……アンタの事は、何て呼べばいいの?」
「そうだな。どうせ呼ぶならな――大魔導士と、そう呼びな」


 境内の一室に、こんな魔法陣があると、なぜ誰も気付かなかったのか。それをただの偶然だと切り捨てれば、それまでだった。だが、葛木宗一郎には、そうは思えなかった。
 葛木は、元より聖杯戦争の再来を知る立場にはなかった。運命は、しかし彼に傍観者たることを許さなかった。前回の聖杯戦争より、くびきが葛木という男の奥深くに残っていた。柳洞寺が奥、魔女が侍を呼び出した魔法陣の前に、導かれるように男は立った。
 魔法陣が輝く。
 ただ来た。それだけで、召喚の意志さえなかったというのに、契約が紡がれた。一瞬だけ、葛木は彼女の声を聞いたような気がした。そのときもう、腹は決まってしまったのかもしれない。約束を――果たすときがやって来た。
「貴様が、オレを呼んだのか」
「……」
「人間、聖杯戦争を勝ち抜くために、呼んだのかと聞いている」
 一目で、人間ですらないとわかる出で立ちをしていた。だが、葛木はひるまなかった。もはや、己が人間ですらないと思っているのだろうか。
 また、聖杯戦争が始まる。彼女にめぐり合ったあの時から、自分の中で時がもう一度動き出した。動き出したはずの時は、だがすぐにその動きを止まってしまった。くすぶり。燃え尽きないまま煙立つものを、初めて男は己の内で自覚した。
「――ああ、前に決めたことがある。それをまだ、成していない」


 眩い光が乱舞する中、士郎は見る。
 勝利すべき黄金の剣(カリバーン)の柄を掴む、小さな手。
 剣閃が疾り、土蔵に雪崩れ込まんとする鎧達が、怪しい影が寸断される様を。
「ま、さか……」
 胸が高鳴る。
 彼女のことは、既に尊い思い出になっている。未練なんて無い、その言葉に偽りはない。
 けれど、逢いたいと想わないはずがないではないか――!
「セイ、バー……?」
 恐る恐るその名を呟く。
 小柄な人影は振り向き、
「君が……おれのマスター?」
 少年らしい爽やかな声。
 かすかな失望と、新たな驚き。
 闇に慣れた士郎の瞳に映った目の前の人物。
 それは、頬に小さな十字傷のある黒いクセッ毛の小柄な少年だった。


 戦いは、夜も昼もなく繰り広げられた。矜持と野望と夢の狭間で、剣戟音と炎は途切れることがなかった。

 熾烈なる、戦い。

 我知らず士郎は叫んだ。流れ込むイメージ。不確だった虚像が明確に陰影を刻み付けてゆく。爆発的な魔力の胎動に氷の枷が弾け飛ぶ。
 さほど長くないのは、使い手の体格を考えてのことであろう。基本的には両手持ちだが、軽量なため片手でも振るうことは可能。幅広の刀身に反りはなくスタンダードな直剣。
 柄ごしらえは翼を広げた鷲のごとく。中央には埋め込まれた宝玉。そして――、
 届いた。
 掴んだ。
 理解した把握した納得した了解した。
 この身こそ異端にして極端の魔術回路。
 深層意識より急速に浮上した士郎の眼は、すぐさま焦点を結んだ。左腕を掲げ、そして彼は起動術式を唱える。
「投影、開始」
 続けて、
「体は、――――」
 真っ直ぐに腕を振り上げ、告げた。

「I am the bone of my sword.」
 ――体は剣で出来ている。


「嬢ちゃん、覚えときな。魔術師ってのはな、パーティで一番クールでなきゃいけねえんだ。じゃないと、みんな死んじまうんだ……まあ、師匠の受け売りだけどよ」
「……わかったわ」
「よし、じゃあオレがこれからつっこむ。とどめ、任せてもいいか……っつったら、どうする?」
「……あなたが死んでも、振り向かない――でも、あなたが死ぬ前に、あいつを倒す」
「へ、オレより断然素質アリ、だな」
「持ちこたえなさいよ。私の前で死ぬなんて、絶対許さないんだから」
「まったく、何でオレの周りの女は男勝りばっかりなのかね……でも、気に入った。さあ、力いっぱい、小賢しく、戦おうぜ」
 少年は立ちはだかった。絶望的な力の差をもつ相手の前に――かつて、竜魔人や大魔王の前でもそうしたように。
 だが、その力の差は歴然。勝敗などは、はじめから分りきっている。しかし、あらゆる予想を裏切って、全員が硬直した。
 黙せよ、全てのもの。彼の者は大魔導士なるぞ。




 そして――少年は自らの理想と再び向かい合う事となる。


 体は、先程までの戦いで傷つき、満足には動かせぬ。
 加えて、相対する者は天を左右できるモノ。あらゆる生物が一目置くべき存在であり、その雄姿は時空の全てを戦慄させる。
 ――だが既に、そのようなものは衛宮士郎の眼中に入っていなかった。
 目標に向かって放たれる閃光。それを阻止する事の出来る力は、この場には無い。
 故に間に合わないか――否、そのような事はない。
「――――全て遠き」
 間に合わぬならば間に合わせるのみ。この体は■■で出来ている。全てを救う事が、自らの存在意義なのだから。
 力だけを求めても叶わないとしても――そこにあるものだけは、紛れもなく本物なのだから。
「理想郷――――」


 全ての戦士は、竜である。


 戦え、戦士達。この夜を越えるのだ――


【修正履歴】
08/04 桜の召喚シーンを、本編のものと差し替え
08/06 士郎の召喚シーンを、本編のものと差し替え
10/02 戦闘シーンを追加

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■後書き

こちらは、嘘予告から始まったリレー連載企画「Fate of Dragons」の予告編です。本編の方は、複数の執筆者によるリレー連載となっています。この企画・連載の詳細に関しましては、以下のリンクから飛べる特設ページにてご確認下さい。
また、こちらの予告編は、リレー連載のため暫定版になります。各担当者が予告編で出たシーンを執筆しましたら、予告編のシーンも、本編のものと差し替えますのでご注意下さい。

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