プロローグ | |||||||||||||||||||||||
作者:
火だるま
2005年07月01日(金) 22時25分36秒公開
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〜ロンドンにて〜 「聖杯戦争?」 聞きなれない単語に首をかしげる。 そんな俺の様子にルヴィアは唖然とした顔をした。 「まさか・・ご存知ありませんの!?」 おう、と素直に頷いた。 ここはロンドンのある巨大な屋敷。 ただしここはルヴィアが時計塔入学時に寄宿舎は狭いと言う理由で 買い取ったものらしい。 桁違いのブルジョワジーにして魔術の名門であるエーデルフェルト家の長女。 それがルヴィアゼリッタ=エーデルフェルト嬢。 俺のアルバイト先の主人であり、俺の魔術の師匠でもある。 ことの起こりは8年前、高校を卒業した自分こと、衛宮士郎は 正義の味方になる、という目標を持っていたものの何をするべきかも定まらず、 とりあえず魔術の本場であるこの魔都、ロンドンに 親父の財産を少しばかりくずして旅立ったわけだが・・・・ 着いたは良いものの(いや・・むしろ着かなかった方が良かったかもしれない。) 強化しか取り柄の無い、それすらも成功率が1割を切っていた自分が 時計塔になど入学できるはずも無く、 とりあえず生きる為に職探しを始めたのだが、 英語の下手な日本人の若者など雇ってもらえるような場所も無く、 無い無い尽くしで途方に暮れていたところを ある日偶然公園ルヴィアに会い、 エーデルフェルト家の執事として雇ってもらえる事になったのだ。 ・・・とまあこの時点で俺は降って沸いたような幸福に狂喜し 今までなんとなく敬遠していた教会にも毎朝祈りを捧げに 行こうかなどと思っていたのだが・・・ 働きに出て5日目で魔術師である事がばれ、 (窓の拭き掃除の為に出していた脚立がぼろかったので強化したら見付かった。) 何故か正座させられて仕方なくこれまでの経緯を述べると(この際エーデルフェルトが魔術の名家である事を知らなかったと言ったら不動明王もかくやという顔をされた)、さすがに同情したのか 今までどおり働く事を許してもらえ、ついでに一応の弟子にしてもらった。 最近は自分の目的の達成のため中東の紛争地帯を回っていたため ここロンドンへ戻ってくるのは実に1年ぶりになる。 「はぁ・・・・魔術師でありながらエーデルフェルトの名を知らなかった事といい、貴方は本当に魔術師なのですか?」 「そう言われても知らないものは知らない。 だいたい俺は魔術使いだし。」 「それでも魔術に関わる者ならこのくらい知っておいて当然ですわ!」 そう言って彼女は紅茶のおかわりを催促する。 「・・・・・・ふぅ・・・だいたい、シロウはこちら側の常識にあまりに疎すぎますわ。 そんな事だから、あれほど言ったのに、他の魔術師の前で固有結界なんて使うのです!」 痛いところを突いてくる。 確かに俺は1年前、禁呪である固有結界を使用できることがばれ、 封印指定を受けた。 中東へ飛んだのは自分の目的以上に、 時計塔のハンター(封印指定を捕縛する魔術師)達から逃げる意味もあったのだ。 本来ならロンドンへ来るのも危険なのだが、 つい先日捕縛指令が解かれたこともあり 1年ぶりにロンドンへ戻ってきたのだが・・・。 「聞いているのですか、シロウ!」 「ああ・・・あれは悪かった、反省してる。してるから聖杯戦争について説明してくれないか? なんか、冬木の聖杯戦争は特殊らしいけど・・・」 ルヴィアは選挙活動中の政治家を見るような目でこちらを見ていたが、 諦めたのかポツポツと話し始めた。 「・・・・・・簡単に言うと、冬木の聖杯戦争は7人の魔術師と7騎のサーヴァントとよばれる 英霊によって行われる聖杯を目的とした奪い合い・・もとい殺し合いですわ。」 ルヴィアは、街一つを舞台にしてね、と付け足した。 _______その言葉に___何故か俺は___ ___あの・・・紅い光景を思い出した____ 「ルヴィア・・・それは・・・そんな事が本当に行われているのか・・・?」 それに、彼女はあっさりと肯定した。 「そしてシロウ、貴方のその手に浮かんでいるのは間違い無く令呪、 聖杯戦争に参加する権利の証明であり、 サーヴァントを律する三つの絶対命令権です。」 そう言われて左手の甲を見る。そこには奇妙な痣が浮かんでいた・・・ 今朝、何時の間にか浮かび上がっていたこれをルヴィアに相談したのだが、 まさか戦争なんていう物騒な言葉を聞くとは思わなかった。 「・・・悪い、ちょっと聞いただけだと何がなんだか全くわからない。 詳しく説明してくれるか。」 その・・・聞いた感じだと俺もそれに参加しなきゃいけないみたいだし。 「ええ、そうですわね。少し長くなりますが宜しいですか?」 正直のところ長話は苦手だったが、そんな事を言っている場合ではないだろう。 ・・・言ったら殺されそうだし。 「ああ、もちろんだ。」 そう答えるとルヴィアは俺の入れた紅茶に優雅に 口をつけてのどを潤し、おもむろに話し始めた。 「まずマスターと呼ばれる聖杯に選ばれた7人の魔術師達は聖杯に力を借りて、 それぞれ呼び出す英霊に縁の有る物を触媒として彼らを召還します。 もっとも聖杯と言えどもその力には限界があります。 英霊なんて人の上に立つ存在を無差別に呼び出すなんて出来なかったのでしょう。 故に聖杯はサーヴァントが形になりやすい器を設けました。 予め役割を用意しておく事で仮初の物質化を可能としたのです。 即ち 剣の騎士、セイバー。 槍の騎士、ランサー。 弓の騎士、アーチャー。 騎乗兵、ライダー。 魔術師、キャスター。 暗殺者、アサシン。 狂戦士、バーサーカー。 この七つのクラスです。 もっとも時々イレギュラーも在るようですが。」 と、ここで俺は手を上げる。 「もう質問ですか? ミスタ・エミヤ、出来るなら質問は話が終わった後にしてもらいたいのですけど。」 わざわざミスタ・エミヤなんて言いかえるところが なんとなく先生っぽい。 実はルヴィア、意外と役にはまってたりするのだろうか? 「ああ・・・出来るなら俺もそうしたいんだけどこれだけは聞いときたいんだ。 なあ、そもそもなんでそんな事をしなきゃならないんだ? そうまでして手に入れようとする聖杯って何なんだ?」 そう・・・これだけは聞かなくてはならない。 そんな馬鹿げた殺し合いをするその理由如何によって 聞くべきことも変わってくるからだ。 もちろん俺がとるべき行動も。 そんな俺の考えが分かったのかルヴィアは 納得したような顔をして話を始める。 「そうですわね、確かにこれは最初に話しておくべき事でしたわ。 魔術師であれサーヴァントであれ、聖杯戦争の参加者の目的は、聖杯と呼ばれる願望器を手に入れることです。」 願望器・・・聖杯・・・つまり願いをかなえる聖なる器と言う事か・・ 「そしてこの聖杯はさっき言ったようにマスターとして7人の魔術師を選び、 自分を手に入れるのに相応しい者を見極めるための殺し合いをさせます。 そうして魔術師とそれに従うサーヴァント達は聖杯を手に入れるため、 最強を証明せんとただ一組になるまで殺し合う。 それこそが聖杯戦争・・・古来から続く選定の儀式ですわ。」 ルヴィアはまるでそれが日常の一幕のように説明する。 いや、恐らく彼女にとってはそれも日常の一部なのだろう。 何処か遠い場所でそのような事が行われているらしい。 その程度の認識なのだろう。 だが俺は、初めて聞くその信じられない事実に愕然としていた。 ・・・・なんだ、それ・・・・ どんな願いがあるかしらないが、そんな願望器何て物の為に 他の一般人を巻き添えにしてまで殺し合うっていうのか・・・ そんな事・・・許せるはずもない。 ルヴィアはそんな俺の心中を慮ってひとしきり溜め息をついた後、 「それで、シロウはこれに参加するんですの?」 と、魔術師としてのルヴィアで聞いた。 それに俺は 「参加は・・する。 でもそれは聖杯を手に入れるためじゃない。 こんな馬鹿げた争いを止めさせるためだ。」 そう、毅然とした態度で答えた。 ああ・・・確かに詳しい事は分からない。 もしかしたら自分なんかが及びもつかないような 深い理由があるのかもしれない。 それでも俺は無関係の人を巻き込んでまで 殺し合うなんて行為は見逃すわけにはいかない。 俺が正義の味方であるがゆえに。 俺が正義の味方でありつづける為に。 「悪いルヴィア、久しぶりに会ったのに悪いけど また暫らくロンドンを離れる事になると思う。」 そう言うとルヴィアは 「別に構いませんわ。貴方が世界中を飛びまわるなんていつもの事ですもの。 ただし、絶対に生きて・・いいえ、勝利して戻ってくる事。 私の弟子に敗北は許しませんわ。」 なんて、らしい言葉で送り出してくれた。 俺にとっての勝利とは理想を貫く事。 それはつまりもっとも困難な道を行くことに他ならない。 それにルヴィアは勝ってこいと言った。 ________ああ、全く・・・ルヴィアらしい。 それに安心してエーデルフェルトの屋敷を出ようとしたところで、 ルヴィアに呼びとめられた。 「お待ちなさい、貴方此度の聖杯戦争が何処で行われるのかご存知ですの?」 ・・・そうだった。肝心な事を忘れていた・・・ 「全く、シロウは変わったようで変わりませんね・・・」 彼女は呆れながらも少し嬉しそうに微笑み、そして言った。 「此度の聖杯戦争の開催地は日本の冬木市です。」 |
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