第01話 | |||||||||||||||||||||||
作者:
火だるま
2005年07月01日(金) 22時27分18秒公開
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「術式・開始(トレース・オン)」 その声とともに地面に刻まれた陣が輝き出す。 俺の血で描かれたそれは、言うなればサーヴァントを呼び出すための 補助器具のようなものである。 ルヴィアが言うには宝石を溶かしたもので描いた方が性能が良いらしいのだが、 そんなもの、年中金欠であえぐ俺に用意できる筈も無い。 「____告げる。 汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。 聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」 魔力を注ぎ込まれた召還陣は輝きを増し、第三要素を撒き散らす。 ・・・というか俺ではまともな触媒さえ用意できなかった。 代案として、 投影した竜殺しの魔剣(グラム)を触媒代わりにしている。 正直、こんなもので本当に召還できるのだろうか・・・と不安にならないでもない。 「誓いを此処に。 我は常世総ての善と成る者、 我は常世総ての悪を敷く者。」 溢れ出すエーテルを直視できず、視界が閉ざされる。 ・・ちなみに俺が投影できるもののほとんどは 数年前、俺とルヴィアが遭遇したやたら偉そうな男、 そいつの持っていた武具を複製したものだ。 「汝三大の言霊を纏う七天、 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ___!」 ついにエーテル(第五架空要素)は形となって、既に亡き英雄を顕現させる。 ・・・この世全ての財を持つと豪語し、それを証明するかのように異常な量の概念武装を持ち出してきたその男は、 「召還に応じ参上した。 おい、雑種。貴様が我のマスターか。」 ・・・英雄王、ギルガメッシュと名乗った。 ここは衛宮邸の土蔵。 今日帰国した俺は身辺整理もそこそこに、召還の儀式を始めた。 召還の場に土蔵を選んだのは、やはりロンドンへ旅立つまでの数年間 強化の修行に明け暮れたここが、 自分にとって一番落ち着く場所だからだろう。 もっともいくら急いでいたとはいえ 触媒すら用意できなかったのは痛かった。 本来ならもっと前準備をするべきだったのだろうが、 聖杯戦争の開催地が自分の生まれ育ったここ、冬木市だと知った自分は ルヴィアの静止の声も聞かず、早々に帰国したのだ。 ・・・その結果が目の前にいる全身金ぴかの男。 ああ・・・ルヴィア・・・お前は正しかった。 脳裏にこめかみをひくつかせるお師匠様の姿が浮かんだ。 「雑種、この我が聞いてやったのだ。 とく、答えるが筋であろう。」 俺には現実逃避する暇も無いらしい・・ 「あ___その前に一つ聞かせてもらうが、 お前の真名はギルガメッシュか?」 「その通りだ雑種。人類最古の最古の英雄王にして、ウルクの王。 それが我、ギルガメッシュだ。」 どうやら・・間違い無いようだ・・・ それは今から7年ほど前の事。 時計塔からの要請でウルクの古代遺跡を調査していたルヴィアと その付き添いである俺は、そこでギルガメッシュを名乗るこの男に遭遇したのだ。 最終的に固有結界まで発動して何とか勝利したものの、 この男の危険さは骨身に染みている。 それが今俺の目の前にいるのだ。・・・しかも俺のサーヴァントとして 「ああ、確かに。俺がお前のマスターの衛宮士郎だ。 よろしく頼む。」 「いいだろう。サーヴァント・アーチャー、 今ここに貴様をマスターとして認めよう、エミヤ」 ・・・意外にも素直にギルガメッシュ・・アーチャーは 主従関係を認めた 「もっとも・・・これは形式上の事だ。 我は貴様を主人として敬う気など毛頭無い。」 ・・・わけが無かった。 まあこいつに主従関係を求めるなんてことが そもそも間違っているのだろう。 そう割り切って話し掛ける。 「ああ、分かってる。俺とお前とは聖杯を手に入れるための一時的な協力関係に過ぎない。 ・・・これでいいか?」 「ふん・・良いだろう。精々我に尽くせ」 相変わらずの王様発言にもルヴィアの屋敷で鍛え上げられた ポーカーフェイスは揺るがない。 「で、早速で悪いんだがアーチャー、お前の宝具を教えてもらえるか? それによって戦術も変わってくると思うし。」 「ふむ。そうだな・・・・・しいて言うなら蔵だ。」 蔵?蔵でどうやって戦うと言うのだろう? 俺が疑問に思ったのを感じたのか、アーチャーは説明を続ける。 「この我が生前集めた世界中の名だたる武具。 それを矢として打ち出す蔵、 それこそが我が宝具「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」だ。」 なるほど・・・それであの攻撃方法か・・・ そう俺が納得したところで 「もっとも・・・どうもあらかた壊れているらしいな。」 アーチャーはさらりととんでもない事を言った。 「・・・ちょっと待ってくれ・・・それは一体どう言う事デスカ?」 頑張れ俺のポーカーフェイス! 「どうもこうも先ほど調べてみたら蔵の中身が壊れているのだ。 理由は知らん。恐らく前回現界したときに、よほど激しい戦闘を行ったらしいな。」 あ・・・ 「あ――――宝具というのは壊れても英霊の座に帰れば修復するものではないのか?」 「通常の英霊の宝具ならそうだろうが・・我の宝具は正確に言えば蔵への空間を繋げる鍵状の剣だ。 蔵自体は独立している。ゆえに、一度壊れた物は我が英雄の座に帰ろうともなかなか再生せん。」 ・・・つまり・・その・・俺か? そして思い出す。 7年前の剣の丘。 激突する剣群。 次々と高ランクの剣を取り出すギルガメッシュ。 それを手にした剣で相殺させる俺。 金属音とともに砕ける剣。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「ちっ、やった奴が解れば八裂きにしてやるものを・・・」 「・・・・・・・アア・・・マッタク・・・ダレダロウナ・・・」 「? どうした、エミヤ。冷や汗がすごい勢いで流れているが?」 「いや、何でもない・・・気にしないでくれ・・・」 はあ・・・記憶があったら殺されてたな。 ・・・気を取りなおして聞いてみる。 「それで・・・蔵の中身はどれほど残ってるんだ?」 「そうだな、Aランクが3、Bランクが10、Cランクが200 といったところだ。後は・・・エアも無事らしい。」 よかった・・・まだそれなりに残っているようだ・・・ 「分かった。こんな所にいつまでもいるのもなんだろ。 居間で今後の方針でも話し合うことにしよう。」 アーチャーも同感のようで、俺の後に付いて土蔵を出た。 と、ここで俺はようやくなぜグラムを触媒とした筈がシグルドではなくギルガメッシュが呼び出されたかを理解した。 ・・・あの投影したグラムも元々はギルガメッシュの 所有物の複製である。 つまり奴の財宝を数多く固有結界内に登録した俺自身が、 奴を召還する為のこれ以上ない触媒となったのか。 Interlude ほぼ時を同じくして___ 「ああ!もう!片付かない!・・・なんでよ」 言ってみたところで答えてくれるものはいない。 私は三時間前に届いた荷物を相手に奮戦していた。 だが・・・いかんせん敵が強大にすぎた。 三時間かかって片付いたのは全体の5分の1という有り様。 「はあ・・・とりあえずサーヴァントの召還だけはしとかないと・・・」 せっかくありとあらゆるコネを使って最強の英霊の触媒を 手に入れたっていうのに先に誰かにセイバーを呼び出されたんじゃ目も当てられない。 「この荷物は・・後回しね・・」 私・・遠坂凛が日本に帰国したのは昨日の事。 理由は・・聖杯戦争に参加するためである。 聖杯戦争・・・それはこの冬木の地で古くから行われる 聖杯と呼ばれる願望器を めぐって争われる最強の競い合い。 ロンドンの時計塔で研究にいそしんでいた私は 18年越しに始まったこれにマスターとして参加する事となった。 2ヶ月前、聖杯戦争が始まるという管理者からの 報告を聞いて私は前準備に取りかかった。 と言っても手に入れようとしたのは触媒のみ。 英雄を召還する為に必要なこれを2ヶ月かけて探し回ったのだ。 そして、苦労の末ようやく手に入れたのは、 最強と歌われるアーサー王の王冠。 埋葬機関の5位が所有していたのを、頼み込んで貸してもらったのだ。 その代わり私の持っていた宝石を何個か譲り渡す事になったけど・・・ そして、これなら勝てる、と有頂天になっていた私は ・・・・・自分がまた大ポカをやらかした事に気付いた。 アーサー王に当てはまるものと言えば、 むろん剣の騎士であるセイバーだろう。 だから私も最強のサーヴァントの召還を 信じて疑わなかったのだが・・・ よくよく考えてみればセイバーなんていう最強のクラス 誰もが呼び出したがるに決まっている。 つまり触媒探しに身を入れるあまり2ヶ月もかけた自分は 完全に出遅れているわけで・・・ それに気付いた私は急いで帰国し、 家の整理もそこそこに召還の準備を始めたのだ。 昨日は半日かけて召還陣を作り、さあ召還しようとしたところで・・・ 宅配を頼んだ荷物の中に触媒を入れていた事に気付いた。 ・・・という訳で私は荷物が届くのを今か今かと待ちつづけ、 ようやく4時間程前、待望の触媒が届いたのだ。 その時に人の気も知らずのんびりと世間話をする運送会社の人に 危うくガンドを撃ちそうになったのは割愛。 そうしてようやく大量の荷物の中から 30分ほどかけて王冠を探し出し、 そこで、ようやく冷静になって足の踏み場も無くなった居間を 片付け始めたのが3時間前。 結局・・・あきらめて召還を先にすることにした。 「誓いを此処に。 我は常世総ての善と成る者、 我は常世総ての悪を敷く者。 汝三大の言霊を纏う七天、 抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ___!」 決められた言霊を唱える。 ・・・うっし完璧!間違い無く最強のカードを引き当てた! これで目を開ければ最強のサーヴァントが・・・・ 回復した視界に映ったのは、 小柄な体に似合わぬ銀の鎧、 絹糸のような金色の髪。 宝石が霞むほどの翠の瞳。 いる・・筈だったんだけど・・目の前にいたのは信じられないくらい ・・・可愛らしい女の子だった。 (どどどどどどど、どういう事!? 私が召還したのはアーサー王の筈で・・・・ まさかまた一族の呪いが作用したとかどうとか!!) 「____問おう、貴方が私のマスターか?」 凛とした清純な声で尋ねられる。 それで、理解した。 性別など関係ない。 遠坂凛は間違い無く最強のカードを引き当てたのだと________ Interlude out 「うむ、見事な食事だった、エミヤ。 古今東西の美食を尽くしたこの我をうならせるとはな・・・」 今、居間には食事を終えてご満悦の王様がいる。 「満足してもらったようでなによりだ。 ついでに先ほどの提案を了承してもらえると嬉し「断る」・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」 ・・・話は一時間ほど前にさかのぼる。 俺とアーチャーは居間で今後の方針を話し合っていたのだが・・・ 『ではとりあえずの方針は町を散策して、マスターと出会ったら戦闘という事で良いか?』 『うむ』 『じゃあアーチャー、お前は霊体として俺の背後に付いていてくれ。』 『断る』 『・・・・・・・・・なんでさ』 『王たる我がこそこそ隠れるなど性に合わん。』 『・・・それはつまり霊体にはなりたくないということか?』 『うむ』 『(あほかぁ!!!!!!!)いや、それはさすがに拙いだろう。 ・・・まさかその格好で出歩くつもりか?』 『無論だ。これは主神アヌから授かった物、 おいそれと置いていける物ではない。』 その後・・いくら理を持って諭してもギルガメッシュの返事は「断る」「王たる我が・・」「何故我が雑種の目など気にせねば・・・」のみだった。いいかげん疲れて食事でも作ろうとしたところで、 (そういえばサーヴァントって飯を食うのか?) という事に気付き、聞いてみたところ。 「必要ないが食わせろ。不味かったら殺す。」 という、実に簡潔な返事が返ってきた。 どうせなら毒殺してやろうかとも思ったが、 サーヴァントに効くとも思えないので 仕方なく午前中に買った食材で久々に和食を作ってみた。 ・・・・その結果が今目の前でご満悦の王様というわけである。 「まあ・・・我も暴君ではない。これほどの食事には何か褒美を取らせるべきであろうな。 よし、エミヤ。貴様の提案を一部呑んでやろう。」 「ん? それはつまり・・・」 「うむ。この鎧を外して出歩く事を認めてやろう。」 ああ・・・成る程。 それなら警察のご厄介になることはないだろうが・・・ 他のマスターとサーヴァントに見つかりやすいことに変わりはない その後どれだけ交渉してもこれ以上の譲歩は望めそうになかった。 まあ・・いいだろう。この位で妥協しておいた方が得策か・・ 「分かった。こちらもそれで良い。ところで、服は如何するんだ?」 「今日のところは貴様の服を貸せ。明日買いに行く。」 はぁ・・・何か・・・妙な事になったな・・・ そう思いつつ今日何度目かの溜め息をついた。 ああ・・・幸せが逃げてゆく・・・ |
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