第02話
作者: 火だるま   2005年07月01日(金) 22時33分41秒公開
「・・・驚いたな。幸運Aというのも伊達じゃないって事か。」

「それもあるが、正しくは黄金律と言う奴だ。
 これがある限り我は一生金に困る事は無い。」

一生って・・もう死んでるやん、という突っ込みは置いといて。

召還から一夜明けて。
昨日の話し合い通り、俺とアーチャーは新都へ
服を買いに行く運びとなった。
そのおり、

『言っておくが、そう高いものを買うわけにはいかんぞ。
 所持金が正直心もとない。』

その、俺の切実な心の叫びに対し、

『なに、そのような事何の問題も無い。』

そう言い切ったアーチャーは、あろう事か競馬場へと歩き出した。
・・・・疑問に思うだが・・・何故俺はこの時点で
止めなかったのだろう・・・?
そう、後で後悔する事になる。・・・意味が重複してるな


傍から見るとまるでど素人のように大穴馬券ばかりを買うアーチャー。
受付のおばさんも少々飽きれた顔で見ていたが・・・
レース展開はまさに大どんでん返し。
有力馬が次々と落馬していく中、
最後尾をのろのろと走っていた馬が遂に一着で、
ついでにこれまたやる気が微塵も感じられない様子で
とことこと走ってきた馬が二着。
言うまでも無くアーチャーの買った番号だった。
・・その後もこの出来レースは続き、
競馬場から出てくる頃にはトランク一杯の札束を持って出てきたのだ。
ちなみに俺はとっくに逃げ出していた。

「どうした?浮かぬ顔だなエミヤ。」

「いや・・分からないなら良い。
 ところで、そのトランクは如何したんだ?」

「近くにいた雑種から札束一つと引き換えにした。
 さすがの我も金を入れる器を失念していたな。」

まあ・・普通は札束を入れる袋の事など考えていないだろう。
「獲らぬ狸のなんとやら」という名言はこの王様には当てはまらないらしい。
つーか・・いいなぁ黄金律。俺も欲しい。
何しろルヴィアへの借金がもうすでに7桁を越えている。
いいかげん借用書をちらつかされてこき使われるのは勘弁して欲しい。



買い物を終え、一度家に帰ってから俺達はサーヴァントとマスターを探しに出かけた。
外はとっくに日が暮れていた。

「さて・・言っておくが戦闘になっても我の足を引っ張るな。
 例え我とてマスターがやられては現界できん。」

「それは杞憂だ。こと、魔術師との戦闘において俺の右に出る者は皆無と言って良い。
 ・・それと後、一つ言っておく事がある。」

「なんだ? 言ってみろ。」

「俺は出来るだけ一般人の犠牲者を出すことは避けたいと思っている。
 何しろ追われている身でね、目立つ事をすれば即、協会のハンターが飛んでくるだろう。」

嘘を言わずに本心を隠す。追われている事も
一般人の犠牲者を出す事を避けたいと
思っている事も本当だが、本当は出来るなら
助けられる者は助けたいと思っている。
たとえ・・それがマスターでも。
だがアーチャーはそのような甘い考えは認めないだろう。
最悪、こちらを殺そうとしてくる可能性も有る、
というかその可能性はかなり高い。
ゆえに俺はこいつに悟られないように
本来の目的を達成しなければならない。

「はん、そのような事我の知った事か。
 雑種を死なせたくなくば貴様がどうにかしろ。
 我は好きに戦う。」

「まぁ・・・お前があっさり承諾するなどとは思ってなかったけどな・・・
 けどこっちにも事情がある。
 そう簡単にお前の自由を認めるわけにはいかない。」

「はっ、俺に言う事を聞かせたければ令呪でも使うのだな・・・

と、アーチャーは言葉を止めると

「エミヤ、前方にサーヴァントの気配だ。
 向こうも気付いているようだな。
 まっすぐこちらへ来る。」

まるで、明日の天気でも読み上げるようにそんな事を言った。

「・・・!!」

全身に緊張が走る。幾度となく経験した命のせめぎ合いの予兆。
(落ち着け・・・・。ここは拙い、住宅地のど真ん中だ。
 だが、場所を変える・・って分けにもいかないか・・
 なら出来るだけ敵の攻撃を相殺しつつ戦うしかないな。)
方針は決定した。
アーチャーにもそれを伝えたのだが、奴は苛立ったように

「貴様の私情に我を巻き込むなと言った筈だぞ。」

と、冷たく突き放した。
だが俺もそう簡単に引き下がるわけにはいかない。
こうなったら令呪でも何でも使って言う事をきかしてやろうかと思ったところで、

「全く・・まあ、このようなつまらぬ事で令呪を使われても困るしな・・
 マスターの意向に殉じるとしよう。」

・・・・・・・・へ?

「何だ、その鳩が豆鉄砲を食らったような顔は。エミヤ、貴様の方針に従ってやると言ったのだ。」

「何んでそんな言い回しを知ってるんだお前は・・・
 いや・・・そんな事より良いのか?
 こちらとしては願っても無い事だけど。」

「良いと言っているだろう。どうも今日の我は寛大だ。
 つまらぬ事を聞いて我の機嫌を損ねさせるな。」

・・・驚いた。以前会った限りではこいつはそう簡単に
自分の意志を曲げるような奴には見えなかったのだが・・・・

ならば、俺もその厚意に甘えるわけにはいかない。




・・・・・これより、魔術使いエミヤシロウは 正義の味方となる



   Interlude


「それにしても驚いたわ。まさかあのアーサー王が女性だったなんて。」

「リン、この身は既に性別など捨てた。あまり気にしないで欲しい。」

そんな会話をしながら住宅街を歩く。
ちなみにセイバーは私のお下がりを着ている。
これなら人に会ったときも誤魔化しが効くからだ。
後、鎧は魔力で編んだ物なのでいつでも装着する事が可能らしい。

「セイバー、周りにサーヴァントの気配は有る?」

「今の所は特に。もっとも私自身、探索に優れたクラスではありません。
 アサシンの様に気配遮断をされてはその存在を感知するすべは無いでしょう・・」

自分の至らなさを悔いる様に端正な顔を歪めるセイバー。
・・・どうも、随分と生真面目な性格の様だ。

「まあ・・セイバーのクラスなんだし・・しょうがないんじゃ無い?
 誰にだって得意不得意は有るわよ。」

「ええ、確かに・・その通りでした。
 自分の不甲斐無さを棚の上に上げて無い物ねだりをするとは・・
 騎士として有るまじき行為です・・くっ!」

・・・いまいち分かっていないようだ。
やれやれ、と私は夜空を見上げた。
今日は雲一つ無い快晴で、空には無数の星が輝いていた。
ロンドンで占星術を学んだ折、幾度と無く夜空を見上げたが
日本に帰ってきてからは一度も無かった。
久々の故郷から見える星で自分達の行く末を占ってみても
良いかもしれない。
そう思ったのだが・・・・

「マスター!! サーヴァントの気配です!」

・・・どうやら、そのような暇は無いらしい・・・



「位置は掴める?」

「大体なら。ここからそう遠くはありません。」

「了解!いくわよセイバー。」

「はい、マスター。」

逃がしてたまるかと足に強化を施してセイバーの後に着いて行く。
もっとも、それは杞憂だったようだが。

100mを7秒台の速度で目的地に到着すると、そこには・・・



「・・・なぁ、ロングスカートで全力疾走するのはどうかと思うぞ・・・」

なんて戯けた事を言う白髪の紅いコートの男と

「そこまで死に急ぎたいか雑種?
 この我に殺されるのを光栄と思うのも、わからんでもないが。」

なんて偉そうにほざく金ピカがいた。



「アーチャー!?」

セイバーが明らかに動揺している。

「ほう・・・確かに今回この身はアーチャーとして現界しているが・・・
 小娘、何故分かる?・・・見たところ雑種では無い様だが・・」

その台詞にセイバーは虚を突かれたようだが、
動揺を押し隠すように不可視の剣を構える。

「・・・貴方に答える義務などありません。早々に我が剣の錆びと散れ。」

「落ち着きなさい、セイバー。無闇に飛びかかっちゃ駄目。」

そう言うとセイバーは剣の構えを解かないまま、私を護るように
私のやや前方へ移動した。
と、ここで今まで成り行きを傍観していた男もアーチャーを制して
話し掛けてきた。

「セイバーのマスター。ここでやりあう事に付いては俺も異存無い。
 けどその前に君の名前を確認させてもらって良いか?」

随分と柔らかい口調だ。
だからといって油断などしない。
油断などしないが・・・・なんとなく男の質問に答えてあげても
良いかなーなんて思ったりした。
・・・結構好みだし・・・

「リン・・・顔がにやけてますよ・・」

慌てて顔を押さえる。
そんな私の様子を白髪の男は酷く愉快そうに見ていた。

・・・前言撤回。やはりあいつは敵だ。

「ええ、もちろんよ。私はセイバーのマスター、遠坂 凛。
 この霊地の管理者でもあるわ。」

そう言うと男は「とおさか・・りん・・」と噛みしめる様に呟いた後、

「それじゃあ・・・初めまして遠坂。
 俺は魔術使い、衛宮士郎。
 アーチャーのマスターだ。」

私は、その名前に聞き覚えがあった。
・・・というより時計塔の魔術師である以上
彼の名を知らぬ者など皆無だろう。

「エミヤ・・シロウ?
 ・・・嘘・・・封印指定じゃない・・」

封印指定・・・後にも先にも現れない、と
魔術協会が判断した希少能力を持つ魔術師は、
協会自身の手によって封印される。その奇跡を永遠に保存する為に。
魔術師である以上そのような屈辱に耐えれるわけも無く、
封印指定を受けた魔術師は、協会から身を隠す事になるのだが・・


この魔術使いエミヤシロウは別だ。

彼は時計塔からの捕縛者を次々に返り討ちにし、
ついには捕縛指令を取り消させたのだ。


魔術師殺し・・・それが時計塔の魔術師達のあいだでの
彼の代名詞である。



・・・凛視点


『セイバー!マスターに注意して!
 大抵の魔術は貴方には効かないと思うけど・・・』

念話でセイバーに伝える。
今まで悠長に敵と会話していた自分に腹が立つ。
彼がもしあのエミヤなら、生粋の魔術師である私にとっては天敵。
一対一で勝てるとは思えない。
ゆえに私に出来る事はセイバーの強力な抗魔力を盾に、
相手のサーヴァントにセイバーが切りかかれる隙を作る事ぐらい。

(虎の子の宝石を使う事になるかもね・・・)

無意識にコートの内側に入れてきた十年物の宝石を握り締める。
サーヴァントとの戦闘に備えて17個全ての宝石を持ってきたが、
まさかいきなり使う事になるとは思いもしなかった。

『了解しました。アーチャーもかなりの強敵です。
 宝具の使用を許可していただいてもよろしいでしょうか?』

ぐるりと周りを見渡す。
ここは住宅地のど真ん中、こんな所で宝具を使えば人的な被害は免れないだろう。その事実に歯噛みしながら答える。

『許可するわ。ただし本当にピンチの時だけね。』

『了解しました、マスター。』

そう薄く微笑むと、彼女はその敵と、対峙した。

「それで、悪足掻きは済んだか?
 ならば、王たる我に歯向かう愚かさをその身に刻み、
 早々に消えるがいい。」

そう言うとアーチャーは、その背後に宝具を展開した。

「何・・・あれ・・・?」

アーチャーの背後から現れた無数の剣はいずれも宝具級の名剣。
それをそいつは弾丸の様に装填し・・・

「王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」

一気に撃ち出した。


飛来する宝具!その数じつに16本。
まるで豪雨の様に殺到するそれを、

「下がってリン!」

セイバーは事も無げに弾き飛ばす。

「ほう・・・」

アーチャーは少し感心したような声を漏らし・・・・


   先ほどの倍の数の宝具を新たに装填した。


その異常さに唖然とする。
聞いた話では英雄の持つ宝具は一人につき1つから多くても3つ程度。
こんな異常な量の宝具を持ち、それを湯水のごとく使う英霊など聞いた事が無い。

『リン、彼の正体は不明ですが強敵であることは間違いありません。気を付けて』

分かってる、と返事をすると

セイバーはその宝具の雨に突っ込んで行った。



   それは見惚れるような剣舞だった

アーチャーの放つ剣の弾丸を、セイバーはその不可視の剣のみで払い落とす。
頭部に飛来する日本刀。
腹部に飛来する中華刀。
両肩を抉らんと打ち出されるあれはゲイ・ボルクか。
それを一刀のもとに弾き飛ばす。
次が迫る。
膝を射抜こうとする奉天戟。
首を断ち切らんとする曲刀。
心の臓を貫かんとするクレイモア。
月光の様に振るわれた剣は、火花を撒き散らす。

銀の騎士はその、一歩先の死を撥ね退けながら己が敵へと迫る。
金の弓兵はその、騎士の気迫に一歩も怯まず己が財宝を展開する。

両者の距離は5メートル。
迫れば押し返し、押し返されればなお迫る。
彼らの戦闘は拮抗していた。



だが、その内その拮抗が崩れ始める。
アーチャーが今までよりも明らかに格上の宝具を持ち出してきたのだ。
一撃一撃に重みが増し、徐々にセイバーが押され始める。

「どうした?その程度かセイバーよ。」

「無駄口を叩く暇があったら本気を出したらどうですアーチャー。
 貴方の宝具の力、まさかこの程度と云うわけではないでしょう?」

・・・強がってはいるが、セイバーの劣勢は目に見えていた。
5メートルだった両者の距離が6メートルとなり、
それもさらに開いていく。

その様子を見て、ようやく惚けていた頭に活が入った。

(セイバーの、援護を・・)

私の魔術は狙いが甘い。
だがこの距離ならセイバーを巻き込むことはない。(・・・別に巻き込んでも彼女には強力な抗魔力があるので大丈夫なのだが、私の魔術自体がその抗魔力に触れるだけで無効化されてしまって敵に届かないのだ。)

そう当たりをつけ、宝石を取り出したところで_____

_______それを全て、防御にまわした。

 ガァン!ガァン!ガァン!

爆音とともに、戦車砲じみた威力を持った「それ」は
防御膜に飛来する。

ほぼ同時に3発。役目を終え、使い切られた宝石が灰へと変わる。

「マスター!」「大丈夫!」

そう返して、遠方を睨む。

・・・そこでは魔術使いエミヤが、こちらを漆黒の弓で狙っていた。


ぬかった・・・・・あいつは私のように惚けていたわけじゃない。
私の動きを観察し、戦闘に介入しようとすれば
即座にこちらを狙撃せんとしていたのだ。

「こっっのぉ!」

新たに飛来した矢は2本。

それを・・・何故か、避けられないと感じた。

新たに取り出したエメラルドで防御膜を張る。
 ガァン!ガァン!
飛来する矢の威力はCランク程度。
対してこちらの張った防御膜はBランク。

(ああ!勿体無いったら!)

・・・サーヴァント相手の戦闘用に
強力な宝石ばかりを持っていたのが災いした。
出来るだけランクの低い物から使っているが、
いずれ尽きるのは目に見えている。

(こうなると分かってたら少々ランクが低くても
 数の多い宝石を持って来てたのに!)

今更後悔したところでどうしようもない。
神技じみた正確さを持って飛来する不可避の矢に、私は泣く泣く無意味に高ランクの防御膜を張りつづけるしかないのだ。


・・・それも都合6個目で限界にきた。
宝石の数云々じゃなくて・・こう、私の忍耐力が。

『セイバー、敵のマスターに肉薄するから、アーチャーの宝具を押さえといて!』

『リン?』

『しょうがないでしょ、このままだとジリ貧なんだから!
 虎の子の宝石をあいつの顔に叩きこんでやるわ!』

『リン!落ち着いて下さい。』

セイバーの制止の声を振り切って、
宝石を丸々一個使って強化した足は疾走を開始する。
横目にちらりと、セイバーがこちらに宝具を飛ばさないように
懸命に剣を振るう姿が見えた。

(感謝するわ、セイバー)

残像さえ霞む速度で移動した自分は、アーチャーの横を抜け
エミヤの前まで駆け抜ける。
彼は予想外の私の行動に虚を付かれたらしく、目を丸くしていた。

「Anffag(セット)!」

そして私は躊躇うことなく最高級の宝石を叩きこむ。
その、家数件を軽く吹き飛ばす脅威を前に彼は、死を覚悟したように目を閉じ

「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

そう・・・絶対の信頼をもって唱えた。


   Interlude out


※この作品に関連するお話
   □ Fate/大人の聖杯戦争 M:衛宮士郎・ギルガメッシュ 傾:シリアス   最終更新:[2007年10月01日(月) 23時15分24秒]
    □ プロローグ   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時25分36秒]
    □ 第01話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時27分18秒]
    ■ 第02話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時33分41秒]
    □ 第03話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時34分33秒]
    □ 第04話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時35分24秒]
    □ 第05話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時36分18秒]
    □ 第06話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時37分19秒]
    □ 第07話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時38分14秒]
    □ 第08話   最終更新:[2006年03月10日(金) 22時39分05秒]
    □ 第09話   最終更新:[2007年04月08日(木) 22時40分24秒]

■後書き
後書きはありません。

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