第03話 | |||||||||||||||||||||||
作者:
火だるま
2005年07月01日(金) 22時34分33秒公開
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「こっっのぉ!」 その雄叫びを聞いたとき、俺の中の遠坂凛像にピシリとヒビが入った。 俺と彼女の接点はほぼ皆無と言って良い。 学生時代に憧れてはいたものの、特に知り合う事も無く。 さらに、卒業してからロンドンへ旅立った自分は 彼女との接点を完璧に失った筈だった。 ところがある日ルヴィアが一度だけ、 友人(?)として屋敷に招いた女性がいた。 もっとも直接会うことは無く、遠目にその風貌を確認しただけだった。 ・・・何故かルヴィアに彼女に近づくなと警告されたがゆえに。 ルヴィアに名前を聞いたところ不機嫌そうに 「彼女はミス・トオサカ。私の最大のライバルですわ」 と答えてくれた。 それから幾度と無くその名前を聞いたものの、 学生時代にあこがれていた あの遠坂と結びつけて考える事は無かった。 そして先日、聖杯戦争の事を調べる過程で、 それを主催する三家の存在を知ったのだ。 すなわち、アインツベルン、マキリ、そしてトオサカ。 その内マキリとトオサカは冬木に常駐しており、 この事から学生時代の優等生、遠坂凛と魔術師トオサカの関係を 疑い始めたのだ。 それを確信したのは先ほど彼女の自己紹介を受けたとき。 あの時、ようやく遠坂凛とトオサカが同一人物であると確信した。 ・・・・ちょっと前、彼女の雄叫びを聞くまでは。 そして今、彼女はとんでもない速さでアーチャーの横をすり抜け、 こっちに向かって宝石を投げつけようとしていた。 (まずい・・まさかこんな特攻をしてくるとは・・・) 弓を捨て、自己の内に最速で潜る。 詠唱は必要無い。 無理やりに近い強引さで丘から盾を引きずり出す! 「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」 中空に放たれた花弁は3枚。 あの時間では全てを投影する事は出来なかった。 それでも、こいつは花弁ニ枚を消失させながら彼女の宝石を受け止める。 見ると、彼女は「嘘・・」と呟き呆然としていた。 それはそうだろう、何しろ先ほどの攻撃は間違い無くAランクに該当する。 だが、この盾(アイアス)はトロイア戦争で 大英雄ヘクトールの投槍を防ぎきった一品だ、そう簡単に貫ける物ではない。 驚愕から立ち直ろうとする彼女に向かって疾走する。 咄嗟に反応し、避けようとするが少々遅い。 ビシッ 「あ・・・」 首筋に当身を叩きこみ気絶させる。 倒れこんできた彼女の体をゆっくりと横にする。 決着はついた。マスターを押さえたこちらの勝利。 そう確信し、セイバーに降伏を求めようと振り向くと 2人とも、宝具の真名開放の真っ最中だった。 Interlude 戦いは加速する。 アーチャーの宝具の射撃を弾くセイバーの剣技はすでに人の知覚できる物ではなくなっている。 (よもやこれ程とはな・・) アーチャーはそう、静かに驚嘆した。 彼の騎士は先ほど横をすり抜けて行った自らの主を守る為、 全身全霊をもって彼の宝具を受け止めている。 その気迫、先ほどの比ではない。 (どこの英霊かは知らぬが、よほどの者らしいな。) もっとも、人類最古の英雄王である自分に敗北などあり得ない。 実際、未だ彼はAランクの宝具を使用していない。 残った三つ。 グラム ダインスレフ グングニール この三つを持ち出せば、いくらセイバーといえど耐えきれるものではないだろう。 「だが・・」 それではつまらない。 彼にとって戦闘など娯楽にすぎない。 自分が勝つと分かっている戦などに誰が血沸き肉踊ろうか。 「ならばせめて・・・藻掻いて我を楽しませろ」 撃ち出される宝具。 それを彼女の不可視の剣が弾いたところで、 「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)」 そう、彼のマスターは言い放った。 響きわたる轟音。 魔力の流れから察するに、 あの雑種の魔術を自分のマスターが防いでいるというところか。 (ならば、こちらも早々に決着をつけるべきか・・・) 彼は、そう判断した。 「埒が開かんな。」 そう言ってアーチャーは宝具の砲撃を止めた。 「何の真似だアーチャー。」 「いや、このままではお互いマスターの身が気がかりだろう。 早々に決着をつけようと思ってな。」 そして彼が倉から取り出したのは円筒状の■■。 ・・・彼とて、マスターとの約束を忘れたわけではない。 だが、これ程の者をマスターの殺害によって消滅させるなどあまりに惜しい。 ___宝具同士の打ち合いによって決着をつける。 その為なら自身のマスターとの約束など、知ったことではなかった。 「宝具を出せ、セイバー。剣を鞘に収めたまま死ぬというのなら止めはせんが。」 「・・・。良いだろう、我が宝具受けきれるものなら受けて見よ!」 そうして、彼女の剣は風を吐き出す。 アーチャーの指摘した通り、彼女の剣が纏う風は聖剣を隠す鞘でしかない。 それはつまり、その剣が余りにも有名だということ・・! 「ほう・・」 現れた黄金の剣を見て、アーチャーは感嘆した。 「よもやアーサー王とはな・・」 セイバーは問答無用と聖剣を構える。 「そうか・・ならばこちらも全力でいかせてもらおう。」 「起きろ、エア」 巻き起こる暴風。その■■を中心に起こる風は、この世のいかなる摂理にもあり得まい。圧縮された風の断層は、敵対する全てをうち砕く。 乖離剣・エア 擬似的な時空断層すら巻き起こす「世界を切り裂いた剣」 この剣に神ならぬ身で挑むなど余りに愚か。 それでも彼女は己が剣の勝利を信じ、 「――――約束された(エクス)」 「天地乖離す(エマヌ)――――」 「勝利の剣(カリバー)――――!!!」「開闢の星(エリシュ)――――!!!!!」 その・・真名を解放した。 発生した死の暴風と光の斬撃は、 衝突した瞬間お互いを拡散させながら喰らい合う。 始めはほぼ互角。 お互い一歩も引かない様子はまるで先ほどの彼らの戦いの様だった。 ならばその結果も推してしかるべき。 その内、光が押され始め、そして・・・消えた。 「くっ・・・!!」 そして銀の騎士に、自らに襲いくる風の断層を避けるすべなど無い。 そのほとんどを相殺されたとはいえ、目の前の暴風は彼女の体を 紙のように引き裂くだろう。 その衝撃に備え身を固くし、 「I am the born of my sword(我が骨子は捻れ狂う)」 そんな、呟きが聞こえた気がした。 「偽・螺旋剣(カラドボルグU)」 彼女の前方、暴風を追い抜くように現れた螺旋状の剣は エアによって巻き起こった風の断層を修正し、 そのまま虚空へと消えていった。 「いま・・のは・・?」 「貴様・・・どういうつもりだエミヤ。敵のサーヴァントを助けるなど正気か?」 彼・・衛宮司郎は答えず、ただ厳しい目で向こうを睨んでいた。 「あら、もう終わり?」 その声に反応してアーチャーはマスター同じ方向を見る。 アーチャーとしてのスキルなどほとんどないはずの彼にも その姿は暗闇に決して溶け込まず、はっきり見えた。 すなわち・・その、白い少女と鉛色の巨人の姿を。 見た目はセイバーと同じくらいの年齢だろうか。 少女は優雅に微笑むと、 「みなさま初めまして。私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。 そしてこの子はバーサーカー。 真名はギリシャ神話最強の英雄であるヘラクレス。」 そう堂々と言い張り・・ 「それじゃあ邪魔者から片づけなさい、バーサーカー。」 そんな、死刑宣告をした。 Interlude out |
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