第04話 | |||||||||||||||||||||||
作者:
火だるま
2005年07月01日(金) 22時35分24秒公開
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「それじゃあ邪魔者から片づけなさい、バーサーカー。」 その声に反応して、鉛色の巨人はセイバーに斬りかかった。 セイバーも即座に反応し、両者は戦闘を開始する。 バーサーカの削岩機のような連撃をセイバーは手にした剣で、必死に弾いている。 ・・・アーチャーとの戦いで消耗しているだろうに その剣を振るう姿からは微塵の悲壮感も感じられない。 ・・・なるほど、これが英霊か。 万全の状態でなくとも・・否、例え死に至るその瞬間であろうとも 自らの勝利を信じ、戦いを続ける。 それこそが人々に崇められ、精霊の域まで昇華した彼らの在り方なのだろう。 だが、見惚れているわけにもいかない。 「おい、エミヤ。どうするのだ?」 「セイバーとバーサーカーは放っておいていい。 俺はバーサーカーのマスターに話がある。 アーチャーは・・・悪いけどセイバーのマスターを見張っていてもらえるか?」 俺の視線の先には、気絶して、塀にもたれかかっている凛の姿があった。 「まぁ・・良いだろう。 だが、あの小娘となにを話すきだ?」 「まあ・・色々とな・・」 そう言うと俺は白い少女へと歩き出した。 バーサーカーとセイバーの剣舞の横をすり抜け、俺はその子と相対した。 「・・何の用、アーチャーのマスター。 命乞いなら聞いてあげてもいいわよ?」 「いや・・悪いがそういうわけにもいかないんだ。 イリヤ・・・ええとイリヤって呼んで良いかな。 一つ聞くけど・・衛宮切嗣という名に聞き覚えは?」 「!!・・そういう事。貴方が衛宮士郎ね? ええ、確かに。その名に聞き覚えはあるわ。 それと、私はイリヤと呼んで下さって結構です。」 「そうか。ああ・・俺のことは君の好きなように呼んでくれ。」 「それではシロウ、質問は終わり?」 「いや、実はまだある。 二つ目の質問だ。イリヤ、君は人間か?」 「そう・・そこまで分かってるの・・・貴方のいう通り私はホムンクルスよ。 本当はもっと短命の筈なんだけどね・・・アインツベルンの技術でこの通り、危うい命をつないでるの。」 「そうか。最後の質問だ。 イリヤ、この聖杯戦争を降りる気はないか?」 「ないわ。 もとより私はこれに勝ち残る為だけに生まれた身。 それを降りるなんてありえない。」 「そうか・・・残念だ。 後・・これは頼みなのだが・・今日のところは引いてもらえないだろうか?」 「お断りよ。貴方はここで死ぬの。バーサーカー!」 巨人は少女の声に答え、距離を一瞬で詰めた。 「ちっ!」 振るわれた一撃を転がって避ける。 体勢を立て直したときにはバーサーカーは既に こちらを縦に両断せんと斧剣を振りかぶっていた。 ・・・訂正、あれを食らえば俺の体は粉みじんに消え去るだろう。 「それじゃあね、お兄ちゃん。会えて嬉しかったよ。」 何故か・・・泣きそうなイリヤの声が聞こえた。 ああ・・・やっぱり・・イリヤ、お前は・・ ・・・しょうがないのかもしれない。 俺は・・彼女の孤独と、俺の罪を知っている。 それなら彼女にここで殺されてもそれは____ 「シロウーーー!!」 ・・・・・誰かの声が聞こえた。 あれは誰だったか・・・ _______思考にノイズが走る。 思い出せない・・・いや、知らないのだ。 なのに・・・なぜか、手に力がこもる。 ___ああ・・・確かにイリヤが俺を恨むのは当然だろう。 だが・・・・だからこそ 衛宮士郎はこんなところで死ぬわけにはいかない あれが落ちてくるまでコンマ一秒もかからない。 その間に俺はあの斧剣に耐えられる武器を 検索検索検索検索検索検索検索検索検索検索検索検索 検索検索検索検索検索検索検索検索検索検索検索検索 検索検索検索検索検索検索検索検索検索検索検索検索 検索検索検索検索検索検索発見。 愚問、あれを耐えられる物は同じ斧剣しかあるまい。 「投影(トレース・・)・・・否、投影・装填(トリガー・オフ)」 刹那の間にて細部まで再現する!! 「■■■■■■■■ーーーー!!」 振り下ろされた斧剣を、同じ斧剣で軌道をそらす。 誰かの息をのむ声が聞こえる。 俺にとってそんなことは些末事。 そんなことに気を取られているくらいなら一手でも先を予測し・・・・・!! 「あ・・・・・」 死んだ。今から六合目。 どう足掻いても俺はあの凶刃に体を袈裟懸けに両断される。 一合目 下からすくい上げるような一撃。 斧剣をアスファルトに突き刺し、その陰に隠れるように回避する。 ガガガ・・っと俺の斧剣が削られる音がする。 それも当然。 本来ならこんな急造の紛い物で本物と打ち合うなど愚の愚作。 二合目 そのまま得物を切り返し、無防備な右脇腹をねらう一撃。 それを斧剣を地面に突き刺したままずらして受ける。 強化した腕がもげそうになる。 足からはあまりの摩擦に煙が出ている。 斧剣をさらに深く地面に突き刺し、吹き飛ぶ筈の体を止める。 なんて、出鱈目。 三合目 狂人は斧剣を大上段に構え、俺の斧剣ごと両断するような叩き落としを放つ。 耐えられない。急造の紛い物ではこれが限界。 ならば・・・!! 「――――同調、開始(トレース・オン)」 地面に刺さった斧剣を、自分の体を支点にしててこのように持ち上げる。 「――――基本骨子、解明」 「――――構成材質、解明」 やぐらのような構え。腰を低く落とし衝撃に備える。 「――――構成材質、補強」 「――――全工程、完了(トレース・オフ)」 強化された俺の斧剣は奴の一撃を完全に受けきる。 四合目 続いて逆袈裟からの連撃。 得物の不利は無くなった。 だからそう、問題はこの大英雄の剣技に 俺が付いてこれるかということで・・・!! 「が・・・ぁ・・」 全身が軋む。 強化した四肢とその付け根が摩擦を起こしている。 俺自身の限界は、近い。 五合目 バーサーカーはやや足を後ろにずらし、 大質量を一点に集めた突きを放つ。 その前に俺は斧剣から所有者の戦闘経験を引き出し それを、引き当てる。 斧剣を盾にしそれを駒のように回転させ、 ようやく俺は敵を間合いにとらえた。 六合目 だが間に合わない。 俺がそれを放つよりも早く奴は袈裟に俺を両断するだろう。 ここまで。 衛宮士郎はここでその生を・・・・ 「天の鎖(エルキドゥ)!!」 ・・終える前に、何処からか現れた鎖は 狂戦士の動きを完全に拘束する。 考えている暇など無い、俺は全力で斧剣を振りかぶり 「――――是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)」 その剣技を放った。 轟音が止んだ後、不沈の巨人は全身に致命傷を負いその体を停止させた。 その隻眼に光は無い。 それも当然、この剣技は対象の殺害ではなく殲滅を目的とした物。 万が一にも生き残ることなどあり得まい。 「貴様には、ほとほと呆れたぞエミヤ。 バーサーカーと真正面から打ち合うなど正気か?」 後ろからアーチャーが声をかけてくる。 ああ・・・先ほどの鎖はこいつが放ったのか・・・ 「悪かった。まさかセイバーとの戦闘を中止してまで こちらを襲ってくるとは思わなかった。 俺は彼女に余程恨まれているらしいな。」 「貴様とあの小娘の因縁など我の知ったことではない。 殺すならさっさとしろ。」 マスターの殺害を促すアーチャーをどう説得しようかと思ったところで、 「へぇ・・・すごいじゃない。バーサーカーを一度でも殺すなんて。」 そう、イリヤは賞賛するように、そして嘲笑うように言った。 それに呼応したかのようにバーサーカーの目に光が戻る! 「エミヤ、下がれ!!」 言われるまでもない、俺は全力でその場を離脱し・・・・ 「狂いなさい、バーサーカー。」 「■■■■■■■■ーーーーーー!!」 巨人は咆吼を上げて全身に絡まった鎖を引きちぎろうと藻掻く。 「ちっ・・先ほどまでは理性を奪っただけで狂化させていなかったというのか・・・」 舌打ちとともに、アーチャーは宝具を背後に展開する。 「命のストックか・・・ ならば貴様の命尽きるまでその身を滅ぼすのみよ。」 撃ち出された宝具はいずれもBランク。 未だ鎖の呪縛から逃れられていないバーサーカーが 二度目の死を迎えるは必至! 「■■■■■■■■ーーーーーー!!」 「何・・・!!?」 効いていない。 それ一つが既に神話の域に達している筈のアーチャーの宝具が バーサーカーの体に傷一つ付けることなく弾かれた! 「■■■■■■■■ーーーーーー!!」 三度目の咆吼があがる。 そして、金属のひしゃげる音が鳴り、 巨人は、その呪縛から放たれた。 バーサーカーとの距離は20m程。 そのような距離、あれは刹那の間に詰めてくるだろう。 「・・・・アーチャー、セイバーとの戦闘で使用したあの宝具、もう一度使えるか?」 「今の魔力量では最大出力は難しいな。出せて6割程度か。 エミヤ、貴様はどうだ?」 「悪いが魔力が一滴も残ってない。 まあ・・当然といえば当然だな・・・」 凛の宝石魔術に対しての「熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)」の真名解放。 アーチャーの宝具の余波を相殺するために使った「偽・螺旋剣(カラドボルグU)」。 バーサーカーの斧剣の限界投影と、さらに全身及び投影した斧剣の強化。 ・・・・・明らかに魔術回路の酷使のしすぎだ。 当然の事ながら魔力など残っているはずもない。 「さて・・・どうしたもんかな・・・」 やや絶望的な状況に途方に暮れていると、 「加勢します。アーチャーのマスター。」 何故かセイバーがこちらを守るようにバーサーカーにその不可視の剣を向けた。 予想外の援護に戸惑う。 「それは凛の指示か?」 「ええ。何のつもりか知りませんが、貴方は凛の命を取らなかった。 不愉快ですが借りは借り、返さないと気が済まないそうです。」 後ろを見ると、いつの間に目を覚ましたのか 凛がやや不満そうな顔でこちらを睨んでいた。 「まったく・・難儀な性格だな、お前のマスターは。」 「■■■■■■■■ーーーーーー!!」 咆吼が腹に響く。 その声を聞くだけで心臓が高鳴り、手足が震える。 それでも一滴も残っていないはずの体から魔力をかき集めて投影を・・・ 「止まりなさい、バーサーカー。」 その声に、本来なら制御など受け付けないはずの狂人が動きを止めた。 ・・・今・・イリヤの体に浮かび上がったのは・・・令呪か? 全身に絡みついた幾何学的な模様。 あれこそが制御不能のバーサーカーを御しうる理由だろう。 その声の主であるイリヤは暫く俺達・・特に俺・・を見た後、 「まあいいわ、こんな横やりを入れるような勝ち方をしてもつまらないもの。 今日のところは引いてあげる。」 そう言って、夜の闇に溶け込んでいった。 「ふぅ・・・」 張りつめていた緊張感が抜けて崩れ落ちそうになる体を気合いで支える。 今ここで倒れるわけにはいかない。 「協力感謝する、遠坂。俺達だけでアレを殺しきることは無理だったからな。」 アーチャーが不服そうな顔をしたがとりあえず無視だ。 「別に礼なんていいわ。助かったのはお互い様だし・・・」 そこまで言ってから、凛はこちらを睨み付けてきた。 「それで、私を生かしておいてどうするつもりだったのかしら?」 温度の感じられない声。 それに気圧されることなく、自分の意志を伝える。 「そうだな・・強いて言うなら同盟を要請するつもりだった。」 それに彼女は「はぁ?」という顔をした。 「なにそれ・・・同盟って・・貴方正気?」 「正気を疑われるほど奇特な事を言った覚えはないぞ・・・」 「ふざけんじゃないわよ! そんなとんでもないサーヴァントを連れといて、理由もなしに 他のマスターに同盟を持ちかけるなんて、正気の沙汰じゃないわ。」 「まあ待て・・理由はある。 まず・・・・俺はこの戦争をできるだけ周りに被害を出さず終わらせたいと思ってる。」 ここで思いっ切り不審そうな顔をされた。 ・・・そこまで自分は悪人に見えるのだろうか・・・ 「ゆえに周りに被害を出す者達、そう言う者を優先的に排除する方針だったんだが・・」 「自分らだけでは限界があるってわけ?」 「ああ、この戦争に勝つために手段を選ばない連中なんて幾らでも出てくるだろう。 できるならもう一組、協力者がほしい。」 「そこで目を付けたのが、この霊地の管理者である私って事?」 頷く。 この霊地の管理者であれば、自分の霊地に被害が及ぶことは避けたいはずだ。 その分、他のマスターより協力が得やすいと踏んだのだが・・ 「もっとも、正面から話を持ちかけたところでそう簡単に協力が得られるとは思ってない。 だがこちらに生殺与奪の権が握られていれば別だろう。 ・・・本来なら解放を条件にこちらに有利な令呪を一つ使ってもらうつもりだったんだけど。」 ・・・とここまで言って、何故か凛がブツブツと考え込んでいた。 「凛?」 「・・・いいわよ。協力してあげても。」 ・・・・・・・・・へ? 「私も貴方達みたいな強力なマスターとサーヴァントは後回しにしたいのよ。 さっきみたいに他のサーヴァントの戦闘中に襲われでもしたら厄介だし。 それとも何?やっぱり令呪の強制無しじゃ信用できない?」 「いや・・・そんな事は無い。」 「そう?それじゃ決まりね。」 そう言って凛は右手を差し出してきた。 「・・・・?」 「・・鈍いわね。協力するんでしょ。だったらやることがあるじゃない。」 「・・ああ・・そうか・・・・よろしく頼む凛。」 そう言って右手を握る。 握った手は少女のようで、とても20半ばとはおもえな・・・!! 「エミヤさん・・・何か今失礼なことを考えませんでしたか?」 「ナンノコトデショウ・・・ワタシニハサッパリワカリマセンガ・・・」 向けられた笑みに頬が引きつる。 何故だ・・こんなにもにこやかなのに脂汗が滝のように流れる。 これはあれだ・・ルヴィアが初めて見せて以来俺の心的外傷(トラウマ)になっているあの笑みと全く同じ類の・・!! ・・・幸いにして過去の傷が開く前に凛は元の顔に戻ってくれた。 「まあいいわ・・・ それじゃあ今日のところは別れましょう。 ところで貴方ってどこに住んでるの?」 いまだビートを刻む心臓の鼓動を押さえながら答える。 「ああ・・向こうの方にある屋敷。 商店街の人に衛宮邸と聞けば教えてくれる筈だ。」 「・・・・? 分かった。覚えとくわ。」 ・・・何故か納得いかなげな表情をしている凛に別れを告げ、 自分とアーチャーは我が家へと歩いていった。 Interlude 「凛、私たちもそろそろ帰りましょう。」 「え?うん・・・そうね。 そういえばセイバー、協力の話貴方の了承を得ないで決めちゃったけど ・・・・・やっぱり拙かった?」 「いいえ、私はマスターの決定に従うのみです。 凛こそ、よく協力の話を受ける気になりましたね。 貴方はもう少し慎重なタイプだと思っていたのですが。」 確かにそうだ。 今は聖杯戦争中で、ましてや相手はマスターなのだ。 本来なら協力など受けるはずもない。 だが・・・・ 「んーなんでかな・・・ 何か彼のことは信用していいって気がしたのよ。」 セイバーが息を呑む。 ・・・そりゃあ確かにこんな理由で敵を信用するなんて 驚かれても仕方ないけど・・・って 「セイバー、どうしたの?」 何故かセイバーが悲痛そうな顔をしていた。 「・・・・・・いえ、何でもありません。」 「?」 Interlude out 家に帰ると、門の前に長い髪の女性が立っていた。 ・・・・・誰だろう? 「あの・・・・」 とりあえず声をかける、と・・・ 「ああああの私は別に怪しい者じゃなくていえ確かにこんな時間に外に いたら怪しいんでしょうけれどもこれにはちゃんとした理由があって その・・えーと・・この家がといっても私の家じゃないんですけれども 知り合いの家というか憧れてた人の家なんですが・・実はその人は とっくの前に外国に行ってしまってここには誰もいないはずなのに 今日見てみたら何故か明かりがついていたので驚いてしまってその ベルを鳴らしてみたんですけれど誰も出てこなくて確かに帰れば いいんでしょうがその・・なかなか諦めきれなくて 実はかれこれ2時間は待ってるんですけれどそろそろ帰ろうかなー なんて思っていたところで・・・!!」 ・・・凄い。息継ぎもせずにひたすら捲したてている。 呼吸困難で顔がかなり危ないレベルまで紅くなっている。 このまま放っておいたら喋りすぎによる死亡なんていう世にも奇妙な 死因を目の当たりにすることが出来るのだろうか。 その様なことで死人を出すわけにはいかないだろう。 ・・・・正義の味方云々を抜きにしても。 「まあ・・・落ち着け、桜。」 「ふぇ?」 その、自分のよく知る後輩は、なぜ俺が自分の名を知っているのか 分からずキョトンとしていた。 |
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