第05話
作者: 火だるま   2005年07月01日(金) 22時36分18秒公開
「へぇ・・それじゃあ桜は今穂群で教師をやってるのか。」

「はい、藤村先生にもすすめられて。
 先生には結婚退職するまでいろいろお世話になりました。」

結婚って・・・桜の事じゃないよな・・

「て・・ええええええ!!! 
 藤ねえがけっこん!!!!?」

「先輩・・・それ凄い失礼です・・」

いや・・まぁ確かに藤ねえも大人なんだから結婚しても
おかしくはないだろうが・・・

「相手は!? その奇特にして希有な人は誰!?」

「藤村組の若い衆の人ですよ。先輩も会ったことあると思いますけど。」

「驚いた・・それじゃあ今、藤ねえは藤村組には居ないのか?」

「いいえ、雷画さんが「お前みたいな未熟者を嫁に出せるか!」って。
 それで結婚自体はしてるんですけど、目下の所花嫁修行中です。」

「まあ・・・確かに主婦として味噌汁一つ作れないのはどうかと思うが・・・」

バーサーカーとの戦いの後、門の前で待っていた桜をとりあえず家に帰して
翌朝再びやってきた桜にこの8年間のことを聞いていたのだが・・・

「ところで先輩はこの8年間何してたんですか?
 アーチャーさんのお屋敷で働いてたってことは聞きましたけど、
 連絡が全くなかったんで藤村先生も心配してましたよ?」

ちなみにアーチャーのことは俺の働いている屋敷の貴族だと紹介した。
アーチャーの偉そうな態度のことも
桜はそれで納得したらしい。
ちなみに奴は今部屋で寝ている。
なんでもサーヴァントに睡眠は必要ないが魔力温存のためだと。

「すまん、なかなか連絡する機会が無くて。
 もっともこの8年間別段変わったことはしてないけどな。
 屋敷の執事を続けながら便利屋まがいのことを副業でやってたぐらいだ。」

「はぁ・・・そうですかぁ・・・」

「ところで桜、時間は良いのか?
 教員だというならそろそろ出た方がよくはないか?」

「あああああああ!!すいません先輩!それじゃあ失礼します!」

どたばたと居間を出る桜。
俺もそれを見送るため玄関に出た。

「それじゃあ桜、仕事頑張れよ。」

「はい!」

そう元気よく答えてドアを開けようとしたところで、

「え?」

ガラガラガラ、とドアが勝手に開いた。


・・・残念ながら別に家のドアが自動ドアになったわけじゃない。
単に向こうから開いただけのこと。

それはつまり向こう側には開けた人が居るわけで・・・

「とお・・さか・・せんぱい・・・?」

「え・・・さくら!?
 なんであんたこんな所に居るのよ!?」

その・・人の家をこんな所呼ばわりする美女は
自分の後輩とお知り合いのようだった。



「先輩!どういうことですか!?
 どうして遠坂先輩が先輩の家に!?」

「シロウ!どういう事!? 
 何で桜があんたの家にいるのよ!?」

左右からステレオで怒鳴ってくる二人。
とりあえず数を減らさないと対応できない。

「分かった、り・・遠坂のことは後で説明する。
 それより桜時間が危ないのではないのか?」

「あああああ!!
 先輩、後で必ず説明してもらいますからね!!」

そういって桜は駆けていった。
どうもこの8年間でかなり藤ねえの影響を受けているらしい。

う・・・何かいやな想像した・・
まあ・・・桜が藤ねえのようになることなど有り得ない・・とは思うが。

ロングスカートで駆けていく後ろ姿を見ていると不安が増してきた。

「それで、どうしてあんたの家にあの子がいるわけ?」

「答える前に一つ聞いておきたいのだが、君は桜の知り合いなのか?」

「え・・ええ。高校の後輩でちょっとした知り合いなの。」

「ならば私も同じだ。友人の妹でね、高校時代から懇意にしている。」

「はあ?ちょっと待って
 ・・・あんたここに住んでたの!?」

「その通りだ。君と同じクラスになったこともある。」

唖然としている。まあ・・・当然だろう。

「エミヤ・・シロウ・・桜の知り合い・・エミヤ・・衛宮・・」

凛の目が驚愕に見開かれる。

「嘘ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

絶叫が響きわたる。


「凛!どうしました!?」

門の外からセイバーが入ってきた。
てきっり霊体化させているものと思ってたんだが。

「貴方・・衛宮くん・・? あの便利屋の。」

「便利屋のつもりはなかったのだが・・・
 まあ端から見ればそうだったのだろうな。」

凛は未だ驚愕から醒めぬ様子で人を指さしていた。

「だってあんたその髪どうしたのよ!?
 エミヤシロウなんて変わった名前の外人だと思ってたけど!」

まあ確かに今の俺の容姿を見て日本人だと思える人は少ないだろう。
機内でも添乗員に「日本語お上手ですね」と言われたし。


「凛、何を驚いているのかは分かりませんが、
 急ぎ伝えることがあったのではなかったのですか?」

その言葉で彼女はようやく覚醒したらしく、
険の強い瞳でこちらを見てきた。

「そうだった・・・士郎、貴方テレビは見た?」

彼女の言葉にどこか違和感を抱いたが、あまり気にせず答える。

「いや、今日は朝から色々あってまだ見てないが・・」

「そう、なら悪いけど上がらしてもらうわよ。
 へえ・・和風の家ってこんな感じなんだ。」

人の了承も得ず進軍していく侵略者。

「ちょっと待て!説明を要求する。」

必死に後を追いかけてある意味当然の要求をするも
敵影全く異常なし。
当然のように居間に入りテレビを点ける。

「おい、とおさ・・」

「説明なんてこれ見れば十分でしょ。」

テレビに映っていたのは、新都で十数人がガス漏れにより病院に運ばれた
というニュースだった。
普段ならどうということは無い筈だが、今は聖杯戦争中。
これが不慮の事故であるとは思えない。

「これは・・・」

「ええ・・・サーヴァントの仕業よ。
 全く、人の霊地で舐めた真似してくれるわ。」

「犯人はキャスターか?」

「断言は出来ないけどね。それで、どうする?
 私は今夜にでも攻め込むけど。幸い魔力の流れから敵の居場所は分かってるしね。」

「そうだな・・相手がキャスターなら早めに手を打った方が良さそうだ、
 俺達も同行しよう。
 それで、その居場所って?」

それに凛はあっさりと答えた。

「円蔵山の中腹に建つ寺、柳洞寺よ。」



言うだけ言って凛は帰っていった。
何でも色々準備があるのだとか。

「柳洞寺・・か・・」

そういえば一成・・あいつも柳洞寺に住んでたな。
卒業式以来会っていないが元気にしているだろうか。

「おい、エミヤ。飯を用意しろ。」

人が思い出に浸っていると後ろからやたら横柄な声がかけられた。

「アーチャー、起きたのか。」

「ふん・・なにやら騒がしかったからな。
 全く、我の眠りを妨げるなど本来なら万死に値するぞ。」

ファラオかお前は。

とりあえず先ほどの朝食を暖めなおそうと台所へ行くと、

・・・・・・・・妙な包みを見つけた。

「これは・・・桜の弁当か?」

そういえば今朝一緒に朝食を作っているときに
何かごそごそとやっていたな。

朝あんまり急いでたんで忘れたのか。

「仕方ない、後で学校まで届けに行くか。」

久しぶりに母校を訪れるのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら再度朝食の支度を始めた。



「それでは少々出かけてくる。留守番は任せたぞ。」

聞いているのかいないのか。
アーチャーはただぼうっとテレビを見ていた。
内容はいわゆる戦隊もの。
・・・・・・・・・まあ、あえて何も言うまい。
非常識な光景から逃れるように家を出る。

誰もいない道を弁当だけ抱えて歩くという行為が
まるで昔の自分のようだった。

「ああ・・そういえばよく藤ねえに弁当届けに行ったっけ。」

不覚にも懐かしさがこみ上げてくる。

藤ねえには少なくともこの聖杯戦争が終わるまで会うわけにはいかないだろう。
昔のように頻繁に家に通ってこられては危険に巻き込む可能性がある。

「桜には・・なんとか理由を付けて遠ざかってもらうしか無いな・・」

そんな事を考えていたらいつの間にか自分の母校、私立穂群原学園に着いていた。



さて、ここで誤算が二つ。

一つ目は、学校までの所要時間を以前の自分と同じ時間で考えていたこと。
ゆえに本来なら授業時間に着くはずだったのが、生徒が大勢校庭に出ている
休み時間に着いてしまったのだ。

そして二つ目はそもそも部外者の俺が簡単に校舎に入れるのかということで・・


「あの・・・」

門の前でどうしたものかと立ち尽くしていると、
校庭にいた女生徒に声をかけられた。

「あの・・ここに何かご用ですか?」

「ああ・・・俺は間桐桜先生の知り合いのものなので
 彼女が忘れていった弁当を届けにきたのだけど・・・
 部外者が校内に入ってもよいものか悩んでてね。」

「間桐・・桜・・ああ、桜先生のお知り合いですか。
 大丈夫ですよ入っても。
 私も職員室までついていきましょうか?」

「ああ、そうしてくれると有り難い。
 あと・・一つ聞きたいのだけど、彼女は君らに名前で呼ばれているか?」

「ええっと・・・実はこの学校に間桐って名前の先生二人いるんです。
 だから区別するためにみんな「桜先生」って呼ぶんですけど。」

ふーむ・・・間桐という名字はなかなか珍しい。
するともう一人というのは慎二のことだろうか・・

「あの・・出来るなら休み時間が終わるまでに戻りたいので・・・」

「ああ・・そうだな、すまない。急ごうか。」

そう言って歩き出す。
そうして校内に入った途端

          違和感に、体が震えた。

「どうしました?」

「いや、何でもない。」

再び歩き出す。

「ちょっと!歩幅考えて歩いて下さい!!」

少女は後ろから小走りで追いついて文句を言ってきた。



「エミヤさんって、桜先生の恋人なんですか?」

職員室まで後すこしという廊下で少女はいきなりそんな事を聞いてきた。

「・・・君は今まで話を聞いてたのか?
 俺が日本に帰ってきたのはつい先日だし、
 彼女は友人の妹というだけでそういった色恋沙汰はいっさい無かった。」

「でもエミヤさんが怪我したとき、わざわざ家まで訪ねていって
 それ以来通い妻みたいな真似してたわけですよね?
 それって絶対、桜先生エミヤさんに惚れてたと思うんですけど。」

「単に同情されただけだろう。
 どう考えても桜みたいな美人が俺に・・
 嫌われていたとは思わないけど・・恋愛感情を持っていたとは思えない。」

「・・・エミヤさん、鈍感って言われたことあります?」

「自分ではそうは思わないのだが・・なぜかよく言われるな。」

「それってつまり自分が鈍感って気付かないくらい鈍感なんですね。」

さらりと酷いことを言われた気がするが残念ながら否定する根拠は見あたらなかった。

と、

「おい、お前!なに部外者が僕の許可もなしに勝手に入ってきてるんだよ!!」

そう言って、その男はこちらへツカツカと歩いてきた。

隣を見ると、少女は「あっちゃー・・・」という顔をしていた。

「おい!聞いてるのかそこのお前!!」

「あの・・・先生、これは私が・・」

「なんだ、お前がこいつを引き入れたのか?!
 何処のクラスだお前!言ってみろ!」

「やめろ。彼女には俺が無理を言って付いてきてもらっただけだ。
 彼女に責任はない。」

「部外者は黙ってろ!誰だお前、警察呼ばれたいのか!」

「まったく・・・大して変わってないみたいだな、慎二。」

「あ?」

その桜の兄にして自分の友人である彼は妹と同じく俺が誰だか分からず
訝しげな顔をしていた。




「なんだ、お前衛宮か! 髪の毛が真っ白になってたから気付かなかったよ。」

慎二は俺が昔の友人だと分かると態度を180度変えて、上機嫌になった。
ちなみに先ほどの女生徒とは授業が始まる前に礼を言って別れた。
今は、階段の踊り場で二人だけで話している。

「それでお前何しにきたんだ?
 確かロンドンに行ったとか聞いたけど。」

「ああ、つい先日帰郷してね。
 今日ここへきたのは桜が忘れていった弁当を届けにきたんだ。」

そう言うと、慎二は苦々しそうな顔をした。

「・・・たく、朝っぱらからどこに行ってたかと思えば。
 すまないな衛宮、これは責任を持って僕が届けとくさ」

「そうか、じゃあ頼んだ。
 それと少し校舎の中を見て回ってもいいか?
 なにしろ8年ぶりだ、懐かしくてな。」

「ああ、それくらいなら構わないさ。
 ただし、あんまり目立たないようにしろよ。
 本当なら部外者が入っていい場所じゃないんだからな。」


・・・そうして慎二と別れた後、俺は屋上に来ていた。

「これは・・手に負えそうもないな・・・」

屋上にはうっすらと何かの模様が刻まれていた。
どうみても俺の手に負える代物ではない。

解析を開始する。
俺の魔術の特性上、解析は得意中の得意だ。
時計塔に在学中、倉庫の整理を任されたこともある。

「う・・・嫌なこと思い出した・・」

アレは酷かった。
ありとあらゆる魔術道具が所狭しと積み上げられ、
足の踏み場もない状況を一週間で片づけた記憶は
自分の人生の中でもワースト5には確実に入る嫌な思い出だ。

気を取りなおして解析を再開する。

で・・結局、
出てきた結論は想像以上にえげつないものだった。

「結界内・・つまり学校にいる人間を肉体ごと分解して
 その魔力を奪うとは・・正気か?」

ともあれ・・これは絶対に発動させるわけにはいかない種類のものだ。
見たところ発動まで後猶予は8日といったところだろう。
それまでにこの結界を張ったマスターを見つけ、
結界を解くよう説得しなければならない。
聞き入れなければ・・最悪、殺すことになるだろう。

「やれやれ・・・どうやら今夜は遠坂とは行けそうにないな。」



   Interlude 


「失礼、言峰神父はおられるか?」

新都の郊外に教会に突然現れたその女性は、
開口一番そう言い放った。

丁度その時礼拝堂には前の神父の代わりに来た年輩の神父がいた。
彼はその女性の素性をすぐに察することが出来た。
彼女は人為的に神秘・奇跡を再現する者達
すなわち・・魔術師だと。

この時期にここに彼らが現れる理由など
彼には一つしか思い当たらなかった。

「言峰神父に何かご用でしょうか?
 聖杯戦争への参加表明なら私が承けたわまりますが・・・
 それとも保護を?」

「冗談、私のサーヴァントは敗北などしていないし
 教会の決めたルールにも従う気はない。
 言峰神父には個人的に会いに来ただけだ。」

「成る程・・・それではお気の毒ですが
 言峰神父は今から8年前に突然行方不明になっておりまして・・」

「何・・・?」

女性は本気で驚いたようだが、神父の言葉に嘘がないことが分かると、

「そうか・・・では失礼する。」

そう言って教会を出た。




彼女が教会を出ると、いきなり声がかかった。

「ようバゼット、用事は済んだか?」

何時からいたのか教会の外には、霊体化をといた彼女のサーヴァントが
壁にもたれて彼女の帰りを待っていた。

「ああ・・無駄足だったがな。
 それよりランサー、貴様には他のサーヴァントの探索を
 命じていたはずだが?」


ランサーと呼ばれたその男はその自分のマスターの
鋭い視線を受けてなお飄々とした態度を崩さない。

それに彼女は不愉快そうに舌打ちする。

彼女がランサーにした命令は、
まずはサーヴァントを見つけること。
倒せそうならその場で倒してしまってもよい。
無理そうなら出来るだけ情報を集めて自分の所に帰ってこいというものだ。
見たところランサーに戦闘の形跡はない。
このサーヴァントの性格からして、
相手を見ただけで尻尾を巻いて逃げ帰るなどありえないのだが・・

「ああ・・・それなんだが・・どうも妙なもんを見つけてな、
 知らせといた方が良さそうなんで戻ってきたんだが。」

「妙なもの?なんだそれは?」

そして彼女、バゼット・フラガ・マクレミッツは
自分のサーヴァントからの報告に眉をしかめた。

「・・・分かった。今夜にでも調べよう。」

「は、それでこそ俺のマスターだ。」

ランサーのおだてを聞き流し、バゼットは煙草を取り出し火を付けた。

(やれやれ・・どうにも厄介なことになりそうだな。)


   Interlude out

※この作品に関連するお話
   □ Fate/大人の聖杯戦争 M:衛宮士郎・ギルガメッシュ 傾:シリアス   最終更新:[2007年10月01日(月) 23時15分24秒]
    □ プロローグ   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時25分36秒]
    □ 第01話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時27分18秒]
    □ 第02話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時33分41秒]
    □ 第03話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時34分33秒]
    □ 第04話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時35分24秒]
    ■ 第05話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時36分18秒]
    □ 第06話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時37分19秒]
    □ 第07話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時38分14秒]
    □ 第08話   最終更新:[2006年03月10日(金) 22時39分05秒]
    □ 第09話   最終更新:[2007年04月08日(木) 22時40分24秒]

■後書き
後書きはありません。

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