第06話
作者: 火だるま   2005年07月01日(金) 22時37分19秒公開
「あまり物音をたてるなよ、当直の教師がいるかもしれないからな。」

「全く・・何故、この我がこのようなこそ泥のような真似を・・・」

文句を言いながらも、フェンスから飛び降りて足音一つ立てないのは
流石はサーヴァントといったところか。

・・・桜に弁当を届けに行った後、俺は遠坂+セイバーと今後の方針を話し合った。
ちなみにアーチャーは不参加。あれから特撮にはまったらしく
近所のビデオ屋で大量に買って見ていた。
・・・あそこはレンタルオンリーの筈なんだが、金に物をいわせたのだろう。

『・・・という訳で、遠坂達には悪いんだが、俺とアーチャーは学校の結界を調べようと思うんだが。』

『中の人間を丸ごと溶解して、サーヴァントの餌にする結界か。
 どいつもこいつも人の霊地で好き勝手してくれるわ・・・』

『と・・・遠坂・・?』

『ああ・・分散して対処するって話だったわね。
 別に良いわよ、元々私たちはそのために協力したんだから。』

『そうか・・・セイバーはそれで良いか?』

『ええ、マスターが了承したのなら異存はありません。』

『それなら良いんだが・・遠坂・・その・・一つ聞いて良いか?』

『何?セイバーの正体でも聞きたいの?』

『いや、それはもう分かってるから良いんだ。』

『ふーん・・・まあ真名思いっ切り叫んでたしね。』

『・・・申し訳ありません、リン』

『いいわよ別に。もとはといえば士郎にやられた私が悪いんだし。
 それで士郎、何?聞きたい事って?』

『ああ・・・それなんだが。なあ遠坂、その大量の荷物は何なんだ?』

『ああ・・これ? これからしばらくここに泊まるんだから当然でしょ?』

『泊まるって・・・なんでさ?』

『協力するんだからどちらかの家に集まった方が得策でしょ?
 それとも、衛宮君達が私の家に泊まる?』

『やめてくれ・・・そんな事が桜にばれたらなんて言われるか・・・』

『そう? じゃあ決まりね。私達は離れを使わせてもらうわ。大体の荷物はもう部屋に運んであるから。』

『って・・おい!大体って荷物どれだけあるんだ!!?
 それと・・え?・・私・・・達?』

『あーそうそう言い忘れてたけどセイバーって霊体化出来ないらしいの。
 だから、部屋は二つ使わせてもらってるわよ。』

『・・・二人が同居することに対しての桜への説明は?』

『がんばってね☆』

『・・・・・・』

・・・なんか・・・思い出したら頭痛くなってきた。

「おい、エミヤ。気付いたか?」

何をだ?と聞こうとしてすぐに気付いた。
校舎の周囲に張られたそれは、近づく人の第六感に
ここへ来るなと警告する。

「・・・これは・・人払いの結界か?」

「ああ。何者かは知らんがこちらにとっては好都合だな。人目を気にせずに済む。」

「アーチャー、サーヴァントの気配は探れるか?」

「・・・屋上に一匹いるな。マスターの方はわからん。」

屋上か・・・
丁度結界の基点があったところだな・・

「どうする?中を通っている間に逃げられるかもしれんぞ。」

もちろん、そんな愚を犯すつもりはない。

「こうする。投影開始(トレース・オン)」

ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!・・・!

その呪文と共に現れた無数の剣は、
校舎の壁に突き刺さると即席の階段となった。

その様子を、アーチャーは呆れたように見ていた。

「エミヤ・・物音を立てるなと言ったのはお前だろう。」

「アーチャー。人目を気にせずに済むと言ったのはお前だろう。」




屋上に上った俺に突き出されたのは、朱色の魔槍だった。

「くっ!」

とっさに投影した干将で弾く。

「ん・・・?なんだ、お前マスターか・・・悪ぃ悪ぃ間違えた。」

人を殺しかけたというのに、男はまるで些細な事だとでも
言わんばかりに軽い口調で謝る。

「たわけ、人とサーヴァントの区別もつかんか雑種。」

後から現れたアーチャーの罵倒にも、男は肩を竦めて軽く流して見せた。
・・・もしかしたら奴にとって先ほどの一撃は、軽い挨拶のつもりだったのかもしれない。

「・・・にしても、人の身で今のを見切るか。お前、何者だ?」

その男は血に染まった紅い魔槍を右手で持ちながら、
不適な笑みを浮かべこちらを値踏みしていた。

「ランサーの・・・サーヴァント・・・」

「ご名答。で、それが分かる兄さんは俺の敵って事で良いのか?」

ランサーが槍を構える。
奴の持つ朱色の魔槍・・・あれは・・・

「ゲイ・ボルグだな。ふん・・・何処の雑種かと思えば、アイルランドの光の御子か。」

「クー・フーリン・・・ケルト神話の大英雄か・・・」

「どうする?あの槍の能力は、我ならともかく、マスターを狙われると幾ら我でも防ぎようがない。」

ひとたびその真名を唱えれば、必ず敵の心臓を貫く槍。
確かに・・・俺は心臓を貫かれて生きていられるほど人間をやめてない。

「・・・そうだな。アーチャーはあいつの相手を頼む。俺はどこかに隠れているはずの奴のマスターを探す。」

「いいだろう。だが忘れるなよ、マスターが居らねばこの我とて現界出来ぬのだからな。」

何を分かり切ったことを今更・・・と思いもしたが、
これがアーチャーなりに俺のことを心配して言った台詞だと気づいた。

「ああ、分かってる。」

「それなら良い。」

そう言ってアーチャーはランサーと対峙する。

「てめぇアーチャーか・・・そら、得物をだせよアーチャー。
 それとも・・・そのまま死ぬか?」

「ふ・・・はははははは!!戌ごときがこの我を殺すだと?妄言も大概にしておけよ雑種。
 成る程・・・流石は負け犬、よく吠えるではないか。」

____瞬間、大気が凍った。
ランサーは絶対の殺意を持ってアーチャーを睨んだ。

「・・・よく言った。心臓を貫かれてなお同じ事が言えたら褒めてやろう。」

その殺意をうけて、古代の王は不遜に笑う。

「有り得ない仮定だな、雑種。
 ___王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」

アーチャーの背後に数十の宝具が展開される。
その様子をランサーは驚愕の面もちで見ていた。

「貴様・・・何者だ?」

「雑種に名乗るいわれはない。失せるがいい、道化。」

「上等_____!!」

ランサーの疾走をアーチャーは剣を撃ち出して阻害する。

「エミヤ、行くならさっさと行け。」

言われるまでもない。
俺は金属同士がぶつかり合う音を背に、
屋上をあとにした。




バゼット・フラガ・マクレミッツ。
封印指定を受けた者で彼女の名を知らぬ者など居ない。
協会から封印指定の魔術師を捕らえる仕事を請け負っている。
彼女は魔術・格闘共に優れた技量を持っており、
彼女の手から逃れられた者など皆無と言っていい。
・・・唯一、半年前に出会ったその男を除いて。


二階の廊下でその姿を見つけた時、俺は自分の運の悪さを嘆いた。

「バゼット・・・なんでお前がこんなところにいる?」

バゼットは廊下に描かれた結界の印を調べていたが、
俺の言葉に反応し立ち上がって膝を払う。

「それはこちらの台詞だミスタ・エミヤ。封印指定がこんなところで何をしている?」

そう言った彼女の右手には銀のナイフが握られていた。

「・・・と言ってもこれは私にとっては幸運だ。ならば、むざむざ逃すのも惜しいな。」

カカッ、とチョークで黒板に書いたときのような音がして、
次の瞬間壁に刻まれていたのはスリザス(氷の巨人)のルーンの逆位置。


そして、世界は氷に包まれた。


天井から広がった氷は外側と教室側の壁を塞いで逃げ道を塞ぐ。

「今ここにいるということはお前も聖杯戦争の参加者なのだろう。
 ならばついでに氷漬けにして協会へ直送してやろう。
 こういうのを・・・この国のことわざで一石二鳥といったか。」

「・・・二兎追う者一兎も得ずとも言うことわざもあるぞ。
 戦り合う前に一つだけ聞とくが、この悪趣味な結界を張ったのはお前か?」

「いいや、私も君と同じくこの結界を調べに来ただけだ。
 そもそもサーヴァントに与える魔力など十分すぎるほど足りている。
 このような事をするのは力無き者だろう。私には当てはまらん。」

「そうか・・・なら安心しろ、殺しはしない。ただし腕の一本や二本は覚悟しておけ。
 ああ・・・二本は無かったな。」

「それはお互い様だろうエミヤ。」

お互いに相手を殺気のこもった視線で睨み・・・・・・


____そして彼らの二度目の殺し合いが始まる。



飛来する17の氷の弾丸。

「ふっっっっっ!!」

その全てを両手に持った干将莫耶で叩き落とす。

「投影・開始(トレース・オン)!!」

即座に投影した剣を射出し反撃する。

「狙いが甘いぞ。」

だが本物の弾丸以上の速度を持って撃ち込まれたそれを
彼女は難なく避ける。

・・・やはり弓を使わない射では遠坂の時のような
「既に当たっている矢」を放つのは不可能に近い。
かといってこの状況で弓に持ち替えるような真似をすれば
即座に氷の弾丸にこの身を撃ち抜かれるだろう。

・・・ラグズ(水)、イーサ(氷)
考える暇もなく先ほどの倍近い弾丸が迫る。
どうやら彼女は壁に走る水道管から氷の原料を得ているらしい。
ある意味当然の話だ。
いくら魔術といえど無から有は作り出せない。
・・・まあ、俺のような異端は例外として。
ならば____________


「っ・・はぁ・・・」

息が荒い。
何しろ1000近い弾丸を両手に持った剣のみではじいていたのだ。
肉体による強化にも限度がある。
攻撃の合間を縫って何とか剣を打ち出すのだが、全くもって当たる様子がない。
・・・まあ、当てる気がないというのもあるが。

「解析・開始(トレース・オン)」

彼女に聞こえないように呟き、俺は校舎の解析を開始する。
すると脳裏に後者の全体像、そして内部の様々な情報が羅列される。
_____後、少し。

「そろそろ幕か。呪うならこのような場所で私に敵対した自分を呪え。」

そう言って彼女が中空に刻んだのはハガル(嵐)のルーン。

自然界の災害を表すそれは、雹の嵐となって廊下を・・

吹き・・・荒れなかった。

「なに・・・!?」

バゼットが驚いているのは、予想以上に水が集まらず、
ハガルのルーンが発動しなかった為だろう。

「馬鹿な・・・貴様何をしたエミヤ!?」

「俺は何もしてないぞ?お前だって見てただろ。
 あの状況で俺にどんな小細工が出来るって言うんだ?」

「ならば貴様のサーヴァントか・・・!?」

だが彼のサーヴァントは屋上で彼女のサーヴァントと交戦中だ。
こちらに何か干渉できる筈など・・・
と、ここでようやくバゼットは気付いた。
(屋上・・・まさか・・・)

「貯水タンクか!!!」

「ご名答。」


   Interlude


半刻ほど前。

アーチャーは先ほどからランサーと交戦中だった。
どうもランサーはセイバーと同じく矢避けの加護を受けているらしく、
撃ち出される剣の嵐に体を切り裂かれることなくアーチャーに肉薄しようとする。
だがそれを許すほどアーチャーも常人ではない。
時に宝具のランクを変え、集中させ、散開させつつランサーの
進行を防いでいた。

その最中、突如彼のマスターから念話が入ったのだ。

(何の用だエミヤ。)

(アーチャー、悪いが貯水タンクを破壊してくれ。)

(・・・何故だ?)

(理由を説明してる暇は無い。実を言うと念話を送るのもギリギリの状況だ。)

(まあ・・・良いだろう、「ちょすいたんく」とはこの円筒状のものだな?)

アーチャーは自分のま近くにあったそれに無数の剣を突き立てる。

(やったぞ。)

(感謝する。あと・・・アーチャー、一つ警告しておくが貯水タンクのそばには近寄るなよ。)

(・・・・・・何故だ?)

(水が溢れる。)

「ガバ・・・!!ゴボゴボ・・・!!!」

「・・・・・・・・・何やってんだてめぇ?」


   Interlude out


「まあ・・・そういうわけだ。」

「貴様っっっっ!!」

バゼットの殺気のこもった視線を受け流し、
俺は左手に弓を投影していた。
つがえるのは8世紀に騎士ルノー・デ・モントパンが所有していた
炎の名を冠する剣。

「I am the born of my sword(我が骨子は紅蓮に燃える)」

バゼットはとっさに壁の氷にエイワズ(防御)のルーンを刻んで
即席の盾にする。

「火炎剣(フランベルジェ)」

真名と共に放たれたその奇妙な刀身の剣は、
炎をまき散らしながら厚さ3mはある氷の盾に突き刺さった。

途端、視界が白く染まる。

「ちっ・・・!!」

熱を持った水蒸気から逃れるためにバゼットは後方へ下がる。

・・・だが、俺にとってはこれすらもフェイク。本命は・・・


それを見たとき彼女はどう思ったか。

先ほどから氷の弾丸の合間を縫って撃ち込まれた合計十数本の剣群。
・・・それらが全て彼女の逃げ道を塞ぐように突き立っている。

その事実に、背筋が震えた。


    「壊れた幻想(ブロークンファンタズム)」


夜の校舎に一際大きな爆音が響きわたった。

(ちょっと・・・目算を誤ったな。)
本来の目的は全方向からの爆音と衝撃波でバゼットを昏倒させる事だった。
そのためにランクの低い宝具をわざわざ選んで撃ち出したのだ。
・・・それでも15本も撃ち込めば十分に殺傷力を持つ。
ゆえにこの爆発の規模に少々焦りを感じたのだが・・・

・・・そんな危惧など全く不要だった。


「おい、無事かバゼット?」

「ああ、大丈夫だ。・・・だから今すぐこのお姫様抱っこを止めろ。」

「へいへい、ったく・・・命の恩人に礼の一つも無しか。」

「貴様は人ではないし、そもそもサーヴァントならマスターを守るのは当然の義務だろう。礼を言う必要など無い。」

「全く・・・可愛いげがねえなぁ・・・」

・・・目の前で飄々としている男はまず間違いなくランサーだった。
先ほどまでアーチャーと交戦していたはずなので、
おそらくは令呪による強制召還だろう。
呼ばれると同時に状況を悟り、
マスターの盾になりつつ全速でその場を離脱したのか。

確かに・・・これは人間じゃないな。

「で、どうする兄さん。俺としてはマスターを狙うなんて姑息な真似はしたくないんだが。」

そう言いながらもこちらを獣じみた殺気で睨み付けてくる。

・・・答える必要など無い。
俺は両手に干将莫耶を投影し、繰り出される初撃を全力で見極めようと____

「待てランサー、ここは引くぞ。」

と・・・突然バゼットがそんな事を言った。

「・・・いいのか?折角のチャンスを・・・」

「向こうにも令呪はある。その場合、この様なところでは貴様の実力を発揮できまい。」

確かに、この様な狭い屋内では槍兵には不利だろう。

「ちっ・・・分かったよ。」

そう言って、窓枠に足をかけるランサー。
それにバゼットも続き・・・

「エミヤ、この悪趣味な結界のことはお前に任せた。私は干渉しないからとっとと何とかしろ。
 後・・・次は必ず貴様を捕らえる。」

そんな台詞を残して彼らは夜の闇に消えていった。




「ふぅ・・・」

疲れた・・・。

まさかバゼットが聖杯戦争に参加しているとは・・・

「気苦労の種が一つ増えたな・・・」

とはいえ最後の台詞から察するに、
近い内にまた仕掛けてくるということは無いだろう。
そう結論づけたところで、

「おい、エミヤ・・・奴らは逃げたのか。」

後ろから恐ろしく不機嫌な声がかかった。

「ああ、ついさっき・・・ってどうしたんだアーチャー、ずぶぬれじゃないか!?」

そう言った途端、殺気の籠もった眼で睨まれた。

(なんだ・・・?一体・・・)

「・・・別に何でもない。敵が居ないのなら我は帰るぞ。」

「ああ・・・分かった。俺はここらを片づけてから・・・」

そう言った所で、俺はこの惨状に気付いた。

未だ氷の張った天井および床。
剣の突き立った跡と、爆発の痕跡が残る床および壁。
ついでにそこら中抉れている。
・・・修復には多大な時間を要することは明白だった。

「俺が・・・・・・片づけるのか?」

呟いて・・・泣きたくなった。


※この作品に関連するお話
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    □ プロローグ   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時25分36秒]
    □ 第01話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時27分18秒]
    □ 第02話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時33分41秒]
    □ 第03話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時34分33秒]
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    □ 第05話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時36分18秒]
    ■ 第06話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時37分19秒]
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■後書き
後書きはありません。

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