第07話
作者: 火だるま   2005年07月01日(金) 22時38分14秒公開
夢を見ている。

無限の荒野に連なる剣群。
墓場じみた其処は間違いなく俺の心象風景だ。

『固有結界アンリミテッドブレイドワークス』

俺に許された唯一の魔術であるこれは、
つまりこの心象風景を現実世界に侵食させることに他ならない。

担い手の存在しない剣の墓場。
これが俺の内面を現していると思うと
我ながら情けなくなる。

否、此処と俺の世界は似て非なる____


「づっ・・!!」

ノイズがはしる。
これは無いはずの記憶。
あってはならないはずの記憶。
故に俺の脳はその存在を否定する。

「あ・・が・・・」

視界が明滅する。
・・・それでも、そいつの姿はハッキリと見えた。

荒野にはためく紅い外套。
その・・俺に酷く似た男は、俺を見て・・・・

こう・・・ひどく頭にくる笑みを浮かべた。


分かる。
奴こそがこの王国の真の主。

男は何をするでもなく、ただ俺を嘲るような笑みを浮かべた後、

「■想を抱■■■死し■」

・・・男の声はノイズ混じりで良く聞こえない。
だが何故かその言葉は俺の胸に突き刺さった。




「っ・・・・!!」

跳ね上がるようにして飛び起きる。
真冬の筈なのに体は汗でベトベトだった。

「はぁ・・はぁ・・・何だ? あいつ・・・」

一目見ただけで分かった。
俺と奴は永遠に相容れない存在だと。

「シロウ・・あいつとは?」

と、何時の間にやら横には金髪の美少女が・・・

「って・・セイバー!!!!!?」

「ええ・・私ですが? あの・・・シロウ、起きられたのならば、朝食の準備をしていただけると有り難い。」

「朝食って・・・今何時だ?」

「7時を回ったところです。桜はもう来ていますよ。」

うわぁ・・・大寝坊だ。
まあそれも当然か。
何しろ昨日は学校の修復をしてから
服も着替えず倒れるようにして眠り込んだからな。

「ごめん、今すぐ準備する。」

確か晩飯の残りがあったはずだが・・・
セイバーもアーチャーも半端じゃなく食うからな、
それだけでは足りないだろう。



「ええと・・・それじゃあ、先輩はセイバーさんを通じて遠坂先輩と知り合ったんですか?」

「ああ。彼女が高校時代の遠坂凛だと分かったときには驚いたけどな。」

朝の食卓にて。

昨日の晩、桜は来なかったので、
今現在捏造事情を説明中である。

事前に打ち合わせはしてあったものの、他の3人が上手く俺に
合わせられるのかと心配していたのだが、
遠坂・・はもとよりセイバーが見事なアドリブを見せたので
説明は滞り無く進んだ。
アーチャーは未だ部屋で爆睡中だったので無問題だ。

・・・ちなみに、セイバーはアーチャーの妹として紹介してある。
昨日の打ち合わせでその事をセイバーに告げたときにはとんでもなく
殺気の籠もった視線を向けられた。

・・・どうやらアーチャーはセイバーに途轍もなく嫌われているらしい。
ギルガメッシュとアーサー王だから生前に関わりがあったとは
思えないのだが・・・・・・


「凄い偶然ですね・・・シンクロニシティとかいうのでしょうか・・・?」

「それはいいけど・・・桜、そろそろ時間じゃないの?」

「・・・ああっ!」

桜は時計を見上げて、酷く慌てた様子で自分の食器を片づけると

「すいません先輩、遠坂先輩、セイバーさん。そろそろ出勤時間なので失礼します!!」

そう言い残し、駆け足で去っていった。



桜が居なくなったことで、自然、会話は聖杯戦争の事になる。

「それじゃあ、俺から昨日のことについて説明させてもらう。」

そう言って俺は昨日の学校での出来事について話し始めた。
ランサーの槍はゲイボルグだったので、おそらく真名は
クー・フーリンであること。
マスターはバゼット・フラガ・マクレミッツで、
協会で封印指定の魔術師の捕獲を専門としていること・・・などなど
とりあえず俺の分かりうる範囲の情報は全て伝えておいた。

「バゼット・フラガ・マクレミッツか・・・聞いたことあるわね。
 なんでも、魔術師としての実力ならほぼ完璧に封印指定級だとか。」

「ああ、あいつが未だ封印指定を受けてないことが、俺には不思議でたまらない。」

まあ・・・ルーン魔術を使う以上、
この先彼女が封印指定を受ける可能性はかなり低いが。

「それで、サーヴァントがクー・フーリンでしょ?
 ある意味、バーサーカーよりこっちの方が危険かもね。」

それは確かにある意味そうだろう。
イリヤはどう見ても戦闘が得意とは思えない。
バーサーカーを維持・制御していることからみて
莫大な魔力と魔術回路を有していることは間違いないだろうが
それが強さにつながるかは別だ。
その点バゼットは魔術にも体術にも優れ、
戦闘用の魔術も数多く取得している。

聖杯戦争はサーヴァントよりマスターを狙うのが
常套手段なのだ。
どちらが厄介かは言うまでもない。

「・・・まあ、俺の方からはこれ位だな。
 遠坂達の方はどうだ?
 結局キャスターには会えたのか?」

すると、遠坂は急に不機嫌な顔をした。

「遠坂?」

「・・・会ってないわよ。柳洞寺に入る前に、門前払いを食らったんだから。」

「へ?」


・・・遠坂の説明によるとこうだ。
昨日の晩、堂々と真正面から(柳洞寺には正面以外は
サーヴァントを寄せ付けない結界が張られているらしい。)
柳洞寺に乗り込んだ二人は、門の前にいた
アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎と名乗る侍に邪魔をされ、
結局柳洞寺には入り込めなかったらしい。


「名乗る・・・? そいつ、自分で佐々木小次郎って名乗ったのか!?」

「ええ。私だって最初は真名を偽ってるんだと思ったけど、
 物干し竿に燕返しまで見せられたら信じるしかないでしょ。」

「燕返し・・・多次元屈折現象ね・・・何の魔術的要素も無しにそんな神業ができる奴なんて限られてるか・・・
 ___つまり、アサシンのマスターとキャスターのマスターは協力しているって事か?」

二人のサーヴァントが同時に柳洞寺にいる事態などそれ位しか考えられないが・・・
・・・俺達のように。
だが、遠坂は否定する。

「いいえ、そうじゃなくて・・・
 キャスター自身が、アサシンのマスターなのよ。」

「・・・・・・それは、キャスターがルール違反を起こしたって事か?」

遠坂は今度は肯定した。

「まあ魔術に長けたキャスターならそんな反則の一つや二つやってみせるか・・・。
 ・・・なら寄り代は? 同じサーヴァントでは、現界する寄り代にはなれないんじゃないのか?」

「今の所断定は出来ないけど、アサシンは山門に縛られてるって言ってた。
 そのせいで、其処から殆ど動けないみたいだけど。」

「えらく親切なサーヴァントだな・・・。
 ・・・それじゃあキャスターは後回しにした方が良さそうだな。」

「そうね。柳洞寺を攻めるなら、こっちもサーヴァントを2体揃えて、各個撃破っていうのが望ましいわ。」

「二人がかり・・・ですか?」

セイバーが少し不満そうな顔をする。
まあセイバーにしてみれば一度分けた以上正々堂々決着をつけたい、と言う
思いもあるのだろうが・・・残念ながらキャスターは非常に危険だ。
できるだけ確実に仕留めたい。

「ところでアーチャーは?
 作戦会議中に居なかったら、伝えるので二度手間になるじゃない。」

「ああ・・・あいつはまだ寝てる。
 ・・・なんでも魔力温存の為だとか。」

・・・まあアーチャーのくせに特に視力が良いわけでもないので
別に見張りとしては使えないだろうが。

「ふーん・・・それじゃあ士郎はあんまり魔力貯蔵量が優れてるって分けじゃないのね。
 そういえばアーチャーって何処で寝てるの?
 出来るだけ居場所は知っときたいんだけど・・・」

「ああ、あいつは俺の部屋の襖で遮られた隣で寝てる。
 狭いって文句言ってたけど。」


メキメキメキメキメキ・・・・・!!!!!


突然・・・突然部屋に破砕音が響きわたった。

「・・・・」

「・・・・」

俺も遠坂もただ唖然とした顔でその音源を見つめていた・・・

・・・その、セイバーに握り潰された哀れな湯飲みを。

「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」

ザ・ワールドばりの停止した時間が流れ・・・・・・
やがて____時は動き出す。

「あの・・・セイバーさん?」

「どうしました?シロウ。」

これでもかと言うぐらいにこやかな笑みを浮かべるデストロイヤー。
____この状況でどうしましたもあるまい。

「なにゆえ湯飲みを?」

セイバーは今初めて気が付いたかのように、ああ!っと納得する。

「申し訳ありませんシロウ。
 なにぶんこの身はサーヴァントなもので・・・
 油断するとすぐメキッっといってしまうんです・・・
 ・・・・・・・人の頭とか。
 うふ・・・ふふふふふふふふふ・・・」

愉しげに笑うセイバー。


「ワカリマシタ、モウナニモキキマセン。ワタシハナニモミテマセン・・・」

こういう訳で、百円ショップで購入されて以来数年間、
衛宮家で使用されてきた湯飲みが一つ、人知れず消えていった。



「後は・・・魚か。」

朝の作戦会議の後、俺は商店街に食料の買い出しに行っていた。

___腹が減っては戦はできぬ____

誰が言いだしたのかは知らないが、名言だ。

何しろ1週間分は有ったはずの冷蔵庫の中身が3日で消えていったのには驚愕した。
これでは食料無しでは自滅するのは自明の理だ。

「・・・うちにはランゴリアーズでも住み着いてるのか?」

あの茶色い毛玉の生物が家の冷蔵庫を人知れず食いあさる姿を想像してみた。
・・・シュ、シュールだ。

まあそんなわけで今現在俺の両手のビニール袋には
これでもかという位食料が詰め込んである。

・・・これも、何日保つものか。

うちの鰻登りに上がりゆくエンゲル係数を思ってそっと溜息を吐いた。
・・・と、

「こらーーーーーーーーーーーーー!!!!」

・・・いきなり怒鳴られた。
最初は猫が魚屋で盗みでも働いたかと思ったのだが・・・
俺の真後ろで聞こえたその怒りの矛先は・・・どうやら俺らしい。

すわ何事かと振り返ってみると・・・

「あれ?」

・・・・・・誰もいなかった。

「幻聴か?」

空耳がリアルボイスで聞こえるあたり俺もそろそろやばいのかもしれない。

「どこみてんのよ!下よ!下!」

(下・・・・・・?)

その誘導する声に従って視線を45度ほど下方修正すると・・・居た。

明らかに日本人では無い容姿。
美しい銀髪に紅い瞳。
年齢はセイバーと同じくらいだろう。
その人間離れした雰囲気は妖精じみている。
初めて会ったときとは服装が変わっているが、
徹頭徹尾なんの疑いもなくバーサーカーのマスター、イリヤだった。

(な、な、な、ななななな・・・・・・!?)

「シロウったら、せっかく私が呼びかけてるのに返事しないし・・・ 考え事でもしてたの?」

不満そうに眉をひそめるその姿からは敵意は全く感じられない。
それで、ようやく混乱していた思考が落ち着いた。

「えーーーと・・・イリヤ、だよな。」

「何当たり前のこと言ってるのシロウ・・・
 散歩してたら偶々見かけたから声かけたけど・・・
 いけなかった?」

・・・いけないも何もイリヤと俺は偶々見かけたからと言って
仲良く談笑するような関係では断じて無い・・・無いはずだが・・・

「シロウ?」

このだんだん顔が不満から不安へと変わっていくイリヤを見ていると
そんな事はとても告げられなかった。

「いや・・・悪い、ちょっと考え事してた。イリヤは俺に何か用があるのか?」

「ううん。ただ、シロウとお喋りしたかっただけ。」

「そうか。なら、向こうの公園のベンチで座って話さないか?
 ・・・さっき買ってきたたい焼きでも食いながら。
 何より、このままだと腕が辛い。」

そう言って買い物袋を掲げる。
本当は特に苦痛ではなかったが、イリヤは納得したのか、

「うん! それじゃあ行こ、シロウ!」

そう言って俺の腕を引っ張って歩き出した。
・・・その様子は本当に楽しそうで、打算など
微塵も感じられなかった。

だからこそ俺は、迷う。
この子と一体、何を話すべきだろうかと______



冬の公園には他に人は居なかった。

「まあ、こんな時期にわざわざ公園で話をしようなんて物好きは、俺達ぐらいなわけで・・・」

「シロウ、ここ座ろ!」

とりあえずイリヤの言うとおり、公園の入り口に一番近いベンチに座る。

「ふう・・・」

ベンチの脇に買い物袋を落とす。
普段ならこれ位の重量は何ともないのだが、
ここ数日の疲労のせいか、少し重く感じた。

「ほら、イリヤ。」

買い物袋からたい焼きと、ここへ来るまでに買った
ペットボトルのお茶を手渡す。

「うーーーあたっかい・・・」

確かに、温かいお茶は長時間の外出で冷えた体を
溶かしてくれるようだった。

「イリヤ、寒いなら俺の上着貸そうか?」

「うーん・・・そんなに寒くはないけど、シロウのコートは着てみたいかも・・・」

「了〜解」

俺は笑ってイリヤに紅いコートを着せる。
彼女は喜々として袖に腕を通していた。

そして・・・出来上がった姿は・・・その・・・なんて言うか
破滅的にサイズが合っていなかった。
コートの裾が地面に引きずられる姿はウエディングドレスもさながらだ。

「むーーーー!!」

「そ、その・・・イリヤ?」

「ふーんだ!私はまだ成長期なんだから、
 シロウなんてすぐに追い越してやるんだから!」

そう言って可愛く頬を膨らませる。
・・・ちょっと想像してみる。
180cmを越す長身のイリヤを_______




___いや無理まず無理絶対無理だ
これならまだバゼットの少女時代を想像しろと言われた方が容易い。

「シロウ? お話ししないの?」

と、イリヤのその声で現実に帰る。

「ああ・・・そうだな・・・何から話そうか・・・」


そうして俺達は暫し話し込んだ。
ロンドンのこと。イリヤの実家のこと。
俺の師匠のこと。そして・・・イリヤの体のこと。

「・・・それじゃあ、イリヤはもう殆ど人と変わらない寿命なのか?」

「うーん・・・多分平均寿命は生きられないだろうけど・・・あと20年は大丈夫だって。
 本当なら手術に耐えられなくて体が崩れちゃうって言われてたんだけど・・・
 ______奇跡・・・かな?」

そう言って儚げに笑う。

まるで自分にはそんな奇跡は要らなかったとでも言うように。

それに、どんな言葉をかければいいかと迷ったところで、

「あ!!」

イリヤが突然立ち上がった。

「どうし・・」「ごめんねシロウ。バーサーカーが起きちゃった。」

だから今日はここまで、とイリヤはコートを脱いで渡す。

気付けばイリヤは既に公園から出ようとしていた。

「イリヤ!!」

その後ろ姿に自分でも驚くぐらい大きな声で呼びかけた。
イリヤは振り返る。

「また・・・会えるか?」

イリヤは満面の笑みを浮かべ答えた。

「うん! また会おうね、お兄ちゃん!」



そうしてイリヤは去った。

「結局・・・聞けなかったな・・・」

なあ、イリヤ・・・お前は・・・

「俺を・・・いや、俺達を恨んでるのか?」

もちろん答えは返ってこなかったのだけれど。

※この作品に関連するお話
   □ Fate/大人の聖杯戦争 M:衛宮士郎・ギルガメッシュ 傾:シリアス   最終更新:[2007年10月01日(月) 23時15分24秒]
    □ プロローグ   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時25分36秒]
    □ 第01話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時27分18秒]
    □ 第02話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時33分41秒]
    □ 第03話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時34分33秒]
    □ 第04話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時35分24秒]
    □ 第05話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時36分18秒]
    □ 第06話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時37分19秒]
    ■ 第07話   最終更新:[2005年07月01日(金) 22時38分14秒]
    □ 第08話   最終更新:[2006年03月10日(金) 22時39分05秒]
    □ 第09話   最終更新:[2007年04月08日(木) 22時40分24秒]

■後書き
後書きはありません。

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