第08話 | |||||||||||||||||||||||
作者:
火だるま
2006年03月10日(金) 22時39分05秒公開
|
|||||||||||||||||||||||
・・・さて、いつまでもここで突っ立っているわけにもいかないだろう。 とりあえず買い物袋を拾って公園を出ようとしたところで、 「なんだ、衛宮じゃないか。」 なにやら聞き覚えのある声に呼びとめられた。 「・・・慎二?」 「どうした?まるでリストラされて家族にどう説明しようか 悩んでるサラリーマンみたいな哀愁が漂ってたぜ。」 う・・・いつから見てやがったこいつ。 ははは、と笑う慎二はやけに上機嫌だ。 ・・・なんていうか、嫌な予感がする。 こいつがこんなふうなときはたいていろくな事にならない。 「まあいいさ。 ちょうど良かった、ちょっと衛宮に話があってな。 今から家にこれないか?」 話・・・? 思いつくのは桜の事ぐらいだが・・・ そんなに急ぐことでもないだろう。 「ん・・・悪いが見てのとおり買い物の帰りでな、 冬場とはいえ油断は出来ない・・・。 何の話かは知らないが、後にしてくれな___「聖杯戦争」え?」 _____っっっ!?こいつ!? 「ははは、やっぱりな。 いいからこいよ・・・別に今すぐ殺し合おうって分けじゃない。」 くそ・・・動揺を悟られた。なんて未熟さだ・・・ 「・・・オーケー。分かった、いいだろう。 そういう事なら・・・話があるのはお前だけじゃない。」 そう言って歩き出す。 ・・・さて、あいつらは昼食が遅れても大人しくしているだろうか? なんて思いつつ。 「単刀直入に言う。衛宮、僕と手を組まないか?」 ・・・人を部屋に案内するなり、慎二はそう言った。 ここは間桐の屋敷。 ・・・数年前から変わらないこの陰鬱さはあまり好きはなれない。 「知ってるか?もともとこの聖杯戦争は、 うちと、トオサカ、アインツベルンの3つの家が始めたものなんだぜ。 ・・・つまり聖杯を得る資格があるのはこれらの家の者だけって分けだ。 だから___」 ・・・ぺらぺらと喋る慎二の言葉を聞き流して___どうせ結論など決まっている 俺はその慎二の後方、ソファーの後ろに立つ人物に目を向けた。 『紹介しておくよ。僕のサーヴァント、ライダーさ』 そうして現れた彼女は会釈をして、そのまま一言も喋ることなく 慎二のそばに立っている。 ・・・まず目に付くのは眼を覆い隠している目隠し。 顔の半分を隠すそれのせいで、 彼女がどんな表情をしているのかを窺い知ることは出来ない。 それに170ちょいくらいの女性にしてはかなりの長身に、 それでも床につきそうな長い紫の髪。 ボティコンみたいな服に身を包んでいるが・・・ うん、スリーサイズは上から88・56・84といったところか。 ・・・・・・駄目だ、外見からはどういった英霊なのかが見当もつかない。 「・・・しかし・・・ライダーか・・・」 慎二に聞こえないようにつぶやく。 まあ・・・慎二がマスターであると知ったときから予想はしていた。 今現在マスターが判明していないのはキャスターとライダーぐらいだし、 慎二が柳洞寺に関わりがあるとも思えない。 問題はこのライダーが今のところ学校の結界を張った容疑者候補筆頭という事だ。 まあ、確かにキャスターという可能性もあるし・・・ 他のサーヴァントの可能性も無いわけではない。 しかし・・・そのことを考えると・・・ 慎二と手を組むというのは・・・簡単に受けられる話ではない。 「そして簡単に断れる話でもない・・・か。」 「あ?なんか言ったか?」 「いや・・・何でも無い。 ・・・まあ大体言いたいことは分かった。 要するに聖杯戦争の確実な勝利の為に手を組まないか?って事だろ。」 「ふん・・・分かってるじゃないか。 それで、どうするんだ? まあ・・・どうせお前に選択の余地なんてないと思うけど。」 選択の余地・・・ね。 確かにそのとおり。 「・・・悪いが今ここで簡単には決められる話じゃないな。 うちのサーヴァントに話をする必要もあるし・・・ そうだな、今日明日中には結論を出させてもらう。」 「は!衛宮・・・お前サーヴァントのご機嫌伺いなんかしてるのかよ。 こいつらは奴隷だぜ?只従わせれば良いだけだろ?」 奴隷・・・その言葉に怒りを覚えないのは それは正しいと心のどこかで思っているからだろう。 「・・・じゃあな、慎二。 悪いが買い物の途中だったんでこれで失礼させてもらう。」 こみ上げる吐き気を抑えて間桐家を後にする。 いつかは俺もあいつらを道具のように扱うんだろうか・・・ ・・・そんな予感がした。 家に帰ると、そこには飢えた獣がいました。 「・・・言い訳は後です。 今は可及的速やかに我々に食事を提供することが貴方の使命です。」 さっさとしねえとエクスカリバーぶっ放すぞと言わんばかりの殺気。 たかだが昼食が30分遅れただけで命の危機、これが聖杯戦争か!! 「悪かった。・・・今作るから武装を解いてくれ。」 「・・・いいでしょう。 一応警告しておきますが、もし今後このように私・・いえ、我々の昼食を 遅らすことがあれば敵対の意思ありとみなして同盟を破棄することも やぶさかではありませんよ?」 「・・・肝に銘じます」 驚愕の新事実!俺たちの同盟関係はセイバーへの安定した 食事の供給によって成り立っていたのか・・・ 「・・・で、遠坂は自分の家に帰ったのか?」 「はい、なんでも柳洞寺の周辺を調べるための使い魔を作ろうとしたのですが そのための道具を家に忘れてきてしまったらしく・・・」 「・・・なるほど、あいつらしいな。 多分持ってくるのもめんどくさいんでそのまま自分家で作ってるんだろ。」 昼食が終わるとセイバーはいつもどおりに落ち着いてくれた。 ・・・そのための犠牲は大きかったが。 「よもや・・・冷蔵庫にある食料のほとんどを食い尽くされるとは・・・」 恐るべしセイバー。____普段はあれでも遠慮していたらしい。 なんか家のエンゲル係数は鰻登りというより 鯉の滝登りって感じだな。あはははは・・・はぁ・・・ 「ところでアーチャーは・・・? まさかまだ寝てるのかあいつ・・・」 「さあ___確か一度昼ごろに起きだして「飯はどうした」などと ほざくものですから「今頃起きだして来るような輩に 食わせる飯などありません、泥水でもすすってなさい」と 言ったらどこかへ消えていきましたが・・・」 どうしてでしょうね?と首をかしげる無自覚な殺人者。 セイバー・・・本当にアーチャーのこと嫌いなんだな・・・ ちなみにアーチャー、別に自殺の名所を探しに行ったわけではなく 商店街まで外食に行ったらしい。 いや・・・結果的には同じ事か。何しろ運悪く選んだ店が中華料理店、泰山。 とどめに選んだのが外道マーボー。その辛さは一見さんお断り、 二見目からは誰もたのまねえよという凶悪さ。 目の前に出された時点でやめときゃいいのに うっかり一口食べてしまったアーチャー。走馬灯と同時に平行世界の嫌な記憶が蘇えりかけたとさ。 「先輩、これ運んでおきますね。」 「ああ、頼む。 ・ ・ ・ ・ セイバー、もうちょっとだから怨念のこもった視線でこっち見るの止めてくれ。 アーチャー、テレビはもう少し離れて見ろ。レッドも言ってるだろ。 遠坂、・・・遠坂はまだ帰ってきてないのか?」 「そういえば遅いですね遠坂先輩・・・ なにかあったんでしょうか?」 ・・・普段ならともかく今は聖杯戦争中だ。 桜の危惧を杞憂と片付けることはできない。 「・・・悪い、ちょっと家の周りを見てくる。 桜、これ・・・頼めるか? 後は塩コショウで適当に味整えるだけでいいから。」 「は、はい!任せてください!」 「ああ、すぐ戻ってくるから。」 そう言って玄関へ。 とりあえず遠坂の屋敷までダッシュかな・・・などと考えていると 玄関の戸がガラリと開いた。 「あれ?衛宮君こんな時間からどこかに出かけるの?」 「いや・・・お前があんまりに遅いんで 探しに行こうかと思ってたんだ・・け・・ど・・・」 俺の視線に気づいたのか遠坂は「ああ、これ?」と苦笑する。 「遠坂・・・その右手どうしたんだ?」 ・・・そう、遠坂の右手は真っ赤に血塗られていたのだ。 見た感じ遠坂自身に怪我は無い。つまり・・・ 「気にしないで、ちょっと人殴ってきただけだから。」 「気にしないで・・・て、そのフレーズで気にならない訳があるか!」 正義の味方としてそんな横暴許しません! 「うぅ・・・ 慎二って覚えてる・・・わよね。桜の兄の。」 「ああ、今日も会ったばかりだ。」 「そうなの?・・・まあいいわ、その慎二と帰りにばったり出会ってね。 あいついきなり「遠坂、お前聖杯戦争のマスターなんだろ? 実を言うと僕もそうなんだ。元々聖杯は僕らのものだろう? 同じ地の魔術師同士協力しないか?」とかなんとか言ってきたから 「お生憎様、悪いけど私にはもう衛宮君って言うちゃんとした協力者 がいるの。」、て突っぱねてやったら急に怒り出して・・・ あまりにしつこいから渾身のナックルパートを・・・ て、どうしたの衛宮君?なんか完成間近のトランプタワーを 誰かさんのうっかりで壊されたみたいな顔してるけど・・・」 「・・・的確な描写ありがとう。」 そしてそのうっかりさんはお前だ。 これで慎二の行動が掴めなくなった・・・ 俺と遠坂が協力関係にあると知った今、あいつがどんな行動に出てくるか・・・ ____計画では慎二と偽りの協力関係を結んで、結界のほうを何とかするつもりだったんだがなあ・・・ 「・・・・・・ほんと、どうしたもんかね」 |
|||||||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||||||
| |||||||||||||||||||||||
■一覧に戻る ■感想を書く ■削除・編集 |