第09話 | |||||||||||||||||||||||
作者:
火だるま
2007年04月08日(木) 22時40分24秒公開
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トントントン・・・ タップダンスのような軽快さで包丁を叩く。 今日は久々にあのムカつく夢も見ずにすんで俺は上機嫌だった。 純白のエプロンには「居丈高」と縫い付けてある。 何の魔術的効力もなしに重機関銃のゼロ距離射撃に耐えうるこれは 昔知り合いからもらったバッドトリップのような真夏の世の夢の幻だった。 ・・・うん、意味が分からない。 「シロウ、おはようございます。 ・・・おや、今日は煮付けですか?」 今日も今日とて早起きセイバー。 柔らかな笑みを浮かべて微笑むその神々しさは 口の横の涎さえなければ天使のようです。・・・つーか拭け。 ライオンは腹さえ空かしていなければ大人しいらしいが ・・・その胃袋にリミットが見えない場合どうすればいいのだろう。 「し〜ろ〜う〜み〜る〜く〜〜〜」 開口一番、まるでドラえもんの秘密道具のように人の名前と脂質を同列に扱いやがった こいつは赤い悪魔・・・もとい遠坂凛。本日2番目の早起きさんだ。 「う〜る〜あ〜〜」 ・・・ノーガード戦法中の矢吹丈並におぼつかない足取りでやってきたそいつに あ・かっぷ・おぶ・みるくを渡してやるとあら不思議。 「あ〜・・きくーーー」 たちまち増えるわかめのように生気を取り戻す。 ・・・一度本格的に生態を調べたほうがいいのかもしれないこの不思議生物。 「ん〜ありがと士郎・・・て、あれ?桜はまだ来てないの?」 「今日は弓道部の朝練で早いんだとさ。今朝電話があった。」 「ふ〜ん、来れないから電話なんて・・・すっかり通い女房ね〜衛宮君?」 そしてエンジンがかかってきたらこれだ。 「シャラップ遠坂。そういうのを下衆のかんぐりというのです。」 「あっそ。じゃあそういうことにしといてあ・げ・る」 ヒラヒラ〜・・・と手を振って食卓に向かう悪魔一匹。 「おのれ遠坂凛・・・貴様のカレイはもっとも小ぶりなこれだ!!」 ・・・超地味な嫌がらせだった。 「おいエミヤ、テレビをつけろ。 今日は主人公の父親との親権争いに負けてパチンコ浸りになり 挙句の果てに悪の組織の女幹部にまで上り詰めた母親との因縁の 料理対決があるのだ。」 「・・・珍しくまともな時間に起きたなアーチャー。」 さすがに泰山のあれは応えたのか我がサーヴァントが3人目の早起きさんだった。 そして何だその子供番組は。 最近のはやりは不条理ドタバタ喜劇なのか。そうなのか。 言われたとおりにテレビをつける。 『世界の秩序を守るため!5人そろってドクレンジャイ!!』 ばーーーん・・・と毒々しいポイズンミストをバックに ガスマスクをつけた色とりどりの怪しい集団がポーズを決めていた。 「____ナンダコレ?」 「なんだ、知らんのか貴様。 ならば我が特別に説明してやろう。 これは毒ガス戦隊ドクレンジャイといってな、 世界のありとあらゆる毒物に精通しトリカブト、青酸カリはもちろん バナナフ○ッシュや挙句の果てには国際法違反の生物兵器 まで持ち出して世界の石油の利権を牛耳る悪の組織の要人 を次々と暗殺_____」 『よし、今日はテレビの前の君たちに新種の毒物を紹介___ブツンッ!!』 「ああ!何をする貴様!!」 「やかましい!!こんな正義の味方認めてたまるか!!」 まあ、そんなこんなで・・・聖杯戦争五日目の朝は始まる。 さて、 「食事中に悪いが遠坂、今後の慎二への対応を決めたいと思う。」 朝の食卓の席でそう切り出した俺に遠坂は 「・・・・・・誰だっけ、それ?」 さらっと殺意の湧く回答をして下さいました。 「お前が昨日ぶん殴った桜の兄だろうがーーーー!!!」 士郎はちゃぶ台返しを放った!! _____しかし空振り、朝食にダメージを与えられない!! うん、もったいないからわざとだけど!! 「あ〜・・・ごめん思い出した。そういえばあいつもマスターだったっけ。」 「そう、そして学校に結界張った容疑者筆頭!! ついでにお前のベアのせいで思春期の少年少女並みに 何しでかすか分からん状態だ!!」 「・・・それは危ないのかどうなのか微妙な例えね。 まあ、冗談はともかく「冗談だったのか?」冗談はともかく!! 慎二のことは私の責任だし、結界が完成するまでにいろいろと探ってみる。 ・・・そもそもなんであいつマスターになれたのかしら?」 「ん・・・?間桐の家は古くからの魔術師の家系だろ? ならマスターに選ばれても不思議は無いんじゃ・・・」 まあ時間が無かったので大したことは調べられなかったが。 間桐ってのがマキリの偽名ってのも 遠坂に聞いてはじめて知ったぐらいだからなぁ・・・ 「それは確かにそうだけど・・・ 衛宮君、貴方慎二から魔力の痕跡とか何か感じ取れた?」 あ・・・ 「そういや、あいつからは全く魔術師の気配とか嗅ぎ取れなかったな。 いや、隠蔽するにしても巧すぎるとは思ってたんだが・・・ そうか・・・マキリはとっくに魔術師としては廃れてるのか。」 「そう、私もそれを知ってたから 最初から慎二はノーマークだったんだけど・・・」 あっちゃー、とうな垂れる遠坂。 前々から思ってたがこいつ何気にうっかり者か? 「・・・なあ、マスターは慎二じゃなくて他の誰かって事も考えられないか? 実は俺、あいつの令呪見てないんだ。 もしかすると黒幕は他にいて慎二は只の囮とか・・・」 「あぁそっかぁ・・・囮かぁ・・・。 確かに私も慎二の令呪は見てないわね・・・ でもそーなると怪しいのは____」 _____慎二に近しい人間。 「まずは桜だけど、桜も慎二同様魔力が感じられないから 白と見ていいだろうな。」 「あ、それは・・・えーと、まあ、うん、そうなんだけど」 「お前嘘下手すぎ。知ってることがあるならさっさと吐け。」 「ごめん・・・これはちょっと企業秘密って事で。 でも私も桜は白だと思う。」 「・・・まあ・・・今はいいけど・・・俺が必要だと思ったら 必ず話してもらうぞ。 ん〜・・・となると残りは____」 ・・・あいつ他に肉親生きてたっけ? 「まあ、憶測を何時までも考えてたって仕方ないわね。 衛宮君、私の代わりに柳洞寺の調査お願いできる?」 「ふ、まかせとけ。 俺は頼まれると嫌とはいえない男だぞ?」 「・・・それは頼っていいのかどうなのか微妙なところね。」 そんな感じで朝食終了。 この時はまだ時間があると思っていた。 この時は_____ 「あの〜そ〜らにうーかーぶーつーき〜〜♪いまはぁ〜〜・・・」 朝食が終わったら洗い物。 遠坂達は朝の約束通りマキリの調査へと出かけていった。 俺はお気に入りの歌を歌いながら束の間の安息状態。 ・・・ちなみにルヴィアの前で一度歌ったら 『今は無理でも・・・後の世にはいつかきっと 貴方の歌が認められる日が来ますわ。』 と前衛芸術か何かのように言われた。 ・・・それ以来あまり人前で歌うことは無い。 そんなわけで今は人を気にせず歌える数少ない憩いの時間なのだった。 ・・・しかしそんな時間にも邪魔者はやってくる。 『ジリリリリリリ・・・・』 「電話か。アーチャー!___は出るわけないか。 はあ・・・『ジリリリリ・・』はいはい今出ますよ!!」 手を拭いて電話機の元へ。 ・・・さて、今更ながら電話の相手はいったい誰だろう。 「俺が帰ってきてるのを知ってるのは・・・桜、遠坂、慎二・・・ あとルヴィアと・・・まさか藤ねえか!?」 あまり宜しくない想像に身構えながら受話器をとる。 聞こえてきた声は_____ 「あら、まだ生きてたのね。 てっきりとっくに野たれ死んでいるものばかり思っていました。」 _____そんな想像を遥かにぶっ飛んで最悪な相手だった。 「・・・・・!!!!!!!!!!」 一気に自分の顔が楳図かずおの画風になった。 反射的に受話器を叩きつけようとして、 「ちなみにこの電話を切る、なんて事が もし あれば 貴方の大事なルヴィアお嬢様が 何故か 明日には 貴方と何処の誰とも知らぬ卑しい女との情事の内容を 事細かに知っている・・・なんて事にもなってしまうかも しれませんね・・・」 理性の急ブレーキ。ついでに死にたくないという本能も手を貸して 必死に現実から逃げようとする右腕を押しとどめる。 「ふぅ!ひぃ・・・はぁ・・・・ ____何の用だ、カレン・オルテンシア」 「あら、貴方が聖杯戦争に出るというから心配して電話を掛けてあげたのに 随分な言い方ね。」 おそらく電話口の向こうでは獲物を前に舌なめずりする 肉食の爬虫類のような笑みを浮かべているに違いない 銀髪のシスターはそんな、心にも無いことを言った。 「悪いがお前が俺の心配をする、なんてことは金輪際ありえないな。 ナルバレックのやつが慈善事業に手を出したと言った方が まだ信じられる。」 「嘘ではないわよ?だって封印指定が死んだともなれば 魔術協会との交渉とか色々と面倒なことになりそうだもの・・・・・・私が。」 「・・・はあ?いや、お前は関係ないだろ? 今回の監督役は年配のおっさんのはずで・・・ 俺も一応最初に挨拶したから確かだぞ?」 うん、間違いない。なんつーか中間管理職の悲哀を形にしたら こんな感じになるんじゃないかというような存在感の薄い おっさんだった。 「ああ・・・彼なら死にました。」 「・・・・・・なんだと?」 「言ったとおりです。場所は教会。死因は大型の凶器による心破裂その他もろもろ。 手っ取り早く言うと素手で心臓をぶち抜かれてました。」 ・・・つまり犯人はまともな人間じゃないって事か。 ____例えば、サーヴァントのような。 「犯人は分かって・・・無いよな。」 「ええ。おそらくは聖杯戦争の関係者としか。 お蔭で誰も後任になりたがらないという事で 私が行かされるはめになったの。 ・・・けどまあ、これも運命かしら?」 ?・・・運命とやらはよく分からないが、とりあえず事情は分かった。 しかしまあ____やれやれ、懸案事項が山積みだな。 「そうか、まあ・・・報せてくれて礼を言う。 ・・・他に用が無いなら切ってもいいか?」 「そうね。用は無いけど・・・ ____貴方には半年以上何の連絡もなしに放っておかれた私の ささやかな愚痴でも聞いてもらおうかしら?」 ・・・もちろん、拒否権など無かった。 数時間後、特撮ビデオを借りに出かけていたギルガメッシュが 帰ってきてまず目にしたものは 「ココハドコダ ソシテコノオレハダレダ ニゲロニゲロ・・・」 虚ろな眼で地下室のメロディを歌い続ける自分のマスターの姿だった。 |
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