第02話 | |||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
佐竹
URL: http://pop.readymade.jp/
2005年08月20日(土) 22時51分33秒公開
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「おれはダイ。君の想いに、呼ばれた」 士郎を見てそう言ったサーヴァントは、まだほんの子供だった。あどけない顔つきに小柄な体躯。召喚者である士郎よりもずっと年下であり、少年、とそう言って差し支えないくらいの年頃のように見受けられる。 しかし、いかに外見が少年の姿形を取っているとはいえその身は英霊。魔術師とはいえ、所詮は唯人の身には望むことすらできぬ魔力を身に纏い、その存在は現世に顕現した。土蔵へ雪崩れ込んできた鎧の一群は少年の手が添えられたカリバーンの一閃により、ただの鋼鉄の削りクズへと在り方を変えられる。 そうしてから少年は、そっとそのまま士郎と共に握っていたカリバーンから手を放し、士郎の前に対峙した。 「俺の、想いに……って」 士郎と少年の視線が絡む。しかし、呆気に取られたような士郎とは対照的に少年は冷静に周囲を見回し、再度士郎を見遣り、口を開いた。 「マスター、敵がいるんだね」 士郎が返答するよりも早く、少年はさらになにかに気づいたように目を細めた。 「……その傷ッ……」 ギリと歯と歯を強く擦り合わせる音がした。少年は瞬時に現在の状況と己のマスターたる存在の負った傷を見抜き、怒りの表情を浮かべる。 「ここに、いて。――すぐ終わらせる」 「え? ――あ! ま」 まて、と士郎が言葉を言い終える前に開いたままになっていた土蔵の入り口から再び、先ほどと同じ薄汚れた鎧が一体、少年の背中を目掛けて踊りかかった。 しかし、そんな奇襲を少年は最初から見抜いていたように――後ろを振り返ることなく左の裏拳で殴り飛ばす。 士郎からすれば少年は全く力を込めたようには見えなかったが、インパクトの刹那、スローモーションのように鎧が空中で停止したように見えた。そして次の瞬間には土蔵の外へと有無を言わさず吹っ飛んでいく鎧。 「な」 士郎がその鎧のざまをようやく認識できた時、すでに土蔵に少年の影は存在しなかった。 ――――土蔵を飛び出たと同時に、少年は冷静に敵の数を確認する。土蔵を取り囲むようにいるのが六体、そして庭全体にあと六体。合わせて十二の敵意。 ――――ものの数ではない その敵の一団の戦力を、そう少年は単純に評価した。 許せなかった。いつの時代であれ、人を傷つける存在を少年は許容しない。相手はさまよう鎧――つまり、暗黒生命。魔王の影響により狂化した哀れなモンスターではない。ならば、遠慮も手加減も情をかける必要もなかった。 足は大地を駆ける。上半身が地上スレスレの高度を行く、極端な前傾姿勢による突貫。 一瞬の逡巡の後に、少年が敵に突撃したことに気づき土蔵を飛び出した士郎が見たのは、否、結果としてかろうじて視認できたのは疾風が鎧達の間を過ぎった後に次々と発生した不細工な鋼鉄の花火だった。 なにかが鎧達の中心を次々と衝き穿つ破砕音。一瞬後に鳴り響く爆発音の連弾。それらが合わさって、それはさながら舞踊のような体を成していた。舞い手は少年、鎧達は予め用意された舞台装置、そして士郎はその観客だった。 爆発に気を取られたのも束の間、士郎は自身の視力を魔力で強化し少年の姿を追う。が、将来的に鷹の目を持つ適性すらある士郎の目をもってしても少年の姿は視界に収まらない。それほどに少年は疾かった。 疾風は突風へ、突風は暴風へとその狂性を段階的に変えて行き、少年が纏う拳の烈風が鎧を巻き込み、次々と穿つ。士郎にできたのはその過程ではなく結果を確認していくことのみだった。 既に打ち砕かれた鉄の塊は六を超える。少年がその次の目標へ翔ぶ前に、耳障りな音が夜に響いた。その記号のような叫びに一斉に鎧達が反応し、各々、その場から後ろへと飛びのく。そうしてようやく士郎は少年の姿を確認した。その鎧達が飛び退いたことできた奇妙な円陣の中心で砂埃を巻き上げ、少年はその小柄の躯に似つかぬ雄々しさで立っていた。 少年はいつの間にか手に一振りの短剣を逆手に持っている。金属をそのまま切り出したような、それでいてなんとも気品が漂う短剣。が、それを士郎が解析するよりも早く、一瞬の膠着状態は解き放たれ、残った五騎の鎧達が見事に呼吸の合った連携で少年に剣を突き刺さんと突貫する。その様を士郎はどこかラグビーのスクラムに似ていると思った。それをひどく暢気な感想だと士郎は思う。しかし、それはここに来て、自身のサーヴァントの心配など不要と判断したからこその感想でもあったのだが。 何故ならば。 それは士郎が、少年が鎧達の剣先が届くよりも遥かに早く、月を背にするように中空に踊ったその動きを捉えることができていたから―――― 「アバン流刀殺法――――――」 跳躍による上昇から重力に導かれての下降に切り替わるその刹那、少年は逆手に持った短剣でもって一閃―――― 「――――――“大地斬”――――――」 轟音が、響いた。 そのちっぽけなナイフが空気を、空間を切り裂き、士郎の鼓膜まで破りかねない衝撃を生み出す。砂埃が巻き起こり、それがおさまった後に残ったのは小さなクレーターのように抉られた大地。鎧達は跡形もなく霧散した。 その一部始終をただ見ていることしかできなかった士郎はそこでようやく我に返った。カリバーンを握っていた手がじんわりと汗をかいている。ごお、と風が庭を吹きぬけ、少年の髪を揺らす。 手馴れた手つきで逆手に持っていたナイフをそのまま背中の後ろのホルダーに収納した少年は、改めてマスターに向き直る。 そんな彼を士郎は無言で見ていた。庭にもはや敵はなく、残ったのはマスターとそのサーヴァントのみ。月明かりの照らす中、彼らは面と向かって言葉を交わすことなく立っていた。鎧達を瞬時に殲滅した少年。まぎれもなく人間以上の力を振るうその存在は、士郎にいやがおうにも彼女を連想させる。 「おまえは――」 先に口を開いたのは士郎だった。少年は黙って続くであろう言葉を待つ。 ”セイバーなのか”、と言う問いかけを飲み込む。自分にとってのセイバーはあの少女ただ一人。 士郎はゆっくりと目を閉じた。思うはあの夜、あの少女のこと。 脳裏には懐かしい彼女の顔。記憶はあの運命に出逢った夜を再生する。月光をその身に浴び、毅然と俺の前に立っていた彼女の声があの少年の声と重なる。 『君が……おれのマスター?』――問おう、貴方が私のマスターか―― ――その瞬間、士郎の意識の外にあった痛覚が復活した。 切りつけられた背中が鋭い痛みを訴える。その痛みでどくどくと自身の背中を伝う血に気づいた。 「あつ……」 痛い、と思った。この程度の傷など前回の聖杯戦争で負ったものと比べれば比較するに値しない程に軽微なもの。しかしそれでも剣で切りつけられた背中は焼けるように士郎の神経を刺激する。 ――遠坂凛の忠告が士郎の脳内で響く。 『“鞘”を還し、あのセイバーが側にいないアンタには、以前の不死性はない。大怪我したら終わりよ』 それは確かな事実。一年前と比べてマシになったとはいえ、しょせんは半人前にすぎない自分がセイバーの鞘無しにあのような闘いに身を投じれば、今度こそ自分は命を落とすだろう。その可能性はかなり高い。 そして喉元を過ぎて忘れていた本物の恐怖。非日常において軽すぎる自分の命の実感。それをたったいま経験し直した自分としては正直すぐにでも逃げ出したくなった。怖い。叫んで、全てをなかったことにして、いますぐ布団にくるまって普通に朝を迎え、自分のあるべき日常へ回帰したいという欲求は途方もなく大きかった。気づけば身体は小刻みに震えている。 しかし―― 脳裏には懐かしい彼女の顔。凛々しく、気高く、尊厳に満ちた青の英霊の姿。彼女は笑っていた。自分の中の彼女は笑っている。それはあの最後の記憶の姿。消える寸前に彼女の遺していった言葉はなんであったか―― “シロウ、貴方を――――” 「マスター――――大丈夫?」 回想は少年の声によって途切れる。それに返事をし、士郎は目を開いた。 「ああ」 少年の姿を視界に収め、士郎は思う。セイバーに、彼女に愛していると言ってもらえた自分。その衛宮士郎の在り方は考えるのもバカバカしい程に決まりきっている。正義の味方。それこそが衛宮士郎が衛宮士郎である理由であり、セイバーと心を通わせた姿であった。 ――――今まで歩いてきた道を、彼女との日々をなかったことにすることは絶対にできない。 自分を曲げるわけにはいかない。 だから―――― 「――鞘がないとか、そんなことは関係ないよな」 「――え?」 そんな士郎を見て怪訝そうな表情を見せる少年。士郎はそんな少年に向けて、スッと右手を差し出した。その目にもはや迷いはない。 「衛宮士郎だ。よろしくな――ダイ」 少年はそんな士郎を一瞥した後に、少し戸惑ったような表情で士郎の手と顔を交互に見遣った。が、士郎がなにかを言う前にガシガシと自分の右手を服で擦ってからニカッと快活な笑顔を浮かべて士郎の手をしっかり握った。 「うん、よろしく。マスター」 巡回を終えて帰宅したところを襲われた士郎はとりあえず背中に包帯を巻いてから夜食を取ることにした。時刻は深夜。普段でも土蔵の鍛錬などで起きているとはいえ、あまり食事を取るような気分になる時間ではないのだが、それでもそういう行動を取ろうと思ったのは、あるいは前回のサーヴァントとの関係の構築において食事が重要なファクターであったせいもあるかもしれない。少年は包帯を巻いて食事の準備に取り掛かるマスターの姿を居間で大人しく見ていた。いや、大人しそうに見えてその実あちらこちらに興味を持ったように忙しなく視線を飛ばしている。 一方士郎は台所の冷蔵庫の中身を確認し、頭の中で夕食の構想を練っていた。が、量を考えたところで疑問が過ぎる。居間の畳の上でテレビのリモコンをしげしげと手にとって眺めていたダイに向かって声をかけた。 「なあ、ダイ」 「あ、うん。なんだいマスター」 「お前って苦手なものとかあるか? 食べれないものとか……」 ダイは少しだけ考えるそぶりを見せた後、頭を左右に振った。 「ないと思う。マスターの持ってるその野菜みたいなの――その、ネギって言うの? とか見覚えのないものが多いからちょっとわかんないけど」 その時士郎は九条葱を持っていた。 「そっか。じゃあ、適当に作るけど、食えなかったら残せばいいから」 「お、おれもなんか手伝おうか?」 「いや、大丈夫だ。そこで待っててくれればいいから」 「あ、うん。わかった」 「ああ」 ダイは手に持ったリモコンを元あった場所に戻す。途端、誤ってリモコンの赤いボタンに触れてしまい――おそらく藤ねぇの仕業だと思われるが――お笑い芸人のツッコミが最大音量で居間に響いた。 「うわ! え? ええ?? き、きみ……なんで箱なんかの中にいるの??」 ダイは慌てて飛びのく。 そうしながらもおそるおそるといった様子でテレビに近づき、ぺたぺたとテレビを触るそんな姿を士郎は微笑ましく思った。しかし、同時になにかが引っかかるようにも感じたが、それもダイの「マスター、こ、これどうすればいいの?」という慌てたような問いに答えているうちにかすかな引っかかりはあやふやなまま消失していった。 夕食は結局ダイが食べやすいようにと士郎が工夫した炒飯とポタージュというなんとも微妙な取り合わせとなった。二人分のサラダをボウルに盛り、小皿で取り分ける。 「いただきます」 「えと、いただきます」 ダイが士郎の食前の挨拶を見よう見真似で真似をする。どうやらダイはアルトリア程の順応性がないようだ。いや、彼女が高すぎたと見るべきか。 食事中も相変わらずテレビから音がする。もちろんボリュームは下げたのだが、ダイは興味を持ったのかちらちらと画面を見ながらスプーンで炒飯を掬った。 「テレビ、消そうか?」 もともと寛いで欲しくての提案だったのだ。 「え、あ……いや、大丈夫。あ、うまい」 ダイは士郎の提案に曖昧に頷きつつ、士郎の作った炒飯を一口、口にしてパッと目を輝かせた。 「お、そうか? お代わりもあるから遠慮しないでくれ」 士郎はそんなダイの様子に嬉しそうに頷きつつ、大口を開けて料理を口の中に運ぶ少年を見ていた。 そうして食事は滞りなく済んだ。士郎はもともと食事中はあまりしゃべるほうではないのだが、それはどうやら彼の今回のサーヴァントにも言えることらしい。だが、彼がきっちりと出されたものを平らげてくれたのが士郎は嬉しかった。洗い物を済ませ、居間で二人、テーブルを挟んで向かい合った。急須から茶を注ぎながら士郎が切り出す。 「それで……ダイ」 「なにかな、マスター」 「あー……そのマスターってのはできれば止めて欲しい。俺もお前のことはダイって呼ぶから」 「そっか、じゃあ、ええと……エミヤシロウ? だっけ」 「衛宮士郎だ。それじゃ笑み屋死蝋になってる。士郎でいい」 「シロ?」 「ああ、いや、し・ろ・う、だ」 その後、何度かダイに士郎の発音の練習をさせる。 「シロゥ。これでいいかな?」 士郎はなんとはなしにその呼び方を懐かしく思った。あの独特のウを小さく発音する呼び方。そう士郎を呼んだ彼女のことを思い出し、士郎はなんとなく、ダイに再度訂正を促した。その呼び方はあまりに――あまりに特別だったから。 「士郎、だ」 「シロゥ、シロゥ、シロウ……シロウ」 「ああ、それでいい。でも呼びにくかったら名字の方でもいいぞ」 「ミョウジ?」 「姓名の方だ。衛宮ってのは俺の家の名前」 そう言うとダイはきょとんとした顔をした。よくよく話をしてみればダイには名字がないらしい。それどころか、ダイの暮らしていた時代にはほとんどの人がそんなものを持っていなかったらしい。 「アバン先生は確か、アバン・ド・ジュールなんとかって長ったらしい名前だった気もするけど」 「アバン先生?」 「あ、おれの先生なんだ。魔王から世界を救った勇者で、その後、勇者を教育する家庭教師をしてて――」 ダイは身振り手振りでそのアバンという勇者について説明する。しかし、士郎にはその内容をほとんど理解することはできなかった。また話の過程でモンスターという単語もちらほらと出てくる。 「ちょ、ちょっと待ってくれ。ダイ――お前は、あの鎧みたいなのと前に戦ったことがあるのか?」 「ああ、うん。もともとおれの住んでた島のみんなは大人しかったけど、それでも旅の途中でモンスターに襲われるのはしょっちゅうだったよ」 ダイの言っていることはどうにも理解できるものではなかった。記憶をどうひっくり返しても世界を救ったアバンなどという英雄の名前の心当たりはないし、あんな生物がこの地にいたというようなことを時計塔ですら耳にしたことはなかった。 まだ幻想種が人とともに在ったという神代以前の時代の話かとも思ったが、先ほどの鎧の形は明らかに中世以降の形をしていた。どこからダイの話を聞けばいいのかすらわからないと士郎は思う。 「シロウ?」 士郎は一つ溜息をつく。どう見てもダイが嘘をついているようには見えない。ならば、時間はかかるが最初から説明してもらう他ないような気がしていた。 ちらりと時計に目をやれば、時刻は十一時を少し過ぎたくらいだった。士郎は急須からダイと自分の湯呑みに茶を淹れ、ゆっくりと口を開く。 「ダイ、悪いけどお前の生涯を一から教えてくれないか」 そう頼まれ、ダイは自身の生い立ちから大魔王との死闘をとつとつと語った。あまりしゃべることは得意ではないのか、時々表現に詰まりながらも身振り手振りで自身の経験を士郎に伝えていく。士郎はそれに対し、時折質問をしながらもダイの話を一言も聞き漏らすまい、と集中して聞いていた。 全てを話し終え、ダイがすっかり冷め切ったお茶を飲んだ。つられて士郎も湯呑みを手に取る。 ダイが話した内容は士郎にとってあまりにも現実味のないものであり、正直に言えばほとんど理解することができなかった。それでもなんとかわかったのは、ダイが自分達の知る世界とはまるで別の場所から召喚されたらしい、という程度であった。 士郎は思案する。こういう時にいつも自分はどうしていたか。冷めたお茶はあまり美味くはなかった。 士郎が時計に視線を向けると、日付はとうに過ぎていた。それでも一つの可能性にかけることにする。 「ダイ、ちょっとここで待っててくれ」 「え? あ、うん」 そう言い残し、士郎は廊下を渡って玄関の横にある電話を手に取った。電話の横にあるメモ帳から目的の番号を見つけ出し、ゆっくりとボタンを押していく。しかし、何回鳴らしても相手は出ない。既に遠坂凛はこちらに向けて出発したらしい。 「やっぱり、もういないか……」 とにかくこの話を凛にしなければ、と士郎は思った。今回はあまりにイレギュラーが多すぎる。前回を上回る短期間で再び勃発した聖杯戦争。異世界のサーヴァントに街に現れたモンスターと呼ばれる異世界の敵。中には明らかに人語を解するものもいた。 ダメもとでかけた電話とは言え、やはり凛が出ないことに士郎は嘆息した。 「だから携帯電話を持てって言ってるのに、あの機械音痴め」 もっとも携帯を持っていないのは士郎も同じであり、加えて言えばこの時すでに遠坂凛は空の上にいたので携帯を持っていたとしても連絡を取ることはできなかった。 イリヤのことも思い浮かぶがこちらは生憎とあの森の城との連絡手段さえなかった。 どうすべきか。 明日には凛も戻ってくるとはいえ、今夜からしばらくは自分一人で事態に当たらねばならないと士郎は考える。 顎に手を当ててその場に立っていると、居間の方からダイがやってくるのが見えた。 「シロウ? どうかした?」 「あ、いや……」 なんでもないと言いかけて士郎は重大なことに気づいた。モンスターだ。あの鎧達はもしかして、前回のキャスターの操っていたあの牙のゴーレムのような存在で、それを通して人々を襲うかもしれない。 ――何故ならサーヴァントの燃料は―― ゾクリ、と脊椎に直接氷を注入されたような悪寒。一つの仮説が士郎の頭に思い浮かぶ。と、同時にいてもたってもいられない自分に気づく。巡回は先ほど終えたばかりだが、自分は帰ってきた瞬間に襲われた。時間的にかなり遅いとはいえ、いまこの瞬間に自分と同じように襲われた人がいたとしたら―― 「ダイ、いまから街に出ようと思うんだ」 「いまから? どうして?」 「さっきみたいなモンスターが、人を襲うかもしれない。俺達の世界にはあんなのはいないから、抵抗することすら考えずにやられることだって――」 そこまで言って士郎はひょっとしてダイはついてきてはくれないかもしれないと考えた。サーヴァントは聖杯を手に入れることを条件に英霊がなるものだという。ならば、自分自身のわがままとも言える行動に快く従ってくれるサーヴァントばかりではないだろう。 ――――誰もが彼女のような英霊ではないのだと、士郎は内心考える。 それでも士郎はそうして生きることを決めた。だから、言いかけた言葉を最後まで紡ぐ。 「――だから、ダイ。力を貸してくれないか?」 士郎はダイの目を見る。そうして士郎の不安が高まったその瞬間、ダイはこくりと力強く頷いた。 「わかった。うん。こっちの人をモンスターから守らなきゃ」 みなまで言うな、とダイの瞳が士郎に告げる。その視線に救われた、と士郎は思う。同時に今回もきっと自分はこのサーヴァントと良い関係を築けるとも。 「ありがとう。ダイ」 「いや、いいよ。シロウ。早速行くのかい?」 「ああ、それじゃ準備をしてから――」 その瞬間、だった――――鳴子のような音が屋敷内に響く。 同時に、今夜の巡回の算段を練ろうとした二人のいた玄関、それに居間の明かりが一斉に落ちる。 「シロウ! これは?!」 運命はいつだって唐突で、皮肉に満ちている。最悪の出来事は最高の気分の時にやってくると言った誰かの法則のように。 ――――それは、敵意を持つものが屋敷に侵入したことを知らせる結界の反応。 |
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