第09話(前半) | |||||||||||||||||||||||||||||||
作者:
ユウヒツ
2007年10月06日(土) 22時09分16秒公開
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炎の牢獄が消えたとき、信じられないものをダイは見てしまった。 「ようっ」 いつもと変わらぬ笑顔で相棒は──親友は答えてくれた。 「ポップ!」 ダイの小さな体をそのままポップにぶつける。受け止めてくれる。 一体、どれだけ待ったのか? どれだけ会いたいと思ったのか。 どれだけ信じ続けたのか? 分からない。ただ、二人は出会った。幾星霜の果て、異世界という場で会ったのだ。 「ふーん。なるほど、君か。また、君なのか。そうか、君なのか。いいね。いいね。うれしいね。会えて本当にうれしいよ。うん、これは嘘偽りの無い本音だよ」 二人の出会いに水を差すのが道化師。気味の悪い笑い声を立てて、指をぱちんと鳴らす。ヒュンケルを封じていた五芳星が砕け散る。 ヒュンケルは何の感情も無い視線で二人を見つめる。槍の穂先が上がる。殺意は無い。ただ、目の前のものを貫く。それだけだ。 「それだけじゃあ、面白くないよね。うん、面白くないよね」 もう一度、指を鳴らす。二体の大きな影が姿を現す。月が照らす。鈍い光沢。 「こいつは鎧武装フレイザードのコピー。といっても、感情とかは無くて、ただ、暴れるだけの存在だけどね。でも、その防御力は健在だよ。勇者の魔法の電撃以外受け付けないところとかもきちんと再現してあるよ」 笑う笑う。哄笑する。道化は踊り奏でる。死への舞踏を。 息を吐く。視線だけ交えるとダイとポップの二人は敵と対峙する。言葉はいらない。何をするべきかは分かってる。数え切れない死線が教えてくれるのだ。 軋み悲鳴を上げる体を無理して士郎は二人の近くに近づいた。 「君は──」 ポップに語りかける。ダイの様子から敵ではないと分かる。深い絆を紡いだ仲間。二人を見て決して会えぬ金色の騎士を羨望した。ある意味で間違っていないのかもしれない。ダイとポップ。士郎とセイバー。二人の間にあるものは共通しているのだから。 「あんたがダイのマスターか。とりあえず休んでな。ここは勇者と俺──大魔道士ポップ様が決めるぜ」 びしりとポーズを決める。「相変わらずだなー」とダイは苦笑いをする。 「しっ、しかし」 何か、言いかける士郎をポップは手のひらで目の前に止める。 「……なるほどね。俺のマスターが言っていたとおりだな。確かにこりゃぁ鎖で繋いでおく必要がありそうだ」 この言葉にはっとする。そうだ。このポップもまたサーヴァントだ。という事はどこかにマスターがいるということになる。それは一体──誰なのだ? 「それはわたしよ、衛宮君」 さらに声がかかる。二つの影が見えた。 「──遠坂。それにルヴィア?」 「お久しぶりね、シェロ」 そこには一緒に時計搭で学んだ凛とルヴィアがいた。 「おい、いったい?」 戸惑う士郎に凛たちはにっこりと微笑んで、 「ロード・エルメロイII世の命令よ。この、ふざけた聖杯戦争をぶっ飛ばしてこいってね。というわけでぶっ飛ばさせてもらうわね」 「あら、リン。下品ですわね。ぶっ飛ばすより、投げ飛ばすほうがエレガントでなくて」 と、ルヴィアは優雅に微笑む。 呆然としてしまう。目をぱちくりとする。いつものように赤い服を着て、ミニスカートの凛。青いロングドレスのルヴィア。二人が聖杯戦争に参戦したのだ。 「ちなみにいっておくけど、ポップはわたしのサーヴァントよ」 凛の言葉にルヴィアはさらに繋げて、 「もっとも、召喚のための宝石代、ここまでの飛行機代、その他もろもろは私が出したのですけどね」 ともいった。二人は視線を絡め、ふんっ! と、顔を背ける。 「まあ、いいわ。ポップ。士郎のサーヴァントと一緒にあの槍を持ったやつと鎌を持ったやつを倒しなさい。鎧の化け物はわたしとルヴィアで何とかするから」 てきぱきと指示をする。 「えっ、でも──」 ダイは戸惑う。聖杯戦争のルールからすれば外れてしまうからだ。というよりも、マスター以外の命令を聞いてもいいのだろうか。もちろん、ポップは敵ではない。だが、ヒュンケルの例もある。初め、ヒュンケルは己の意思でダイ達に立ちはだかったのだから。 「安心していいわよ。士郎のサーヴァントという事はわたしのサーヴァントと同意義なんだから」 なんともまあ、剛毅な台詞だ。士郎に向かって、凛はぱちりとウインクを一つだけする。 「まあ、とにかく、シェロはここでじっとしていなさいな。怪我人は静かにするのですよ」 ルヴィアがそういうと、すっと、士郎に近づいて、人差し指を自分の唇にあて、次に士郎の額に当てる。士郎に張っていた力が抜けていく。 「あなたに必要なのは休息なのですからね」 ルヴィアはそういって長く豪奢な金色の髪をかき上げた。 「ふーん。中々面白い人たちだね。特にポップ。君には会いたかったよ。あの時、全てをパアーにしたのは君のおかげだからね。ぜひ、礼をしないと」 道化師は笑う。だが、ポップも笑う。 「はんっ、その台詞。そっくりそのまま返してやるぜ。てめえには言いたい事や返してやりたいことはたっぷりあるからな」 そのまま視線を隣のダイに向ける。 「ダイ。とりあえず、俺のマスターたちは信用出来る──というより、あれに逆らっちゃあだめだ。あいつらはか弱い女でなく──そうだな、たとえるなら姫さんの強情さとマァムの凶暴さを足して割らない感じだ。」 ひそひそと、ポップはダイに言った。召喚時に起きた大騒動は時計搭で静かに永く語られ続けられる。一つ言えるのは「赤いあくま」と「こんじきのまおう」の異名はさらに広まったということだ。 「聞こえてるわよ、ポップ。まだ愚痴をたたいている暇があるなら、さっさと行きなさい! ──それとも、これを喰らいたいの?」 凛の左手が青白く光る。 「さっ、行くぞ、ダイ」 慌てて、ポップは駆けて行く。「待ってよー」と、ダイも追いかけていく。 「では、私たちも参りましょうか」 ルヴィアは己のドレスの腕のすそをつかむ。一気に引っぱると外れる。二の腕を晒し戦闘態勢を取る。 「軽く、片付けるわよ。士郎。そこでゆっくり休んでいなさい」 凛は軽く指を鳴らすと、そのまま向かう。すでにダイとポップはヒュンケルとキルバーンとの間で刃を散らしてる。 「でかい図体ですわね」 ルヴィアはそそり立つ鎧武装フレイザードを見上げる。 「こういうのを日本ではウドの大木というのでしたよね?」 士郎の方を振り返り、ルヴィアは尋ねる。「ばっ、ばか!」だが、慌てふためく士郎の心配は全くの杞憂だった。 鎧武装フレイザードは金属の拳を大降りに振り上げてルヴィアに殴りかかる。だが、ひょいと避けると同時に足払いをかける。すてんと転がる。 「はっきり言いまして、あなたのような力だけが自慢の輩と真正面から戦っても勝てませんわ」 そういって、ルヴィアは手のひらにいくつもの宝石をもてあそぶ。 「ハイッ!」 呪文と共に宝石を地面に叩きつける。コンクリートの地面に宝石は砕け消えていく。 「さて、これで、準備は整いました」 ゆっくりと起き上がる鎧武装フレイザードを見下して、ルヴィアは呟く。 ふたたび襲い掛かる拳をひらりとかわして、 「無駄ですわ。まず、当たりません。ただ、振り回せばいいというものではありません。そもそも腰に力の入ってない拳など怖れるに足らずです。それでは、ただ、体勢を崩すだけですわ」 重い一撃を避けると、ルヴィアは長々と講釈を垂れ始める。だが、不利なのは間違いない。確かに当たらなければどうという事は無い。 だが、ルヴィアの力では鎧を砕く事は出来ない。もちろん、ほとんどの魔術は効かない。大魔術には長い詠唱時間がある。そんな隙をどのように作る? 「簡単ですわ。──というより、もう、詰んでるのですよ」 鎧武装フレイザードの一撃を避ける。同時に流れる。そのままバックを取る。まさか──その通り、投げる。ジャーマンスープレックス。そのラインはプロレス技史上最も美しいといわれる。 それで、終わりだった。金属が激しく叩きつけられる音と同時に鎧武装フレイザードは動かなくなる。 「手ごたえが無さ過ぎですわね」 からんと、鎧のメットが外れる。中はすでに空洞だ。本体のエネルギー体は消滅しているのだ。 「──そんな、馬鹿な」 ポップたちと戦いながらもキルバーンは信じられなかった。一体、何をしたのか? あの鎧の防御力は尋常ではない。それこそ、この世界の戦車砲の一撃ですら耐えれる物理防御力を持つ。現にコンクリートに叩きつけられても傷は付いてない。もちろん、衝撃ダメージだとしてもあの程度で消えるはずは無い。だが──叩きつけられると同時に激しい魔力が散った。 「──まさか」 愕然とする。そんな魔法の使い方は元の世界では見たことが無い。キルバーンの知識では自分達の世界のほうが魔力は豊富でなじんでいるというのに。 「一つだけ言っておく事があるわ」 凛は無手のまま、鎧武装フレイザードと立ち会う。 「人間を甘く見ないことね」 猛攻の隙を縫って、飛び込みスカートの裾がひるがえる。その結果は鎧の胸元に拳の一撃を叩き込む。激しい魔力と共に。それだけで鎧武装フレイザードは地に伏す。 「まあ、種を明かせば、簡単なんだけどね」 凛が手のひらを振り払うと、砂粒が散った。魔力を込めた宝石のかすだ。ついでに言うなら、凛たちはここに使い魔を送っていた。ステルス性を高め、キルバーンといえど、気付かなかったようだ。翡翠の鳥は逐一、状況を知らせていた。だからこそ、ポップは先に走り、凛たちは鎧武装フレイザードの弱点をしった。キルバーン、自ら明かしていたのだ。電撃に弱いと。確かにダイの世界では電撃は勇者の魔法だが、この世界は違う。対応が分かれば準備をするだけだ。ルヴィアは魔力の込めた宝石を地面に叩きつけて付与し、凛は直接叩き込んだのだ。つまりは魔族の欠点。己への驕りの所為という事だ。 「なるほどね。遊びが過ぎたということか」 ポップから放たれる閃光を避けつつ笑う。 「悪い癖が出てしまったようだね。どうやら、君たちは油断のならない相手だ。全員がアバンの使徒と同じ脅威と考えたほうがいいようだ」 ひらりと舞い、ポップとは大きく距離をとる。ダイとヒュンケルは激しく斬りあってる。 「さてさて、ここでは舞台が整っておりませぬ。またの公演まで、ひと時の時間を頂くといたしましょう」 その言葉と共にヒュンケルもダイとは大きく離れ、キルバーンのそばに立つ。 「一つだけ言っておくよ。こいつはもう元には戻らない。己の心というのは完全に砕けてしまったからね」 さあ、どうする、アバンの使徒たちよ。兄弟子を斬るのかい? そういいながら闇と同化し消えていく。哄笑と共に。 |
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