JUNKY


車の修理工場での仕事を終えた炬が帰宅した時、マンションの来客用駐車場内に、

良く見るシンプルだがスポーティな車が停車していた。

「よ、お疲れ」

どうやら炬を待っていたようで、彼の姿を見つけると運転席から降りてきた。

「どうした疾風、急に」

炬に声をかけてきたのは、疾風だった。

今日はオフなのだろう、ジーパンに襟元を大きく広げた茶色のシャツという装いで、

そこから覗くやや骨ばった鎖骨に視線が向く。わざと色気を見せているのではない

のだろうが、炬にとっても他の誰かにしても、それは誘惑でしかないというのに。

その上、今日はやけに肌が艶やかに見えるのは、己の妙な欲求の所為だろうか。

 また、律儀な疾風のことだ。こちらに赴く前には必ず一報入れて来るのに、今日は

事前連絡が無かった為、炬は不思議に思い問うが、疾風は苦笑いを浮かべながら

首を振るばかりだ。

「上がっていくんだろ?」

理由は明らかにはならないが、炬にとって最早そんな些細なことはどうでも良かった。

 彼らはゲーム友達としても、車友達としてもとても仲の良い間柄で、数日に一度は

どちらかの家に赴く。

疾風のほうが少しだけ年上ではあったが、そんな風に振舞うことも無く、自然な親友同士と

いうような関係だ。

 だから、何も疑うことなく、疾風を部屋に通した。





「コーヒー入れて来るから、待ってろ」

一人暮らしの炬の部屋は、少し乱雑気味だが、掃除はそこそこマメに行なって

いるらしい。

それもこれも、疾風が遊びに来るから、という理由ではあったが。

 リビングに残された疾風は、少々疲れた様子で、目はとろんと虚ろに一点を見つめ、

時折色付いた吐息を吐いていた。明らかに、先ほどには無理をして抑えていた症状。

「お待たせ。………お前、どこか変だぞ」

ことん、と木製のテーブルにコーヒーを一杯に注がれたマグカップを置いて、

炬が彼の様子を怪訝に思って顔を覗く。

「……変…だろうな」

ふっと妖艶な笑みを浮かべて、桜色の口唇の端を上に上げた。疾風らしくない、

欲情に満ちた表情。

「疾風……どうした。何か…」

変な薬でも…そう言おうとしてもう一度彼の様子を伺う為に、全身に目を配った時、

彼の手首にあざのようなものが見えて驚愕した。

「なんだよ、これ…縄かなんかの痕じゃねぇか!」

あまりのことに叫び声交じりで彼の手首を掴み、シャツを捲ってみると、

醜いミミズ腫れや、縄で擦り切れて滲んだ血液の痕が現れた。

 あまりの衝撃に瞠目して彼を見てみると、疾風はうっすらと微笑んでいるではないか。

 濡れ誘(おび)く深い紫色の瞳が炬を上目遣いに見つめ、身を乗り出して炬の

膝の上に這い上がる。どんなに強靭な精神を携えていようとも、この妖艶さに

目が眩まない人間などいるものか。

「…抱けよ、炬。お前が欲しくて欲しくて、身体が疼くんだ…」

炬は理性と欲望の狭間で揺れている。

 こんなのは冷静な疾風だったら絶対にありえない行為だ。

 だが、彼はしきりに己を求めている――――。




 炯哉との関係を変えてくれたのは疾風だ。

 あの一件から、表には出さなかったけれど、疾風の事を愛しく思っていたのは

確かだし、今だって心臓が口から飛び出しそうなほどに高鳴って、苦しい。

 欲しかった。

 ずっと。

「俺…もう壊れちまったんだ。誰かに相手にしてもらわないと、身体が飢餓感に

震え出して、恐怖まで感じて…狂いそうになる」

痛めた手首を自分の片手で隠し、願うように目を伏せるとカタカタと震え出す。

 



 セックスに溺れた、ジャンキーがここにいる。




 何があった。

 誰にこんな身体にされたんだ、と問い出したい気持ちを抑え、炬は疾風を

強く抱きしめた。以前よりも幾分細くなってしまった身体が、炬に助けてくれと

訴えてくるようだった。

「炬、頼む。浅ましくて汚い俺だけど…犯してくれ。もう、我慢出来ないッ…!」

いつもは隙のないその声さえも、悲痛に染まっていてたまらなかった。

 こんな彼を、見たことが無い。




 縋り、助けを乞うてくる疾風を、どうして突き放す事が出来ようか。

 炬は疾風の身体を一度離して、噛み付くような激しいキスをした。

深く結合するように角度を変えて、息を吹き込み、強く吸って。

するとすぐに疾風の口唇からは色付いた吐息が漏れ、自ら舌を出して来て

炬の温かい口内へと差し込んだ。ねっとりと絡み合う舌と舌、炬はしばらく疾風の

好きなようにさせていたが、それも束の間、疾風の身体をソファに沈めると、

今度は自分からディープキスを仕掛け、戸惑う疾風の舌を突付いて誘い、

吸い上げてはまた絡めてを繰り返す。

 互いの呼吸が困難になるまで続け、離れた頃にはもう後戻りなど出来ない

精神状態になっていた。




「兄貴も、そのほかの誰をも考えられなくなるほど、お前を犯してやる―――」










 雁字搦めの楔に打ち付けられ、
 
 永久に絞り取られる酷な生活の始まりだった。



 END
エー、これ、どういった背景があるの!?
と、お思いかもしれません(笑)
疾風がどうしてこんな身体になってしまったのか、
それはあなたの想像にお任せします。
ただ、何気にエロい雰囲気のお話を書きたかったのですよw
2006.4.14