Pooh 8
2005.6.25
=ハジメとアキヒト=

晃一の紹介から急に就職先が決まり、元の一週間は慌しく過ぎていった。
現時点で任されているのは簡単な作業ばかりだが、長い間、無職で過ごして鈍った体にはキツく、これまで居候だからと進んで行っていた家事もおざなりだ。
この日も 家主が帰ってくるまで僅かな時間、ソファに寝転がって目を閉じる。
一日汗を流した疲れが心地が良く身体中に広がっていく。

「こんな所で寝てんじゃねぇよ」
軽く目を閉じただけのつもりが、いつの間にか眠っていたようで元は帰宅した昭仁に蹴り起こされた。
この所、昭仁はずっと機嫌が悪い。
元の就職が原因なのか、フラフラと外泊を繰り返す晃一が原因なのか。
いずれにせよ、彼を宥め無いと後で面倒な事になると元は半身を起こして唸った。
そんな元の様子にも気付かず、昭仁はスーツを脱ぎ散らかして下着姿になると暑苦しそうにタバコを咥えている。

「スーツ……脱ぎっぱなしだと皺になりますよ……」
忠告は無視されるだろうと予想して、昭仁の反応を待たずに立ち上がると脱ぎ捨てられたスーツを持って寝室にあるクローゼットの扉を開けた。
「ホントだらしないよな……」
一緒に暮らすようになって気付いた事だが、井原昭仁という男は良くも悪くも単純で直情的な男だ。
同じ会社で働いていた頃は落着いた大人の男といった印象で新入社員である元はそれに惹かれた。
だが、生身の昭仁を深く知る度に、元の中で息苦しさにも似た感情が育っていく。
タバコの匂いが染み付いたスーツを仕舞いながら、昭仁の短所にさえ満たされてしまう自分を感じていた。


「油の匂いだな……」
いつの間に傍に居たのか、昭仁に後から抱き締められて元は身を硬くする。
熱っぽい声で耳元をくすぐられ、逃げようとするが足が絡まってベッドに倒れ込んだ。
「井原さん……俺、汚いっすよ……」
着替えもせずに休んでいたから作業着のままだと抵抗する元を無視して昭仁は楽しそうにファスナーを下ろす。
「ちょっと待って……っ……シャワー……を……ぁっ……」
この暑さでTシャツを着ていなく、露わになった肌に昭仁の舌が這った。
気付けば元はトランクス一枚の格好にさせられいて、突き出した股間が指で弄ばれている。



「ガキ臭せぇカラダ……」
足を広げられて恥かしさから顔を背けた元に向かって、吐き捨てるように放った昭仁の声が響いた。
噛みついて、吸いついて、昭仁は身体中に痕を残す。
元と晃一が仲良くしている時、昭仁の誘いを元が冷たくあしらった時、彼は自分の存在を見せ付けるように乱暴な愛し方で元を抱く。
「……っ……あっ……」
感情を剥き出しにして吸いつく昭仁の愛撫に、元は泣いているような悲鳴を上げた。

「……暴れんなよ」
絶対的な服従。力で押さえつけられて昭仁が強引に入ってくる事だけで元の身体は限界まで昂ぶる。
突き上げられて泣き叫ぶだけの元に昭仁は容赦無く熱をぶつけて絶頂へと向かっていった。
「……っ……イクっ……」
激しく突き上げる昭仁の動きに耐えきれず、元は快感の渦に飲みこまれた濡れて硬くなったモノを自分で扱いて溜め込んでいた欲望を吐き出す。
苦しいのか感じているのか自分でも分らないまま、声を上げて何度も震えた。
薄れていく意識の中、昭仁が目を閉じて快感に喘ぐ瞬間が見える。
「………っ……んっ……んんっ………」
狂ったように腰をぶつけていた昭仁の動きが止まると、自分の中に温かい液体が注ぎ込まれるのを元は感じた。

「井原さんが怒ってるのは……晃一さんが帰って来ないからですか……?」
行為の後、吐き出されて白く汚された身体を拭う気力も無く、重い余韻を引きずりながら元はベッドに座ってタバコを吸っている男に訊ねる。
全てを曝け出して抱かれているのに晃一と同様に昭仁も本音を見せない。


「お前……何もわかって無いな……」
昭仁は呆れたように汗と精液で汚れた元を見下ろしてキスの一つもせずに一人浴室に向かった。
せめて終わった後くらい余韻を楽しんでもいいじゃないかと元は拗ねる。
ドアに向かって枕を投げつけると、昭仁の吐き出した液体が後を伝ってシーツに染みた。

「何だよ……ばか……」
つい先日も晃一に同じような事を言われた。
自分には何が足りないのだろう……。
汚れた身体をティッシュで拭いながら元は一人考えた。


「ほら、シャワー浴びろよ。晩メシ食いに行くぞ」
自分勝手に欲望を吐き出して満足した昭仁が濡れた頭を拭きながら部屋に戻ってくる。
抱くだけの彼は身体を洗うのも早い。
食事だったらわざわざ外食しなくても自分が作るからと元が不満気に呟くと、昭仁は困ったように顔を歪ませて坊主頭を撫でまわした。
「お前の就職祝い。俺の奢りだ……」
拳で元の頭を軽く叩いて昭仁は機嫌悪そうにタバコに火を点ける。
目を細めて吐き出した煙を見詰めながら、元の反応を伺っている昭仁の頬が赤くなったのは行為の後だからだけでは無いだろう。
「わかったよ……」
このまま抱きついてしまおうかとも思ったが、喜びを露わにするのも何だか癪な気がして元は無防備な昭仁の背中に噛みついて浴室へ向かった。

井原昭仁という男は良くも悪くも単純で直情的な男だ。
だが、素直に甘い言葉を囁くほど簡単では無い。
浴室の鏡に映った自分の身体には昭仁の刻み付けたキスの痕が無数に残っている。
これが昭仁の答えなのだろう、彼の気持が何処にあろうと元に残した情熱は嘘でな無い。
鏡に映っている自分は首筋に付いた痕を気にしながらも満足そうな顔をしていた。



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