蜜月、真夜中の内緒話
「さあさあ、寝ましょ。明日だって早いんだから」
リラは宿屋につくと部屋に通されるなり、荷物を放り出して寝台に寝転んだ。
「……リラさんさ、どうしていつも寝台が一つの部屋しか取らないのさ」
部屋の入り口につったったままのロウが、ぼそっと呟いた。
部屋に寝台が一つ。いくら貧乏旅とはいえ、十五歳にもなった男女が一緒に寝るものではない。ロウはそう思ったのだ。
「あら、路銀が少ないんだから仕方がないでしょ」
ぬくぬくと毛布にくるまりながら、リラはさらっと答えた。
「……男女七歳にして同衾せずって言葉があったような気がするんだけど」
顔をしかめながらロウは部屋に入る。荷物を下ろすと、寝台のすみに腰かけた。腰かけた格好のまま革の鎧を外していく。
リラとロウは、雨の森の交差する町『プロクス』で出会った。
東の大陸にある火の山の竜に会いに行くという目的が一致し、こうして一緒に旅をしていた。
リラは春生まれの十五歳、ロウは秋生まれで同じく十五歳だ。三月ほどしか違わないが、リラはことあるごとに自分のほうが年上だから姉と思えと、口うるさく言うのだった。
季節は秋。昼間はよいとして朝夕はかなり冷え込む。野宿というわけにもいかなくなってきていた。
秋の夜空は高い。満月は雲をまといながら東の空に浮かんでいる。澄んだ空に星々はきらめき、それは寒々しく見えた。
「もう、野宿したくないね。それに暖かいマントが欲しいなぁ。今、持ってるマントもくたびれてきちゃったし」
リラは先に寝台に潜り込み、うつぶせの状態で足をぱたぱたと動かしながらため息をついた。
「リラさんはさ、ちょっと荷物少なすぎるよ。旅っていうのは散歩じゃないんだよ。リラさん、遊びかなにかと勘違いしてるでしょ」
ロウの言葉に、リラは分かってるわよと強い口調で言葉を返した。どうやら図星らしい。
ロウは革の鎧を外し終えると、伸びをした。
それからおずおずと遠慮がちにリラの隣に入り込む。
「……やっぱりさ」
ぶっきらぼうにロウが口を開く。
「なあに?」
「来年は成人の儀だっていうのにさ、この年になって一緒に寝るのって……おかしいよ」
視線を外したまま言って、ロウはそれきり黙りこんでしまう。
リラはきょとんとしたようすで瞬きをした。
身体が触れ合うほどそばにいて、意識をしないほうがおかしい。ロウは困ったように瞼を伏せた。
「リラさん、けっこう髪が長いんだね」
普段は二つに結えている髪はおろされ、肩からシーツの上にこぼれ落ちている。
「そうかしら? う……ん、少し長くなったわね」
リラは肩の辺りをちらと見て、切ったほうがいいかしらと呟いている。
「僕はリラさんの長い髪が好きだな。すごく綺麗だもの」
ロウはリラの髪をひと房手に取ると、キスをした。
リラは驚いたようにロウを見た。
「……ロウってなんだか。ううん、なんでもないわ」
「なに?」
言いかけて首を横に振るリラに、ロウは少しむっとしたようすで問いただした。
リラはしぶしぶ口を開く。
「あのね、ロウが王子様みたいだったから」
真顔でいうリラに、今度はロウが驚いた顔をする。
リラは言葉を続ける。
「おばあちゃんがしてくれたおとぎ話に出てくる王子様みたいだわ」
眠くなったのか、言いながら目のはしをこすっている。
「おう、じ様……?」
聞き返すロウに、リラは小さくあくびをしてうなずく。
「ええ、おばあちゃんがね、よくお話を聞かせてくれたの。王子様はね、王国っていうところに住んでいて、で……ね」
ロウの手を取ると、彼の指に口づけた。
ロウの手の甲に、リラの柔らかな前髪がかかる。
「リ、リラさん」
指に伝わってくる暖かな感触にロウは慌てた。
「こうするんですって」
唇を離すと、リラはくったくなく微笑んだ。
ロウは少しの間、顔を赤らめて視線を泳がせていた。だが深呼吸をすると、リラを見て言った。
「リラさん、君といると僕は波乱万丈って感じで飽きないや」
ふと横を向くと、リラはすでに静かに寝息をたて始めていた。
「なんだ、リラさん寝ちゃったんだ」
小さくため息をつき、ロウは身体を起こす。しばらくリラの寝顔を眺めていたが、身体をかがませると少女の額にキスをした。
「リラさん、君とこうして旅をすることができて本当に嬉しいと思ってるから。ずっと二人でいられたら、僕はそれだけでかまわない」
寝台の隣の机に備えつけられているランプの明かりを消すと、再び少女の隣に横になり毛布にくるまった。
「おやすみなさい、リラさん。いつも、いつまでも二人でいられたらいいね」
窓の外から、優しい色の満月が二人を見下ろしていた。
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